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二十七話 擬似心臓実現に向けて 二


 翌週光の日。俺はライゼン様に貰った許可証を握りしめて、メアと共に城に来ていた。門番の担当者は偶然、昔からの顔見知りだったため、許可証を見せるまでもなく案内してもらえた。コネはあるにこしたことはないな。



「失礼します」

 会議室に着くと、既に皆は集まっていた。その中には騎士団長であるアスベル様の姿もある。

「さて、全員揃ったな」


 ぐるりと見回して、ライゼン様が会議を始めた。俺もさり気無く全員の顔を見る。そして、一つ気付く。ヘルガさんに面影が似ている男が一人混ざっていることに。

 確証はないが俺の為に全員家名を名乗ってくれるそうなのでアルバーン伯爵がいないことを祈って聞く。



 俺を見て敵意の込もった視線を投げてくる貴族もいるが、彼らが恐らく邪神派だ。ライゼン様は世間体のためにも俺のためにも言葉そのまま、国中の貴族を招集せざるを得なかったんだな。



 俺に対して好意的な視線を投げる人の顔はなるべく覚えよう。また別件でも関わるだろうから。

 そして、ついに俺が気になっていた人物が明らかになった。



「アルバーン伯爵家です」


 それを聞いた俺は思わず叫びそうになってしまった。喉奥に引っかかった声を何とか飲み込む。

 そうか。コイツがヘルガさんをイディスさんに突き落とさせた人間か。てことは俺の敵だな。



 例え守護者と発表してから懇願されてもコイツの願いは一生叶えない。今度はお前を地獄の底に突き落としてやる。


 沸々と湧き上がる怒りを頭の中の氷水で瞬間冷却し、名乗りを聞き終えた。そして、最後に俺。



「皆様、お初にお目にかかります。ハルと申します。平民ですので家名を名乗れず申し訳ございません」


 実際知り合いはいるし全員が全員初対面というわけではないが、これが今の最適解だと判断した。

 全員の名乗りが終わった所で漸く会議が始まる。俺の作った擬似心臓の実用化に向けての大切な会議だ。耳かっぽじって聞かないとな。



 ライゼン様と、この中で唯一擬似心臓を埋め込まれているアスベル様が中心となって会議は進む。そして、擬似心臓の効力を試してほしいとの意見が出たため俺は少し手加減をしつつもAランク魔物くらいのレベルの攻撃魔法を何度もアスベル様に繰り出した。



 擬似心臓の有用性を説明するためだからアスベル様は一切の抵抗はしなかった。

 腹や顔に俺の攻撃を受けたにも関わらず、当然アスベル様の体には一切傷が入っていない。当然周りはザワついた。




「俺の体には、彼の作った擬似心臓が埋め込まれている。全属性が込められていて全て一級だ。人間の一級は魔物のランクで言うとS。つまり、Sランク魔物の攻撃までは無効化できるということだ。因みに、Aランク以下の魔物だとそのまま攻撃を跳ね返せることが実証されている。この擬似心臓があれば騎士は国民をより一層守りやすくなり、被害も抑えられるようになるだろう。材料も魔石一つあれば、素人でも幾つか作ることができるそうだ」



 素人とはいえ、真面目に研修を受けた素人だけだけどな。


「モッシュ侯爵家より発言をよろしいでしょうか」


 モッシュ侯爵家。確かヘンリーとテリーともう一人いたな。確か、ラウル・モッシュ? て感じの名前だった。そこの当主か。



「許可する」

「ありがとうございます、陛下。ハル様に質問ですが、魔石とおっしゃいましたね。私共は魔鉱石という言葉は聞いたことがあるのですが、魔石という言葉は聞いたことがありません。お手数ですが、魔石について説明を願えますか?」



 平民に対してすごく丁寧だな。この人の家は大丈夫そうだ。



「わかりました。魔石とはこの石のことです。魔物を倒した際に落とす素材の一つであり、使い道がないから、と今までは捨てられていた部分です。左から、地属性、火属性、水属性、風属性、強化属性、光属性になります。再生・治癒属性はまだ手に入れていませんのでサンプルはありません。大きいものはより強い魔物からの魔石、小さくなればなるほど弱い魔物となります。一番大きい物はSランク、一番小さい物はDランクの物です。こちらを加工すると、このようになります」



 俺は先日の対猪魔物戦で得た魔石の擬似心臓を出した。

「この魔石は先日、獣型魔物の体から得た物です。黒いので強化属性になります。この中には四級レベルの強化属性以外の全ての属性が刻まれています。四級レベルですので防げるのはDランクの魔物のみですが、ラ・モールの森の浅瀬、つまり学園で遠征に行く際のエリアにいる種からの攻撃はほとんど防ぐことができます」



「それは素晴らしいですね。ところで劣化などはしないのですか?」

 やっぱり気になるか。俺でも多分質問してる。


「六年前、王弟殿下に擬似心臓が埋め込まれたというお話がありましたが、最初に埋め込まれて以来、定期的なメンテナンスのみで稼働しています。騎士団の中には他にも埋め込まれている方がいますがその方達も擬似心臓は交換していません。メンテナンスを正しく行えば五年は最低でも保ちます。それ以降はデータがありませんので引き続き検証が必要になります。質問の答えになっていますでしょうか?」


「ええ、お答えいただきありがとうございます」


 俺はほっと息を吐く。頭の回転が遅いせいで気を悪くさせてはいけない、と緊張していたのだ。お陰で精神的に疲れた。

 でも、こんなところでダウンしたらいけない。もう少しで擬似心臓が実装されるかもしれないんだ。俺の擬似心臓とレオンの擬似治癒師。この二つが実装されれば戦いはかなり有利になるはずだ。



 そういえば、レオンはライゼン様にもう報告したのだろうか。まだ実験し足りないなら被験体になっても良いのだが。今度振ってみるか。



「ハル君、一般人に作れるかどうかを試したい。魔石を幾つか譲ってもらえないか?」

「はい。再生・治癒属性の魔石はまだ一つもありませんがSランクの光魔石とA+ランクの強化魔石なら多めに在庫があります。その他の属性もありますが精々B+ランクが最大です。ランクが高い魔物には光属性が多い印象ですね」


 革鞄をひっくり返すとバラバラと色とりどりの魔石が落ちてくる。俺はライゼン様から入れ物を貰って属性とランクごとに分けた。素人には魔石だけでランクはわからないからな。俺も神に教えられてなかったらわからなかった。



「練習レベルだからそうだな……Cランクの魔石だけ貰おう。それと、午後も会議があるんだがその時に魔法研究所の研究員が来るんだ。彼らに作り方を教えてやってくれないか? もちろん今日が無理ならまた後日で大丈夫だが」


「いえ、大丈夫です。何時頃、何人いらっしゃいますか?」

「二時頃に八人来る予定だ。一応全員属性は被らないように、と指示はした」

「ありがとうございます」



 ん? 八人? 属性は七つしかないのにか? あれか、代表か。それなら納得だ。この前トイレの登録しに行った時に会った人来るかな。



 確か……ヒルメス・ダイアン様だったような。魔法具開発課の課長だった。あともう一人、商標登録課の職員さんがいたけど今回は登録じゃないから来ない気がするな。


 午後は学園に行く予定だったから弁当を持っていた。馬車で食べる用に。それを片手で腹に入れながら、カリウ先生から貰ったテキストの数学の部分を読む。



 学園の授業は貴族が家庭教師に教わったことの復習を元に展開されるから、入試対策用に貰ったテキストが使えるのだ。


「ん? 何読んでるんだ?」

「アスベル様。これです。六年前に家庭教師のカリウ先生という方が外国語で書かれた教科ごとの入試対策テキストを個人的にくれたんです。外国語の勉強にもなりますし、よく使ってます」



 俺はそう言ってテキストを見せた。その間にサンドイッチを口に詰め込み咀嚼する。


「ほう……これは凄いな。教科ごとに専門用語もあるようだがそれに訳まで載せてある。うわっ! しかも手書きか!? そうか。そうだよな。六年前はまだ複写機がなかったんだ。当然手書きだよな。だとしたらどうやってこの量を、何の見返りも金銭の要求もなく……その先生に対してハルは何かしたのか?」

「平民学校の立案者が俺なのでそれの恩らしいです。カリウ先生は平民に言語の授業をするのが夢だったみたいで、俺達が想像していたより遥かに感謝されてしまって」



「ああ、そういう経緯で……随分感謝してるって表されてるな。こんな大量の紙に、全部手書きのテキストなんて」

「はい! 本当にカリウ先生には感謝しているんです! 今は妹にも言語を教えてくれていますし、俺の方こそ返しきれないくらいの恩があるんです」


 カリウ先生がいなければ俺は言語に対して真剣に向き合えてなかっただろう。あんな風に楽しい授業をしてくれたから言語の試験で満点も取ろうって思た。



「そうか。ハルは凄いな。勉強なんて自主的にやるような子供は貴族でもほんの一部だぞ。俺もここまではしていなかったしな」


 王位を継承したくなさすぎてあえて勉強をサボって剣術ばかりやっていたらしいというのはどこかで聞いたことがある。座学、魔法、剣術、芸術。世の中には色々な種類のスタイルがあるけど自主的に勉強する人は明確な目標とか目的がある人なんだろうな。


 そういう意味ではアスベル様も自主的に勉強している、の部類に入ると思うんだけど。まあ言わないでおこう。



 暫く談笑していると、招集がかかった。テキストを革鞄に突っ込んで指定の場所へ向かう。午後の会議には俺とアスベル様は参加せず、擬似心臓の作り方について教える側だ。


「ハル様、ご無沙汰しております。魔法研究所魔法具開発課課長のヒルメスです。彼らは私の元で研究員として働いております」

「ご無沙汰しております。ヒルメス課長。ハルと、アスベル王弟殿下です」



 アスベル様じゃ伝わらない可能性があったのでとりあえず王弟と言ったのだが、まずかっただろうか。部屋の緊張感が何割増しくらいになった気がする。下手に身分を教えない方が良かったか。失敗したな。


 慌てて膝を折る職員さん達にアスベル様は朗らかに笑って言った。

「そんなに緊張しなくて良いよ。今の俺はハルくんの助手みたいな立ち位置であって、あくまで総監督はハルくんだからね」


「そ、そうなのですか?」

「だって俺自身は作り方知らないから」

「さ、左様ですか………」

 消え入りそうな声でヒルメス課長が答えた。ここは切り替えないと。



「そ、それではまず実物を見ていただこうと思います」

 失敗したかもとかいうのはもう気にしちゃ駄目だ。会議を進めよう。


 俺はSランクの光魔石で作った擬似心臓を八人に見せた。六面体になっており、それぞれの面に魔石の属性以外の属性の記号が彫ってある。


 例えば火属性の人が火を表す記号を彫るとその面には火属性が付与され、地属性なら地属性が付与される。つまり、記号さえ彫れれば六人でも作れるのだ。



「これは見事です……。面ごとに属性が違います。こんなものを作れるなんて、あの魔法具と言いハル様は発想力と実行力がおありですね」

「あ、あはは……これでも六年目なので……」


 初めての魔法具は確か王族にあげた護身用のピアスだったな。今も皆付けてくれている。

「彫る時にはこれを使います」

 俺は普段使っている彫刻ナイフ達を出した。



「これは…見たことがない形状ですね。どんな素材を使っているのでしょうか」

「ダイヤモンドコーティングをされています。利点などは特にわからないのですがこれしか持っていないので」

「ダイヤモンド……? だ、だが、こんな高価な物は鉱山のないこの国では一切採れないはずでは……?」


 アスベル様もヒルメス課長達と一緒に驚いている。



「では、他言無用と釘を刺しておきますが、地属性の方は魔力と想像力があれば貴金属を生成できます。イメージとしては掌の上に小さな鉱山を作ってその中から特定の鉱石を掘り出して貴金属として使用できるところまで加工も可能です。それを六年間続けたのでダイヤモンドだけでなく他の貴金属、プラチナや金なんかも大量にありますよ」



 貴金属入れからジャラジャラと金だのダイヤモンドだのをひっくり返す俺に最早皆言葉も出ないようだ。本当はこんなことはしたくなかった。成金みたいで下品にみえそうだし。


「これ、全部売ったらサージスの国家予算超えるんじゃないか……?」

「地魔法にこんな使い方が……?」

「地属性の方への負担になってしまうと思って今まで誰にも言っていなかったんです」


「確かに、貴族が金欲しさに地属性の人間を監禁なんかした日にはたまったものではないな。うちの国には魔鉱山があるんだしハルくんの判断は正しいね」



 良かった。アスベル様は言わなさそうだ。まあ信頼はしてたけど。

「因みに六年前にライゼン様、シルヴィ様、レオン様、セリア様にプレゼントしたピアスの台座はプラチナです」

「随分と贅沢品だな……」


「普段着を着ていて悪目立ちしたら魔法具であることがバレてしまいそうですからヘルガさんと相談したんです。プラチナはヘルガさんの案です」

「ああ、そう……」



 もう何も言うまい。そう顔に書いてあった。

 まずは俺が手本を見せて、それから七人に実践してもらう。俺は強化属性ってことになってるから光魔石に強化属性以外を付与しておいて、今から手本で彫る。


 今いる部屋には元々机やらなんやらがみっちり置いてあったが今回のために退かしてくれていた。だから心置きなく使える。

 とりあえず床に汚れても良いマットを引いて水魔石と擬似心臓未満魔石、彫刻セットを用意。



 強化魔法を使いながら少しずつ記号を彫り進める。魔法を使いながらでなくても付与されるのだが使いながら彫った方が多くの魔力を付与できるので。


 ヘルガさんも練習で彫っていた時は周りの木を薙ぎ倒しながら彫ってたな。それを俺が地魔法で再生するみたいな。ヘルガさんが彫る時には必ず俺は地属性を彫る。お互い利点しかない。


 擬似心臓は小さいので長く見続けていると目が疲れる。俺なら目に治癒魔法かけたら一日中彫っても大丈夫だけど一般人はどうだろう。それも今回やってもらってから考える感じになるかな。



「よし、できた! 後はこれを……」


 ここで水魔石の出番だ。トイレを作っていた時に大量の魔力を注ぎ込んだ魔石を普段擬似心臓の研磨に使っている。濡らしながらヤスリで角を取ったり彫る時にできた小さなささくれなんかをここで取り除く。



 目の粗さを変えながらザリザリと磨く。正直ここが一番つまらないし面倒くさい。でもこれをするかしないかで見た目が全然違う。真に美しいものの製造には裏作業というものが必要なのだ。そういうことよ。



「この水を拭けば……擬似心臓完成です。皆さんが作る時は分担するなど眼精疲労にならないように適度に休憩を取りつつ進めてくださいね」

「はい、わかりました」



 お試しということで全員に一度彫ってもらうことにした。失敗しても良いように低レアかつ低ランクの魔石だ。術者の魔力属性と魔石の属性さえ避けてしまえば良いのだ。リスクがあるのに高レアな光魔石などは使わない。



「ハル様、これはどう彫れば良いですか?」

「ああ、これはですね……」

 などと時々質問に答えながらその日は営業終了の鐘の時間を過ぎるまで擬似心臓を作った。皆その道を極めているだけあって覚えが早いので、俺もつい熱が入ってしまった。


 そのせいで時間が経つのを実感できなかった。アスベル様に声をかけてもらわなかったらどうなっていたことか。

 時間の感覚がなくなった俺は就寝の鐘が鳴り終わるまで引き止めかねない。危ない危ない。俺が休憩しながらやってって言ったのに俺が休憩取らせないなんて。使い潰しもいいとこだ。俺の感覚でやっちゃ駄目だ。今度からはもっと自重しよう。


 今度は魔法研究所の方で他の人に教えることになった。




 あれ、入学式の時近寄らないって決めなかったっけ。ん? 気のせいか。そうだな。気のせいだ。

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