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と、ある異世界レザリムス大陸〔コチの世界〕……魔物や幻獣が徘徊しているのが日常の世界。
旅を続けてきた勇者のパーティーは、ついに最終目的地の『魔王の城・マオーガ』に到着した。
仲間の戦士が目の前にそびえる、城塞都市の城壁を見上げて呟く。
「ついに来たか……長く苦しく、笑える旅だった」
宝箱のトラップ解除とダンジョン攻略、それと情報収集を得意とする盗賊の娘……丸太を担いだ『バイオレット・フィズ』が言った。
「魔物もたくさん倒して、村々から謝礼もたんまりもらってきたことだし、ちゃっちゃと魔王も倒しちゃおうよ」
トンガリ帽子をかぶり、額に中華道士の無限呪符を貼った和洋折衷魔女の『桜菓』が、リーダー格の勇者『メッキ』に向かって抑揚が無い口調で言った。
「これが最後の戦い、気を引き締めないと」
桜菓の言葉に唇を噛み締めた勇者メッキは、苦しかった今までの旅を思い出す。
勇者の後方に並ぶ旅の途中で、次々と勝手に仲間に加わって膨れ上がったメンバーたち、中には異世界から来た者たちも含まれている。
忍者、素浪人、騎士、武道家、馬賊、海賊、山賊、遊び人、道化師、踊り子、曲芸師、大食漢、幕下力士、花魁、岡っ引き、奉行、僧侶、牧師、猛獣使い、道化師、大道芸人、三流手品師、怪しい幻術師、自称呪術師、偽祈祷師、陰陽師、錬金術師に似非科学者、論客、俳人、狩人、野人、猿人、へたれ軍師、臆病者の傭兵、農夫、漁師、木こり、商人、土木作業員、鳶職、番長、JS、JC、JK、インフルエンサー、メンヘラ、サイコパス、ヤンデレ、税理士、弁護士、不味い料理人、迷探偵、自称少年探偵、女怪盗、落ち目のコメディアン、タレント、水着姿のグラビアモデル、前座見習いの落語家、解説者、リポーター、コメンテーター、塾講師、ヤブ医師、薬剤師、整体師、腕が悪い美容師と理髪師、優柔不断の鑑定士、気弱な特殊詐欺師、ウソが下手なペテン師、ウソつき政治家とその愛人、任侠な組の下っぱ構成員、悪の組織の覆面戦闘員、逃げ腰の覆面レスラー、やる気なしのパート従業員、フリーター、料理手抜きの専業主婦、酔っ払いのマンガ家、編集者、原作者、サラリーマン、年金老人、コスプレーヤー、ユーチューバー、自称インターネット掲示板の未来人、占い師、AI美女などなど……総勢、百人以上の大パーティー。
勇者は、意味不明のパーティーを眺めて目に涙を浮かべ回想する。
(思えばほとんどが、この連中の食いぶちを稼ぐ旅だったような気がする……メンバーが増えるたびに当初の旅の目的から、かけ離れていったなぁ……だがそれも今日で終わりだぁ)
勇者『メッキ』の顔に欲望に満ちた笑みが浮かび、隣に立つ戦士が不思議そうな顔でメッキを見ていた。
(魔王を倒して救出した王女を、国王のところに連れて行けば……オレを気に入った国王が、ぜひ王女と結婚してくれと頼まれて王女はオレの嫁に、そしてオレはこの国の次期国王候補に……そのくらいの見返りがなきゃあ、勇者なんざやっていられねぇや!)
勇者の邪心など知らない仲間たち──城の周辺に植えられ咲き乱れている、四季の花々や森でさえずる鳥の声に首をかしげる戦士。
「それにしても旅の最初にイメージしていた魔王城とは、だいぶ違うな……もっとこう、黒雲が渦巻いて天空を覆っているような禍々しい雰囲気の城を想像していたが?」
城にはロープに連なった色鮮やかな三角旗や、のぼり旗が飾られ。アコーディオンの軽快な音楽が城の中から聞こえていた。
清々しい涼風が吹き抜けてくる森の方では、草食ドラゴンの親子が仲良く葉っぱをついばんでいるのが見えた。
「魔王の領内を進み城へ近づくにつれて、魔物数が減ってきてここ数日間は、まったく現れなくなったのも奇妙だな…あっ!! こらっ、狩人と蛮賊。弓矢で無害な竜の親子を狙うんじゃない!!」
勇者は城門を睨みつけて、剣の柄を握りしめる。
「このまま城塞の閉じた跳ね橋を叩き壊して、魔王城に突入するぞ全員突撃!」
雄叫びをあげて進撃する大パーティー軍……その時、城正門の跳ね橋が下りてきて、橋の向こう側に微笑む執事姿の男が現れた。
突撃していた大パーティーの足が跳ね橋の前で止まる……跳ね橋の向こう側に立っていた、上品な雰囲気を漂わせた執事姿の男が言った。
「お待ちしておりました……魔王城ゴールおめでとうございます。勇者ご一行様、長旅でお疲れでしょう。宴の用意ができております」
勇者一行の到着を祝福する音と煙だけの花火が数発上がり、魔物たちが演奏する吹奏楽の音色が鳴り響く。
勇者は訝しそうな表情で、執事を凝視する。
「魔物が用意した宴だと!? ふざけるな!! 何か魂胆があるんだろう!!」
「どう思われてもご勝手ですが。魔王さまは、あなた方と争う意思はありませんので……城内の他の魔物にも、誠意を持って勇者のご一行を歓迎するように指示されています……どうぞ城内へお進みください」
執事が背を向けて歩きはじめると、勇者たちもしかたなく剣や槍の武器類を鞘に収めて進んだ。
魔物たちが暮らす城塞都市内には、市場があり活気に溢れていた。
勇者一行はゾロゾロと、市場内を前を行く執事に従って進む。
歩きながら戦士が勇者に呟く。
「まさか、魔物たちが楽市を行っているとは驚きだな……魔物の文化水準は、思っていたよりも高いな。それにしても、あの人間の姿をした執事の魔物……隙がない」
「騙されるな、オレたちを油断させる作戦かも知れないぞ……なにしろ、相手は魔物だからな……疑い深くて卑劣で、自尊心と虚栄心の固まりみたいな、腹黒い連中だからな」
勇者の言葉を聞きながら、戦士が「それ全部あんたのコトだろう」と、内心突っ込んでいると。
仲間の盗賊の娘が、何やら焼かれて串刺しにされた肉片を持って勇者のところにやってきた。