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二十六話 擬似心臓実現に向けて 一


 砂嵐の後、レオンは本当にルイ先生の所に行って入部を勝ち取った。始めは戸惑っていた先輩達だったが、レオンの入部動機が魔法具作成だったため、すぐに同士として打ち解けた。



 だが、そこで問題が発生。


「入部希望なんですけど……」



 またか。入部の噂を聞きつけた生徒がコネ目当てでうちに押しかけてくるようになったのだ。うんざりしたルイ先生は面接をするようになった。



 卒業を間近に控えた四年生なのに急に魔法具に興味を持った、とか大した理由もないのにただ王族がいるからという理由で入ろうとする奴などなど。


「魔法具に興味がないくせに何で魔法研究サークルに入れると思ってるんだろう。第一王子って立場以外に価値ないって言われてるみたいで俺すごい不愉快」


「奇遇だな。実は俺も。人によっては平民の俺と自分を交換しろって要求する奴もいたし。あんな貴族の中に将来入るってなると嫌になるよ」



 二人して思わず溜め息が漏れる。

「ういー」

「こんちわー」


 そんな俺達とは反対に、相変わらず脱力した先輩達が入ってきた。二人共家を継がずに魔法研究所で働くらしいので、最低限の敬語以外は特に無頓着だ。



「うわっ。また入部希望者? しつこすぎん? 今まで魔法研究サークルなんて平民が立ち上げた根暗集団とか馬鹿にしてたのにさ。レオン様が入ってきて手のひら返し。ほんと見事ね」

「そーそー。下位貴族ばっか、とか近付くのも嫌、とか言ってたのにさ。煩わしい奴ら」



「あんなの構ってもしょうがないよ。切り替えて研究研究!」


 パンパンと手を叩いたアリシア先輩の掛け声で俺達は各々の作業台に戻った。



 あ、トイレについて相談しないとなんだった。暫くルイ先生を待っていると、一瞬面接者が途切れる時があった。


「あの、魔法具について少し相談したいことがあって。今大丈夫ですか?」

「良いですよ。どうしました?」


「トイレの実験をしているんですけど、下水に繋がっているトイレで実験しても良い物ってありますか?」



 ルイ先生は少し考える素振りを見せた。

「んーー……じゃあそこにある講師用の使って良いですよ。壊れても僕が直すので」

「ありがとうございます!」



 よし、絶対成功させよう。新たな入部希望者に辟易とするルイ先生を尻目に俺はトイレの扉を開けた。魔鉱石はトイレタンクの右上にある。


 軽く捻るとそれは簡単に取れた。予め用意した魔石に取り替える。

 はまりは完璧。後は流れるかどうか。タンクに水がない状態では上手くいくような雰囲気だったが……大丈夫だろうか。恐る恐る流してみる。



 ジャーと音がして水が流れた。普通に貴族が使う物と比べても遜色ない。じゃあ連続して流したらどうだろうか。一度流れた水が落ち着いたらまた流す、という流れを五回程繰り返し、気付いた。



 これ、いける。連続で流しても問題ない。強度は魔鉱石より少し弱いくらいだろう。魔鉱石の交換は確か一年に一回が目安だ。魔石なら無理に使ったりしなければ少なくとも半年以上は持つ。



 うん、良いな。魔石の中にある魔力を減らすのは少し大変だが、基本的に作るのは楽だし一度作れば壊れにくい。


 確か新しいものを販売したい時は魔法研究所を通して登録しないといけないんだよな。魔法研究サークルは魔法研究所の子供みたいな存在らしいからルイ先生にまた相談しようか。



 そろりと扉を開けて様子を伺うと、まだ面接は行われていた。礼儀正しく座っていたはずのルイ先生は腕を組み足を組み、とやる気のなさを全身で表現していた。


 まあ、レオン目当てが分かるような奴らがゴロゴロ来たらこうなるだろう。何となく予想はできてた。



「ハルくん、どうしました? 壊れましたか?」

「い、いえ。魔法具として登録したい物ができて、その条件などを知りたいのですが……」

「ああ、登録ですか。良いですよ。明日のサークルの時間中に一緒に行きましょう」

「ありがとうございます」



 週末じゃなくて良かった。流石にヘルガさんに週七でワンオペ入らせるわけにはいかない。後の時間はどうしようか。もしこれを発売するにしても実験とかもあるだろうし誰に生産を任せるかの検討もしないといけない。

 サンプルは沢山作ったし擬似心臓でも量産するか。


 光属性の魔石にいつも通りのテキストを刻み込む。因みに攻撃を無効化する魔法はこの世にないのでこの場合は全属性一級の魔力を付与する。



 魔物のDランクだと五級、四級の魔力保持者が十数人でかかれば倒せるくらいだが、これがAランクまで上がると二級以上で数十人、Sだと騎士団総出レベルだ。



 でもSランクは人間の一級と魔素量はあまり変わらないので無効化ができる。そして、A以下なら跳ね返せる。SSランクはまだ戦ったことがない。一つ下のSランクでさえ魔石は数個しかないしそうそう出てくるものじゃないのだろう。



 SSランクを一人で倒した人間がいるなら俺にだってできるはずだ。その人物と同じ力を持っているんだから。Sランク以下を皆に任せるためにも俺は擬似心臓を作る。


「何作ってるの?」

「……? ああ、アリシア先輩。どうしましたか?」

「下校時間のベル鳴ったのに無反応だから呼びにきたのよ。で、何作ってるの?」

「臓器です」



 端的に言った。心臓は臓器であるから一応嘘はついてない。それにこんな石で臓器を作っていると知ったらアリシア先輩といえ今後触れたいとは思わなくなるはず。



「ぞっ……!?」

 仰け反る勢いでドン引きするアリシア先輩。これが普通の反応。まあ、騎士になったらいつか分かると思う。


 あ、そういえば今の騎士って何人いるんだろう。王宮のと、各貴族の私兵とで。総数を知りたい。十年以内というのが明日かもしれないのに一切進展がないなんて論外だ。今度はライゼン様に相談かな。







「そういえばレオンって何作ってるんだ?」

 帰りの馬車に向かう間、そんな話題を振った。


「怪我の手当をすることができるのは再生・治癒属性だけだろ? でも数は少ないしその中で一級ってなると更に減る。魔物のクラスターが起きた時に俺は前線に行けないから、せめて術者の代わりがいたらって思ってたんだ。だから今作ってるのは擬似治癒師。ハルはどうだ?」


「俺は六年前から変わらず水回り。あとは俺も皆の役に立ちたくて擬似心臓を作ってる」

「ああ、確か奇跡の日に出てきたよな。仕組みが俺には理解できないんだがどうなってるんだ?」



 馬車に乗り込みながら俺は説明を始めた。分からないは不安になるからな。聞かれたら答えるまでだ。


 攻撃を無効化する仕組みについて説明をすると、レオンは驚きながらも納得した様子を見せた。


「そうか。じゃあ擬似心臓があれば騎士は国民を優先できるんだな」

「完全に無効化できるかは分からないから注意と警戒は必要だけど、無いよりはずっと良いと思う。自分の命と国民の命を天秤にかけて国民を優先した騎士を中心に埋め込もうと思うよ。自分を優先する人はいざとなった時に守るべき国民を盾にしかねない」



「擬似心臓を提供するために面接とかが必要になってくるな」

「その件についてはライゼン様とアスベル様に相談するつもりだ。擬似心臓がどういった挙動をするかも向こうは知らないしな。新しい機能も付いてる心臓もあるけど実験は絶対できないし」


 神が直接神力を注いだ擬似心臓には死んでも死なないという機能が付いている。回数制限があるけど、神力入り擬似心臓は最前線で戦う人に渡したい。


 相談はいつにしようか。アポ取りもしないといけないし週末くらいは店番もしたい。


「国王からの呼び出しだと言えば授業は公欠にできるぞ。ハルは週末も仕事をするし放課後はサークルもしたいんだろ? なら授業のある日以外は無理じゃないか? ハルの頭なら数学の授業とか一回抜けるくらい大丈夫だと思うぞ」

「そうか。数学の授業をすっぽかせば良いんだな。少し時間割と照らし合わせてみる」



 鞄から時間割を出し、メモ帳に書いた予定表と睨めっこする。数学の授業は明日だな。明日なら大丈夫だ。アポ取りが今日、それで明日会える保証もないから来週と再来週も一応空けておこう。



「ああ、それか今日来るか? 今日は家族で夕食なんだよ。来るならオブリガード公爵家の方に報せを出させよう。それなら良いんじゃないか? 授業も抜けなくて良いし」

「良いのか? 俺としてはありがたいんだけどこれ以上の電撃訪問は流石に非常識な気が……」


 呼ばれたから行っていたというだけでアポなしで電撃訪問したことはない。でも、学園に入ってそれが躊躇われるようになったというかなんというか……。




「国民の命を左右するような大切な相談なんだろ? それなら断られたりしない。ハルはサージス国の滅亡を回避するための力を持っているから苦言を呈す人もいないはずだ」

「それじゃあ、お願いしようかな」

「わかった。城に戻ったらすぐに報せを出そう」


 レオンの言う通り、俺は追い返されることもなくすんなりと入ることができた。温かい風呂に入り、豪華な食事を摂り、俺は漸くライゼン様に本題を伝える。



 擬似心臓の話をすると、ライゼン様も、同席していたセリア様も信じられないといった顔をした。まあ当然だろう。魔物からの攻撃をほぼ無効化するもので、仮に怪我をしたとしても全属性を込めたからすぐに再生される。強化属性のお陰で身体能力も大幅に上がる。


 神力が込められた魔石に至っては一定回数不死身になるなんて、製作者の俺でも中々信じられなかった。だが、ポンコツだろうが神は神。神が言うなら本当のことだろう。


 神との会話も含めて話し、やっと信じてもらえた。明日の午後、国中の貴族を集めて軍事会議を開くそうだ。その中で魔物に対して何かしら対策がしたいと考えている家の騎士を教えてくれるらしい。数万、下手すれば数十万の騎士がいる。気合い入れて作ろう。毎日コツコツ作ればきっとそのうちの何割かは擬似心臓を得られるはずだ。



「ハル君にしか作れない物であれば一人への負担が大きくなるだろう。だが、他の者にも作れる物ならば一定級以上の魔力ランクを持つ人間を有志で募り、作らせよう。国に残り、国民の避難誘導をする者ならAランク以上の魔物とは会わないだろうからな」


「そうですね………ヘルガさんであれば風魔力だけは込められるので、少なくとも六人いれば作れると思います。魔石なら六歳の頃からほぼ毎日集めていたので沢山あります。光魔石が好ましいですが、光でなくてもできなくはありませんよ。魔石にもともとある属性は込めなくて良いので量産には向いているでしょうね」



「そうか。ではいつなら都合がつくか? 明日以降であればこちらが予定を押さえよう」

 その問いに、俺は予定表と時間割を見せて説明した。

「では来週、登校前に会議室に来てくれ。ハル君なら大丈夫だと思うが、念のため直筆の許可証を発行しよう。門番に見せれば会議室まで案内してもらえるだろう」

「ありがとうございます」


 今日はもう遅いということで、城に泊まらせてもらった。本当は転移で帰れたのだがレオンが久しぶりに一緒に朝食を摂りたいとのことで、泊まらせてもらうことにしたのだ。



 それを知ったメアは超特急で来た。顔の知れた相手だとありがたいので来てくれたメアに感謝だな。大して手伝いは必要としてないが存在しているだけで心強い。六年間一緒にいたんだ。今更離れるのは考えられない。

 隣の使用人部屋にいるであろうメアの存在に安心感を抱き、布団に包まった。

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