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四十二話 守護者お披露目パーティー


 翌日、普段より早めに叩き起こされた俺は、鏡台の前で身動き一つ取れなくなっていた。



「メア?」

「はい」


「俺の顔ってこんな化粧しなきゃいけないくらい地味なのか?」

「いいえ。今行っている作業は肌の潤いを保つものと唇のカサつきを抑えるものです。地が良いせいで化粧を施してしまうとハル様の良さは半減しますので」



 せいで、とは何だ。顔が良いのは良いことじゃないか。それともメアは俺に化粧してみたかったんか?


 若干不満そうに口をへの字に曲げるメア。この六年で大分感情表現豊かになったな。



 パーティーは午後から。午前中は当主の証であるピンバッチを受け取りに行く。俺の希望に沿って作ってくれた物があるらしい。丁寧に家紋が彫られている物で、当主以外は身に付けない。


 今日のパーティーで俺は父さんからこのピンバッチを譲渡される。代変わりの儀式みたいなものだ。 



「はい、完成しました」

「ありがとう。それじゃ、行ってくるよ。マリア達をよろしくね」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


 今日のパーティーのために父さん達も着替えをするのだが、俺と違ってまだフォーマルな服装に慣れていない三人。マリアも制服以外のカッチリした服は食事会以降着ていないから大変なことも多いと思う。



 マリアにはシルヴィが付いてるから不安にはならないけど父さんと母さんは初めての公の場が城で開かれるパーティーだ。メアがいた方が精神的にも楽だろう。メアなら立ち方や歩き方も教えられるからな。





「ライゼン様」

「ハル君、既にあのバッチは届いているよ。これがハル君の物だ」

「ありがとうございます」


 装飾の施された木箱に入れられた金色のバッチは、自然光を反射して眩しく輝いている。


 俺は一度それを受け取り、これがこの服に合うか、付けてみて確かめる。鏡に映るのは少しだけ背伸びをして大人を真似た子供。

 自分の童顔がここまで嫌になるなんて。こんなの、威厳の欠片もない。



 皆から守護者フィルターが外れたら俺はただの、その辺にいる子供だ。


「ま、まだハル君は成長期なんだから、これからきっと伸びるはずだ」

「はい……」


 と、言ったは良いものの、その可能性は限りなく低い。十六歳までの俺の顔を知ってるからわかる。

 俺は十六になっても童顔のままだし、他の大人のように声が低くなったりもしなかった。身長も二歳下のラッシュにあの時点で抜かれていた。俺の低身長も多分変わらない。



 鏡の自分(現実)に打ちのめされる俺と、そんな俺に、どう言葉をかけて良いかわからずにオロオロするライゼン様。先に我に返ったのは俺。こんな所で打ちひしがれてたら駄目だ。


 この後はパレードの為に領地にいてくれた領主達をそれぞれのタウンハウスに送り届けなければいけない。今日のパーティーに出たいと思っても遠い家は最高速で向かっても一週間はかかる。



 ほとんどの人(邪神信仰者を除く)はカントリーハウスの方から俺の転移で向かう。今から行かないと本番までに間に合わない。バッチをライゼン様に戻してまずは最初の家に向かった。

 無事に全家を送り届け、遂に守護者お披露目パーティーが始まった。



 ライゼン様の合図で入場。母さんは父さんが、マリアは俺がエスコートする。周りからは感嘆のため息が聞こえる。きっと皆、可愛らしいマリアに身惚れているのだろう。



 コーディネートしたのがシルヴィというだけあって、犯罪的な可愛さになっている。マリアがラッシュと結婚の約束をしてくれていて良かった。してなかったら婿候補が殺到するところだった。危ない危ない。


 ライゼン様とセリア様の目の前で止まり、観衆に向き直る。それを確認し、ライゼン様は口を開いた。


「先日、千二百年振りとなる守護者様が王立学園で誕生された」



 その言葉に俺は一歩前に出て、ライゼン様は更に続ける。

「初代国王、そして初代守護者様であるフェリーチェ・サージス。彼の意向に従い、守護者様とご家族、計四名をペリペドット大徳家、とする。皆の者、異論はあるか」


 しーーん。ある訳ないか。邪神信仰者だとしても国王には逆らわん、と。


「ないようだな。大徳の爵位を守護者様の御父上、ハーベスト殿に渡したところ、その地位を守護者様に譲渡したいとの申し出を受けた。私はその意を尊重し、大徳の当主を守護者様とすることを決定した。これに対しては?」


 再び、しーーん。流石にいないな。



「では、爵位譲渡の儀を執り行う」

 ここで父さんが登場。あのピンバッチを皆の前で受け取り、自分の胸に付けることで譲渡は完了。

 地位と責任の証を受け取り、皆に聞こえるように声を張った。



「皆様、先日のパレードでは温かいお言葉をありがとうございました。ご紹介いただきました、ハルと申します。お話しにあったように、私は本日からペリペドット大徳家の当主となります。まだ若輩者で、貴族社会にも疎い私ですが、守護者としても、一貴族としても、その役目を全うします。これから末永く、ペリペドットをよろしくお願いいたします」



 紳士の礼をとると、拍手が起こった。イーサン様やモッシュ侯爵様、そういえば子爵家のカリウ先生も笑顔で拍手をしてくれる。そこからは、三代目以降の守護者がどうなるのか、などを話した。


 守護者が長年現れなかったことが、ヴィーネ神離れを助長していた可能性がある。それならいつ守護者が現れるのか話しておいた方が良いというものだ。



「ですので――「陛下! 納得いきません!」」



 静寂を切り裂くような甲高い声が響き渡った。声の主は、どこかの家の何とか婦人。彼女は邪神信仰者の一人だ。


「何? 先程異論があるか確認を取ったはずだが。守護者様がそれ相応の地位を持つことに何の不満があるのだ。言ってみろ」



 うーわっ……すっごい圧かけてる。周りも何とか婦人の側から離れてるし、終わったな。


「全員、意地汚い平民ではありませんか! 見た目を着飾っても根本的な愚かさは滲み出ます! 特にそこの少女! 頭の悪さが顔に出ています! これでは神聖な貴族全体の威厳が――「黙れ」」



 マリアを侮辱するなど、良い度胸しているではないか、女よ。爵位譲渡の後で良かった。自衛のために暴言を少し吐いただけでは罪にならない。


「女、今、俺の妹を馬鹿にしたな? 俺はなあ、そういう発言が大っ嫌いなんだよ。貴族でいたいならまずは自分が誰に養ってもらっているのか、真面目に考えろよ。わかったか? わかったなら二度とその面見せるな」



 女はここまで屈辱的な言葉をかけられるとは予想していなかったのだろう。顔を真っ赤にしている。


「守護者様とその親近者に対する侮辱行為は感心できないな。今すぐに立ち去るのであればこちらは大事にはしない。居座り続けるつもりなら――流すぞ」


 俺達を庇うようにライゼン様が前に出た。

「そうね。私が娘のように思っている女の子に対して、そんな風に言うなんて……」



 セリア様も、マリアを庇うように立った。

 そのうちに、会場の視線に耐えられなくなったのか、女はそそくさと退散していった。


「皆、場を乱してすまない。ここからは、パーティーらしく、思い思いに過ごしてくれ。ただし、守護者様への質問は、個人で茶会にでも招待してやってほしい」



 険悪な雰囲気は、ライゼン様の一言で和やかなものとなった。やっぱり王になる人って凄い。父さん達は俺と違って踊ったりできないし、慣れないことで疲れてるだろうからここで俺の無限牢獄に帰る。

 で、俺はレオンとシルヴィと、フロアの方に入る。


「ハル、良い感じに威圧感出てたぞ」

「ええ、あんな空気感も出せるのね」

「あそこで反論したのは正解だったな。相変わらずの直球だが」



 フロアに出た瞬間、ステラやヘンリーといった行動派貴族によって囲まれてしまった。身分が高すぎて周りが近寄れない感じだな。まあ茶会に呼ばれたら行けば良いか。


「反論できなかったらこの先、生きていけないと思ったからな。特に静止はされなかったから良いかなって思って」

「ああ、正解だ」

「はい。家族を侮辱されて、反論も何も言わなければ家族には何をしても良んだ、と過激な人は捉えたりしますから」


 シエルもゆっくりやって来た。

 少し足りないけど幼馴染組と談笑していると、ワルツが流れた。踊れ、ということだな。



「踊っていただけますか」

「はい、喜んで」


 近くにいた唯一の女性、シルヴィを引っ張って輪の中に入る。他のメンバー達は相手のいなさそうな女性を探して、無事にペアを組めたようだ。



 三拍子に合わせてステップを踏む。もう随分慣れたな。シルヴィのフォローが要らないくらい、ダンスは上達した。でも、リードできるようにはならないだろう。現時点ではシルヴィよりも身長があるが、逆行前の自分を知っているせいで成人してもシルヴィに抜かれている可能性が浮上した。



 身長が低い方がリードする、というのは相当難しいだろうし、絵面的にもそのうち女性パートとかやらされかねない。シルヴィが男性パート、俺が女性パート。まあ悪くはないだろうけど、ねぇ。


 何となくだけどレオンより低くても良いからシルヴィよりは高くありたい。謎の拘り。


 曲が中盤に差し掛かった辺りで、何かおかしいことに気付いた。あれ、何で俺達以外誰も踊ってないんた? 曲が流れる中、踊っていたのは俺達以外一組もいなかった。何でぇ?

 周りからの視線は大変気不味いのだが、顔色はなるべく変えないように気をつけて踊りきった。そして礼をする。


 パチ、という一人を皮切りに、会場は拍手に包まれた。









「つっかれた〜〜〜!」

「お疲れ様です。お夜食はどうなさいますか?」

「今日は良いや。もう眠い……おやすみぃ………」


 うつ伏せでベッドに飛び込んだまま、その勢いで意識を飛ばした。

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