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十七話 奇跡の光


「ん……ここは……」

「あ、おはようございます。目を覚ましたようで良かったです」



 引っ込んだ神と暫く雑談していると、最後に治した患者が意識を取り戻した。


「きみは……誰だ……?」

「ラ……じゃなくて、国王陛下からのお使いです」



 一瞬ライゼン様って言うところだった。危ない危ない。この人が誰なのか知らないけどここで保護されていたってことはそれ相応の役職に就いている人だろうから。


「兄上の……? そうか……」

 兄上!? じゃあこの人って王弟!? 



 ……名前聞いたことあったかな。サージス姓の人間は王家だけだから忘れるはずないと思うんだけど……心当たりがない。記憶力無くなったんかな。


「ふふっ……知らないのも無理はない。生きているのか死んでいるのか、目を覚ますのかもわからない奴のことを教えても意味がないからね」

 よっこいしょとベッドから起き上がった彼は俺を見た。


「名前は?」

「は、ハルです。平民なので家名はありません」


「ハルくんね。俺を、仲間を救ってくれてありがとう。心から感謝する」

「い、いえいえ! 俺は自分のできることをしただけなので! それに、俺だけなら貴方を治すことはできませんでしたし……」



 今回は神の力あってこその成果だ。

「ああ、そういえば……魔物に引き裂かれたはずなのに魔素を感じないな。……もしや守護者様か?」


 ご名答。まさか自分の推測だけで俺の正体を見抜くとは。頭の回転がへっぽこな俺なんかよりずっと早いのだろう。俺は曖昧に頷いた。

「そうか……。ヴィーネ様がついているなら百人力だな」



 ライゼン様のように驚きはしたものの、態度は変えないでくれた。嬉しい。俺の頭を撫でる手を心地良く思っていると、起きた気配を察知したのかライゼン様率いる一行が入室した。



「アスベル。目を覚ましたのか」

「ああ、ここにいるハルくんと、ヴィーネ様のお陰でね」

「わゎゎっ……!」



 腰を引っ張られて彼、アスベル王弟殿下の腕の中に収まる。魔法を使えば抜けられるが抜けたいとも思っていないので大人しく座り直した。元気そうで何よりだ。



「そうか……ハル君。レオンをはじめ、君には何度助けられたか……本当にありがとう。この礼は必ずしよう」

「お、お礼など……! 俺は皆が幸せに生きているだけで良いので本当に大丈夫です! それに、これからもっとお世話になってしまいますし……」


 後ろの人達もヘルガさん以外が礼の姿勢をとっている。これ以上は心臓が持たない。


「いや、これだけのことをしてもらっていて何もしないというのは外聞も悪い。何かさせてくれ」

 何かって言われても……。



「あ! それなら一つ、貸していただきたい本があって。人体の構造に関する本なのですが、臓器の仕組みがわかればもっと効率的に、魔力消費も少なく治療ができると思うのです。今回の怪我人には内部損傷の方が多い印象だったので」

「人体構造図鑑があったはずだ。次に来る時までに複製した物を渡そう」

「ありがとうございます!」



 沢山勉強して今度こそ自分一人で治療しよう。

 魔物の魔素についても実験しないと。生け捕りができればそうしたいところだけどもしそれができたとしても保管場所がなぁ……。家に置くわけにもいかないし城は論外だろ? 一体どこに置くのが正解なんだ。

 腕を組んでうんうん唸っても見当がつかない。


「兄上、これからもっとお世話になるとはどういう意味ですか?」

 俺にもたれるようにしてアスベル王弟殿下が口を開いた。



「ハル君とヘルガ君には学園に通ってもらおうと思っている。だが学費や諸経費の問題から、平民である彼らには難しい。そこで王家が支援を出すと言ったのだ。学園へも城からか、公爵家から通ってもらおうかと思っている」



「城から、ですか。城か公爵家となるとまだ公爵家預かりの方が良いと思います。僕は一応公爵位を賜っていますしこちらに住んでもらうのはどうでしょう。王都にも屋敷はありますし、公爵家でもあり王家でもある丁度良い家ではないですか?」

「確かにな。二人さえ良ければそのように事を進めよう。問題はないか?」



 ええ、勿論ありませんとも。あるわけがありませんよ。城のキッチンは中々に居心地が良かったが城から登校か、一貴族の屋敷から登校かって考えるとやはり後者の方が気が楽だ。貴族とはいえ、王弟殿下のものではあるが。


「じゃあ、二人は僕のリハビリが終わったら内見に行こう。それまではここに通ってね」

「はい、王弟殿下」

「硬い硬い。別にアスベルで良いよ」

「はい、アスベル様」


 これが限界。とてもレオン達のようには呼べない。




「あるじ」


 ……ん? どこからかそんな声が聞こえた。キョロキョロと見回すが、俺を主と呼ぶ人間はこの空間にはいない。では誰だ?



「あるじ」

「おぁっ!?」

「うわっ!」


 白いモフモフが俺とアスベル様を押し潰した。ソウルだ。白いモフモフなんてソウルしかいない。何度もその背中に乗ったんだからモフモフは実証済みだ。



「ソウル、数時間ぶり」

「あるじ、我、しゃべれる、なった」

「そうだな。驚いた。怪我人の治療をしていたんだけどもう終わったよ」



 モフれと言わんばかりに頭を擦り付けてくるソウルをわしゃわしゃ。ひたすらにわっしゃわっしゃ。

「ま、まさか神獣様……!」



 ザッ……

 再びヘルガさん以外がひざまづいた。何かこの光景、見覚えがあるな。


「よい、我、きにしない」

「はっ」



 ブンブン揺れるソウルの細い尻尾、威厳もへったくれもないが熱狂信者のような皆の前にそれは関係のないことのようだ。

 ここにいる全員が神の信者。和みこそすれ馬鹿にするなど言語道断ということか。


 皆が騒ぐせいで他の怪我人達も起きてきた。そして王家ではなくまず俺とソウルに頭を下げる。頭が低いぞ。低すぎるぞ。俺の精神のためにも止めてくれ。



 ここで優雅に微笑むことができるほど頭を下げられることに慣れていない。

「こらこら、ハルくんは平民なんだからお前達に頭を下げられて戸惑ってるよ。感謝したいのはわかるけどハルくんのためにも頭を上げな」


「だんちょぉ……」

 どうやらアスベル様は騎士団長らしい。騎士団長に諌められた騎士の人達はあっさり頭を上げた。



 この後の予定はどうしようか。五年も寝ていた人達がいきなり全員完治するなんてあり得ない。それは皆同じ意見らしく考えこんでいた。



「ハルさん、こんな時に女神像を使うのはどうですか? ヴィーネ様は奇跡を起こす存在ですから」


 ヘルガさんの提案にこの場の全員が納得した。そして一斉にこっちを見た。まあそうでしょうね。

「神、女神像を光らせてくれる? あたかも奇跡が起きたように偽造するための工作だからなるべく大袈裟に」 



『そういうの、待ってたわ! 久しぶりのまともなお仕事ね! 中心部の教会だけ?』

「いや、全ての女神像を一斉に。大きさも製作者も関係ない。例外なく全て光らせてほしい」

『了解!』

 小さく息を吐いて皆を見ると、その顔は一様に、驚愕に染まっていた。



「えっと……どうしました?」

 流れ的に俺が守護者なのはこの場にいる全員が知っているだろうからと堂々と会話したのだけれど。声に出した方が通じやすいし。


「ハルさん。皆が驚いているのはハルさんの正体ではありません。ヴィーネ様への接し方です。僕はもう何度も見ているので慣れていますが初心者には酷ですよ」



「あーーーんと……オレ、ケイゴ、ワカンナイ」

 ぶはっ、と誰かが吹き出した。声の主はレオンだった。



「あはっ……あはははっ……あぁ、あぁ……面白い……ほんとに、面白くて、あぁーーー……」


 お腹を抱えて派手に爆笑するレオン。俺が敬語を使えることを知っているからなのか、単に笑い上戸なのか。周りも俺を知っている人はレオン程でなくとも肩を震わせて笑っているのでレオンも前者の可能性が高い。



 真後ろにいるアスベル様もクツクツと笑っている。そんなに面白いだろうか。まあ、神相手に敬語を使わない人間の前例がないのもあるか。神と話せる人間自体も少ないし。初代国王と俺以外いるかな。



 初代国王で第一代守護者。

「守護者………………知りたいな」

「では初代国王についての資料も併せて渡そう」

「あ、ありがとうございます」


 自分の兄弟子のような存在だが、名前もわからないし性別も、年齢もわからない。資料を読むことで何かしらわかることがあれば良い。



 今後の予定を立てていると、眩い光が俺達、いや、国中を包んだ。神が女神像を光らせているようだ。一瞬目が眩む程の、普段俺と会話する時の淡い光とは全然違う。あんなのでもちゃんと神なんだな。



 謎の光が女神像から発せられてから数日。五年間目を覚まさずに死を待つだけだった騎士達が目を覚まし、その見に負った傷や注ぎ込まれた魔素が嘘のように消えたと発表された。


 五年前に起きた悲劇を知っている人達は当然歓喜した。俺の両親も例外ではなかった。あの時の恐怖はとても言葉では表せないそうだが、だからこそ救いの手が差し伸べられた時の安心感は計り知れないものだったしその後の騎士の状況を聞いて深く絶望していたそうだ。


 謎の光事件以降、俺の周りには神の信者が増えた。今まで見向きもしなかった教会に毎日足を運び、初めて目の当たりにした奇跡に感謝しているそうだ。



 お陰で神の神力は爆増し。俺やソウル、ヘルガさんのスピリットが受ける恩恵も大きくなった。

 カタコトで、単語しか話せなかったソウルも、一切喋れなかったスピリットも人間のようにすらすらと会話ができるようになった。俺の魔力効率も爆上がりだ。



 魔力訓練が捗っている。アスベル様がリハビリを終えてタウンハウスの準備をしている間は新メニューを神や子供組と考えたり試食会、そしてカリウ先生との言語授業。それもない日はラ・モールの森で資源調達。


 今後出てくる予定の上位種に備えて魔物を狩りまくっている。どれだけ狩っても魔物は無限に湧くし、諸悪の根源である魔素湖を潰すことも不可能なので狩り放題なのだ。



 魔石で擬似心臓を作ったり魔石を使った魔法具の設計をしたりと、逆行前の数十倍は忙しい毎日を送っている。ただ、楽しさは段違い。



 あの時は友達といえばラッシュくらいだったし、娯楽だって森に行って木の実を取ったりするだけだった。一日中店の手伝いをする日も多かったし遊んだ記憶もほとんどない。


 今は俺の立ち位置を知っている父さんが店の手伝いを免除してくれている。俺が居なくなり、マリアが学校に通えば売り上げは多少落ちるかもしれないが俺自身がジャムその他で稼げているから生活水準は上がった方。


 あの時告白して良かった。こんなに感謝されるならもっと早くに言えば良かったんだ。

 奇跡が起きて本当に良かった。





 後はマリアがもっと大きくなって、物の意味がわかるようになれば俺の正体についても明かそう。

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