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 王女の言葉を聞いてショックを受けた戦士が「うおぉ! うおぉ!」と、叫びながら幾度も石柱に頭を激突させる。

 勇者は木製の器に入った酒を飲みながら、面倒くさそうに。

「魔王の息子だから『まおう』でよくねぇ?」

 と、投げ遣りに言った。


『魔王Jr』とか『魔王二世』という呼び名にだけは、絶対にしてたまるか!

 と、いう勇者の嫌がらせだったのだが。魔王は勇者が名づけた名前を真摯に受け止めてしまった。

「まおう……真緒、良い名だ……今日からおまえの名前は、『魔王 真緒(まおう まお)』だ! 勇者どの、我が子に良い名の祝福を感謝しますぞ」

 我が子を頭上に掲げて、笑みを浮かべている魔王を横目で見ながら勇者メッキは、隣に座っている魔女桜菓に。

「今夜、魔物どもが寝入ったら一斉に攻撃するからな……他のメンバーに伝えておけ……皆殺しだ」

 と、呟いた。その夜……酔い潰れて酒席で眠っていた勇者は戦士に揺り起こされた。


「起きろ……大変なコトが起きた」

 半分寝ぼけた勇者が剣を引き抜き叫ぶ。

「魔物は女も子供も容赦なく皆殺しだぁぁ! むにゃむにゃ」

 飛び下がって、切っ先を避ける戦士。

「わぁ、危ねぇ! やっぱりこんな奴に勇者の剣は持たせちゃいけない」

 メッキの手から剣を没収した戦士は、近くにいたパーティーメンバーの一人、アチの世界から迷い込んできた骨董鑑定士に渡して言った。

「あんたが預かっていてくれ」

 鑑定士は勇者の剣を、勝手に商売病で鑑定して。

「いい仕事してますねぇ」そう言って剣を眺める。

 盗賊の娘が眠っている勇者の顔に、目の周りを黒く塗り潰したり、猫ヒゲを描いて遊ぶ。

 魔女が剣を没収された勇者の手に、その辺で木の棒を握らせると。

 戦士が勇者の頭に桶に入った水を浴びせて起こす、冷水に飛び起きる勇者。

「ひぃぃぃ!?」

「やっと起きたか」

「しまった寝過ごした!! 魔王襲撃計画はどうなった?」

 ホウキに股がって空中に浮かんだ、額に中華呪符を貼りつけた魔女が勇者に言った。

「とにかく、周囲を見てみろ」

 周囲を見回した最低勇者は。

「なんじゃこりゃ!?」

 と、素頓狂な声をあげる。

 魔王城は勇者たちのパーティーが居る場所を除いて、えぐれるように消滅していた。

 巨大な虫に食われたようになった石壁や庭の一部。

 この時、勇者たちは知らなかったが、魔物たちが住む町や村の一部、森や湖、火山や砂浜などもえぐられたように多くの魔物や怪物たちと一緒に消滅していた。

 魔王城と城塞都市の魔物たちは魔王共々、少数の魔物を残して。勇者の卑劣な夜襲が行われる前に姿を消していた。


 閑散とした城内で歯軋りをして悔しがり木の棒を振り回す勇者。

「ちくしょう!! 魔王の野郎、逃げやがった! 勇者の面目丸つぶれだ! 卑怯者がぁ!」

 戦士は呆れ顔で。

「オレは目の前にいる、木の棒を振り回しているヤツ以上の卑怯者には、出会ったコトがないがな」と、呟く。

 勇者が仲間のパーティーに向かって言った。

「こうなったら城に残っている魔物を皆殺しだぁ!! 次に国内の魔物の残党狩りをしてから、逃げた魔王一派を地の果てまで追うぞ!! 新たな旅のはじまりだ!!」

 勇者の言葉に戦士は、頭を掻きながら挙手する。

「ちょっといいか……やっぱりオレ、これ以上あんたには、ついていけそうにないわ……王女を救い出す目的で一緒に旅を続けてきたけれど、王女が魔王とあんな関係になっちまったのを見たら……もう、どうでも良くなった」


 盗賊の娘も、手にした金銀に宝石を散りばめた、装飾品を眺めながら勇者に言った。

「あたいも、魔王城のお宝が目当てだったんだけど……残った城の財宝は魔物や勇者のパーティーで好きなように分配していいって、魔王が言い残してあったみたいだから。パーティーへの分配も終わったから、もういいや……あの魔王、結構いいヤツみたいだし」

 魔物の書籍倉庫係りから贈与された、分厚い禁断の魔導書に目を通しながらミニ丈巫女姿の桜菓が呟いた。

「あたしたちは、魔物という名称や外見だけの、偏見や固定観念で魔物たちを見ていたのかも知れない」


 勇者が言った。

「はぁ? おまえたち何言ってんだ? そうか、魔王のヤツから変な術をかけられたんだな……おまえ戦士だろう。オレの代理で戦わせるために仲間に、加えてやったんだぞ! 目を覚ませ」

「術なんてかけられていない──オレ、今回の旅が終わったら鍛冶屋やっている親父から、家業を継げって言われているんだ──これからは故郷の村で鍋とか包丁とか、たまに聖剣なんかを作って過ごすから」

 戦士はパーティーの中から、サラリーマンと忍者と猿人を呼び出して言った。

「サラリーマン、自分の世界に帰っても元気でな、ジョーシとかカジョウザンギョウとかブラックキギョウとかいう怪物に負けるんじゃないぞ。

忍者、おまえは黒装束で昼間うろつくのはやめた方がいい……目立つ。

猿人、えぇとたまには歯を磨け……それじゃ、みんなそういうことで長旅お疲れさん、本日でパーティーは解散!」

 戦士の言葉に勇者の大パーティーはバラバラと分散していく、慌てる勇者メッキ。

「おい、待てよおまえら! まだ旅は終わっちゃいないぞ! もどってこい恩知らずども!」

 気がつくと残っているのは、勇者メッキと魔女桜菓の二人だけになっていた、勇者が魔女に言った。

「残ったのは、おまえだけか……桜菓」

 魔女は、金額が書き込まれた用紙を、勇者の顔に突きつけて出した。

「今まで、あたしが立て替えてきた飲食代や宿泊代……全額返済してもらうまでは、ぜぇてぃ離れねぇからな」

 桜菓に背を向けたメッキが、ワナワナと背中を震わせながら呟く声が聞こえてきた。

「ちくしょう……こうなったのも、全部あの魔王のせいだ……人の顔に泥を塗りやがって……地の果てまでも探し出して一太刀浴びせてやる……ブツブツ」

 桜菓は陰険な勇者メッキの背中に、蔑みの視線を向けながら。

(この男、最低)と思った。


 その時、去っていたはずの盗賊の娘『バイオレット・フィズ』が、丸太を脇に抱えて、ヒョコヒョコとメッキのところにもどってきた。

「おぉ、盗賊の娘おまえも、もどって来てくれたか」

「違うよ、桜菓に渡したいモノがあったの思い出した」

 そう言うとフィズは、水晶球を桜菓に渡して言った。

「分配品の中に入っていた、なんでもどんな願いも叶えてくれる悪魔が封印されている魔具らしいよ……あたいが持っていても使いこなせそうにないから、桜菓にあげる……それじゃ元気で」

 そう言って盗賊の娘は、解放感丸出しのスキップをしながら再び去っていった。

 盗賊の娘がいなくなると、メッキは桜菓の手から悪魔が封印されている魔具を奪い取った。

「あっ!」

「よこせ! 悪魔の力を借りて、逃げた魔王を追う!」

 メッキは後先のコトを考えずに、灰色のモヤが中央に蠢く、水晶魔具を地面に叩きつけて割る。

 割れた球体から灰色の煙が噴き出し、煙の中に浮かぶ一つ目と悪魔の声が聞こえてきた。

「願いを言ってみるクマ、どんな願いも叶えてやるクマ」

 勇者は悪魔に怯むことなく言った。

「逃げた卑怯者の魔王を追う!」

「願いを叶えるには対価が必要だクマ、前の時間と後ろに時間……どちらの対価を払うクマ、5、4、3、2」

 いきなりカウントダウンされて咄嗟にメッキは。

「後ろ」と答える。

「承知したクマ、キャンセルはできないクマ……おまえは、悪心が強そうだから。それを対価の証明にするクマ……願いを叶える代わりに、おまえが悪心抱いた時に対価を払った姿に変わるクマ」

 桜菓が、メッキに少し考えるように言う前にイラついていたメッキが、煙の中から少し姿が見えてきた。インディゴ色をしたヒトデ型の一つ目悪魔に向かって怒鳴る。


「なんでもいいから、早くオレたちを魔王がいる場所に連れていけ!」

 灰色の煙が、メッキと桜菓を包む。

 咄嗟に桜菓は、腰に巻いるベルトについていた試験管を一本引き抜いて、中に入っていた液体を飲み干した。

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