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三十三話 演習 一


 三月に入った。入学から約一ヵ月経過。今日から一週間、授業の一環としてラ・モールの森に入り、魔物の討伐演習を行う。

 一級から五級までをごちゃ混ぜにして十人で一班を構成、それぞれの班には最低でも一人、準一級か一級がいる。もともと数が少ない上級の人間だから、演習は全学年だ。



 つまりそう、俺は班員の中に仲良い人が一人もいない。二級にはシエルがいるけど俺とは身分が違いすぎるから、と別の班なのだ。


 班の中で一番級が上の人間が班長。当然俺は班長になる。別に班長になるのは問題ない。そこは問題ないのだが、班員には貴族しかいないのだ。心の安寧のためにもせめて商家の一人や二人欲しかった。

 なぜか俺の班には侯爵家とかの高位貴族が残った。こんなの無法地帯も良いとこだ。好き放題されるに決まってる。



「ハルくんであっているか?」

「あ、はい」


 心の中で大量の涙を流しているところで、演習用の服に緑色のピンバッジを付けている人が近付いてきた。この中で一番身分の高い、侯爵家の人間だ。


「僕はラウル・モッシュ。モッシュ侯爵家の人間だ。君のことは父のモッシュ侯爵から聞いている。とても優秀な平民だ、と。級が低いせいで迷惑をかけてしまうかもしれないが一週間、よろしく頼む」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」



 出された手を握り返し、がっちり握手。

 よし、頑張るか。


 俺が戦ったら意味ないから俺は前線に立ちつつ魔物を弱体化させることに重点を置いて、トドメは班員にさせる。いざとなったら俺がキャリー入れば良いし。





 という俺の思惑が甘かったと気付いたのは森の中に入ってから。


「あ、ちょっ……! そっちは危ない……!」


 とにかくバラバラに行動しようとするのだ。その度にラウル様と一緒に止めに入り、運悪く魔物に遭遇したら俺が潰す。



「演習ってこんなのだっけ……?」

 お陰でヘトヘトだ。これをあと一週間、毎日やるのか……。厳しいな。プライドがあるんだろうけどそんなに一人で倒したってステータスが欲しいんか? 無様に死んでもしらんぞ、俺。



 俺がどれだけうるさく言っても平民の戯言と捉えられ、ラウル様が言ってもヴィーネ神反対派ばっかでその言葉は何の役にも立っていない。

 ヴィーネ神信仰派は俺とラウル様だけだった。二対八。圧倒的不利。試合開始前には既に試合終了のゴングが鳴っているような無駄な戦い。



 こちらの思惑を潰し、この、常に死が隣にいる森でも自分達の要求を通そうとする図太い精神。尊敬に値しますわ全く……。

 死人を出したら俺のせいになるっちゅうのに。



「勘弁してくれよ……」

 思わず本音が漏れる。


「次は離してもらうよう僕から言っておこう。流石に信仰派の最年少が反対派を八人抱えるのは無理がある」

「ありがとうございます……」


 ああ、気を遣わせてしまった。ここでは俺がリーダー。せめてこの一週間乗り切ってみせる。




「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 気持ちを切り替えた時、班員の悲鳴が聞こえた。最悪。せっかく切り替えたのに。もう頭おかしくなりそう。


 急いで声のする方に向かうと死んだ魔物を湧き出た魔物が貪り食っている様子が見てとれた。全員間腰を抜かしている。間抜けにも程があるだろ。突っ込むくらいなんだから多少なりとも腕が立つ奴だとミリくらいは思ってたのにこんな腑抜けばっかりとか。




 口が悪いのはほんとに許してほしい。立場は弁えてるけどあまりにも迷惑すぎる。こんな魔物、俺が一発殴れば終わりなのに。



 とりあえずのして、美味しくないから魔石だけ貰って焼き払う。因みに守護者というのはまだ明かしていないので火魔石を投げ込んでいる。


 後ろの方で何か気に食わない称号をつけられてる気がするのだがまあ、「化け物」と言われるのはもう恒例行事なので気にしない気にしない。気にしたら負け。



「おい、助けてもらっておいてなんだその態度は。助けてもらったならまず、それより先に、言うことがあるよな。注意を受けたにも関わらず自分のミスで死にかけて、それなのに助けてくれたハルくんに対して礼を言うことも非礼を詫びることもない」



 「化け物」と言われても一切動じない俺を、ラウル様が庇ってくれた。今ので何となく察したんかな。反対派貴族からの俺の扱い。


「はんっ! 誰が平民如きに礼なんて言うか!」

「そうだそうだ! 平民は命を張って俺達貴族様を守る義務があるんだよ!」

「寧ろ私達の活躍の場を奪ったそっちが非礼を詫びてほしいくらいだわ!」


 面倒くさい。本っ当に面倒くさい。何で俺こんなボロカス言われなきゃいけないんだよ。でもここで下手に発言すると家族側に危害が加えられるかもしれない。


 それだけは本当に耐えられない。もう、誰も失いたくない。だからこのくらいじゃ反論しない。



「ハルくん、こんなのばかりですまない。でも、もっと良い奴も沢山いるからどうか、貴族を見捨てないでほしい」

 八人から俺に対する謝罪の念を感じなかったからか、ラウル様が俺に謝罪した。これはまずい。俺まで罪悪感がっ……!


「い、いえ! ラウル様は頭を上げてください。俺、知ってます。貴族の中にもラウル様やモッシュ侯爵様のような素晴らしい人は沢山いるって。普通の平民の時は違いがあまりわかりませんでしたが、良いご縁に恵まれて、貴族の中にも色々な人がいるんだなって思いました」



 俺はサージス国で出会った貴族を思い出しながら言葉を組み立てた。初めはカリウ先生やポリー夫人、ヘルガさん、ヘンリー、オブリガード公爵家の人達、そしてサージスの王族。学園に入り、企画に加わるようになってからは先輩や他の家の当主とも知り合った。


 貴族家を満点取るまで勉強しただけあって信仰派の家とは多少話が弾んだ。反対派の当主からは近寄るなオーラを出されていたからせっかく勉強したところだけど諦めざるを得なかった。




「そうか……ありがとう。貴方の寛大なお心に感謝を」


 優しく微笑んだラウル様に一瞬クラっときた。危ない危ない。笑みが強烈すぎて気絶するところだった。何でこう優しく笑顔を浮かべられるんだろうか。この緊迫した状況で。



 俺なら魔石の宝庫を前にニヤケが止まらないかもだけどラウル様にとってラ・モールの森って初めてだよね? うん、多分そうだよね。


 その後、二対八でギスギスした空気はあったものの、俺に逆らったらあの魔物と同じようにされると思っているのか、俺の意見には反対しつつ安全圏からは抜け出そうとしなかった。



「ラウル様、お昼はラ・モールの森のどこで食べたいですか? どこでも良いですよ。木の上でも、魔素湖の前でも」

「え!? ここで食べるのか!? いや、そうだよな……訓練だもんな……それじゃあ少し見晴らしが良いところかな。そろそろ自分で魔物を倒してみたい」

「見晴らしが良いところですね。お任せください。いつもお昼を食べるところがあるのでそこに案内します」


 俺は後ろに気を配りながらヘルガさんと来た時の昼食スポットに案内した。深いところで食べたりもするけど基本的には浅い場所で食べるから一切迷うことなく目的地に到着した。


「ここです。周りに木が少ないですし、目の前には魔素湖があるので魔物を捕り逃さずにすみます。あ、本当に危なくなったら俺が殺るので大丈夫ですよ」

 親指を立てて笑った。


「わ、わかった。頑張る」


 俺は予め仕込んであった魔物肉をバーベキュー式に並べた。バーベキューとは元々この世界にはなかったのだが、この森で魔物を調理する時に神に教わった。

 ラフィーナ神の世界にある調理方法らしい。またラフィーナ神だ。俺とヘルガさんの文化って大体ラフィーナ神の……いや、考えるのはやめよう。

 串を刺してジューと焼く。美味そ。


「どうぞ、牛型魔物のお肉です。美味しいですよ」

 俺はまずラウル様に串を差し出した。

「あ、ああ」



 躊躇っていたラウル様だが、成長期の食欲には抗えなかったのか意を決したといった様子で目をぎゅっと閉じてパクリと食べた。



「お、美味しい……! 美味しいよ、ハルくん! 魔物の肉とは思えないくらい美味しい! 何て言ったら良いかわからないけどとりあえず……ハルくん天才だね!」

「ふふんっ……! 焼き加減や下味、下処理なんかには拘りましたから。おかわりは沢山あるのでいっぱい食べてくださいね。それで、貴方達は食べますか? 食べませんか? これから一週間全部魔物の肉が出るので食べないのなら途中で倒れて魔物のご飯になっちゃいますよ」


 これは脅しじゃない。魔物の世界は完全なる弱肉強食。丸腰だと食われるだけ。俺が串を差し出すと、八人は渋々といった風ではあるが受け取ってくれた。よし、俺への罰は一つ軽くなった。全部リーダーの責任とか嫌な制度。



 食事ができなければそれはリーダーのせい、怪我人や死人がでたらそれはリーダーのせい、行方不明も然り。リーダーが死んでもそれはリーダーのせい。何にしても責任が重すぎる。


 皆大丈夫かなあ。特にヘルガさんは今平民って肩書きだから苦労してるかも。





「あ、ハルさん」

 串焼きを貪り食っている班員を眺めながら魔石の整理をしていると、ヘルガさんの声が聞こえてきた。


「ヘルガさん、今からお昼ですか?」

「はい、いつものところで食べようと思って来たんです。ご一緒しても良いですか?」

「はい、どうぞ」



 ヘルガさんの班にはテリーがいた。友達と同じ班なんて、何とも羨ましい。


 ささっとバーベキュースタイルを作ったヘルガさんに、それを手伝う班員達。うちの怠惰な班員とは大違いだ。メンバーが信仰派もしくは中立派しかいないんかな。



 隣は魚を焼き始めた。串に頭から刺して塩振って丸齧りするあれだ。魚魔物は魔素湖に釣竿垂らすとたまに釣れる。でも基本は陸上魔物しか湧かないからレアではある。しかも美味い。



 それを振る舞うことでメンバーを餌付けするのか。犬のようにブンブンと尻尾を振っている様がよく見えるわ。こっちは尻尾振るどころか威嚇してくるってのに。羨ましいこっちゃ。



 思わずため息を吐く俺の顔をヘルガさんが覗き込む。

「大丈夫ですか? 見たところ、あまり上手くはいっていないようですが……」

「は、はい……俺が平民だってことで信仰派二対反対派八のバトルになっちゃってて」


 ヒソヒソ話をする。このくらいの声量なら恐らく聞こえていない。平民と一緒が嫌ってので極限まで俺との距離をとっているから。



「うわぁ……それは大変……。あ、僕の班と一緒に行動しませんか? テリーがいるのと、信仰派ばかりということでかなり纏めるのが楽なんです。うちの班員も強い人が加わる分には問題ないでしょうし二班以上での行動は禁止されていませんから大丈夫でしょう」

「ヘルガさん……!」



 俺としては願ったり叶ったりだ。これで反対派の数の方が少なくなる。




 昼食を摂ってからはまた討伐に行く。今度は俺が一番前でヘルガさんが一番後ろ。後ろから来る敵も、前から来る敵も始末できる。一応、俺の目的は自分の立ち回りを考えるために周りの力量を測ること。ギリギリまで体力を削り、周りにトドメを刺させた。


「うっ……よ、よくそんなことできるね……」


 死んだ魔物を素手で解体していると、視覚的に不快感を覚えたのか、ラウル様が青い顔をした。口元も抑えていて気分が悪くなってしまったようだ。他にも何人かそんな人達がいる。まだ一日目なのに。先が思いやられる。



「こういうのは慣れです。確かに気持ち悪いですが、これをしないと魔物は魔物を食べることでランクが上がってしまうので自分達の首を締めることになるんです。こんなこと、本当はやりたくないんですけどね。具合悪くなったなら少し休んでいきましょうか」 



 俺はそう言って、今度はあまり魔物が近寄らない場所に行った。その場所には発光する木が生えていて、この場所にいると魔物は近寄ってこない。

 俺達が休憩のために植えた若い木を、神獣達が加護を与えて育てたものがこれだ。試しに魔物をぶん投げてみたら塵となって消えていったので効果は実証済みだ。



 それに、神獣の作った場所だから、疲労回復や心身の治療なんかにも良い。

 木の周り直径十メートル間に張られた結界の中に入ると別世界が待っていた。木の近くは神獣の神力でキラキラと光っていて、光を反射する綺麗な湖もある。



 流石に建物はないけれど十分なくらいには身を守れる。そしてこれがあと数個、ある。このくらいの仕込みは別に良いだろう。ラ・モールの森で野営になるんだから。レオン達が守れるならそれで良い。仕込みでもズルでも何でもやる。





「ここは……」

「綺麗な所でしょう? 俺達の休憩場所です。夜も魔物が寄ってこないので快適ですよ」



 涼しいし、獣臭くもない。結界のお陰で雨も魔物も入らず、直射日光にも当たらない。なんて快適空間。ラ・モールの森というのをついつい忘れてしまう。



「申し訳ない。僕がああいったことに慣れていないせいで」

 まだ少ししんどそうにラウル様が漏らした。いや、慣れてないのが普通だから。寧ろ一般人でしかない俺達が慣れてるのおかしいから。


「魔物は……前線で戦う人間以外も目撃し得る存在ですし、弱かろうが強かろうがどちらかが死ぬまで戦わなければいけない存在です。そんな中に六年いたら慣れますよ。ラウル様の反応は普通のことですし、他にも体調不良を訴える人はいるみたいですから無理しなくていいですよ。俺と皆は魔物に対する考え方が違います。それは当然のことなので休みたいといった訴えには耳を傾けます。こう見えて、リーダーですしね」



 本当はリーダーなのは不服なのだがそこは言わないでおく。光を放つ池から水を汲んでラウル様に差し出すと、こくこくとあっという間に飲み干し、そのままふっと意識を失った。



 この水は疲労回復に効くのようなのだが、疲労が溜まりすぎると睡眠の方に体を切り替えてしまう。初めてだったし、相当疲れていたんだろうな。


 俺は疲れる前に飲んでしまうから五徹なんていう無理ができたんだと思う。まあそれもヘルガさんに見破られてしまったから何事も、限度が大事。

 鞄の中から熊魔物の皮を出して地面に引く。草の上で寝るより丁寧に洗って綺麗にした柔らかい皮の方が良いだろう。草は朝に露がおりるため服が濡れてしまう。




「ハルさん、こっちにもこの水の犠牲者がいるんですね」

「はい。少し一日目にしてはハードだったようです。学園側から課せられた課題は一週間班で行動し、合計で十個以上の魔石を持ち帰ること。俺の班は達成してしまいました。仕留めたのはほとんど俺なので明日以降は一人一体ずつくらいは仕留めてもらおうかなって思ってます」


「僕のところも達成してしまいました。昔使っていた最短ルートを使ったので」

 ここはやっぱり地の利がきいてくるな。

「じゃあ明日は魚魔物でも釣りますか。食料になりますし、魔物なので魔石も落としますから」

「そうですね。釣りであれば負担は少なくて済みそうです」




 まずは人数分の釣竿を作らないと。材料は簡単。樹木型魔物から取れる枝と、蜘蛛型魔物の吐く糸を組み合わせるだけ。

 樹木型魔物は見てすぐには襲ってはこないものの、急に湧くと転んだり飛ばされたりと脅威にはなり得るので、定期的に駆除している。まあ、一日経ったら復活するからあまり意味はないが。



 樹木型魔物から切り出した木材で家具を作ったことがある。とにかく加工がしやすかったし、ベッドなんかは大人二人が飛び跳ねても無事だった。流石魔物。



 今日の移動はもうやめて、眠りこけた十八人の班員に代わり、リーダー二人だけで明日以降の道具を作った。明日は今日よりあの水で寝る人が少ないと良いけど。


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