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8 ダンスの後

 そのあと、シリルともダンスを楽しみ、エルネストとたくさん会話を交わした。

 彼のお母様の話や、卒業論文に向けての話。

 例の婚約破棄の話にちらっと話が及んだ時、彼は苦笑を浮かべて言った。


「そうそう気持ちは切り替えられないけれど、そうだな……」


 と言い、遠くを見つめる。

 まあそうよね。

 婚約者の子と好きだった、って言っていたものね。私は恋をしたことないからよくわからないけれど。すぐに切り替えられるものではないだろう。

 彼はふっとこちらを見て笑う。


「でも出会いと別れは繰り返すものだし、今は君や君の友だちとも知り合ってこうして時間を過ごせるから。前を向いていこうと思う」


「あら、私たちがお役に立てて嬉しいわ」


 言いながら私は胸に手を当てた。


「また、誘ってもいいかな」


 なんだかこちらの様子を伺う様な、不安げな色の目でこちらを見ている。

 私としてはその申し出を断る理由はなく、私は頷き答えた。


「えぇ、もちろん」


 すると、彼はいっきにほっとした表情になる。


「よかった。また今度よろしく」


 と言い、彼は私に手を差し握手を求めてくる。

 私はその手を軽く握り、


「よろしくお願いします」


 と、笑って言った。


 

 私はエルネストに自宅まで送ってもらい、着替えてお風呂に入る。


「はー……」


 と、大きく息をつき私は天井を見つめる。

 久しぶりのパーティーは疲れたけれど楽しかったな。

 エルネストは前を向いて歩いていくと言っていたけれど、イザベラはどうかしら。

 そう思ったものの、そもそも私にあれだけ愚痴を言っていたし、色んな男性とダンスを踊っていたように思う。

 だからきっと大丈夫ね、あの子は。

 エルネストもきっと大丈夫だろう。

 そう思って私はエルネストの顔を思い出す。


「出会いと別れは繰り返すもの、かぁ」


 確かにそうね。

 私にも素敵な出会い、あるかしら。


「でも私、そんなものに興味、ないからなぁ」


 恋とか愛とかよくわからないし、初恋もまだなんだもの。


「好きって、なんなんだろう?」


 と、私は首を傾げてぶくぶくと湯船に沈んだ。

 

 翌日。

 昼過ぎに宿題をやっていると、メイドが私に手紙を届けてきた。


「ありがとう」


 手紙には、見覚えのある封蝋。

 エルネストからだ。早速手紙をおくってくるなんて筆まめね。

 私は机に戻って、手紙を開けた。

 白い封筒の中に入っていたのは、淡い青の便せん。ふわりと香る柔らかな匂いは何の匂いかしら?

 手紙にはこう書かれていた。


『リタ様。昨夜はお付き合いくださりありがとうございました。たくさんお話ができ、楽しかったです。学部が違いますので話す機会がなかなかないと思うのですが、貴方にお願いがあります』


 あら、お願いって何かしら?

 そう思いつつ私は手紙を読み進めていく。


『僕の卒業論文の事を話したと思いますが、そのことで貴方にインタビューを試みたいのです。まだ少し先にはなるか思いますがご協力をお願いできますか?』


 あぁ、昨日話していたわね、卒業論文のこと。女性の社会進出について書きたいと言っていたっけ。

 

『次の日曜日、お時間があるようでしたら、一緒に国立図書館へ参りませんか? できたらそこのカフェで少し話をしたく思います』


 国立図書館かあ。あそこのそばには科学博物館や美術館も固まっていて、私にとって飽きない場所、なのよねぇ。

 しばらく行っていないしな……

 私は考えつつ、手紙を閉じて引き出しから便せんを出す。

 そして返事をしたためた。

 それを白い封筒にいれて封を閉じ、メイドに託す。


「かしこまりました」


「よろしくね。あと、お茶、新しいものをお願い」


「はい、お嬢様」


 手紙を書いていたらすっかりお茶が冷めてしまったので、新しいお茶を頼み、私は机へと戻る。

 日曜日かぁ。

 いつも週末は家で引きこもって宿題をやったり本を読んでいたから、外に出るのは久しぶりだ。

 そもそも私、昔からあんまり外に出ないものね。

 パーティーですら久しぶりだったもの。

 ああいうパーティーはどうしても出会いの場、という側面が強いからあんまり行かないのよね。

 だからお父様は、私が行き遅れるんじゃないかって心配してくるんだけど。

 まあ、相手は公爵家の子息。

 うちみたいな成り上がり貴族とは不釣り合いだし、恋とか愛とか生まれるわけがない。

 そう思って私は口をもとを押さえて大きく欠伸をした。

 頭使ったら疲れちゃったな。

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