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万博の夏

作者: kami10enpitu

八月の熱中症警戒アラートが発令されている猛暑日、夢洲に向かった。真新しい駅に着いた時、万博仕様の内装等もゆっくり楽しみたい気持ちがあったけれど、入場に時間がかかると聞いていたので足早にゲートに向かった。雲一つない真っ青な空の下「奥の方が空いてます!奥へお進みください」という声に誘われて奥の方へと歩きながら何となく選んだ番号の手荷物検査の列に並んだ。聞いていた通りここからが中々進まない。空港でよく見るトレーに荷物を載せてX線に通す検査をしているからだ。自分の番になって見ていると係の方は手際よく一生懸命動いてらっしゃるけれど、押し寄せる人の数にどうしても渋滞してしまうのだ。仕方ないと思うけれど…それこそ空飛ぶ車も凄いけど一瞬で手荷物検査も出来る人体に影響しない全身スキャン技術みたいな物が次の万博では実現すればいいのになんて思う。

正直に言うとあまり興味が無かった。ずっと盛り上がりに欠けると言われていて、聞こえてくるのは「パビリオンの建設が間に合わない」とか「赤字にならないよう何とか盛り上げていきましょう」と関係者のお偉いさんが発言しているようなニュースで、自分も『このSNSの時代に万博ね~』と少し冷めた気持ちでいた。何かの懸賞でチケットが当たったら行こうかなというようなさもしい気持ちでいたくらいだ。ところが友人や家族が「やっぱり一回は行っておきたい」、「万博って初めてだから見てみたい」などと言うのを聞いて『そうだよね、折角の機会、生きてる間に行っておいた方がいいよね』とあわててチケットを買ったのだ。この酷暑だからか手荷物検査へと向かう途中には「無料の日傘の貸出しあります」の声かけもあり驚いた。自前を持参したのでちらっと見ただけだけれど、ちょっとフリルがついたようないかにも日傘って感じの物で『協会が大量に用意したのだろうか、鉄道会社のお忘れ物みたいなのを利用してるのだろうか、持って帰ってしまう人いないのかな』などと余計な事を気にしながらも、何だか少しでも快適にという”手作り感”みたいなものを感じた。

猛暑の平日で、後日の発表でも入場者数10万人超のどちらかというと少なめの日だったようだけれど、それでも多くの人で溢れ人気のパビリオンはどこも行列していた。あまり下調べもせず、予約など一つも取れなかったのだから欲張ってはいけない。大屋根リングとやらを歩いて、すぐに入れそうなパビリオンを見学して、夜のドローンショーを見て帰ろうという気持ちだった。

閑散とした万博など悲し過ぎるからこの人出は喜ぶべき事なのだろうけどやっぱり人混みは疲れる。いくつか空いているパビリオンを見学した後、カンカン照りの太陽に近づく事になるなぁ…と思いながらも念願の大屋根リングをぐるりと一周。上から見渡せる様々な形、色どりのパビリオンがザ・万博だった。

リングの外側には主に企業パビリオンが、海外パビリオンはリングの中に集まり、何だか世界の国々が一緒に輪の中にいて平和への願いを表現しているようだ。少し霞んだ六甲の山並みや大阪湾が眩しい。屋根の下は日陰でずらりと並んだベンチや飲み物の自販機、お土産ショップがあり、数時間待ちは当然のパビリオンもちょうどそばのリング下に待ち行列の場所が設けられていて、この異常な猛暑によく出来ていると感心した。清水寺の舞台の懸造りを超巨大化したような木の建造物は、それゆえにコロッセオのような煉瓦や石ではない造りが風を通し快適な休憩場所になっていた。

無計画に汗だくで歩き回りながらも、とりあえず入り易い海外パビリオンは見学できたという万博で思った。SNSの普及や海外旅行が身近になって外国がそれほど未知で目新しいものではなくなってきたからなのか、子供のようなキラキラした好奇心が無くなってしまった自分のせいなのか、勿論十分楽しめたのだけれど、何となくちょっと小振りな予算で用意された感じのパビリオンが多かった気がした。

けれど、色々言われていたような気がするけれど大屋根リングは間違いなく万博を象徴する記憶に残るシンボリックな建造物だと感心した。猛暑の中で多くの人々が休める場所をつくり、どんなに人が多くても上からなら色々なショーを観る事ができるし眺めも気持ちが良いという実利的な面だけでなく、お城や五重の塔に代表される日本文化の象徴といえる木造建築による巨大建造物に、こんな凄い物を造れるんだと感動した。かつてのパリ万博のエッフェル塔やExpo'70の太陽の塔など、やはり万博というイベントには何かしらシンボリックな建造物がふさわしいし、それが後世に残れば素敵だと思う。立地上、海風などの影響で今後どうなっていくのかという心配はあるけれど。

そして何より、入場ゲート前の待時間を少しでも楽しく過ごして貰おうとユーモア溢れる誘導をする係員の方や、人気パビリオンの長蛇の列を一生懸命整理する方等々『アッツイ中よう来てくれはった。楽しんでいってや』(勝手に関西弁です)という思いが伝わるようなスタッフの皆さんの一生懸命なホスピタリティが心に残る一日だった。


「 せんとくんより みゃくみゃくが好き なんか知らんけど」


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― 新着の感想 ―
大阪万博の様子が、とてもきめ細かで丁寧な描写の一つひとつから、臨場感をもって伝わってきました。 ラストの一言も印象的です。読ませていただき、ありがとうございます。
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