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赤いガイコツ傭兵✕マオマオくん裏地球に……✕銀牙無法旋律ブルーローズ  作者: 楠本恵士
『赤いガイコツ傭兵【カキ・クケ子姉ちゃん】東方地域の歩き方』第一章
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「どうりゃあぁぁ! よっしゃ! ダンジョン攻略、アイテムゲット! 装備完了……うわぁ! いきなりトラップにハマって死んだ?」

 職場の煩わしい人間関係やら、理不尽な労働時間のなんやらが原因で彩夏(さいか)が、やっと就職できた仕事を辞めて数ヶ月が経過した。


 毎日、自分の部屋でゲームを朝から晩まで続ける生活……『しょーもない理由で異世界に転生した勘違い無双チートの、腐れ悪役令嬢や腐れ勇者の集団を撲殺して退治していく人生ゲーム』をプレイしながら、彩夏はタメ息を漏らす。

(はぁ……あたし、いつまでこんなコト続けているんだろう)

 なんとか行動を起こさないと、仕事を見つけて働かないといけないのは、彩夏本人も頭ではわかっている──わかってはいるのだけれど、心と体に動く気力が出てこない。

(心………折れちゃったな、なんとかしなきゃいけないけれど……気力が出ない焦れば焦るほど)


 一日が過ぎ、二日が過ぎ……今日は、明日は仕事を探そうと思いつつも、一日が過ぎていく。

(辛いなぁ……それにしても、このゲームの内容、制作者の悪意を感じる)

 彩夏が『腐れ悪役令嬢&腐れ勇者撲滅ゲーム』の最後の一人を徹夜で追い続け、ラスボスを釘を打ち付けた木製バットで葬り去りゲームクリアーして……明日こそ仕事を探そうと、立ち上がって一歩踏み出した彩夏は、何か柔らかいモノを踏みつけた。


「ぎゃあぁ! 踏み潰されるぅ!」

 足下を見ると、メキシカンヒゲを生やして白いTシャツと、膝上丈までのハーフパンツを穿いてビーチサンダル姿の小人の男を彩夏は踏みつけていた。

(あたしの部屋に、ちっちゃいオッサン?)

 彩夏は自分の汚部屋を見回す、スナック菓子の空き袋とか空き缶が散乱している乙女の部屋。

(何か食べ物でも漁りに現れたのかな……ちっちゃいオッサン)


 彩夏は、ちっちゃいオッサンを逃がさないように注意しながら、捕まえて観察する。

 Tシャツにハーフパンツ姿の、貧相な人相をしたちっちゃいオッサンは、手足をプラプラさせたグッタリした様子で彩夏に握られていた。

「死んじゃったかな?」

 半分白目を剥いて、弛緩している、ちっちゃいオッサンが着ているシャツには達筆な墨字で『負けたら働く』の文字が。

 彩夏が、もっとよく観察しようと顔の近くにオッサンを持ってきた。

 その時──死んだフリをしていたオッサンの目がギョロと動き、どこに隠し持っていたのか魔法使いが所持している杖の先で、彩夏の鼻先を突いた。

「かかったなぁ! おまえに決めた!」

 

 彩夏の体が光りに包まれ、彩夏は異世界【異界大陸国レザリムス】東方地域のとある村にある、礼拝堂にジャージ姿で召喚された。

 石の床に描かれた、お決まりの光りの召喚魔方円の中央に立った彩夏の目に最初に映ったのは、金色に輝く巨大な 涅槃(ねはん)豚像の顔だった。

 頬杖をした巨大な横臥の豚像はヘルメットのようなモノを被っていて、頭の左右に牛のような長い角が生えている。


 彩夏が視線を移すと、膝座りをした村人のような人々が、彩夏に向かって両手を合わせて祈っているのが見えた。

「ありがたや、ありがたや……異世界から、魔勇者を倒してくださる方が、召喚された」

 なぜか、言葉が理解できる村人から少し離れた場所の柱に背もたれ座っていた、メキシカンヒゲの男が酒のようなモノが入った酒盃の液体を飲み干し立って言った。

「やっと来たか、アチの世界でオレの分身が見えた者だ……期待通りの働きをしてくれるだろう」

 男の着ているTシャツには墨字で『負けたら働く』の文字が。

 ちっちゃなオッサンと同じ姿をした、メキシカンヒゲの男が彩夏に訊ねる。

「言葉はわかるか? 召喚で体の欠けた部分はないか? 一度、分子レベルまで分解して連れてきたからな」


 彩夏は、キョロキョロしながら男の質問に答える。

「なぜか、言葉わかりますけれど……ここは、異界大陸国レザリムスのどこの町なんですか? えっ、なんであたし……自分がいる場所を理解して?」

「よしよし、召喚時に植えつけた最低限の知識も生きているな、科学の勝利だ……考えるな、感じるんだ。科学召喚は従来の魔法召喚と異なり、自分がいる異世界の知識を得る煩わしいステップを省略化できる利点がある、それがレザリムスでは主流になりつつある科学召喚の標準装備だから」

「はぁ?」

 男が言う科学召喚とは、データベース化したレザリムスの知識を分子分解して人間を召喚する際に、同時に植え込むコトができるらしい。


 彩夏の頭の中に、徐々にレザリムスの知識が浮かんでくる。

 彩夏のいた世界が、レザリムスでは『アチの世界』と呼ばれ。

 彩夏が今いる東方地域が特に、アチの世界との文化交流が盛んな地域だと知った。

「この世界って、携帯電話とかパソコンは基本使えないんですね……発電は発電生物の発電力だけで、一般には広まっていない」

「まぁな、アチの世界の人間からしてみたら不便さはあるだろうが。慣れれば案外快適な生活ができるぞ……レザリムスの生活に支障が出ない程度の、基本的な異世界知識は整ったようだな。

あとは、おいおい知識を得ていけばいい」


 彩夏は、自分に向かって手を擦り合わせている村人と『負けたら働く』Tシャツを着ている男について質問にしてみた。

「で、ここにいる人たち何? あなた誰?」

「そこからか! この姿を見てわからないか」

「わからないから、聞いているんですけれど」

「しょーがないなぁ、まぁそういう知識は伝えないとダメか」

 男はハーフパンツのポケットから取り出した、ソーセージを食べながら答える。


「オレは偉大な『召喚請け負い業者』だ、依頼を受けてアチの世界から必要な人材を連れてくる、他の魔法召喚者と異なり、最新の科学召喚を行う……おまえは、召喚された。そして、ここにいるのは召喚を依頼した村人たちだ」

 村人たちは、彩夏に向かって。

「ありがたや、ありがたや」と、手を合わせ続けた。

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