表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

食欲は抑えがたし

挿絵(By みてみん) 

 ◆相撲ファン

 相棒の盲導犬・エヴァンにハプニングが続いている。

 先日の日曜日、炬燵(こたつ)に足を突っ込み、一杯やりながら、大相撲の千秋楽を聴いていた。炬燵の上にはスマホ。これはこれで臨場感がある。関東にいた頃、一度だけ行ったことのある両国国技館の枡席(ますせき)を思い出す。


 死闘を繰り広げる力士に申し訳ない気はする。数少ない楽しみのひとつなので、大目に見てほしい。


 エヴァンは(そば)の柱に(つな)いである。いつもは大人しい。いるかいないか分からない。ところが、この日に限り、動き回り、何かを()む音もする。大一番が続くので、そんな異変は忘れていた。 


 ◆犬は放たれた

 妻が買い物から帰った。

「エヴァンのリードが外れてる!」

 と素っ頓狂(とんきょう)な声を出した。

「あーあ、私のバッグの中にあったお菓子、食べてる」

 被害はそれだけに止まらなかった。サイドテーブルの上の高級みかんもやられたらしい。


 それにしても、おかしい。繋いでいたはずなのに。筆者の監督責任を問われそうだ。

「リードが切れてる」

 と妻。ここ二、三日、リードの傷みが気になってはいた。

 エヴァンが我が家の仲間入りをして五年。リードも買い替えの時期に来ていたのだ。


 ◆油断禁物

 代打の出番となった。

 革製ではなく、太い縄を布でくるんでいる。前垂れを付けると、小兵(こひょう)力士の化粧まわしのような感じになりそうだ。


 例によって、炬燵で一杯やっていた。

 酒のあてを作り、妻は小用で出かけた。

 炬燵の上に食べ物があると、エヴァンは落ち着かない。至近距離に置いておこうものなら、前足を伸ばして、しきりに催促してくる。片時たりとも油断できないので、階段の手すりに繋いでおいた。

 階段下の奥にはゲージがあり、そのあたりはエヴァンの指定席だ。


 妻が帰った。何かをむさぼり食っているとき以外は、必ず反応するのに、エヴァンは静かだった。 


 ◆ほぼ定位置

「エヴァン?」

 妻が呼んでいる。ややあって

「エヴァンがいない!」


 妻が治療院と廊下、トイレを見に行った。一階に姿はなかった。

「エヴァン、どこ行ったの?」

 考えられるのは、妻が玄関を開けた瞬間、外に飛び出したことだった。しかし、大型犬である。気づかないはずがない。

 探し物となると、筆者はもとより無力である。声を出して呼ぶことくらいはできるので、重い腰を上げかけた。


「あ、そんなところに入ってたの!」

 妻が、階段の下、ゲージの後ろに発見したらしい。リードからは放れていなかった。 


 ◆進退きわまり

 それにしても、何をするつもりだったのだろう。

 ふだん、ゲージの後方にドッグフードがこぼれているのを見ていた。その日に限り、冒険心を起こした。

 階段をくぐり、ゲージと壁の隙間(すきま)に体をこじ入れる。ドッグフードをきれいに片付け、引き返そうとしたものの、隙間に(はさ)まれ方向転換できなかった。

 悪いことに、盲導犬なので、パピー(仔犬)時代から、吠えるのはNGとされてきた。後は家人が発見してくれるのを待つしかなかった。

 おそらく、そんなところだろう。


 今回の一件から何をフィードバックしたか。筆者のピンチは幾度となく救ってくれたが、自身の危機管理能力は今イチのようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ