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19 皇子様と猫



 人間の掟はとても細かい。


 リューイと結婚するにあたって、紙に自分の名前を書かなければならないらしい。

 以前、リューイに言われて1枚の紙に私の名前を書いた。

 とりあえず試し書きといわれたそれは、大きくヘンテコな字になった。

 リューイの綺麗な字とは違う。


 私は字を読むことは出来るが、書くのは出来ない。

 リューイが仕事に行っている間に、一生懸命、名前を書く練習をしていた。



 「可愛い…」

 

 いつの間にか、後ろにいたリューイが耳元で囁いた。


 「ひゃっ、くすぐったいよ」


 リューイの吐息がかかり、びっくりして肩が上がる。


 「字を書く練習していたのか?」


 言いながら、肩を抱き耳朶をはむっと噛んでくる。


 「そうだけど…リューイ邪魔だよ。書けないよ」

 「いや、可愛いすぎて」


 リューイの可愛い基準が分からない。

 下手くそな字で、自分の名前を書いていただけだ。

 

 「もう仕事終わったの?」

 「あぁ。今日は早く終わらせた」

 「ふぅん」


 ペンを持つ私の手に、リューイが上から手を重ねてくる。

 そして、私の名前の隣に自分の名前を書いた。


 「あっ、リューイの名前」


 振り返ろうとすると、リューイの顔がすぐ近くにあった為、キスをしてしまった。

 私が逃げないようにか、そのまま後頭部を抑えて深くキスをしてくる。

 

 「んっ…」


 吐息が漏れる。

 口の中で、リューイの舌を感じる。

 力が抜けて溶けてしまいそうで、私は必死にリューイの首にしがみついていた。

 可愛い、とリューイが小さく呟く。


「…不仲だと思われないように、仲良くしないと」


 そう言って私を抱き抱え、ベッドへと運んだ。


 「えっ。でも今、誰も見てる人いないよ?」

 

 返事の代わりのように、リューイは唇を重ねた。

 そして、服の中に手を入れてきて、背中をツーと指先でなぞる。


 「ひいいっ」


 全身がゾワゾワする。 

 背中を仰け反らせて逃げようとした。

 が、リューイは私を掴んで、それを許さない。


 「くすぐったいよ、リューイ」

 「本当に可愛いんだよな。じゃあここは?」


 そのまま、脇腹から脇を撫でる。

 

 「ひゃぁっ、く、くすぐったいって!」

 

 私を見て、リューイはニコニコしてる。

 リューイがヘン。やけにご機嫌だ。


 「あっ、リューイ、酔っ払いに、なってる?お酒、飲んでるの?」

 「そうかもしれないな。酒は飲んでないが、可愛さに酔った」

 「ええっ!?」


 紐を弛めたので、服がゆるゆるになった。

 リューイの指が服の中で動き回る。

 まるで、私の身体に字を書くみたいに。

 合間に何回もキスをする。


 くすぐったくないわけない。ん、どっち?

 何回もキスするから、リューイの酔いが移った。

 だって上手く考えられない。

 

 「くすぐったい?」


 リューイの言葉にコクコクと頷くと、


 「では、こうすれば大丈夫」


 と、唇を重ねる。

 何にも解決になってない。

 

 「…っ、……ん」

 「こうしてキスしていると、余計に酔いそうだ」

 

 リューイはクスクスと笑った。

 そして、顔を近づけてきて、何度目かの口づけをする。


 「気持ち良くて忘れそうだから、先に渡しておく」

 「んっ、…えっ?」

 

 リューイは体を起こすと、ポケットから指輪を取り出した。

 

 「頼んでいたものが出来たんだ。だから早く帰ってきた」

 

 そう言って、私の指にそれをはめる。

 そのまま口づけをし、魔力を吹き込んだようだ。

 

 「私のも、アリスがはめてくれ」

 

 ニッコリ笑い、指輪と手を差し出してくる。


 「…っ、う、動いたら、駄目だよ、」


 力の入らない手で、何とか指輪をはめる。

 リューイは少しの間指輪を眺めていたが、暫くして自分の指を、私の指輪をはめた方の指にからませた。





 「ついでに婚姻届けも出してきた」



 リューイが私の服も髪も整えてくれた。

 そして、何事もなかったように一緒に夕飯を食べている。

 一体、なんだったというのだろう。


 「婚姻届?」

 「前、名前を書いてくれただろう?」

 「試し書き?」

 「そう。上手に書けたから、それを提出した」

 「えっ。あれ上手じゃないよ。だから今練習してるよ」

 「構わない」


 ニコニコしてる。

 今日のリューイはとにかく上機嫌。


 「婚姻届出すと、今と変わる?」

 「そうだな、何も変わらない」

 「変わるわよ!!」


 部屋の外から声がして、バーン!と乱暴にドアが開く。

 早歩きで皇后様が入ってきた。

 こんな余裕がない皇后様は初めてみる。


 「やってくれたわね!勝手に婚姻届を出すなんて!」

 「勝手ではありません」


 リューイが涼しい顔をして、グラスに口をつけた。

 いつもと立場が逆だ。


 「全ての許可は貰ってあります。正式な結婚です。これ以上やることは何もありません」

 「…やるわよ!」

 「嫌です」

 「やらなければ認めないわよ!」

 「皇帝陛下の許可はとりました。あなたの許可はいりません」

 「絶対にやるわ!結婚式を!アリスちゃんの一世一代の可愛いウェディング姿を見るのよっ!」

 「何故そんな事をしないといけないんです?」

 「可愛いアリスちゃんを皆に見せびらかしたいからよ」

 「それが嫌なんです。わざわざ私以外の男が見る必要はない」

 「器の小さい子ねぇ」


 2人言い争ってる。変わらない光景。

 確かに、婚姻届を出しても何も変わらない。


 「結婚式をしたら、1週間の休暇をあげるわ。新婚旅行よ。どう?」


 リューイの動きがピタリと止まった。

 皇后様は続ける。

 

 「団長抜きでもモンスターに勝てるようにならないとね。丁度いい機会よね。皇帝陛下にもそう進言するわ」

 「1週間、こちらには一切係わらないと」

 「誓うわ」

 「…宣誓書を」

 「勿論よ」


 皇后様はニッコリと笑うと、紙にサラサラと綺麗な字を書いていく。

 次にリューイがそこに名前を書いた。


 「アリスも名前を書いてくれ」 

 「分かった」 


 あっ。

 一生懸命書いたが、はみ出してしまった。


 「…可愛いな」


 リューイが小さく呟く。

 えっ。ま、また!?

怖くて、リューイの方は見ないように皇后様に聞いた。


 「皇后様。結婚式って何をするの?」

 「アリスちゃんは、黙ってニコニコしていればいいわ」


 皇后様はそう言うが、それだけで終わった事はない。

 人間になって学んだ。







 結婚式の準備は大変だった。

 白くて裾の長いドレスは歩くのも大変で、毎日歩く練習をする。

 他にも、どんなドレスを着るのか、何回も試着させられた。

 

 「やだわ、どうしましょう。全て似合いすぎて…!100着全部着ましょうね」   


 皇后様とカラが騒いでる。

 正直どれでもいい。


 覚えることもいっぱいあった。

 覚えられるかな。

 アリスちゃんは間違えたってニコニコしていれば大丈夫よ~と、皇后様は言うが騙されない。





 「アリス。1週間何処へ行きたい?」


 昼の休憩時間。

 リューイがご機嫌で聞いてくる。

 反対に、ゼフィーとジルベールは機嫌が悪い。

 何でこっちに仕事を回すんだ!と怒っている。


 旅費は皇后様が出してくれるらしい。

 前の私のお仕事したお金だと言ってた。

 

 「メルの所」

 「そうだな。帝都にいると録な事がないから、メルの所へ行ってから海を見に行こう」

 「海?」

 「アリスは見たことないのか?なら、尚更見せたい」


 リューイは優しく笑って私の頭を撫でた。

 嬉しい。


 「一週間、リューイと一緒?」

 「そうだ」

 「ずっと?私が独り占め?」

 「…うん、まぁ…」

 「リューイ、嬉しい」

 「……アリス。そんな可愛い顔で可愛い事を言うな。昼は時間がないんだし、人もいるし」

 「えっ?」

 

 撫でていた手を止めて、私をじっと見る。

 リューイの顔が、唇が近付いてくる。


 「………」


 重なるまであと数センチ。

 の所で、リューイの体が離れた。


 「昼間っから発情してんじゃねぇわ、このクソ皇子!」

 「そうですよ!こっちに仕事を押し付けるからには、出発する1秒前までやっていって下さいよ!」


 リューイが舌打ちする。

 何かが色々限界にきたらしい、ジルベールとゼフィーがリューイを掴んで引っ張っていった。

 それをボーッと見送る私の背後には、いつの間にか皇后様がいる。


 「うふふ、アリスちゃんもよ?式のお復習をしましょうね」






 それから数か月後。


 皇后様待望の結婚式の事は、あまり覚えていない。

 リューイは皇子様で騎士団団長だから、沢山の人間がお祝いに来た。

 私の家族ということになっている、サラ達も来た。

 白い長いドレスはやっぱり歩きにくい。

 リューイに支えられて、何とか転ばずにすんだ。

 とにかく大勢の人間が私を見る。

 その様子に、皇后様はご機嫌だった。

 

 皇太子は私を見て不敵に笑うだけ。

 カラとゼフィーとジルベールは「あんなに問題児だった殿下がこんなに大きくなって」と泣いている。

 結婚式自体は、多分間違えずに全部出来たと思う。

 

 感想としてはそれくらい。

 それよりも、久しぶりに会えるメルと初めて見る海にワクワクしていた。






 「メル!久しぶり」


 ギュッと抱きつく。

 メル元気そうだけど、年をとった。

 動物達は人間よりも寿命が短い。

 メルも、犬も猫も、皆。 

 だからいっぱい会いたい。

 いっぱい色んな事話したい。


 「昨日ね、結婚式っていうのしたの。リューイと結婚したんだよ。私はね、妻なの。妻は夫とずっと一緒にいて、ずっと愛するんだって。皆の前で誓ったよ。そんなの当たり前なのにね」


 メルからの返事はない。

 でも、私は知っている。

 メルはちゃんと私の話を聞いている。

 だからいっぱい話すんだ。


 「今からね、海を見に行くの。私見るの初めて。池より大きいんだって、リューイが言ってた」


 リューイを見ると、遠くの方で犬と追いかけごっこしてた。


 「あのねメル。いつかリューイとの子供が産まれたら、メルに見せにくるね。だから、健康で長生きしてくれる?」


 その瞬間、メルが左足を高く上げた。

 それは、メルとした2人の秘密の合図。


 『合図を決めましょうか』

 

 人間になる事に不安だった私にしてくれた、メルの優しい約束。


 『当たり前よ、勿論よって言うときには、こうやって左足を高く上げるわ。そうしたら、人間になったあなたとも会話が出来る』



 「メル、大好きだよ」


 人間は動物には表情がないって言うけど、そんなの嘘。

 だって、メルはこんなにも笑っている。


 「アリス。遅くなる前に行くぞ」


 遠くから声がする。

 メルに別れを告げて、リューイの元へと走った。


 「リューイ、大好きだよ」

 「どうした、突然」

 「突然じゃないよ。いつも思ってるよ」

 「……だから、昼間から可愛い顔で可愛い事を言うなと…」


 そう言いながら、リューイは強く私を抱きしめてキスをした。


何とか完結出来ました!

読んで頂きありがとうございます!

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