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1 友だちが捨てられた

 「もう、本当に最悪なんだけど?」


 そう言って、友達のイザベラ=ガルメディア公爵令嬢は、テーブルに両肘をついて大きくため息をついた。

 春の日差しが心地いい、午後の庭。花の匂いがほのかに香って気持ちがいい。

 ここは私、リタ=ベイティアが住むお屋敷のお庭にある東屋だ。

 春を迎えて花が咲き誇るお庭で優雅に友達とお茶会、といきたいところだったけど、イザベラはそれどころではない。

 彼女は数か月前、この国、セリュシア王国の第二王子オーギュストと婚約した。

 なのに、最近になって婚約破棄されたらしい。

 それでイザベラはうちに愚痴を言いに来た。

 癖のある金髪に、澄んだ空のような目をしたイザベラは口をとがらせて言った。


「オーギュスト様にはね、子供の頃に結婚の約束をしていた人がいたんですって。今頃になってその方と結婚するって言い出したのよ」


「なんで殿下はそのことを早く言わなかったのかしら?」


 そう疑問を口にすると、イザベラは身を乗り出すようにして言った。


「それがね、あちらはあちらで婚約が決まっていたらしいのよ。まあ政略結婚よね。詳しくは聞いていないけれど。私だってそうよ。私と殿下の婚約は政治的な意味合いが強かったから。まあ私はそれでもよかったんだけど」


 そしてイザベラは下を俯く。


「なのに結局、そのお相手と婚約よ。お互い結婚できなければ死ぬ、とかなんとか言い出したらしいわよ? 失礼しちゃうわ!」


 言いながらイザベラは顔を上げ、デザートのクッキーを摘まんだ。

 そんなに思い合っていたのならさっさと周りに伝えたらよかったのに。そうしたら無駄に傷つく人が増えることはなかったわよね。


「……あれ? ということはあちらも婚約破棄された男性がいるって、こと?」


 言いながら私は首を傾げた。

 だってそう言う事よね。

 オーギュスト殿下の新しいお相手には、もともと婚約者がいたということなのだから。

 するとイザベラは真顔で何度も首を縦に振る。


「そうそう。そういうことなのよ。私以外にもいるの。婚約破棄された殿方が。しかも聞いてくれる? 相手の女性、殿下との子供まで身ごもってるのよ?」


「なにそれえぐくない?」


 呆れつつも、ちょっとその話は面白かった。

 だって、婚約者がいるにもかかわらず、互いにその相手を裏切ってそういうことをしたって事よね?

 信じられないけどスキャンダラスで面白い。

 だって、他人ごとだから。

 性格悪いかもしれないけれど、思うだけなら自由だ。

 イザベラはもちろん楽しいわけがなく、深刻な顔でため息をついた。


「まあこの話は公になってないけどね。私たち、国王陛下に手をついて頭下げられて、慰謝料払われたのよ。そんなことされたら何も言えないじゃないの。まあ、息子がよその女性を妊娠させて、婚約破棄だもの。そんな話、漏らされたら大変だものね。幸いなのは私との婚約はまだ内定状態でよそには公表していなかったことかしら。今、急いで結婚式の予定、たてているらしいわよ?」


 早口でまくしたてたイザベラは、チーズケーキにフォークをいれて、ゆっくりとそれを口に運んだ。

 その動作はとても優雅で、公爵家の娘、という感じで見ていてうっとりしてしまう。

 内心、怒り狂っているでしょうに。こういう所作は綺麗よね。イザベラ。


「たしかにそうねぇ。陛下もご心労がすごそう」


 苦笑して言う私の言葉に、イザベラは深く頷いた。


「そうそう。見ていて可哀そうになったもの。あーあ、まさか私が流行りの小説みたいに婚約破棄を経験するなんて思わなかったわよ」


「そうねぇ」


 婚約破棄の小説がここ最近流行っている。なんで流行ってるのかは知らないけれど、たいていのストーリーはヒロインが一度捨てられるのよね。

 私にはよさがわからないけど、現実にもあるのね、そんなこと。


「でもイザベラ、十九歳でしょ? まだいくらでも相手、見つけられるわよ」


「まあそうだけど……しばらくはいらないわよ。男なんて信用ならないもの」


 そう言って、イザベラはフォークを思い切りチーズケーキにぶっ刺した。

 お嬢様、という肩書を捨てるかのように。

 

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