いや、もう袋から出てるから
私はアルバイトをしている。登録をしておいてお呼びがかかれば出動する。スーパーやデパ地下で試食販売とか詰め放題の見守り役とかをする。
年に一回のブラックフライデー。私にお呼びがかかった。出動先は某デパート。どうやら各フロアで詰め放題をするらしい。私は出動することにした。
私が一日目に配属されたのは、デパ地下にあるお茶屋さん。普段、店の前は閑散としている。お茶なんて、そうそう買うものじゃないしな。
そのお茶屋さんでは、今日、玉露の茶葉、詰め放題が催される。普段一包が五千円近くする商品が今日は、二千円。しかも詰め放題とあって、店の前には行列ができていた。
私はその行列に整理番号を配布したり、レジを打つ作業を担当することになった。詰め放題のどこまでを可とするのかの判断は難しいため、お茶屋さんの店員がそこは対応する。
詰め放題と聞くと人間は豹変する。少しでも多くという本能が働くのだ。
案の定レジから詰め放題に群がる人々を見ていると、いやいや、もうアウトでしょ! というくらい入れているおばさま方がいた。
渡された袋に、もはや入り切らず、袋の上に茶葉の山ができている。私は完璧にアウトだと思うが、店員は気前よくオッケーを出す。このお茶屋大丈夫なんだろうか? と心配しながら初日を終えた。
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二日目配属されたのは、昨日と同じく地下にある食料品売り場だった。そこでは、にんじん詰め放題が催されていた。確かに野菜は値上がりしている。にんじんも然りだ。
詰め放題開始前には老若男女問わず、三列に連なる行列ができていた。
スタートと同時に三人ずつ向かい合って、黙々と白いビニール袋に、にんじんを詰めていく。私は昨日と同じようにレジ前でスタンバイしていた。
にんじんに群がる人だかりを横目に「馬じゃないんだから」と軽くツッコむ。にしても、みんなにんじんを上向けたり下向けたりしながら器用に詰めていく。
あっというまに袋からはみ出し、それでもなおパズルゲームのように積み上げる。
レジで、にんじんがパンパンに入った袋を受け取りながら「こんなに、にんじん食べる?」と思う。
――カレー、シチュー、肉じゃが、煮物
にんじんを使うレシピを考える。ここにいる人は、今日からメインがにんじんの料理を食べるのだろう。
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三日目配属されたのは、八階にあるスポーツ用品を扱うフロアだった。今日はゴルフボールの詰め放題だ。普段なら四球で二千円の品物が詰め放題。
数人の男性が列を作っていた。私は今日も安定のレジ担当。
男性は詰め放題と聞いたら、女性ほど血が騒ぐのだろうか? そう思いながら順番に詰め放題にチャレンジする男性に目を向けていた。
三十代と思しき男性。妻とベビーカーに乗った子どもを連れてご来店。
「邪魔しちゃだめよ!」と妻がベビーカーに乗る子どもを諭している。子どもは退屈しているらしく、父親が慎重に積み上げている横でゴルフボールを掴んで投げる。
「ちょっ! 触ったらダメ!」
男性も子どもに注意する。初日のお茶の山、昨日のにんじんの山と同じように今日は袋の上にゴルフボールの山ができている。男性の記録は二十一個。最高記録だった。
次に詰め合わせにチャレンジしたのは、七十代と思しき男性。袋の八割程入れたところで
「欲張らず、これくらいにしておきます」
と店員に告げた。なんと謙虚! 戦後のもののない時代を生きてきたからか。そんな高齢男性に対し店員は
「もっと入れて頂いて結構ですよ」
と言っている。男性は遠慮しながらも、袋いっぱいには詰めた。記録は十四個。
「ありがたいねぇ」
と帰って行く男性の後ろ姿は、仏様のように後光に輝いていた。
そんな遠慮がちな人は稀にいるが、ほとんどの人間は詰め放題と聞くと、もはや袋からはみ出ていようが、袋が裂けなければ、もしくは袋から出た分の商品が溢れなければ、オッケーと思っていることを学んだ。
人間って欲深い……
読んでいただきありがとうございました。
今年のブラックフライデー、みなさんは何か購入されましたか?




