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三十八話 拝啓、俺へ。


 ラッシュを取り返してから数日。ピアスも作り終わり、無限牢獄が遠隔で使い物になるかどうかわかるまでは俺が家族とラッシュ家を送迎する。完璧とは言えないものの、漸く元の生活が帰ってきた。

 たった数日のはずなのにえらく濃く感じた。



 そして今日は大好きな授業、実技だ。一から五級の一年生が合同でやる珍しい時間。ここでは級ごとではなく属性ごとに分かれる。

 ので、また皆と離れ離れ。ステラ以外で強化属性の友達、欲しい……。でも、嘆いてても仕方ない。頑張ろう。



 強化属性の中にも級が当然あるから、今回はオーソドックスな、自分の体に強化魔法をかける練習だ。残念ながら、ルイ先生は強化属性じゃないので離れてしまったが、眺めるだけでも良い。



 課題として渡された岩を粉々にしつつ、周りを見ている時だった。


『神、何か来るよ』

『魔物よ! しかもSランク! 何でそんな奴がこんな所にいるの!?』

『わからない。でもほっといたら学園消し飛ぶけど』

『そんなのたまったもんじゃないわ! ハル! 何とかして!』



 魔物がどこから来るか魔素を辿るが、魔法を使ってる人間が多すぎて魔物の魔素がどれかわからない。神もテンパってて使い物にならない。



 悲鳴が聞こえた。気付けば俺は飛行中の魔物のはるか上空にいた。どうやら無意識のうちに転移していたらしい。地図タップ転移じゃないから、見える範囲になら地図要らないのかな。



 これは、バレたな。バレたなら仕方ない。やりたい放題しよう。



 風魔法で切り刻み、火魔法で焼き払う。再び平和な演習場が戻ってきた時、あの魔物は影も形も残っていなかった。

 あるのは焼く前に無限収納に入れた魔物の羽と、今、手の中にある魔石だけ。色を見る限り、光属性っぽい。



 光属性のSランクは結構ありがたい。大きいから加工のしがいがある。



「今のって……」

「転移……」

「しかも複数属性……?」

「守護者だ……!」

「いや……でも平民がか?」



 困惑する人達の声が聞こえる。でも、俺が転移して魔物の上に行ったこと、火魔法で焼き払ったこと、風魔法で今も浮いていること、守護者でることを否定できる者はこの状況では誰もいなかった。



「ハルさんっ!」

 突然すごい勢いで突っ込んできたのはヘルガさん。相変わらず風魔法の使い方上手いな。

 そのままヘルガさんは俺の両肩を掴んだ。


「何で二種類も使ったんですか……! 強化魔法だけならまだ誤魔化せたかもしれないのに……!」

「転移を、見られたらんです。魔物から一番遠かった強化属性の俺が、一瞬で飛ぶ魔物のはるか上に移動したんです。それはあの場にいたほぼ全員が目撃していました。だから俺はは確実に仕留められる方法を取ったんです。まあ、半分はヤケでしたけど……」



 俺の言葉にヘルガさんは押し黙った。俺の抱えた問題を俺と同じくらいわかってるのは、ずっと平民として一緒にいたヘルガさんだ。

 だから第三者には隠したがっていたし、隠してくれていた。でも、多分じきにバレる。ラッシュが誘拐されたのがその良い証拠だ。



 一部にはもう、バレてる。それならここで牽制しておきたい。俺の大切な人に何かしたらバラバラに切り刻んだ後に焼き払うぞ、と印象づけたい。そんなことは絶対しないけど。


「ハルさん……」

「ふはっ…何でヘルガさんが苦しそうなんですか。俺は平気ですよ」

「ですが……」


「俺にはヘルガさんも、友達も、家族もいます。だから他の誰に否定されても平気です。平民だから何ですか。やってやろうじゃないですか。平民の打たれ強さを見せてやりますよ、そういう奴には」

「そう、ですね……ハルさんが誰であれ僕達の大切な友達ですから。何を言われても僕達はハルさんのことを否定しません」



「はい。ですから俺は大丈……! ステラ……」


 いつまでも降りて来ない俺達に、痺れを切らしたのか、ステラが飛び道具で攻撃してきた。刺さる直前で離散させたから良いものの、もう少し遅ければ二人仲良く串刺しになっていただろう。俺が避けられると判断して攻撃したのなら、随分信頼されたな。



「二人共、お前らの関係はよぉくわかった。良いからさっさと降りて来い」

「あ、ハイ……」

 魔法をパッと解除して着地する。



「レオンからの呼び出しだ。学園の常駐騎士が叔父上に報告したらしい」

「仕事はぇ〜……」

「僕も行きましょうか?」

「んー……じゃあ、お願いします」



 一人は心細いので、とは言わん。後でガヤに何て言われるかわかったものじゃない。そうして俺は、もう開き直ったと言わんばかりにレオンとヘルガさんを連れて城に向かった。転移で。







「死人は出ませんでしたので後悔はしていません」


 ライゼン様とアスベル様、イーサン様に問い詰められながら、俺はその一点張りだった。とにかく自分の意思を伝える。最終的に伝わらなかったとしても伝える気概は大事。



「責めている訳ではないんだが……」

「事が明るみになってしまった以上、卒業を待たずに貴族になる手続きを始めなければいけないな」

「千二百年ぶりの守護者様だし、魔物クラスターの前には大規模なお披露目パーティーまで行わなければ……」



 めんどい……。手続き系はとにかく面倒くさい。入学手続きとかもしたことあるから未経験って訳ではないのだが契約がどうとかお金がどうとか色々書いてあって途中でわかんなくなった。ちんぷんかんぷん。


「新しく守護者としての爵位が必要になるな。ハルくんとしては何か案はあるか?」

「案、ですか……。家名だけは決まっているのですが爵位についてはまだ……すみません」



『ハル、フェリーチェからの伝言があるわ。今手紙を送るわね』

「え、手紙……?」


 思わず神の言葉に声で返事をしてしまった。皆驚いてる。謝罪してからの間髪入れずに神への返答だったからな。

 暫くすると、光を纏った分厚い封筒が宙に現れた。これがフェリーチェからの手紙か。



「ハルさん、これは一体……?」

「次代の守護者、つまり俺宛にフェリーチェ・サージスが遺した手紙だそうです」


「「フェリーチェ・サージス!?」」


「初代陛下ではないか……」

 一応、読んでみるか。



『やっほー俺、つっても記憶はないけど。俺は貴族制度のない国を作ったけど、サージスに貴族制度が持ち込まれるのは多分時間の問題だ。


 守護者だからと新しい爵位を押し付けられることも考えて、俺から一つ、俺に提案があるんだ。大徳、とかどうだ? 俺が前世で通ってた学校で冠位十二階っての習ったんだけどそれの一番上の階級で、色は濃い紫。どうだ?

 もし採用してくれたらもう一度、日本建築を復活させて欲しい。きっともう、人間では誰も憶えてないけど、オブシディアンっていう魔王が竜ヶ丘って所にいるんだけどさ、そいつが俺の書いた過去の建築資料とか持ってるはずだから。未来の人間は魔王のことを良く思ってないかもしれない。でも、アイツはちょっと変わってる? けど本当に良い奴だよ。何度もあの空気に救われた。だから未来の俺も、オブシディアンを怖がらないでほしい。



 あ、あともし料理ができるなら食文化も発展させてくんない? 俺の時は建国したてでバタバタしててそれどころじゃなかったし、俺は死ぬ前に付き合ってた恋人に任せっきりで料理ができなかったから……。焼くとか煮るとかの概念はわかるんだけどな……。ごめん! お前はお前でやる事いっぱいで面倒かもしれないけどお願い! それじゃ!』




「な、何だこれ……」


 俺がフェリーチェ……? フェリーチェはじゃあ俺の前世? てことは……フェリーチェの前世は俺の前々世? わけわからん。前世の俺って随分陽気だったんだな。



 それと、オブシディアンか……。資料で見た魔王はじゃあ悪意のある人間が書き換えたものか……。ちょっとあの姿見てみたかったけど仕方ないな。



 竜ヶ丘ねぇ……。名前の毛色違うなそこだけ。フェリーチェが前世で住んでたとことかかな。文章的にフェリーチェと魔王は仲良さげだったし。


「ハル君が初代陛下……?」

 何か嫌な予感を察知して俺は先に手を打った。


「俺は平民ですから! 頭を下げていただく必要は、一切! ありませんので!」



 立ち上がって膝をつこうとするイーサン様を半ば叫ぶように静止すると渋々ではあるが、座り直してくれた。ふう……。危ない危ない。


「フェリーチェ王がハルって想像でき……なくはないな」

「ハルさんに料理のレシピ本を作ってほしいと仰ったヴィーネ様の意図が漸くわかりました。フェリーチェ王の意志だったんですね」



「んー。でもなぁ……俺の前世がフェリーチェだったとしても。記憶がないんだ。だからハルはハルであってフェリーチェはハルではないんだよな。仲良くしてたっていう魔王オブシディアンにも心当たりがないし、ここに書いてある国名も聞いた事がない。フェリーチェとは過去を共有しただけの他人だよ。フェリーチェもそれがわかってたから、こうして手紙を書いたんじゃないかな」



 なぜ恋できないか少しわかった。フェリーチェの前世には恋人がいたからだ。守護者“だから”恋ができないんじゃなくて、フェリーチェが前世の恋人に一途だったから、自分で自分に暗示をかけたのかもな。失うのが怖かったのかもしれない。恋人に自分という存在を失わせてしまったから。



 俺も恋は諦めよう。フェリーチェはもうどこにもいないけど、その気持ちだけはこうして俺への手紙を通じて今も生きてるから。


 でも凄いよな。自分自身に呪いというか、暗示というか、そんなのをかけてしまうほど人を好きになれて、その人を大切に思えて。だって恋人って血の繋がった家族ではないし、付き合う前は友達だとしてもそれでも他人だ。



 本当に、本当に大切に思っていたんだろうなってことがわかる。

「ハル……泣いてる」

「え? 嘘だぁ……あれ……?」



 ラッシュの時はわかる。大切な人だから。でもフェリーチェは他人だ。じゃあ……何で視界が……。

「ハルさん……これ、使ってください」


 ヘルガさんが俺の目元に、新しそうな柔らかいハンカチを当ててくれた。



「ん……ありがとうございます……。すみません……また迷惑かけてしまって」


「ハルさんに関わることは僕は一切迷惑と感じないので大丈夫です。寧ろ、もっと良いですよ。それを嬉しいと思うので」

「俺も同意見だ。ハルの言う迷惑は、一般的に言われる迷惑より遥かに軽度だから」



 二人共優しいな……。でも、いつまでも甘える訳にはいかない。よし、少し顔でも洗って頭を冷やそう。 


「あ、あの……俺顔洗ってこようと思うんだけどその……そんなにくっつかれると一緒に転移しちゃうん、デスケド…………」

「いつでもどうぞ」

「ああ、俺も大丈夫だ」



 一緒に行きたいらしい。まあヘルガさんへのプレゼントは仕舞ってあるし、作業部屋NGで寝室だけなら大丈夫かな。



「わかった……無限牢獄」

「あ、ちょ……」

 あまりの展開の速さについていけていないライゼン様その他大人達を置き去りに、俺は魔法を発動させた。

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