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三十六話 カミングアウト


「ハル、ハール、起きろー」

「ん゛ーーー……はっ……! ラッシュは……!?」

「ここだよ、床なんかで寝やがってこんにゃろう。心配したんだからな」



 昨日のはうって変わって呆れたような表情をするラッシュ。隈はない。よく眠れたようだ。そして俺は。



「寝違えた。首痛い」

「治せば? 自分で。俺のこと治したみたいに」

「え……!? お、覚えてたのか……?」



 どうせ覚えてないだろうと思って使ったのに。治癒魔法と水魔法。強化属性なのはラッシュも知ってたから堂々と使ってたけど一応他はこっそりだったのに。


「ああ、水が飲めなかった俺に口移ししたのもバッチリ覚えてるわ」

「それは早急に忘れてほしい!」


「忘れたくても忘れられないわあんなの。あの衝撃は今まで生きてきた中で一番だったからな」

「ああぁぁぁぁ〜〜〜〜……! もうお婿に出せない……」

「ハルは俺の母親かよ。別に良いよ。友達と緊急口移しの経験があっても。マリアもハルなら気にしないだろうし」



 なら良かっ……んぇ!? マリア!?

「な、何でここでマリアが出てくるの!?」

「あ、やべ。滑った」

「どういうこと! マリアと、何が、あったのぉ!」

「わかったわかった! わかったって!」



 話を聞くと、どうやら俺が学園に行ってる間、マリアと恋人関係になったらしい。逆行前はそんな事実は存在しなかったが、俺が学園に通い始めたことで変わったのだろう。

 それで、両家で話をして、将来的には結婚もしたいと考えているらしい。



「ラッシュ……」

「お、おう……何だ?」

「マリアを選ぶなんて、見る目があるな! 結婚式は挙げるか? 挙げるならどこでやるんだ? マリアはウエディングドレス着るよな?」


「待て待て待て! いっぺんに捲し立てられてもわかんないから! それにまだ先の話になるし……」



 だんだんと語尾が尻すぼみになっていくラッシュに揶揄いを飛ばしてやろうかと思ったのだが、既に真っ赤になっているしこの辺で勘弁してやるか、と解放してやった。


 お祝いは何にしようか。一生残るものか、食べたらなくなるものか。これはマリアに聞いた方が良いな。あの子ならどんな豪華なドレスよりもふわふわのパンの方が嬉しいだろうし。



 とりあえずまずはおじさん達に連絡だ。俺からも謝罪しなきゃだしまずは顔洗って服着替えて寝癖も直さないと……。風呂入るか。せっかく近くにあるんだから。あ、そうだ。



「ラッシュ、一緒風呂入るか? 時短で」

 ラッシュも起きたばっかで寝癖とかついてるし俺と違って実家に住んでるから今日入らなかったら次入れるのがいつになるかわからない。


「まあ……これで最後になるだろうし、入るか」

 ラッシュは頭をガシガシと掻いて立ち上がった。その少し諦めたような表情に俺は誓った。これで最後にはしない、と。絶対温泉作ってやる。



 トイレの魔石は作れたし次は温泉用。農業用とか漁業用とかはもっと落ち着いたらで良い。あと最優先は全員分のピアス。今回のことで学習した。もう手段を選んではいられない。


 目立つ人間はどうやったって攻撃対象になる。その目立つ人間を直接消すのが無理なら周りから消していけ。誘き出せ。


 そんなの御免だ。家族分とラッシュ家の分は最低でも作るべき。擬似心臓はもう俺の管轄外。サークル活動中に作ろう。皆自分のに集中しているから少し大きな音、破裂音とかを立てても気にしない。というより聞こえてない。



 湯船に浸かりながらできるだけ目立たないデザインを考える。マリアはいずれ俺と一緒に貴族になるからその時にまた新調すれば良い。

 ラッシュも婿入りするなら貴族と同等くらいか? もしそうならなかったとしても騎士としてペリペドット家ができた時に雇えば新調せざるを得ないだろうし今作るのは機能性以外は投げよう。



 あ、そういえば俺の騎士の話ってどうなったんだろうか。一応学園で剣術はやってるけど、両手に何かを持って戦うこと自体が苦手だったらしくて片手で扱える短刀で授業受けてるくらいなんだけどな。相手の追跡と報復に関しては自信あるけど騎士は事件を未然に防ぐために動くものだからこんな特技あっても意味ない。



 枠が空けてあるんだったら入った方が良いんだろうけど……。でも卒業したらって言われたし今考えなくても良いか。今は三月。卒業は二月中旬。あと一年ゆっくり考えよう。



「ハルが羨ましい。毎日こんな風呂入れて。俺にもハルみたいな才能があれば少しはまともな風呂に入れたんかな」

「マリアに会う時に気になるんか?」

「まあ、それなりには。何か持ってるのか? 解決案」


 俺が作ろうとしてる風呂については言及したくない。でも友達の望みは叶えたい。俺は何とかできないかと考えた。


「……! 思いついた……!」



 無限牢獄。名前に反して居心地の良い空間で、外からの干渉を受けない。それを実家とラッシュの家に常設して入れる人間を指定すれば……!

 あ、これは応用すれば避難所にも使えるかも! 良いねえ良いねえ! 早速試してみないと!



「……? どした?」

「ふふふふふ……実験しないと」

「じ、実験……!?」


「そんな大それたものじゃないけど、もし成功したら間取りはほとんど変えずに今まで以上に快適な生活と安全が確保される。俺の方でガチガチに防犯は固めておくけど家側にもした方が良いなって思って。もうあんな思いするのは勘弁だから」

「俺も当分一方的にぶん殴られるのは勘弁だわ」



 そう笑い飛ばしたラッシュだけど俺はまだ不安だった。


「何でそんな顔すんだよ。ハルは別に今回悪くないだろ。それに俺、傷付いたりしてないし。逆にもっと護身にも力入れようって思えたきっかけを作ってくれる事件だった。学校で習ったんだけどさ、ハルって特徴的に多分守護者ってやつだよな? ハルがその自分の肩書きだけじゃなくて自分を否定するようなことがもう二度とないように俺も頑張るよ」

「っ……!」



 寂しそうに言うラッシュに俺は何も言えなかった。自分に関わったからこんなことになったんだって勝手に決めつけて、俺自身を大切に思ってくれる人の意見を信じきれずにいた。

 心のどこかでは、本心は、きっと、そんな仮の姿を作り出して勝手に自分自身を否定してた。



「別にハルにそんな顔させたかったわけじゃなかったんだけど……俺らはハルが何者であっても友達であることに変わりないってことが言いたいだけ。俺らに言えなかったってのもわかるしな。学校で習うまで守護者の存在自体を知らなかったわけだし。まあ、あんま一人で抱え込むなよ。友達多いみたいだし俺らは戦力外かもだけどな」

「そんな訳ないだろ。ラッシュは俺にとって初めてできた大切な友達だ。そこに存在してくれてるだけで俺は幸せだから」


 逆行前のラッシュの最期を想うとそう言わずにはいられない。それ以上を俺が望むのは罰当たりだ。

「そか。何か、照れるな」

「俺に浮気すんなよ」

「しねぇって。全く……案内してくれ、帰るぞ」

「はいはい」



 バシンと叩かれた肩が若干ヒリヒリするけどそれすら心地良い。もう全世界に自慢したい。俺の友達はこんなに良い奴なんだって、羨ましいだろって言ってやりたい。


「ハル様、皆様お揃いです」

「ああ、ありがとう。後は俺がやるから下がって良いよ」

「はい。何かありましたら部屋の外にいますので」


 そしてメアのいなくなった部屋には俺とラッシュ、俺家、ラッシュ家の全員が揃っていた。

「ラッシュ………」

「や、やぁ。数日ぶり……」

「ラッシュぅぅぅ……! 心配したのよぉぉぉぉ!」



 一番に飛びついたのはマリアだった。ラッシュの胸に顔をぐりぐりと押し付けて号泣している。母さん達も抱きつきはしなかったものの、涙を拭う仕草をした。



「うん、心配かけてごめんね。俺は大丈夫だよ」


 あれ、んん? 俺といるときと全然違くないか? 声色から目線から仕草から。もう何から何まで。

 俺といるときのラッシュはもっと子供っぽくて、すぐ人を揶揄うような奴なんだけど。やっぱり同い年で恋人だと何か違うんかな。



「お兄ちゃんがラッシュのこと取り返してくれたの?」

 マリアはまだ涙で濡れている顔をこちらに向けた。

「まあ、取り返して、うーん……。取り返した、のかな」

 元々の原因は俺だから素直に取り返しました、とは言いにくい。




「それより、俺から皆に言わなきゃいけないことがあるんだ。六年以上隠してたことなんだけど……。今回の事件と直結する問題なんだ。聞いてくれる?」


 目を逸らしたくなったけどぐっと堪え、真っ直ぐ皆を見て言った。


「ああ、聞くよ」

「ええ、入学前に言ったでしょ? 母さん達はハルの味方だって」

「私も、お兄ちゃんの味方」

「あたしもよ」

「俺も、ハルちゃんの味方だ。何があってもな」


「ありがとう、皆」

 もうその気持ちだけでお腹いっぱいかも。



「まあ、長くなるかもしれないしとりあえず座ってよ。その服実家で着てたやつじゃないでしょ?」

 昨日の夜には着いてたらしいから風呂は入ってるだろうし着てる服も気後れするクオリティのものだ。俺が初めて着たものと大体同じ感じ。



「で、でも……汚してしまわないかしら」

「大丈夫だよ。昨日今日で汚れるようなことしてないでしょ?」

「できるわけないじゃないこんな所で」


 ならどうぞ、とニコリと笑うと皆は渋々といった雰囲気を醸し出しながらも座ってくれた。



「今回話す内容はかなり衝撃的なことだと思うから今後俺とどう付き合っていくのかは皆の自由だからね」


 こう前置きした上で俺は話し始めた。ヘルガさんにしか話していなかった逆行の話も含めて。


「急に大人っぽくなったというか、急にお兄ちゃん感が出たのはそういうことだったんだ」

「話してくれてありがとうね」

「そこに存在してくれてるだけで俺は幸せだから、ってそういうことか……」

「神様とお話できるなんて凄いね、お兄ちゃん」

「全属性なんて便利よね〜」

「しかも魔力が増えるとか羨ましいものだ」



 良かった。皆引いてないみたい。俺が守護者だったせいでラッシュが狙われたということを話しても皆変わらなかった。


「ほら、言ったろ。味方だって」

「ああ……そうだな。皆、ありがとう。防犯に関してはこっちの方で固め直す。進めてた企画の中で緊急性のあるものはもう俺の管轄……俺が中心ではないし他のも絶対やらないといけないってやつはないから」



 水回りあたりはすぐに終わらせたいけど防犯と比べれば緊急性は低い。同じように、まだ日があるヘルガさんへのプレゼントも。


 作り終わるまでは暫く皆を監禁していたい。じゃないとまた事件が起こりそうで怖い。



「あーあ、俺、急に体調悪くなったかも」

「え!?」

「わ、私も体調悪いかも」

「こんな状態じゃ、学校行けないなー」

「何日かお休みしないとねー」



 棒読みにも程があるが、学校欠席について異論はないようだ。ラッシュ、ナイス。心の中でグッドサイン。


「それなら療養のために俺の作った部屋でゆっくりしないとな」

「部屋? お兄ちゃん、お部屋作れるの?」


「ああ、俺の理想を思いつく限り詰め込んだら実家に戻りたくなくなるくらい快適な部屋が出来上がったよ」

 俺の作業部屋から始まり、どんどん増築されていったので全員で入居しても一人一部屋以上のスペースがある。




「内見しても良い?」

「じゃあ今から行こうか」

「「い、今から!?」」

 とりあえずメアにだけ伝えて目を白黒させる皆を案内した。



「無限牢獄」


「牢獄!?」



 よし、全員来たね。うんうん。出られることはもう実証済みだから安心して案内できる。


「まずは共用スペースから。その後に個人部屋に行こう」


 共用スペースはキッチン、食堂、大浴場の三部屋。キッチンは魔石をベースとして貴族の使用人が使う物と同じくらいの設備が整っているし、食堂も魔石で作ったライトの魔法具で常に明るい。

 大浴場も俺が作りたい温泉の実験的な場所なので魔石で浄水までされている。


 シャンデリアとか、彫刻とかの豪華装飾はないものの、シンプルで住み心地の良い空間になった。



「凄い……! お兄ちゃん凄いね!」

「お風呂までついてるのね……!」


「牢獄とは……?」

 一応好感触ではあるな。とりあえずこの調子でいこう。


「次は個人スペースね。共用スペースだけじゃなくて個人の部屋にも小さめのお風呂がついてるんだ。まだ不便な箇所もあるかもだけどそれは都度改良を重ねようと思う。もし欲しいって設備とか消耗品とかあれば言ってほしい。一応石鹸とかタオルとか服ワンセットはこっちで用意してあるけど。部屋着とか普段着とか新しいの欲しかったら一人二着までなら俺が全額出すし」



 これも王族からの売り上げの一部で。ヘルガさんと半分こにしても尚、平民には勿体ないくらいの金額が余る。それなら二着くらいは……と思うのだ。三着以降は絶対周りから浮くのでそれ以下でよろしく。


「富豪か……?」

「富豪って程でもないけど伝手があるから比較的楽に稼げてる」


 王族に新商品開発して売りつけて荒稼ぎしてるとか口が裂けても言えない。いや、悪いことはしてない。してないけど何か罪な感じがする。

 神からの支援によって作ったものであって自分自身で考えたものじゃないから盗作だって心のどこかで思ってるのかも。


「まあ、今のところは制服もあるしワンセットで良いだろ。消耗品も勿体なくて中々使えないだろうし俺は暫く平気」

「私も、平気。そのお金はお兄ちゃんが自分のために使ってね」

「わかった。何かあればすぐ言ってな」

「ああ」

「うん!」


「それで父さん達はどう……父さん?」


 大人組の反応を見ようにも皆一様に口をポカンと開けていてとても話を聞けるような状態ではなさそうだ。とりあえず落ち着くまで部屋にいてもらおう。



 夫婦の共有寝室のベッドに座らせて至急ピアス作りに取り掛かる。

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