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拾〔十〕

 カプト・ドラコニスに譲渡書を灰にされて、洞窟の出口にまで逃げてきた莫連組のボスは、本物の譲渡書と権利書を取り出して高らかに笑った。

「バカなバグどもだ、甘すぎる……この譲渡書と権利書がある限り、この土地はオレのモノだ自由に掘り返せる。まずはあの白い化け物を始末してから爆薬で遺跡の扉を……」

 ボスがそう呟いた時、間近で声が聞こえた。

「懲りない人ですね……二度目の人生は少しは、まともな人生を送るかと期待していたんですが」

 ボスの隣に腕組みをして岩に背もたれて立つ、飛天ナユタがいた。


 まったく気配がなく、突然現れたナユタに驚く莫連組ボス。

「な、なんだ!? おまえは? どこから現れた?」

 ナユタは、つかみ所がない表情で言った。

「覚えていませんか……それもしかたがないですね、今の人生を歩む前に一度、会っているんですがね……もう一度チャンスを与えて、三度目の人生をスタートさせますか」

 ナユタの手がボスの額を鷲掴みにする、ナユタの手に宇宙空間のような染みが現れ。ボスの体を吸い込みはじめた。

「ひいぃぃぃ!?」

 短い悲鳴を残したボスを吸い込んだ手の平を開く、飛天ナユタ。

 ナユタの手の中には真珠色をした受精卵が一個、握られていてドクッドクッと脈打っていた。


 ナユタが空に向かって口笛を吹くと、どこからか両腕がエイの翼のようになった、女型をした白い髪の生物がナユタの前に舞い降りてきた。

 赤いアーモンド型の目をした口が無い宇宙生物……『アスワン』とナユタが呼んで使役している生物に、ナユタは手の中に転がる卵子を見せる。

「また、長期間の母体を頼む……三回目の人生は、まともなサルパ人に育ててくれよ」

 口がある位置をナユタの開いた手の平に近づけて、ボスの受精卵を飲み込んだアスワンの女は、着衣したサルパ人の女性へと変化した。

 命が宿った下腹部を擦っているアスワンから視線を空の極楽号に移した、飛天ナユタが呟く。

「デミウルゴスは、緒羅・レオノーラをデミウルゴス遺産の相続者と認めたか……楽しくなってきた、一足先に『極楽号』に乗り込むとするかな」

 飛天ナユタの足元の地面にある影が、宇宙空間に変わりナユタの姿は影に沈むように消えた。


『極楽号』の運命が決まる日……レオノーラは、アラバキ夜左衛門の宿泊しているホテルのロビーで、夜左衛門と会っていた。

 レオノーラの近くにあるソファーには、仁・ラムウォッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインが座っている。


 レオノーラが言った。

「極楽号をもらう、銀牙系でのボクの移動手段、足として衛星級宇宙船を使う」

「どのように使われても、レオノーラさまの持ち物でございますから、結構でございます」

「仁・ラムウォッカを、ボクの用心棒として雇って。一緒に極楽号に乗ってもらう」

「ご自由にどうぞ」

「それから、サンドリヨンの国民を二人ばかり増やしたいけれど……いいかな?」

「移民ですか? 土地は余っていますから何人でも」

「サンドリヨンにも牧草地があったら、そこに二人ばかり移住してもらう。ついでに極楽号のクルー募集も行いたい」

 そう言って、バグ姿のレオノーラは微笑んだ。


【虫喰い惑星】の牧場の粗末な小屋で、ディアとホグじいさんは、アラバキ夜左衛門の使いだと名乗る、埴輪型のクネクネ踊るメイドの訪問を受けていた。

「レオノーラさまが、お二人を【衛星独立国家サンドリヨン】の国民として迎え、衛星内の牧場で乳竜ミルクの搾乳を続けていただきたいと……ついでに、ディアさんには極楽号の『通信・諜報班』の責任者をお願いしたいそうです……暗号と古代文字の解読に精通している、ディアさんのスキルをレオノーラさまは高く評価なさっています」

 ディアと猪のような牙が生えたホグじいさんは、レオノーラからのサプライズな誘いに、ただただ驚くばかりだった。


【虫喰い惑星】のメインストリートを莫連組屋敷の門に突っ込んで、ボロボロになったタクシーを運転する、カプト・ドラコニスの姿があった。

 ドラコニスの胸ポケットには、極楽号新規クルー募集のチラシが入っている。

 カプト・ドラコニスは、操縦者募集の実技試験会場へ向かっている途中だった。

「おもしろくなってきやがった」

 進行方向の道端に、流しのタクシーを拾おうと手を挙げている成人女性の姿がドラコニスの目に飛び込んできた。

(どうせ同じ進行方向だ、虫喰い星での最後に拾う客だ)

 ドラコニスは、女性の近くに停車する。

 銀髪の前髪が細いスダレのようになっていて、頭にロップ種ウサギの垂れた疑耳が生えている種族の女性だった。

 船のでっかいイカリに付いたボールチェーンの先に、ドクロの模様が浮かし彫りされた人の頭以上の大きさがある、金属球がつけられた武器を持った奇妙な女だった。

 ドクロ模様の金属球は壁にブチ当てれば、ドクロの顔模様に凹みそうだ。

 後部座席に座ったロップ種ウサギ擬耳の女性客に、行き先を訊ねるドラコニス。

 女性客はドラコニスが持っているのと同じ、募集チラシを見せる。

「そこに書いてある実技試験会場へ──『防衛・迎撃班』の責任者を募集しているから喧嘩なら、あたしにも自信がある」

「なんだ、オレと行き先は同じか」

 タクシーを発進させて、運転するカプト・ドラコニスが女性客に話しかける。

「あんたもレオノーラさまの極楽号クルー希望者か──オレは衛星級宇宙船操縦希望の竜頭種族、カプト・ドラコニス……あんたの名前は?」

「月華……『鉄ウサギの月華』」


 緒羅・レオノーラを中心に【極楽号】の歴史も動きはじめた。


【虫喰い惑星】からの序曲~おわり~

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