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二十四話 魔法研究サークル


「もうだめだ……」



 そう言って机に突っ伏したのは数日前に友達になったテリー・ペステッド。大きな商会の息子だ。

 正式に授業も始まり俺は充実した時間を過ごしている。が、テリーは座学が苦手らしく一コマ目が終わってすぐにこうなってしまった。


 次の時間は魔法史なのだが大丈夫だろうか。俺はルイ先生の授業ってことで凄い楽しみにしているんだけど。



 疲労困憊なテリーに少しの不安を抱きつつ、俺は教本を開いた。一ページ目には建国王、フェリーチェ・サージス、そして蛇の神獣が描かれていた。

 一応載ってはいるけれど、フェリーチェ本人については国史で習うらしいから魔法史では取り上げないだろうな。



「では、魔法史の授業を始めます。担当講師のルイと申します。よろしく」


 簡潔に自己紹介をしたルイ先生は早速授業を始めた。それが気に障ったのか、一人の生徒が抗議した。今までの授業では授業に入る前に自己紹介があったのだが、なぜ魔法史ではそれがないのか、と。



「平民の癖に調子乗るな……! っ……あ……ぅが……!」

 ルイ先生への暴言など許すわけがない。俺は怒りでその言葉の主に魔法を使ってしまった。以前流刑になった女にしたように。


「ストップ」

 その魔法の使い方で誰かを特定したルイ先生は一言そう言った。怒りは収まらぬものの、ルイ先生の指示に逆らう気は無いので大人しく解除する。



「そう、良い子」

 まるで小さな子供に向けるような声色に、俺の理性は一瞬で離散……する前に何とか耐えた。危ない危ない。借り物の机を叩き割るところだった。ルイ先生の顔と声であんなこと言われたら俺になす術はない。



「他の方は知りませんが僕の授業で自己紹介はしません。僕はあなた方の顔と名前を一致させていますしあなた方も連日の自己紹介で何となくわかっているでしょう? 座学が面倒だからといちゃもんつけるのは止めていただきたい」


 ルイ先生は俺に向けた声とはまた別の、冷気を含んだ声でそう放った。

「なっ……!」

 生徒は怒りを感じたようだが、また呼吸を奪われるのが怖かったのかそれ以上何も言うことはなかった。




 初回は魔力と魔素についての話が主だった。

 魔の力は二種類存在し、人間は魔力を多かれ少なかれ持って産まれる。魔族や魔物の場合、魔素という言葉に置き換わり、魔素量の違いでランク分けされている。


 また、人間は守護者を除いて一属性しか扱えないが、魔族や魔物は偏りがあるだけで別の属性も使用する事が出来る。



 魔物にはランクがあったが、人間にはなかった。そこで魔力量を測る道具がフェリーチェによって開発され、五〜一と、六つの級がつけられた。そして、数字が小さい程級は高く、程就ける職の幅が広がった。



 というところで授業は終わった。カリウ先生とやり方は違うものの、説明自体は凄くわかりやすかったし楽しかった。



「明日は実践授業となりますので時間になったら魔法実習場に着替えて来てください。では」



 そして明日は実践授業! ルイ先生の魔法が見られるかもしれないんだ! 楽しみすぎる!

 おっと……。その前にサークル見学に行かないと。今日から見学許可出るはずだから。


 授業が終わった後、俺は北棟の三階を歩いていた。目指すは突き当たりの部屋、魔法研究サークルだ。試験の時に教えてもらったから迷わずに進める。ヘルガさんは屋台の仕事のため、早めに下校した。





「失礼しまーす……誰かいらっしゃいますか……?」


 鍵は開いていた。扉にもサークル名が書いてある。間違っていないはずだ。それなのに部屋には誰もいなかった。あれ、早かったか? それとも今日はないとか?


「ああ、ハルくん。来てくださったんですね。ようこそ、魔法研究サークルへ。顧問のルイです」

「ルイ先生! こんにちは、ハルです」


 良かった。今日は休みじゃなかったみたいだ。ただ俺が早かっただけで。


「どうぞ入って」

「は、はい!」

 部屋の中には幾つか一人用の作業台と素材を保管するための大きな棚があった。数々の試作品が丁寧に置かれている。



「早速ですが、ハルくんは入部希望ですか?」

「はい! 低コストで魔法具を作りたくて」


 昔魔石で魔鉱石と同じくらいのグレードの魔法具を作りたいって話してたからな。それに魔物のクラスターに向けて擬似心臓とかも量産しておきたい。

 騎士全員に擬似心臓を埋め込むことができれば騎士は国民を守ることが少し楽になるかもしれない。



「魔法具か……ここにある魔法具は全て魔鉱石で出来ているものだから凄く高価だけど、研究のために買ったものだからバラしたりしても大丈夫ですよ。バラしても僕なら直せるので」

「本物の魔法具を使って良いんですか!? ありがとうございます、ルイ先生!」


 魔法具をバラしても良いなんて……! これは絶対成功させないと。まずは水回りだな。俺が領地を持ったら領地内は魔法具が通用するような作りにしたいな。



「ルイせんせーこんちわーっす」

「ちわー」

「はい、こんにちは」


 ガチャリと扉が開いて、少し着崩した制服の生徒が二人、入ってきた。ネクタイの色を見ると……女性の方は桃色、男性の方は黄色だった。桃色は子爵家、黄色は男爵家だ。



「あ、新入生すか?」

「えっ! この子今話題の子じゃん」


 今の二人の口調から貴族らしさは全く感じられない。平民と変わらない。これが普通なのだろうか。下位貴族のことが全くわからない。


「初めまして、一年四組のハルです」

 とりあえず挨拶。挨拶は基本だ。状況についていけなくてもとりあえず挨拶しておけば良い。

「あたしはアリシア。三年三組よ。気軽にアリシア先輩って呼んでね」

「オレはセラフ。同じく三年三組。アリシアとは幼馴染だ。オレのこともセラフ先輩って呼んでくれ」

「はい。アリシア先輩、セラフ先輩。よろしくお願いします」



 俺はもう一度ぺこりと頭を下げた。

「それにしても……せんせー凄いの捕まえたっすね」


 セラフ先輩が俺の顔を覗き込んでそう言った。

「逃げ足早い先生に怪我負わすなんてやるじゃんハルくん」

 今度はアリシア先輩。



「今年はハルくんだけじゃないですよ。もう何人か、磨かなくても既に光っている宝石がいます。再生・治癒属性だからって試験で自分の腕を折ろうとする人、試験官に目潰し攻撃する人、上向きの風を起こして体浮かす人。これまでの常識が一気に覆るような人ばっかり。ハルくんもそうです」



 全員心当たりある。間違いなくレオン、シエル、ヘルガさんだ。レオンには強化属性五級分を譲渡して練習させたし、シエルは光属性二級だから俺が使った目潰し攻撃ができるんじゃないかって思って教えたことがある。

 ヘルガさんは魔物と戦う時地の利を得るため、よくスピリットに乗ったり乗らなかったりして空から攻撃する。

 あれ、俺に関わった人って化け物クラスになる呪いでもかかってる?



「へぇー。で、ハルくんは何したんすか?」

「強化魔法を周りの空気にかけて限界まで圧力を加えることで壁を作ったんです。僕はその壁に無理矢理腕突っ込んで骨折しました。しかも結構硬いし、結構痛い。骨が折れるというよりは押し潰されて砕ける、の方が適当かもしれないですね」



 笑ってルイ先生は話す。あんな話よく笑ってできるよな。骨が折れるというより砕けるって怪我の様子がより深刻になってるのに。


「確かに強化魔法ってあんまり防御のイメージないわね」

「ああ、何かを壊したりすることは多いけど空間そのものに圧力をかけるなんて聞いたことがない」



 この人達もスルーか。てことは日常茶飯事だな。ここは俺が慣れよう。


「はい。それに数年前から友人経由で魔法研究サークルに興味あるって聞いてたから誘ってみたんですよ」

 やっぱりカリウ先生経由か。カリウ先生、ありがとうございます。心の中で合掌。ルイ先生と出会わせてくれたことへの感謝。



「じゃあ前々からせんせーはハルくんに目つけてたってことすか? せんせー誰かをスカウトするってほぼないって言ってたし普段しないことしたんだからそうかなって」

「まあそういうことになりますね」

「すげぇ……」



 冷静に肯定しながらいつの間にか淹れていたお茶をくいっと飲み干すルイ先生。

「ハルくんは何がしたいとかあんの?」


「はい。六歳の時に魔法具を思いついて、でも全く新しいことだから真似されたら怖い、とか設備の問題とかで中々できていなくて。ここでなら設備もありますし、ルイ先生もいますから真似される危険性は低いだろうって思って」

 ルイ先生の前で堂々とパクりをはたらく馬鹿はいないだろう。



「六歳!? すご! あたし六歳の時何してたっけ」

「泥まみれで猫と追いかけっこしてたような」

「そうだっけ」


 六歳かぁ。邪神を神界に送りつけてすぐだなぁ。そういえばあの時の邪神、弱すぎたんだけどあれって本体なのかな。なんか復活しそうで怖い。



 ベノム島とか行けばいくらでも死を待つだけの人間がいるしそいつら全員取り込んだら俺でも大分危ないぞ。それに誰かに乗り移りでもしたら更に倒しにくくなる。復活しないことを祈ろう。


 復活した時のためにも今のうちから擬似心臓いっぱい作っておくか。面倒だけど難しい作業ではないから、休日仕事前と仕事終わりにラ・モールの森にでも行けば魔石なんてその辺にいるんだ。光属性が好ましいけどこの際選り好みせずに作った方が良いかもしれない。




「下校時刻までまだまだ時間はありますし何がしていきますか? まだ余っているのでこことそこの二つを使わなければどの作業台を使っても構いませんよ」

「じゃあここで」


 俺が選んだ作業台は一番魔法具に近い位置にある。いつでも手を伸ばせば魔法具を触れる。こんな良い位置他にない。



「そこですね。えーと……八番の鍵は……あった。ハルくん、これは作業台の鍵です。これがあればこの部屋の鍵も開けられますし持っているだけで身分証明になるので魔法研究所の方にも入れたりするんですよ」

「凄いですね! ありがとうございます!」


 俺は普通の鞄に仕舞うふりをして無限鞄の貴重品エリアに入れた。ここにはお金や生成した貴金属が入っている。


 鍵を入れるのには丁度いい。鞄を失くしても新しく無限鞄を出して魔力を込めると中身が引き継げるから紛失のリスクはかなり低い。


 ルイ先生は通常業務で席を外し、先輩達が魔法具の製作をするようなので俺はまずトイレを解体してみることにした。まずは構造を理解しないと。



 大きく二つに分けるとタンク部分と便器部分。今日はタンク部分を重点的に調べてみよう。貴族用のトイレは水を使って流すことができるのだがその水はどこから来ているのか調べたところ、このタンク部分だということがわかった。



 これは使われているトイレではないから水がタンクに溜まっていない。まず魔鉱石以外なら平民でも買える値段ではあるから魔石とタンクの関係性を調べることにした。トイレは各家庭で買ってもらって取り付ける魔石のみを販売する、というのが今のところ展望になっている。今魔鉱石でそうなっているらしいから真似だ。


 本来魔鉱石を付ける場所に魔石を付けるわけだから多少の不具合なんかも出てくるかもしれない。試しにタンクに付いている水を流すレバーを引くと、青色の魔鉱石がほんのり熱を持った。本来ならこの段階で水が流れる。



 この魔鉱石、かなり弱いものになってるな。てことはそんなに動力がいらない? よし、まずはDランク魔石で試してみよう。

 俺は魔石を魔鉱石と同じ大きさに切り出して台座に嵌めてみた。


 いけるかな? 恐る恐るレバーを引くと魔石は熱を持ち始め……あれ? なんか熱くないか? こんなだっけ。



 嫌な予感は的中し、バインと音がして台座が粉々に砕けた。魔鉱石は石だが、魔石は魔物の心臓みたいなもの。Dランクでは強すぎたのかもしれない。魔石に残った魔力をまずは削らないといけないのか。



 とりあえず魔石から魔力を削るために別の魔石に移してみることにした。Aランクの水魔石とくっつけて移す。少しずつだが魔力が魔石に貯まっている気がする。


 もう良いか、と魔石を離す。壊れてしまったタンクを誰も見ていないことを確認してから再生魔法でチャチャっと直し、二度目の挑戦。

 レバーを引くと先程に比べれば熱くはならなかった。だが、今度は魔鉱石でやった時よりもずっと冷たい。魔力を吸い過ぎたようだ。これ、結構加減が難しいな。先程移した水魔石ともう一度くっつけて少しだけ戻した。



 よし、三度目の正直だ。

 台座に嵌めてレバーを引く。今度はさっきより熱くなった。でも最初のような感じはしない。良いかもしれない。一応もう一度魔鉱石で試してみよう。魔鉱石を戻してレバーを引く。



 うん、丁度良いね。どうしよう。魔石でトイレが流れることを証明できないといけないのにこのトイレどこにも繋がってない。下水に繋がっていないと水を流せない。これはルイ先生がまた戻ってきてから要相談かな。


 余った時間はとりあえずこの魔石を量産しよう。ちまちまとした作業で集中力が必要だからサークルの時間で大量に作っておきたい。細か過ぎて擬似心臓作る方が楽だと思う程。擬似心臓作るのも相当大変だけどここまで細かくはない。俺細かい作業向いてないかも。





 暫く作り続け、八つだけ出来た。そこで課外活動終了を告げるベルが鳴った。残念だけどここまでのようだ。あれから集中して作ってたのにたった八つかぁ。渋いな。


 いずれ領民になってくれた人に作らせたいって思ってたけど俺でこうなら普通の人間なら二、三人でやって一日数個が限界かな。しかも労力も集中力も使うから高級職になりそうだ。公衆浴場用の魔石もまだ試してないしやりたいことは沢山あるのに配分される時間が少なすぎる。


 泣き言言っても無駄か。嘆くよりまずは手を動かせだ。明日からも気合い入れて頑張ろ。




「あ、ハルくんまた明日ね〜」

「はい。アリシア先輩、セラフ先輩。さようなら」

 俺は営業終了の鐘を聞きながら帰路についた。

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