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スーパーにて

車を転がして向かった先は、近所のスーパーでした。

駐車場の適当な場所に車を駐め、持ってきた防音イヤーマフをつけます。


「・・・・・・」


不安気味に車から出て、スーパーの中へ入ります。

ああ、ドキドキする。


スーパーの中は、昼食前なのに混んでいました。

わたしはまっすぐ、ケチャップが置いてある棚の前まで早足で向かうと、いつも買うメーカーのケチャップを取ってカゴに入れました。


(ここまでは大丈夫・・・)


すぐにレジへ行き、会計を済まそうと歩き出すと、


「ゴホンッ!」


ビクッと思わず肩が跳ね上がるくらい驚きました。


(え・・・何?)


見ると、中年のおじさんがいました。


ああ、あの人が咳をしたのかな。


(・・・あー)


だめだ。

防音イヤーマフ、意味無し。


音は全体的にトーンダウンしてるし、細かい音はシャットダウンしてくれるけれど、咳の音は簡単に貫通して聞こえてきてしまう。


(あー・・・どーしよどーしよ)


少し混乱気味にレジへ向かいました。


レジは、当然ながらたくさんの人が並んでいました。


(早く会計して帰ろう)


そう思い、わたしは比較的空いているレジに並び、会計を待ちます。


人がいると少し恐いです。


色んな人のたてる音や声がぐちゃぐちゃ大きく聞こえて疲れてしまったり、頭が痛くなったりしてしまうから。

このスーパーは、比較的静かなのであまり疲れたりはしないけれど・・・。


それ故に、そうじゃない場所よりも大きく聞こえてしまうのかもしれません。


「ゴッホンッ!」


・・・あ、はじまった。


最近よくある事。


どこかの誰かが、さっきのように大きな咳をし始めるのです。


それだけだったら、まだいいのですが、それが間隔を開けて、何回もだから、困りものです。


その日の咳は、年配の男の人でした。


わたしのすぐうしろに並んでいます。


スーパーのレジには、前の人が会計をしている間、買い物かごを置いておくスペースがあります。


会計してる人のすぐうしろの人は、待ってる間、そこにかごを置いておくのですが、わたしが買い物かごを置いたと同時に、


「ゴッホンッ!」


と、また咳。


心臓が、きゅうっと縮んで、バクバクと脈打つのがわかります。


怖い。そう感じてるんだと思います。


至近距離でやられたから。


「ゲホンッ!」


そうしてる内に、今度は別の人が咳をし始めました。


若い女の人です。


髪を染めて、おしゃれなポンチョを着ていました。


「ンンッ!ンッ!」


今度もまた別の人。


中年の男の人です。


一人の人が咳をすると、また別の人が咳をする。


咳の連鎖反応です。


最初は、これら全部、わたしに向けてしているんだと思っていました。


正直、今でもたまにそう思う時があります。


でも、母や周りの人にそれを話したら、ちょっと考えられない、あまり気にしない方がいいと言われ、それどころか、そんな咳は聞こえなかったとさえ言われました。


なので、極力気にしない様にはしてるのですが・・・。


(つらい・・・)


こめかみやおでこのてっぺんがズキズキしてきます。


まるで、四角い箱の中に閉じ込められて、外からガンガン棒か何かで叩かれてるような感じ。


わたしにとって、大きな音が立て続けに聞こえるのは、ダメージが普通の人の倍かかります。


五感からの刺激が、どうしても過剰に強く感じられてしまう。感覚過敏という症状らしいです。


中学の時から診てくれてる精神科の先生に相談した時に、そう言われました。


わたしのような障害を持った人には、よく現れる症状なんだそうで。


(はやく帰りたい・・・)



前の人の会計が終わって、いよいよわたしの番になりました。


ああ、これでやっと解放される。


そう思い、少し気が緩んだのかもしれません。


レジの人が、わたしの置いた買い物かごを移動させたのを見て、前へ進んだのと同時に、


「ゴッホンッ!」


レジの人が大きく咳をしました。



「・・・・・・・・・」


頭が真っ白になりました。


体が鉛のように固くなって、足を踏みしめる感覚が、雲の上のようで。


心臓がずくずく痛みます。


呼吸も少しだけしづらくなったような気がします。


わざとじゃ無いのはわかっています。


頭では。


でも、咳って、されただけで拒絶されたような、攻撃されたような感じがするんです。


咳に限らず、大きな音はみんなそう感じるんですけど・・・。


さらに聴覚過敏で耳や脳に音が刺さって来て、パニックになるんです。


叫びたくなるんです。


それぐらい苦痛なんです。


怖くて仕方がない。


頭が、痛い。


どんどん痛くなって、止まらない。


その後、どうやってスーパーから出たのかは、あまり覚えていません。


ただ、車の中に入った瞬間、まるで風船が割れて水が弾けたように感情が爆発して、泣き叫んだ事だけは覚えています。


完全にパニックになって、何度もお母さんの名前を呼んでいました。


お母さん助けて!お母さん助けて!お母さん助けて!


何度も何度も叫びました。


叫ぶたんびに、わたしは卵を周りに作りました。


ほぼ無意識に、無造作に。


卵から鳥が生まれ、車のガラスをすり抜け飛んでいくのを横目で見ました。


きっと、お母さんの所に行くのでしょう。


わたしがお母さんの事を想ったから。


そして数分経って、外から赤い鳥がやって来ました。


お母さんの鳥でした。


鳥は、車のガラスを突き抜けると、車内に入ってきて、わたしの手のひらに乗りました。


そして手のひらからわたしの中に溶けて行きました。


溶けて、言葉がじんわりと頭に浮かびます。


ーーー大丈夫だから。落ち着いて帰っておいで。


と。


そしたら少し楽になって、気分が落ち着いてきました。


涙を拭いて、エンジンをかけます。


すうーっと、深呼吸して。


「・・・行こう」


車を発進させました。


道路に出て、しばらく走ると、フロントガラスに雪が落ちました。


(また降って来た・・・)


あんまり積もらないといいな。


そんな事を思って、ワイパーをかけます。


・・・はー、疲れた。


時間は、もうすぐ11時45分です。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

年齢の割に幼い主人公です。

次も読んでくれたら嬉しいです。

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