15 人間に、して
静寂の中、リューイの静かな泣き声だけが響いた。
私はリューイの頭を優しく撫でる。
いつも、リューイが私にしてくれるみたいに。そっと。
どの位の時間そうしていたか分からない。
私は決心して口を開いた。
「リューイ、あのね。私を人間にして欲しいの」
ドキドキした。
それは、生まれて初めての求愛。
リューイは、他の人間のメスに求愛されていた時、興味無さそうだった。
交尾に興味無いのかもしれない。
リューイの動きが止まった。
何も言わず、目を大きく開いて私を見る。
「リューイ?」
リューイの手を取り、私の頬へと導く。
すりすりってしたけど、何も言わない。
「私のフェロモン足りないかな?どうしよう。でも今日交尾しないと、分化出来ずに、朝になったら猫のまま死んでしまう気がするの。人間になったら大丈夫だと思うんだけど」
リューイの指がピクッと動いたから、その指を口に入れてペロッと舐める。
「リューイが乗り気じゃなかったら、嫌だけど、皇太子に協力してもらえばすぐに人間になれそうかな」
「…待て」
リューイのそばから離れようとしたら、怖い顔をしながら私をベッドに押し倒した。
手首を押さえつけられる。
「人の思考が追い付かない時に、嫌な人名を出すな」
私を見下ろした。
暫くして、リューイが口を開く。
「人間にしてって、本当に?」
「うん」
「分化すればアリスは死なないのか?」
「多分」
「…アリスに触れても?」
「勿論」
「私の事が、好きだと…」
「大好きだよ」
もう1度、目を見てしっかりと答えた。
「リューイが大好きだから人間になりたいんだよ。リューイに好きだよって伝えたいから人間になりたいの」
死ぬ事も、勿論怖い。
でもそれ以上に、リューイともう会えなくなってしまうことが怖い。
触れることも、話せなくなることも、リューイが泣いてしまうことも、全部全部。
リューイと出会えて話せる事。
それはきっと、シャラがくれたプレゼント。
神さまがくれた奇跡。
「……嬉しい…」
ポツリと呟くと、リューイは私をぎゅーっと抱きしめた。
耳に吐息がかかる。
「嬉しい。本当に本当に。アリスが生きる、それだけで嬉しい」
そう言って、何回もキスをする。
私も嬉しくて、リューイを抱きしめた。
「それで?さっき何か言ってたな?」
暫くしてリューイは顔を上げると、自分の指で私の唇をふにふにと触る。
笑っているのに目が怖い。
「他の男の所に行くとかなんとか」
「…えっ?」
そのまま、指を口の中に入れてきた。
反射的にペロペロと舐めると、リューイは妖しく嗤った。
かなり不定期更新なのに、読んで下さっている方がいてくれて嬉しいです。
評価までしていただきありがとうございます!