十五話 告白
守護者であることをそろそろ隠せなくなってきたので、ヘルガさんと話し合い宰相一家と王家に限り、秘密を明かすことにした。
とはいえ俺は相当な臆病者なので神を伝書鳩代わりに使った。この時ばかりは多少の罪悪感を覚えた。
だけど、俺がしどろもどろになって中途半端に伝えることが一番駄目だと思う。神は加護をあげた本人なんだからこの世界の誰よりもわかりやすく伝えられるはずだ。
それにしても、どうして俺になったんだっけ。何で選ばれたか聞いてない気がする。レオンに加護をあげていたら楽だったろうに。
こんな中の中くらいの平民なんて使えないだろ。前世で何かしたんかな、俺。
何もわからん。いつか教えてくれると良いけど。
「ハル、ヘルガ、おはよう!」
「レオン、シルヴィおはよう」
「レオンは朝から元気だね」
「当然だ! 授業がない日に会えるなんて嬉しい! それに今日は友達のヘンリーも来てるんだ。紹介させてくれ」
「わかった、わかったから落ち着けって」
「僕らは逃げないからさ」
「俺が早く紹介したいんだ」
ヘンリー。ヘンリー・アイクランド。次期公爵で、年齢は俺達の一つ上。正直このくらいしかわからない。貴族名鑑に人柄は載っていないのだ。
「初めまして、二人がハル君とヘルガ君だね。俺はヘンリー・アイクランド、現公爵の第一子で次期公爵なんだ。気軽にヘンリーって呼んで。よろしく」
「ヘルガです。よろしくお願いします」
元気な印象を受けるレオンと違い、ヘンリー様は知的な印象を受けた。勿論まだ七歳なので子供っぽさはあるのだろうが、チェーン付きの細メガネをかけていることが印象に直結している。
メガネチェーン……作ってみたいな。今度材料揃えるか。金属でできるよな。ああ、皮でもできるかもしれない。皮なら無限にある。ラ・モールの森でしこたま取ってきたし。
「……? ハル君? どうした?」
「ああ、はい。すみません、ぼーっとしていて。ヘンリー様、ハルと申します。よろしくお願いします」
「よろしく。そうだ、レオン達には呼び捨てタメで話してるんだよな? 俺にも同じようにして」
「わ、わかった」
もう決めた。この手の要望には抵抗しない。一切抵抗しない。
「わかればよし! 二人のことはレオンから沢山聞いてるよ。凄い才能があって、沢山ある中で特に料理が美味しいらしいね。城に二人専用のキッチンもあるって。もし時間あったら俺も食べてみたい」
俺とヘルガさんは顔を見合わせ、笑った。
「甘いものは好きか?」
「ああ、疲れた時に食べると癒されるからな」
ずっと引き出しにしまってあったフルーツサンド、作ってみよう。果物の種類も増えたことだし。
「今から作ってくるよ。ヘンリーも来るか? レシピの盗みをしないのなら来ても良い」
「しない。約束するよ」
俺達用に作られたキッチンは試食会ができるようにテーブルと椅子が置いてある。レオン、シルヴィ、ヘンリーにはそこで座って待ってもらうことにした。
今回はソーダフロートというものとフルーツサンドを作る。ソーダフロートは神から教えてもらったレシピをそのまま作る。フルーツサンドは作るのが簡単なので俺達のオリジナルだ。
自分達用に試作しようと予めいちごジャムと牛乳で氷を作っておいたのを使う。本当に、冷やせば氷ができるなんて、本当に良い環境。
作り方はいたってシンプル。ジャムで作った氷をグラスの底に大量に敷いて、くっつかないように混ぜながら炭酸水を注ぐだけ。あとは飾り用のいちごとアイスクリームを乗せれば超手抜き、でも美味しい(と思う)ソーダフロートの出来上がりだ。
レシピ本は平民用と貴族用で分けた方が良いかもしれない。平民の家では牛乳の保存すら満足にできないレベルで温度差が激しい。
簡単で安く済む物をもっと研究しておこう。普通のお肉を買うのが無理でも魔物肉の美味しい調理法が見つかればそれを使った料理も考えないと。今から楽しみだ。
ジャムとかその他色々でそれなりに収入は入ってきている。現金で貰ってそのまま無限鞄に突っ込んでいて、そのお金で紙を買って少しずつではあるがもう既に作ったレシピは書いている。
清書用の、本になる紙は王家が出すと譲らなかったのだが下書きは木の板よりも紙が便利だ。木の板は嵩張る。神は紙の作り方とか知ってるかな。知ってたら費用削減になるんだけど……。
ヘルガさんがパンにクリームやらフルーツやらを挟んでいる間に俺はソーダフロートを完成させた。フルーツサンドは白いお皿に盛り付けてソーダフロートはキンキンに冷やしたグラスにアイスクリームと一緒に盛った。上に乗せたアイスクリームが溶けないようにスプーンもキンキンに冷えている。
「お待たせ、新作のソーダフロートとフルーツサンドだ。それじゃ、試食と試飲、よろしく」
甘味を前に、三人の喉がゴクリと鳴った。
「い、いただきます……」
最初に食べ始めたのはシルヴィ。この中で一番の甘党だ。俺達がいつもするように手掴みで口に運んだので口の周りに生クリームが付いてしまっている。
こんなこともあろうかとおしぼりは既に用意済みだ。
「凄く美味しいわ! 本当に美味しい!」
「ああ、クリームの甘さとフルーツの酸味が丁度良くて癖になる」
「美味い! これは売れるな! いや、売れない方がおかしい! そのくらい美味いよ」
ロイヤルな人には好評みたいだ。ただ、平民の間では生クリームはあまり流通していないしまず高いので何か代用案を考えないと。
フルーツもあるのに生クリームまでバンバン使っていたら平民じゃ届かないくらいの値段設定になってしまいそうで怖い。たまの贅沢、みたいな値段が自分的には好ましいから。
生クリームに代わる何かも考えるべきだな。
後はパンだ。平民の中で広く知られているのは丸パン、バゲット、食パンだ。
丸パンはお小遣いで買えるくらい安い。食パンは一気に財布がすっからかんになる。バゲットはその中間くらい。コスト的にもフルーツサンドはバゲットにするのが良さそう。
「なあ、ハルってクロワッサン知ってる?」
俺がパンのことを考えていると、レオンがそう聞いてきた。
「くろわっさん? 何だ? それ。市場では一度も見たことないけど……パンなのか?」
「そう、パン。見た目が可愛いんだ。これと違って白くなくてカリッと焼き上げられた三日月形のパンなんだ。今度渡すからクロワッサンのフルーツサンドも作ってみてほしい」
「まあ、できるかわからないけどやってみるよ」
クロワッサンかぁ……。まずは生で食べてみたいな。しょっぱいかもしれないし、逆に甘すぎるかもしれないし。三日月形のカリッと焼き上げられたパンなんて、想像もつかない。ただ、高級であることだけはわかる。見たことないならどう頑張っても平民じゃ普段食べられない物だろう。
「国王陛下がお呼びです」
入室を許している数少ない人物の一人、メアが俺達を呼びにきた。今日はお茶会が目的でも試食会が目的でもない。
詳しくは聞かされなかったが多分、俺のことだ。神に色々話して貰ったから。
「失礼します」
中には王族と宰相夫妻、強面の騎士達。後ろには王族と宰相の息子、隙を一切感じさせない若手実力派騎士達にメアとエステル。
その錚々たる顔ぶれに逃げ腰になりそうな自分を叱咤し、与えられたソファーに腰を下ろした。これから起こることに対する恐怖で腰を抜かす前に座らなければ。
「全員揃ったな。では、早速本題に入らせてもらうよ。ハル君と、ヘルガ君について」
「っ………!」
ヘルガさんの何についてなんだ。僅かに息を呑み、体をこわばらせたヘルガさんの左手を握った。何処にも消えていってしまわないように。
そんな俺達に気付いていないのか、気付いていて知らぬふりをしているのか、ライゼン様は話し始めた。
「先日、この場所にヴィーネ様が来られた。初代国王以来のおよそ千二百年振りに守護者様が誕生されたそうだ」
そう言ったライゼン様は俺を真っ直ぐに見た。暫くお互いを見ていたが最早言い逃れもできない事実だし何より、自分から暴露したんだ。少し息を吐いて呼吸を整えてから、素直に認めた。
「はい、ライゼン様のおっしゃる通り、俺は守護者です。今までは怖くて言えませんでした。あの時に嘘を吐いて……すみませんでした」
ソファーに座ったまま、深く頭を下げて謝罪した。初めて会った時、守護者だと言われた。でも、家族のこともあったし、何よりも目立つのが怖くて言えなかった。こんな風に深い交流が長続きすると思っていなかったというのもある。
「ハル……」
「騙して、ごめん」
そうだ、レオンもシルヴィも、俺に騙されていたんだ。
「ハル君……いや、ハル様、貴方様が謝罪される必要はありません」




