【瑞祥】あなたのハートに……【漫才】
「はいどうも! みなさんに、ほのかな幸せと、楽しい時間をお届けしたい! 〖瑞祥〗で~す」
「いやいや! “ほのかな”幸せってどんなんよとか、お届けしたいってやっぱり希望なのかよとか、今回も言いたい事盛り沢山で始まった訳なんだけど」
「え? じゃあ、ささやかな幸せはいらな――」
「はいそのフレーズは前使ってますよ~。 お笑いの場ではそう言うのを天丼って言うんですよ~」
「……はぁ」
「なんでそんな深いため息をついたのか、教えて貰っていいかな?」
「――ウケなければ、天丼にならないのでは?」
「……すっごく的確に急所突いて来るのやめてくれない?」
「とまぁ、そんな私はアサシン担当の瑞姫です!」
「いや、聞いて!? って言うかアサシン!? 暗殺者なの!? こんな賑やかな奴に務まる職業じゃないと思うんですけど!? ……と……いつも相方に振り回されてるツッコミ役な祥子です」
「「よろしくお願いします」」
「って言うかさ、前回がクリスマスで、今回の決勝がバレンタインな訳だけど――」
「ん?」
「世のリア充がキャッキャウフフしてる中、女二人で漫才してるって、どう思う?」
「……せっかく考えないようにしてたのに、アンタの言葉で一気に現実に戻された感じするわ」
「せめて祥子が男なら、夫婦漫才って事で気を紛らわせたんだけど」
「こう言っちゃナンだけど、仮に異性だったとしても、付き合うとかは絶対に無かっただろうけどね」
「え? ……なんでそんな酷い事言うの?」
「いや、酷い事って言うかさ、毎回毎回アンタに振り回されてる私としては、今の距離感が丁度良いわけで。 これより近くなったら、私の胃がもたない気がするんだよね」
「つまり今の私は、握り潰さない絶妙な力加減で、上手く祥子の胃袋を掴んでる状態、と」
「違うよ!? “胃袋を掴む”って言うのは、料理の腕で相手を虜にするって感じのニュアンスであって、鷲掴みにして胃の生殺与奪を握ってる状態ではないからね!?」
「……あれぇ?」
「『あれぇ?』じゃねぇわ! 嫌だろ、そんな胃に穴が開くか開かないかのギリギリを攻めてくる恋人!」
「んー、でも……」
「……なに?」
「自分が攻める側なら別に良いかなって」
「む゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
「まぁ、それはさておき」
「さておきっ!?」
「せっかくバレンタインだから、練習しときたい事があるんだけど」
「……練習? 一応聞いてあげる。 何?」
「ほら、私ってさ、料理とかお菓子作りもそれなりに出来て、手作りって言うと大抵『欲しい』って言われてたから、今まであんまり気にしなかったんだけど――」
「あ~はいはいそうね。 何させてもそれなりの成果を挙げるせいで、一緒にいる私まで『出来るんでしょ?』みたいな目を向けられて、何度友達やめようと思った事か」
「え? ……なんでそんな酷い事言うの?」
「そのセリフ、さっきも聞いたわけだが! 同じネタを何度も――」
「ウケなければ、天丼にならないのでは?」
「分かってるんならやめない!? 私のメンタルがそろそろ限界来そうなんだけど!? ……とりあえず、それで?」
「あ、うん。 だから、バレンタインでもチョコを作ったりするんだけどさ。 受け取って貰えるかなぁ、とか考えると中々渡せなくて、結局自分で食べちゃうんだよね」
「あぁ~、渡す勇気が出せない、的な感じか」
「そうそう。 だから、渡す練習してみたいな、って」
「なるほどね。 なんでもそつなくこなす瑞姫にも、そう言う乙女な部分があった事に、そこはかとない安心感が湧いてくるわ。 オッケー、付き合うからやってみ?」
「ありがと。 じゃあさっそく、祥子は私が手紙で呼び出した男役ね」
「あ、今回はちゃんと設定言ってくれるんだ。 了解」
「………………」
「――? ………………」
「カーット! 待って待って、何で遅れてきた彼がずっと無言で立ってんの!? 『遅くなってごめんね』くらい言ってくれないと、始めるタイミング判らないじゃん!」
「いや、アンタが待て! 『急に呼び出してごめんね』って感じで始まるパターンじゃないの!?」
「当たり前でしょ。 何で呼び出した側が後から来るのよ」
「当たり前じゃねぇわ! 主張が正しいだけに余計腹立つけど、そう言う部分を先に説明して!?」
「もう、注文多いなぁ……それなら――遅くなってごめんね、来てくれてありがとう」
「む゛ぁ゛ぁ゛あ゛! ……ううん、いいよ、どうしたの?」
「ほら、今日、バレンタインでしょ? だから、祥君にも渡したいなと思って」
「……う~ん、ちょっと待った。 本命の相手に手作りチョコを渡す練習なんだよね?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、祥君に“も”ってのは止めた方がいいんじゃない? みんなにも同じように渡してるんだ、って思われそうだけど」
「え? でも、急に手作りチョコを、『あなただけのために作りました』って重くない?」
「……あ~、そう言う事ばっか考えちゃって渡せなくなるパターンかぁ……。 別に『あなたのために』じゃなくて、『練習で作ったんだけど、よかったら食べてみて』とかでも良くない?」
「祥子、ホントにそれで、相手に私の気持ち伝わる?」
「え? いや、まずそもそも渡せなかったら意味無いじゃん」
「ん~、まぁいいか。 じゃあ続き続き」
「…………。 え~マジで? 今年は家族チョコだけかと思ってたから嬉しい!」
「ちょっと祥子! 私が好きになった人が、誰からもチョコ貰えないような非モテなワケないじゃん!」
「だぁぁぁぁ! もぅ面倒臭い女ぁ! 練習なんだから一々そんな所に突っかかってくんな!」
「いや、どんな人かは大事でしょ! リアリティがない、ただやってるだけの練習に何の意味があるの?」
「さっきから言ってる事が中途半端に的確で反論しにくいせいで、私の胃へのストレスがマッハなんですけど!?」
「……大丈夫? 取り敢えず痛み止め飲む?」
「そこはせめて胃薬にしない? まだ痛め付ける気なの?」
「まぁそれは置いといて、取り敢えずチョコ渡すね。 はい、これ」
「置いとくなよ! もうちょい相方を労ってよ! …………チョコ、ありがとう」
「可愛い入れ物でしょ? ハート型の箱を貫く矢が、私の気持ちを表してるの」
「矢が入れ物を物理的に貫いてる時点で狂気しか感じないんだけど!?」
「ちゃんと体の正面で開けてね? そうすれば飛び出した矢が、あなたのハートにドッスン♡」
「ちょっと待って~。 ハートを撃ち抜く描写で使うのって、“ずっきゅん”とかじゃない? “ドッスン”はなんか生々し――」
「矢を発射した後は、自動で燃え上がって現場もろとも証拠隠滅できる優れもの!」
「待て待て待て~! それじゃ告白道具じゃなくて、暗殺道具みたいになってるから!」
「え? だって私って、〖瑞祥〗のアサシン担当だから、ちゃんとそれっぽいアピールしとかないとキャラがブレ――」
「――〖瑞祥〗は殺人集団じゃないわぁ! って言うかさ、何でアンタが考えるキャラ設定、そんなんばっかなの!? 普通じゃダメなの!?」
「設定とか言わないで欲しいんだけど」
「いや、毎回アンタが自分で言ってんだわ、キャラとか設定とか……」
「分かってても人から言われるとイラッとしない?」
「む゛ぁ゛ぁ゛あ゛! もぅさっきから、胃に穴開いて吐血して死にそうだわ!」
「何も使わずにターゲットを消す、これぞ暗殺の極意!(キリッ)」
「相方を暗殺しようとすんな!」
「いや、だって今回はそう言う設定なので」
「結局設定って言ってるぅ! もういいよ!」
「「ありがとうございました」」