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18 妻の条件



 私達は1度家に戻り、今回はちゃんとゼフィーに告げてから、森へと向かった。

 ゼフィーがお供します、と叫んでいたけど、リューイは無視して、私をさっさと馬に乗せ走り出していた。



 森に着く。

 数ヶ月前と変わらない景色。

 私の生まれ育った場所。

 でも、人間の私にはもう、森の匂いが分からなかった。

 森の仲間も私の事が分からないかもしれない。

 分かってもおしゃべりする事は出来ない。

 人間になるってこういう事。

 理解はしていたけれど、淋しかった。



 「リューイ、こっちだよ」


 リューイの手を取り、迷い無く歩く。

 リューイは、モンスターが現れないか警戒しながら歩いている。

 モンスターにも動物にも会わなかった。

 人間が来たから警戒して出てこないんだ。

 




 暫く歩くと、水辺に着いた。

 そこだけ、木が生えていなくて太陽が優しく降り注ぐ、私の秘密の場所。


 「リューイ、これだよ。青い花」

 「これは…!」

 

 リューイが目を見開いて、その場に立ち尽くす。

 そこには、見渡す限りの青い花が咲いている。

 私の好きな花。


 「綺麗でしょ?私の秘密の場所なんだ」

 「これは、紫青花か…?今は絶滅したと言われている、幻の…綺麗だ」

 

 リューイ、喜んでる。良かった。


 「摘んであげる」


 伸ばした手をリューイが止める。


 「駄目だアリス。摘んだら可哀想だからこのままで見よう」

 「分かった」

 「アリス、この花はとても貴重な花なんだ。人間に知れたら、皆がこの森に入ってきてしまうかも知れない。だから内緒にしてくれ」

 「勿論言わないよ。私の秘密の場所だもん。教えたのリューイが初めて」

 「そうか」


 リューイは、優しく笑うとそっとキスをした。


 「アリス、ありがとう。誕生日に綺麗なものを見せてもらった」

 「どういたしまして」

 「来年の私の誕生日も、この花を見せに連れてきてくれないか?ここはアリスの秘密の場所だから、私1人では来れない」

 「いいよ。毎年連れてきてあげる」


 リューイが喜んでいる姿を見るのはすごく嬉しい。

 不思議なの。

 リューイが嬉しいと私も嬉しい。

 リューイが悲しいと私も悲しいの。

 思わず、リューイにぎゅっと抱きついた。


 暫くして、リューイが言った。


 「アリス、もう1箇所行きたい所があるんだ」

 「分かった」





 リューイに連れられて、着いた場所は見覚えのある場所だった。


 シャラと最後に会った場所。

 シャラとリューイが戦った場所。

 そしてきっと、シャラが死んだ場所。


 「本当はもっと早く連れてきてやりたかったが、アリスがどんな風に思うのかと考えると怖くて…」

 

 見ると、そこには大きな石が置いてあった。

 

 「人間式になってしまうが、ドラゴンの墓だ」

 「墓?」

 「ドラゴンの亡骸をそこに埋めた」


 そっと石に触れた。

 この下にシャラがいる。


 「遅くなってすまない…」

 「ありがとう、リューイ。ここなら陽当たりもいいし、皆いるからシャラも淋しくないね」

 

 冷たい石をぎゅっと抱きしめる。

 

 「アリス」

 「なに?」


 振り返ると、リューイは跪き、すっと私の手をとった。

 

 「ドラゴンの前で、もう1度誓う。必ずアリスを守り幸せにする。…だから…私の、妻になってくれないか?」


 リューイが真剣な目をした。

 でも同時に、リューイがよくする不安そうな顔もする。


 「妻ってなに?」

 「…ずっと私のそばで生きて、私だけを好きでいる唯一の人の事だ」

 「そうなんだ。それなら、ずっと前から既に私はリューイの妻だよ」


 リューイは一瞬動きを止め、それから、掴んだ私の手の甲にそっと唇を落とした。

 

 アリスの返事はいつでも想定外、そう笑いながら。


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