食欲は抑えがたし
◆相撲ファン
相棒の盲導犬・エヴァンにハプニングが続いている。
先日の日曜日、炬燵に足を突っ込み、一杯やりながら、大相撲の千秋楽を聴いていた。炬燵の上にはスマホ。これはこれで臨場感がある。関東にいた頃、一度だけ行ったことのある両国国技館の枡席を思い出す。
死闘を繰り広げる力士に申し訳ない気はする。数少ない楽しみのひとつなので、大目に見てほしい。
エヴァンは傍の柱に繋いである。いつもは大人しい。いるかいないか分からない。ところが、この日に限り、動き回り、何かを噛む音もする。大一番が続くので、そんな異変は忘れていた。
◆犬は放たれた
妻が買い物から帰った。
「エヴァンのリードが外れてる!」
と素っ頓狂な声を出した。
「あーあ、私のバッグの中にあったお菓子、食べてる」
被害はそれだけに止まらなかった。サイドテーブルの上の高級みかんもやられたらしい。
それにしても、おかしい。繋いでいたはずなのに。筆者の監督責任を問われそうだ。
「リードが切れてる」
と妻。ここ二、三日、リードの傷みが気になってはいた。
エヴァンが我が家の仲間入りをして五年。リードも買い替えの時期に来ていたのだ。
◆油断禁物
代打の出番となった。
革製ではなく、太い縄を布でくるんでいる。前垂れを付けると、小兵力士の化粧まわしのような感じになりそうだ。
例によって、炬燵で一杯やっていた。
酒のあてを作り、妻は小用で出かけた。
炬燵の上に食べ物があると、エヴァンは落ち着かない。至近距離に置いておこうものなら、前足を伸ばして、しきりに催促してくる。片時たりとも油断できないので、階段の手すりに繋いでおいた。
階段下の奥にはゲージがあり、そのあたりはエヴァンの指定席だ。
妻が帰った。何かをむさぼり食っているとき以外は、必ず反応するのに、エヴァンは静かだった。
◆ほぼ定位置
「エヴァン?」
妻が呼んでいる。ややあって
「エヴァンがいない!」
妻が治療院と廊下、トイレを見に行った。一階に姿はなかった。
「エヴァン、どこ行ったの?」
考えられるのは、妻が玄関を開けた瞬間、外に飛び出したことだった。しかし、大型犬である。気づかないはずがない。
探し物となると、筆者はもとより無力である。声を出して呼ぶことくらいはできるので、重い腰を上げかけた。
「あ、そんなところに入ってたの!」
妻が、階段の下、ゲージの後ろに発見したらしい。リードからは放れていなかった。
◆進退きわまり
それにしても、何をするつもりだったのだろう。
ふだん、ゲージの後方にドッグフードがこぼれているのを見ていた。その日に限り、冒険心を起こした。
階段をくぐり、ゲージと壁の隙間に体をこじ入れる。ドッグフードをきれいに片付け、引き返そうとしたものの、隙間に挟まれ方向転換できなかった。
悪いことに、盲導犬なので、パピー(仔犬)時代から、吠えるのはNGとされてきた。後は家人が発見してくれるのを待つしかなかった。
おそらく、そんなところだろう。
今回の一件から何をフィードバックしたか。筆者のピンチは幾度となく救ってくれたが、自身の危機管理能力は今イチのようだ。