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10 インタビュー

 図書館の庭には、等間隔に木が植えられていて木陰を作っている。

 鳥がさえずる音を聞きながらエルネストの論文の話が始まった。


「うちにはたくさんの使用人たちがいて、その中に女性ももちろんいるんだけれど、彼女たちにも話を聞いたんだ」


 言いながら、彼はノートに目を落とす。


「あら、面白いわね」


「高校に行かずに働いている子もいて。その子に聞いたら、お金の問題を口にしていたんだ」


 なるほど、家庭の経済状況によっては、高校の学費を払うのはきついわけね。そんなこと、考えたことなかった。


「その子の稼ぎで家計を支えている事例もあって」


 と言い、エルネストは息をつく。

 あぁ、そういうこともあるのね。

 病気で働けなくなるとか、親が死別とかあり得るものね。そう思うと心が痛くなる。


「女性が働くのは素晴らしい、と思っていたけれど、そうね、そういうこともあるのね」


「うん。経済的な問題が、進学率を下げている、っていうのは考えもしなかったよ。他には、親が進学を許さなかった、という話もあったけれど。だからうちでは母親の意向もあって本人が希望すれば進学の支援をしているんだ」


「あら、すごいじゃないの」


 エルネストのお屋敷ではたくさんの使用人がいるだろう。年頃の使用人がいったいどれくらいいるのか想像つかないけれど結構な額になるんじゃないだろうか。

 エルネストは苦笑し、頷く。


「父親はあまりいい顔をしないけれど、母親が自分の財産でやっているから。資産運用して、そのお金を当ててるとか言っていたっけ」


 エルネストのお母様は何者なのかしら。すごい人ね。感心してしまう。


「本来なら国や自治体でそういう支援ができるといいんでしょうね」


 そう私が言い、カップを手にするとエルネストは大きく頷いた。


「そう、そうなんだ。今はそういう制度が十分じゃないから。それを含めていろんな人の話を聞きたくて。リタは就職をしたいんだよね」


「えぇ、そうよ」


「失礼だけど、結婚は」


 遠慮がちな声に私は首を横に振る。


「考えてないわよ。親はうるさいけれどね」


「それは、お父様? お母様?」


「お父様の方よ。この間も結婚の話題になって。そうそう、貴方から手紙が届いたときよ」


 するとエルネストは苦笑した。


「そんなことが」


「貴方は公爵家の跡取りでしょう? だからお父様舞い上がってしまって」


 うちはそもそも商人の家だし縁を大事にするのよね。


「私、この見た目のせいで見合いも決まらないから、お父様、ひとりで焦っているのよ。私にそんなつもり、ないのに」


 そして私はキャラメルマキアートを飲む。

 甘くておいしくて、頭の中がすっきりするのよね。


「その、紅い髪? 確かに珍しいね。その瞳も」


「そうなのよ。だから悪魔じゃないか、とか言われて親とか祖父母の世代は嫌がるみたいなのよね」


 まあいいんだけれどね。そんな見た目で私を判断するような相手と付き合いたいとは思わないし。


「私としては見合いが決まらなくても全然構わないのよ。大学で勉強して、試験に通って、研究機関で働くのが夢だから」


「夢があるのはすごいことだね。魔法工学の研究機関は男性ばかりみたいだけれど、不安はないの?」


 不安かぁ。

 そう言われるとどうなんだろうか。


「不安……そうね、もし結婚して、子供が生まれるとなると働けなくなるでしょう。そうなったとき、再就職は可能なのか、とか、ちゃんと女性用の更衣室はあるのか、とか心配よね」


「やっぱり結婚と出産は気になるところだよね。更衣室、は考えたことなかったな」


 言いながらエルネストはノートに書き込んでいく。

 そのあと一時間以上雑談を交えて喋り続けたため、飲み物を二度、購入した。

 その代金はもちろん自分持ちだ。

 それに小腹がすいたので、マフィンも頼んだ。

 チョコレートが入ったマフィンは、ほんのり甘くておいしかった。


「ありがとう、リタ。話聞けて良かった。またお願いするかもしれないけれど、いいかな」


 ノートを閉じながら彼は言い、こちらの様子を伺うように見つめてくる。


「大丈夫よ。色々話せて楽しいし」


 そう笑って答えると、エルネストはほっとした様子で、


「ありがとう」


 と言った。

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