5 皇子様の休日
先程、間違って4話を2回投稿してしまいました。
すぐ消したのですが、失礼しました。
それから暫くして、リューイと外出することになった。
例の保護区という所らしい。
仲間2人も一緒だ。
リューイは朝からご機嫌で、私を触りたそうにウズウズしてる。
嫌だな、鬱陶しいな。
手を広げて「おいで」みたいにしてきたけれど、無視して自分から籠の中に入った。
着いた所は、動物がいっぱいいる所だった。
ケガした動物や、人間に虐められた動物、自分では生きていく事が出来ない生き物達。
人間に捕まった森の出身だという子もいた。
あまり遠くに行くなよ、というリューイの言葉を再度無視して、木に登ったり走ったりした。
「あなたがアリス?」
不意に、馬に声を掛けられる。
「何で、私の名前を知ってるの?」
「あら。ごめんなさいね、急に話しかけて。私はメル。ここに来て長いの。あなたの事はリューイから聞いたわ」
「メルも人間と話せるの?」
「いいえ。リューイは、私達の様子を見によくここに来るのよ。そして色んな事を話してくれるの。私達は人間の言葉を話せないから、ただ聞いているだけだけれど」
メルは笑った。
「ここにいる者達は、皆リューイに助けられたのよ。元気になって生まれ故郷に帰った子もいるわ。皆、リューイが大好きよ」
「嘘!リューイは悪い人間よ。シャラを、ドラゴンを殺したの!」
メルの言葉に思わず大声を上げた。
メルも騙されたの?人間は嘘をつくのが上手なんだ。
あぁ、とメルは呟いて遠くを見た。
「聞いているわ。あなたの育て親でしょう?ドラゴンを倒す事をリューイも悩んだのよ。よくここでブツブツ言っていたわ。母の恩人なのに、って」
「母の恩人?」
「聞いてないの?10年くらい前かしら?リューイのお母さんが病に倒れてね。ドラゴンの涙で治るっていう話を聞いて、死を覚悟の上、1人で取りに行ったらしいのよ」
そんなの、知らない。
リューイは勿論だけど、シャラからだって聞いていない。
「その時ドラゴンに会って、涙をもらってーその時約束したんですって。ドラゴン亡き後アリスを守るって」
「だったら、どうして、もう少し生きられるシャラを殺す必要があったの?恩人なのに?」
「だって、ドラゴンが瀕死になったら、誰でも簡単に倒して核が手に入ってしまう。悪い人間の手に渡ったら困るでしょう?」
ねえ、メル。
人間は悪い奴ばかりなんだよ。
いい人間なんて存在しないんだよ。
「リューイは悩んで、決心して、努力して強くなったのよ。実力でドラゴンに勝つために。そして認めて貰うために」
人間は嘘つきばかりなの。
約束を守る人間なんてこの世にいないの。
そう言い掛けて、止めた。
「それにね、リューイはあなたに会うのを楽しみにしていたのよ。…昔、助けた猫がすぐ死んでしまってね。彼女はもう、手遅れなくらい病気が進行していたんだけれど、リューイは、自分が気づけなかったせいだって。だから人と話せる猫なら病気を分かって上げられるって…」
リューイを見た。羊を撫でている。
私に気づいて大声で叫んだ。
「日が暮れる前に帰るぞ」
はぁ、仕方がないな。
私は声の主の元へ走った。
走る後ろからは、メルの声が聞こえた。
「リューイに伝えてあげて。彼女、マイアは短い間だったけど幸せだったよって」
リューイの元には、仲間2人が既にいた。
開けてある私の籠を無視して、リューイの腕に飛び乗る。
「えっ…」
驚いたように、リューイが呟いた。
そういえば、シャラの背中にもよく乗ったのを思い出した。懐かしいな。
あのね、籠の中って狭いの。ただそれだけ。
「リューイ殿下?勘違いすると悲劇だからね。気まぐれだから」
「…分かってる」
帰り道。
久しぶりに走り回ったせいか、不覚にも人間の腕の中でウトウトしてしまった。
私が落ちないようにか、しっかりと抱き抱えている。
リューイは、メルが言っていたようないい人間ではない。変わった人間なのだ。
「リューイ殿下」
甲高い声で目が覚めた。
気づくと、私達の周りを複数の人間の女が群がっている。
「こんにちは、ご令嬢方」
「お会い出来て嬉しいですわ」
「そうですわ。最近はちっとも社交の場にもお顔を出して下さらないし」
「次の夜会にはぜひともいらして下さいね」
人間の女達が更に距離を詰めてきた。
目はギラギラしているし、息は荒いし、怖い。
そして嫌な匂いがする。
「あら、この猫は?」
「あぁ、最近保護した猫ですよ」
「相変わらずお優しいのですね、殿下は。素敵ですわぁ」
「まぁ可愛い。まだ子猫?成猫じゃあないですわよね?」
高い声を上げながら、手を近づけてくる。
「ご令嬢、まだ人に慣れていないので…」
リューイが何か言いかけたが、人間の女が私の体に触れる。
その瞬間、嫌悪感が身体中に広がって、思わず暴れてしまった。
「アリスっ、落ち着け」
リューイの腕から地面に落ち、見上げると沢山の人間。
人間。嫌だ、怖い、気持ち悪い、嫌い。
パニックになった私は、人間のいない方へ逃げようと走り出した。
「危ない!」
リューイの言葉に顔を上げると、馬が私に向かって走ってきていた。
あ、ぶつかる。
思ったが、もうどうしようもない。
ここで死ぬならシャラと一緒が良かったな。
と思った瞬間、体がフワリと浮いた。
リューイが私を抱き抱えつつ、馬の動きを魔法で止めたのだ。
「リューイ殿下!お怪我は!?」
「殿下!!」
「キャーッ!殿下!」
「申し訳ありません、私が触ったから…!」
一斉に周りがざわめく。
その声と、雰囲気にまたパニックになりそうになる。
「大丈夫だ。騒ぐな。またアリスが逃げる」
私が逃げないようにか、強い力で抱きながらリューイが言った。
「籠を」
リューイの言葉に、ジルベールが籠を持ってくる。
その中に私を入れた後、上から結界を掛けた。
「私のミスだ。人の多い中では、この様な事はあり得ることだったのに。判断を誤った」
「で、殿下…っ!申し訳ありません、わ、私のせいで」
馬を操っていた人が、真っ青な顔をして近寄って、頭を下げた。
「問題ない。日頃訓練で鍛えている。それよりも馬は、大丈夫か。急に動きを止めてしまったが」
「っ、はい!申し訳ありません…」
馬を見た。大丈夫だ、といっている。
気にしているなら、後で教えてあげよう。
「リューイ殿下」
ゼフィーが近寄って、リューイに耳打ちした。
今しがた皇太子殿下に呼ばれました、と。
リューイは舌打ちしながら私をじっと見た後、ジルベールに渡した。
「ジルベールはアリスと先に行ってくれ。ゼフィーは私と共に。…ではご令嬢方。私はこれで」
そう言うと、何事も無かったかの様に仲間達は解散した。