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四十話 今後について


「――というわけで、俺、貴族になることになった」


 その夜。家族とラッシュ家に事情を説明した。あまりにも俺がサラッと言うから皆の反応は「?」一色だったよう。



 よく咀嚼して最初に理解したのは、王宮勤めのおじさん。流石。この中で一番貴族に近い人だけある。


「まさかこんなに早いなんてな。でも、バレたなら早く手続きを済ませないと批判する人間が出てくるから仕方ないといえば仕方ないか」

「俺はその辺の小屋でも中古でも十分満足だって思うんですけど、守護者の俺には新築の大きなタウンハウスと領地、カントリーハウスが必要みたいで? 今はまだ領地がないからタウンハウスだけだけですけど予算を見て気絶しそうになりましたよ」


「だろうな。既存の爵位じゃ足りないからって新しく爵位を作るくらいだ。そんな奴の家が安いわけがないな」

「お兄ちゃん……もう、会えないの……?」



 マリアが涙目で俺に駆け寄ってくる。うん、安定の可愛さ。


「会えるよ。マリアも貴族になるんだからね。父さんが一度爵位を貰って、その後にすぐ俺に爵位が渡るんだ。だから大丈夫。貴族の一人として生きていくのは難しいし、俺自身、貴族の汚いところを身に染みて感じた。でも、味方はいるだろう? マリアにはシルヴィっていうこの国で二番目に偉い女の子友達が。言えば喜んで助けてもらえるから」

「シルヴィお姉ちゃん! お手紙書いてるの!」



 ゔっ……! 可愛い……。


「貴族になったら堂々と胸張ってシルヴィに会えるようになるよ。一緒にお買い物も楽しめるかもしれないね」

「楽しそう……!」


「じゃあ、お兄ちゃんと一緒になってくれる? 貴族に」

「なる! お勉強も頑張る!」



 ヨシヨシナデナデ。


 素直で単純なマリアを言いくるめてしまった感もあるけど、シルヴィなら喜んで買い物くらい付き合うだろうし、なんなら自分から誘いかねない。

 初めての同性友達って重要なんだな。鮮明に想像できるからシルヴィの友達に対する熱凄い。



「で、ハルのところは良いけどさあ、俺らはどうなるわけ? マリアが貴族になったら平民の俺じゃ結婚できないだろ」


「ライゼン様もラッシュ達について言及はしてなかったから上の思惑はわからない。でも、当主が俺だからマリアは血筋関係なく結婚して良いし、後継も別に要らない。一応屋敷ができたら常駐騎士として給料と部屋渡して雇おうと思ってる。俺としては信頼できる人が数人いるだけでありがたいんだよ。ラッシュの就職先が決まってなければの話だけど。公私を分けられるならマリアの専属にしても良い」


「す、スケールでか……」

「じゃあ何? マリアにどこの馬の骨ともわからない、その辺のぽっと出の男が付けられても良いってか?」

「やります」



 ラッシュ……こんな挑発にまんまと乗せられて、大丈夫か? こっちとしては思惑通りに動いてくれてるのはありがたいんだけど。


「おじさん達はどうします? 息子が大徳家当主の妹の婚約者だってなったら嫌でも目立つと思いますけど。おじさんはともかく、バレッタおばさんは平民用の服飾店ですし職場からもめちゃくちゃ遠くなっちゃうと思うんです」

「それなら平気よ。あたし、下位貴族向けの服飾師やらないかって声かけられてて、そんで今やってる仕事が終わったら職場移すから」

「そうですか? なら大丈夫ですね」



 にしても凄いな、バレッタおばさん。平民向け店舗で働いてて職場のグレード上げないかって声かけられるなんて。まあ俺もド平民の時からレオンの護衛やらないかって声かけられてたから似たようなものか。


「えっと……父さん達は何をすれば良い?」

「俺とヘルガさんが、領地の方でやる予定のお店があるんだけど、そこで店長代理やってほしい。店長は俺がやっても良いんだけどさ、忙しくなると思うし。俺としては別に数日くらい徹夜しても良いんだけど、それがヘルガさんにバレたら問答無用で布団にぶち込まれるから」



 あの笑顔を思い出すと少しゾッとする。

「わかった。それで、領地っていうのはもう決まってる?」

「いや、まだ決まってない。ただ、できるだけ北の、雪が降る地域が良いなって思ってる。気候を活かしたことをやりたくて」



 温泉街を主力とした観光地をいつか作りたい。フェリーチェの夢は俺が引き継ぐ。俺が駄目なら二百年後の俺に、それでも駄目なら四百年後の俺に。何年かかったとしてもやってやる。



 領地で売れなさそうならレシピ本は王都の本屋で売っても良いし、図書館を作ってそこに置いても良い。差別化するつもりだったけど絶対領地で売るんだって強い拘りがあるわけじゃないし。



「北かぁ……あの制服じゃ寒いかも……」

 マリアは不安そうに自分のクローゼットに目をやった。


「大丈夫だよ、マリア。防寒着は沢山用意したからね」


 魔物狩りの道中で。それに、俺の領地には学校専用の馬車を用意するつもりだ。吹雪だと子供は行方不明になる可能性もあるからペステッド商会の方で空調設備を整えた生徒専用馬車を用意する予定。



 各職場からも連絡馬車を出したいけどそれはまた追々。まずどんな環境かもわからないんだ。領地と名のつく荒野かもしれない。わからないうちに色々決めるのはやめよう。


「ハル、貴族になったら平民用の学校には通えないんじゃないか?」

 ラッシュの疑問にマリアは不安そうな顔をする。



「マリア、友達はいる?」

「うん! いっぱいいるよ!」

「じゃあ今通ってる学校を卒業しようか」

「やったー!」


 マリアの意見が絶対。あんな学校通わせたくないのが本音。媚びられるか、避けられるか。どちらにしても良い思いはしない。友達がいるなら今の学校を卒業させた方がマリアのためになる。



「良いのか?」

「ああ、俺の通ってる方は平気でいじめが横行するような環境だからな。平民のくせに、平民だから。何度言われたことか。性格が捻じ曲がってる奴は一定数いる。そんな場所に放り込もうとは思わない」



 サークルから追い出されそうになったこともあったよなぁ。演習では勝手に行動されたし……。

 俺は一人で入学したわけじゃなかったから暴力振るわれたりってことはなかったけど、ルイ先生は「いじめ? ああ、カリウが救い出してくれなければ今ごろ死んでましたよ」って言ってたし。平民はあの学校で浮きやすいから。



「いじめ……貴族って怖いんだな」

「悪い奴ばっかじゃないのはわかってるんだけどな。でも、俺にも何軒か許せない貴族家はある」


 レイチェル・バーンのバーン伯爵家、ヘルガさんを苦しめたアルバーン伯爵家、ラッシュを攫ったノワール公爵家。この三つの家は絶対に許さない。



「じゃあハルちゃんはラッシュ達の卒業まで領地は貰わないのか?」

「いえ、貰えるタイミングがきたら」


 平民学校の卒業条件は確か十歳以上で、国が定めたプログラムを全て完了したこと。だからマリアとラッシュはタウンハウス完成頃には条件を満たしているはずだ。



「ま、どっちにしろ俺はできることは何でもするからいつでも頼ってくれや」

「はい。まずは魔王に会わないと話が進まないんですけどね……」


 タウンハウスはこっちの様式に合わせるけどカントリーハウスやその他住宅・施設はフェリーチェの意向を取り入れるから資料を持ってる魔王オブシディアンに会わないと話にならない。



 まあ、パーティーとか全部終わっても卒業するまでは領地運営しろしろって圧かけられるわけじゃないからまだ良いか。

 ヘルガさんにプレゼント作って、擬似心臓のメンテして、魔物侵攻に備えてからでも遅くない。千二百年以上生きてる奴がそう簡単に死ぬとは思えない。



 俺としてはフェリーチェの言っていた「変わってる奴」という言葉が気になる。どの分野において変わっているのか、知りたい。フェリーチェに関係することではあると思うんだけど。


 魔王オブシディアンって変人なのか? もし俺にとって害悪な変人なら、フェリーチェには頭を下げなきゃいけないかもしれない。


 ラ・モールの森にでもいたら嬉しいんだけどな。




「あ、父さん達はパーティーで前に出て喋ったりってのはないから安心して。俺の側でニコニコしてるだけで良いよ。舞踏会も兼ねてるけど踊るのは俺だけだしそんなに緊張しないでね」

「う、うん……」

「それじゃあ皆、おやすみ」

「「おやすみなさい」」



 戻ると時刻は午前二時を回ったところ。夜更かししちゃったな。

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