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世界を救うとか面倒くさいから適当に遊んでみた。  作者: 影シャドー
冒険が始まるぞ!でもちょっと違う...
4/20

4.目的地なし!? 勇者の気ままな旅が始まる

エルフの村を出てから三日が経った。マルジョンスとライラは森を抜け、草原を横切り、山道を登ったり下りたりしながら、旅を続けていた。朝日が昇り、二人は簡単な朝食を済ませて、また歩き始めた。


「ねえ、マルジョンス」ライラは少し苛立ちを隠せない様子で声をかけた。「そろそろ聞いてもいいかしら」


「ん?なに?」マルジョンスは陽気に振り返った。彼は相変わらず髪を乱れさせ、軽装で歩いていた。


「私たちは一体どこへ向かっているの?」ライラは立ち止まり、両手を腰に当てた。「三日間、ただ歩いているだけじゃない」


「ああ、それか」マルジョンスは気にしない様子で手を振った。「大丈夫、大丈夫。何かあるさ」


「何かって…」ライラの額に青筋が浮かび始めた。「勇者なら、魔王の城とか、次の目標とか、ちゃんと決めてるんじゃないの?」


マルジョンスは空を見上げ、首をかしげた。「うーん、神様が『魔王を倒せ』って言ってたのは覚えてるけど、どこにいるかまでは教えてくれなかったんだよね」


「はあ?」ライラは呆れた表情を浮かべた。「じゃあ、この三日間は何の目的もなく歩いていたの?」


「そんなことないよ!」マルジョンスは胸を張った。「冒険には偶然の出会いが大事なんだ。何かあるさ、必ず!」


「偶然の出会い…」ライラはため息をついた。「いい加減にして。このまま歩き続けても…」


彼女の言葉が途切れたところで、小高い丘を越えると、突然視界が開けた。その先には、大きな城壁に囲まれた都市が見えていた。


「あ」マルジョンスは目を見開いた。


「あ…」ライラも同じく驚いた表情を見せた。


「ほら見ろ!」マルジョンスは満面の笑みを浮かべた。「言ったとおりじゃん!何かあるって!」


「こ、これは…偶然だ!」ライラは信じられないという表情で言った。「こんな方向音痴なことで…」


「偶然じゃないよ、必然だよ」マルジョンスはニヤリと笑った。「俺の勇者の直感が導いたんだ」


「うそつけ!」ライラは怒鳴った。「地図も持たず、方角も確認せず、ただぶらぶら歩いていただけじゃない!」


「まあまあ」マルジョンスは手を振った。「結果オーライ!行こう、あの都市に!」


彼は嬉しそうに丘を下り始めた。ライラは呆れた表情でため息をつきながらも、彼の後を追った。




城壁に近づくにつれ、都市の規模の大きさに二人は驚いた。高さ10メートルほどの城壁には、立派な門があり、多くの人々が出入りしていた。門の周りには衛兵も立っていたが、特に厳しい検査もなく、人々を通している様子だった。


「すごい…こんな大きな都市があったなんて」ライラは少し声を落として言った。


「へえ、ライラちゃんも知らなかったの?」マルジョンスは不思議そうに聞いた。


「エルフは森から遠く離れることは少ないの」ライラは説明した。「特に人間の都市とは…あまり交流がないわ」


「そっか」マルジョンスは頷いた。「じゃあ、俺が案内してあげる!…と言いたいところだけど、俺も初めてだけどね!」


「頼りにならないわね…」ライラはため息をついた。


二人は人の流れに乗って、都市の門をくぐった。中に入ると、そこはさらに賑やかだった。石畳の広い通りには、様々な店が軒を連ね、行き交う人々で溢れていた。馬車や荷車も行き交い、商人たちの呼び込みの声が響いていた。


「うわ、本格的な中世の都市だ!」マルジョンスは目を輝かせた。「これぞ異世界って感じ!」


「中世…?」ライラは首をかしげた。


「ああ、俺の世界の歴史の一部だよ」マルジョンスは手を振った。「まあ、いいや。とにかく探索しよう!」


彼らは都市の中心部へと歩き始めた。通りには食べ物を売る屋台、武器防具の店、魔法のアイテムを扱う店など、様々な商店が並んでいた。マルジョンスは子供のように目を輝かせ、あちこちを見回していた。


「おいしそう!」「すごいな、この剣!」「あ、魔法の杖だ!」


ライラはそんなマルジョンスにつられて、少しずつ好奇心を持ち始めていた。


「確かに…人間の都市は面白いわね」彼女は小さく呟いた。


しばらく歩いた後、マルジョンスはお腹が鳴り始めた。


「おなかすいたなぁ」彼は周りを見回した。「どこかいい店ないかな」


「そうね…」ライラも同意した。「食事をして、情報も集めましょう」


彼らは小さな酒場を見つけた。「銀の月」という名前が看板に書かれており、中からは賑やかな声が聞こえていた。


「ここにしよう!」マルジョンスは扉を開けた。


中は半分ほど客で埋まっており、テーブルに座った人々が飲み食いしながら談笑していた。カウンターには太った店主が立ち、グラスを拭いていた。


「いらっしゃい!」店主は二人を見て、明るく声をかけた。「珍しい組み合わせだね、人間とエルフさん」


「ああ、俺たちは旅の途中でね」マルジョンスは笑顔で答えた。「何か美味しいもの食べたくて」


「それなら任せておきな」店主はニッコリ笑った。「うちの鹿肉のシチューと黒パンは評判がいいんだ」


「それにしよう!」マルジョンスは即決した。「あと、地元のビールも!」


「わかった」店主は頷いた。「あんたらは奥の席が空いてるから、そこに座りな」


二人は店の奥のテーブルに案内され、席に着いた。程なくして、ビールと料理が運ばれてきた。


「うまそう!」マルジョンスは目を輝かせた。「いただきます!」


彼は一口食べると、満足げな表情を浮かべた。


「うまい!こんな味、日本にもないよ!」


「日本…あなたの元の世界ね」ライラは小さく笑った。「あなたの世界の話、もっと聞かせてもらえる?」


「おお、珍しいね」マルジョンスは驚いた様子で言った。「ライラちゃんが俺の話に興味持つなんて」


「…別に、そんなことないわ」ライラは少し恥ずかしそうに顔を背けた。「ただ、異世界について知るのは大事だと思っただけよ」


「はいはい」マルジョンスはニヤリと笑った。「じゃあ、何か知りたいことある?」


「そうね…」ライラは考えた。「あなたは学校に通っていたって言ってたわよね。その学校って、どんなところなの?」


「ああ、大学か」マルジョンスは懐かしそうに笑った。「大学は最高だったよ。授業は正直つまんなかったけど、友達と過ごす時間は楽しかったな」


「授業がつまらなかった?」ライラは眉をひそめた。「学ぶことが嫌いだったの?」


「うーん、そうじゃないんだけど」マルジョンスは首をかしげた。「教授の話すことが既に知ってることばっかりでね。だから、よく授業中にイヤホンで音楽聴いてたりしてたんだ」


「なんて不真面目な…」ライラは呆れた表情を見せた。「先生の話を聞かないだなんて」


「でもね、成績はクラスでトップだったんだぜ?」マルジョンスは得意げに言った。「だから、誰も文句言えなかったんだよ」


「え?」ライラは驚いた。「でも、授業を聞いていなかったのに?」


「ああ、本を読むのは好きだったからね」マルジョンスは肩をすくめた。「試験前に一晩中勉強すれば、だいたい覚えられるし」


「一晩…」ライラは信じられないという表情を浮かべた。「エルフの学びは何年もかけて…」


「あ、それとね」マルジョンスは急に思い出したように言った。「大学の近くにゲームセンターっていう場所があってね、そこでよく徹夜で遊んでたんだ」


「ゲームセンター?」ライラは首をかしげた。


「うん、ゲームっていうのは…」マルジョンスは説明し始めた。「箱の中に映像が映って、手元のレバーとかボタンを操作して、その中のキャラクターを動かすんだ。戦ったり、競争したり…」


「何を言ってるの…」ライラは頭を抱えた。「箱の中に人が入ってるの?魔法?」


「そうそう、魔法みたいなものだね」マルジョンスは笑った。「科学の魔法!俺、格闘ゲームが特に得意だったんだ。近所のヤンキーに一度負けて悔しくて、一週間ぶっ通しで練習して、次の週に見事リベンジしたんだ!」


「一週間…ぶっ通し?」ライラはますます混乱した様子。


「まあ、多少の誇張はあるけどね」マルジョンスは笑った。「でも、本当に徹夜したこともあるよ。友達と朝まで遊んで、そのまま授業行ったり」


「信じられないわ…」ライラはため息をついた。「そんな生活で、どうやって勉強したの?」


「さあ?」マルジョンスは首をかしげた。「でも、面白いことに、ゲームって頭の回転を良くするらしいんだ。反射神経とか判断力とか…」


ライラは半信半疑の表情でマルジョンスの話を聞いていた。彼の話す「日本」という世界は、あまりにも不思議で理解しがたいものだった。しかし、彼の熱心な様子には、少しずつ引き込まれていた。


「あなたの世界は本当に奇妙ね…」ライラは小さく笑った。「でも、少し興味深いわ」


「でしょ?」マルジョンスは嬉しそうに笑った。「いつか連れて行ってあげたいな。もし帰れるようになったらだけど」


「ふん、そんなこと…」ライラは顔を赤らめた。


彼らが話に夢中になっている間、酒場はますます混雑してきた。人々が行き交い、店内は賑やかな声で溢れていた。


しばらくして、ライラが席を立った。


「ちょっとトイレに行ってくるわ」彼女は言った。


「はーい」マルジョンスは手を振った。


ライラが戻ってくると、彼女は急に顔色を変えた。


「あれ?私の荷物が…」彼女は周りを見回した。「鞄がない!」


「え?」マルジョンスも驚いて立ち上がった。「どこに置いてたの?」


「ここ、椅子の横に!」ライラは焦った様子で言った。


マルジョンスも自分のポケットを確認すると、表情が曇った。


「俺の財布も消えてる…」


二人は顔を見合わせた。マルジョンスは小さくため息をついた。


「やられたな…スリに」


ライラの表情が怒りに変わった。


「あ、あなたのせいよ!こんな怪しげな酒場に入るなんて!」


「いやいや、俺だって被害者じゃん」マルジョンスは手を振った。「まあ、仕方ないか」


「仕方ない、じゃないわよ!」ライラは怒鳴った。「私の鞄には大事なものが…」


その時、店主が近づいてきた。


「どうした?何かあったのか?」


「すみません、どうやら私たちの荷物が盗まれたみたいで…」マルジョンスは説明した。


「なんだって!?」店主は驚いた表情を見せた。「うちの店でそんなことが…」


「最近、街にスリが増えてるらしいぜ」近くのテーブルから、一人の男性客が声をかけてきた。「特に『影の手』って呼ばれる盗賊ギルドがな」


「影の手?」マルジョンスは興味を示した。


「ああ」男は頷いた。「街の南区に潜んでるって噂だが、誰も確かなことは知らないらしい」


マルジョンスはライラを見た。彼の目には決意の光が宿っていた。


「ライラちゃん、行こう」


「どこへ?」ライラは怪訝な表情で尋ねた。


「盗まれたものを取り返しに」マルジョンスはニヤリと笑った。「これも冒険の一つだよ」


店主は二人を心配そうに見つめた。


「気をつけな。あの連中は素人じゃないぞ」


「大丈夫です」マルジョンスは笑顔で言った。「俺たち、見かけによらず強いんで」


二人は店を出ようとした時、店主が声をかけた。


「おい、食事代は…」


「あ」マルジョンスは足を止めた。「それが、財布を取られちゃって…」


店主はため息をついた。


「まあいい。取り返してきたら払いに来な」


「ありがとうございます!」マルジョンスは笑顔で頭を下げた。「必ず戻ってきます!」


そして二人は店を出て、街の南区へと向かい始めた。ライラはまだ怒りを隠せない様子だったが、マルジョンスは何故か楽しそうだった。


「なんであなたはそんなに楽しそうなの?」ライラは苛立ちを隠せず尋ねた。


「だって、これぞ冒険って感じじゃない?」マルジョンスは笑った。「盗賊ギルドに乗り込むなんて、主人公感あるよね!」


「主人公感って…」ライラはため息をついた。「あなた、本当に…」

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