ストロベリー・ドッグ
◆不審行動
ここ何日間か、盲導犬・エヴァンが不審な行動をしていた。
トイレをさせるために駐車場へ行くと、手前で立ち止まる。洗車や花壇の水やり用の水道があるので、溜った水でも飲んでいるのかとも考えた。それにしては、喉を鳴らさない。
「言うことを聞かないときは、リードをグッと引けばいい。犬は首が締まるのを嫌がりますから」
と訓練士から習っていた。
教えに従い、リードを引っ張ってみた。なんとか現場から離れたものの、やはり気になっているみたいだった。
◆お先に!
その日も駐車場の入り口で立ち止まった。
引き離して、トイレをさせていると、妻が何かの用事で玄関に出てきた。
「ありゃあ、イチゴ、全部やられとる!」
妻の悲鳴が聞こえた。
「エヴァンの近くに食べ物は置くな」
と口酸っぱく言ってきた。
被害は一度や二度ではない。前にもプランターに植えたトマトをやられたことがあったではないか。
トマトがおいしそうに成熟してきたので
「明日くらい収穫して、初物をいただこう」
心躍らせていた妻の落胆は、大きかった。まさに、一瞬のスキを突かれた格好だ。
トマト・ドッグの誕生だった。
「そうだ、あのトマト、高いところに上げておかなきゃ」
今回は妻が先手を打った。
◆お前もか
盲導犬ユーザーとしては、何があるのか見えないので、頭が痛い問題だ。
ちゃんとドッグフードは与えている。どこに不足があるのかと、情けなくなることもある。しかし、それは考えすぎだった。
仲間のユーザーが訪ねてきた。最近、新しい盲導犬・ウィンを迎えていた。ウィン君とは初顔合わせだった。
ウィン君は部屋に入るなり、エヴァンのもとに駆け寄った。
マウンティングでもしないかとハラハラしたが、様子が違った。エヴァンの歯磨き用ボーン(骨)をカリカリと音を立てて、齧り始めたのだった。
◆神経質にならないで
ウィン君はおとなしい。エヴァンよりやや小ぶりだ。家でも「借りてきたなんとか」然としているらしい。
そんな子がよその家で、積極的に行動したのだから、ユーザーは驚いていた。
あれが動物たちの自然な姿なのかも知れない。
エヴァンにしても、ハーネスを付けている時だけは、さすがに毅然としているので、良しとしようか。