ライフワーク
親父さんとフリンの葬式が終わり、僕はフリンの家で一人考えていた。
僕が関わったせいでフリンと親父さんは死んだのか。
僕が関わったせいで街の皆は死んだのか。
僕が関わったせいで船の上の新成人は家族を失ったのか。
僕が関わったせいで………。
この先に為すべき事は決まった。宙ぶらりんだった僕に、新たな目標が出来た。その点だけは感謝しようじゃないか。暗殺組織、潰してやる。
◇◇
まずは情報が必要だ。暗殺組織の名前、構成員、連絡を取りつける方法、戦力、各拠点の分布、そして一人一人の顔と名前だ。関係するすべての人間を殺し尽くしてやる。僕が全て殺してやる。
情報屋にありったけの金を渡し、知りうる限りの情報を調べるように脅した。調べられないなんて事は無い筈だ、命を懸けて調べ上げろ。出来ないのならお前の娘も消してやる、と。
同様の脅しを他の情報屋に仕掛け、僕は街の近くにあるというダンジョンに潜った。力を着けるためだ。一か月を目途に都度情報屋から話を聞くとしよう。
残金ギリギリで干し肉と水の湧く水筒を買い、僕はテント代わりのマントを羽織り地下深くのダンジョンへの階段を降りた。
◇◇
闘うための天恵は幾つかある。剣豪の風もそうだし、暗殺の帳は今後最も重要になると言っていい。ナイフを投げるのも、弓の扱いに関しても狩人の棘が重要だ。
未取得の天恵の内、戦闘行為で有利になるものが幾つかある。天恵神殿の研究で判明して公開されている内容を教えてもらった事があるし、それも把握している。ダンジョンに潜っている内に習得してしまおう。
これからの鍛錬計画を大まかに頭の中で立てつつ、ダンジョンの中を進む。常に【剣豪の風】で周囲の気配を察知しながら進むと、長時間続けるだけで結構な疲労度になりそうだ。だが、これで良い。これを当たり前に出来るようになるまで続ける。僕が当たり前に出来ていればフリンを狙う奴に気付けたかもしれないのだ。そう思うと、己の不甲斐なさにやる気も沸き立つというものだ。
自分でも信じられないくらいのヤル気に満ちて、暴走しないように抑えながらじゃないと冷静にダンジョン攻略を勧められそうにない。地下一階の洞窟階層を抜けて、地下二階の草原階層に辿り着くまで、僕は微かな興奮状態が続いていた。
◇◇
草原階層で夜を迎え、また洞窟階層に戻りダンジョン内部の完全踏破を行う。これは【暗殺の帳】の地形精査能力を有効活用するために行っている。地形精査する事で、視界に半透明な階層の地図が露わになって行くのだ。それで魔獣の位置、詳細な地形などが明確になる。しかもリアルタイム情報なのか、移動し続ける魔獣の速度、場所が手に取るように判る。ダンジョン攻略でも暗殺組織壊滅でも役に立つだろう。
地下一階の洞窟階層の完全踏破を終えて、高級な紙に地形だけ書き写す。この情報は組合に良い値段で売れる。実はこれまでもダンジョンの地図情報は販売されていたのだが、その内容はお粗末な物だった。僕の視界に移っている内容と同じ物ならば、これ以上に正確な情報は無い。最下層まで書き続け、踏破したら売り渡そうと思う。
同じ理由で地下二階の草原階層も書き記した。草原に生えている樹木や、大きな岩場の位置を正確に書けば地図として真面に使えるだろう。馬や牛の魔獣を切り飛ばしながら、切り飛ばした足の肉を焼いて食らう。食料階層と名を変えても良いな。暫くはここを拠点にしよう。岩場を削って岩石洞窟にすれば、寝床も確保できるはずだ。
そうして地下三階に進もうかというところで一か月が経過した。地上に戻って各情報屋から話を聞いた所、それなりに判明した事がある。
暗殺組織の名前:デメント
構成員:各国に数名
連絡を取りつける方法:各国の大きな街に連絡員が居る。
戦力:全員が達人と呼ばれる天恵の位階が7を超えている模様
各拠点の分布:一国の大きな街に必ず存在する
一人一人の顔と名前:不明
この一か月で【剣豪の風】は8に到達した。気配を掴む領域も範囲が倍加している。やれるか。いや、やるんだ。まずはこの街の掃除といこうじゃないか。視界に表示されている8という数字を睨みながら、僕は情報屋の話を聞いていた。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:13歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(閃光の足:練度3/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風8、渇望の本6
妙薬の器4、暗殺の帳7、狩人の棘8
至高の舌2、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾2、暴威の腕1、頑健の腸2
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇
暗殺者の拠点は普通の商店だった。表向きは卸問屋を営み、麦玉等を農家から集めつつ、行商人から細々とした物品を集めつつ、同時に情報の遣り取りも行う。そうした中に暗殺の仕事の遣り取りも行う訳だ。
ダンジョンで得た高価な獲物を対価にそれなりの金額を組合で得た僕は、情報屋に金を渡して暗殺を依頼させた。情報屋に手を出そうとしている僕を殺せと。場所はダンジョンの中で地下一階だ。光る苔がそこかしこに生えているとはいえ、洞窟階層の中は薄暗い。そこで一人、襲い掛かって来た暗殺者を始末した。前回、裏町で戦った相手と比べて弱すぎた。特に成長の糧となる事は無かった。
暗殺者の死体がダンジョンに飲み込まれていくのを確認し、僕は暗殺者の拠点だという商店に忍び込んだ。残っていたのも弱かった。情報の遣り取りだけに終始していたのか、手練れは少ない。いや、手練れではあるのだろうかと思う。ただ、僕よりは弱い。そう感じた。他拠点とのやり取りの形跡も無く、最後に生き残らせた一人を拷問しても、情報は得られなかった。その一人だけ生かし、これまで通りに情報のやり取りを行うように命令した。僕の情報も、この惨状も全て、隠すことなく他拠点に教えるように命令したのだ。
これで獲物が向こうからやってきてくれるかもしれないと期待して。
◇◇
再びダンジョンに潜る。前回のダンジョンアタックでは四つの天恵を新たに得た。
【閃光の足】高速で移動が可能になり、足技を使った格闘技が練達する。
【甲羅の盾】皮膚が硬くなり、理合いを使った合気術が練達する。
【暴威の腕】膂力が上がり、上半身を使った格闘技が練達する。
【頑健の腸】毒に耐性が付き、食べたものを全て吸収できるようになり、回復力が上がる。
これらに加えて天恵【多頭の眼】を習得しようと思う。余りにも天恵の数が増えて、果たして扱いきれるのかと疑問に思ったから。この天恵は並列的な思考能力を得られて、同時並行で天恵を扱える可能性を期待させられる。優先的に上げていきたい能力だ。
それに加えて、このダンジョン内では外と比べて引き延ばされた時間になるという。大昔ほどじゃないが、それでも二倍か三倍には伸びているので、外での一か月が中では二ヶ月から三か月程度の時間を確保できる。この意味は大きい。有効活用していかないとな。
そうして地下二階の草原を拠点に僕はサバイバル生活を続け、天恵【多頭の眼】を取得するに至った。前回のダンジョンアタックと合わせて四ヶ月から六か月はダンジョンに篭もり切りという事になる。地下五階までの地図も完成したし、そろそろ地上に戻って素材換金と情報収集、そして標的が居るのならば狩りに行こう。そうだ。これは狩りの続きに過ぎない。僕のライフワークは暗殺者狩りなのだから。
◇◇
地上に戻ると獲物が三人来ていると聞いた。早速とばかりに情報屋に金を渡して依頼させた。前回とは別の情報屋だ。三人同時に襲い掛かって来たが、常に戦闘状態を維持して生活してきた僕にとっては児戯に等しかった。何の苦労も無く三人の死体を裏町に作ると、その首を組合に提出し報奨金を得た。どれもこれも賞金首だったらしい。暗殺者なのに有名な事だな。
数日後。武器の修繕と、少し小さくなった防具や服を更新してから再びダンジョンに潜った。数か月単位で雑貨類を買い直す僕を雑貨屋は訝しげな眼で見ていたが、それだけ道具類を酷使しているのだから仕方がない。
僕の時間間隔で、あと半年したら十四歳だものな。そりゃ成長もするし、道具もボロボロになるよ。
◇◇
地下二階から地下五階は草原地帯から岩石地帯へと移り変わっていたが、地下六階は岩石砂漠だった。気温が高く湿度が低い。それに加えて植物が少なく、岩場で視界が制限されている。視界が制限されているのは暗殺者向きだ。
所々に高価な薬草が生えているので、それらを採取して休憩中に調合してしまう。別に道具がなくとも妙薬の器があれば軟膏や丸薬を作れてしまうから楽だ。
欲を言えば空を飛べれば次の下り階段まで一直線なのだが、それは完全踏破が終わってからで良いだろう。天恵【天翼の空】を覚えれば、空だって飛べる。最初は空中を歩ける程度らしいけど。
新しく覚えた天恵【顕微の指】で丸薬を練り練りしながら、休憩しつつ岩場の上の景色を楽しんだ。
◇◇
更に三か月程度、地上では一か月か。それだけの時間が過ぎて組合に素材を換金しに赴いた。納品以来の出ている素材もあるので、依頼を受けてから納品し換金すると更に金額が跳ね上がる。受け取りてからすれば希少品だろうが、僕にとっては雑多な素材でしかない場合もある。そういう時は得をしたなぁと感じるから嬉しいね。
前回よりも多い報酬を得て、また異なる情報屋を使って暗殺依頼を出してもらった。また少し大きくなった体に合わせて、衣服と防具類を更新し、以前に購入した砥石で山刀を研ぐ。この獲物で殺した数も、最早数えきれないな。
この研ぎをすると言う行動の際に、天恵【顕微の指】を得た。これは全ての行動が精密になるという、僕にとって大変喜ばしい天恵だった。戦闘も料理も調薬も全て精密性が上がるのだから、儲けものだ。早く試したくて仕方がない。思わずステータスに見とれてしまう程だ。きっとこの時の僕の顔は気色悪い笑みを浮かべていた事だろう。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:14歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(顕微の指:練度1/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風8、渇望の本6
妙薬の器7、暗殺の帳8、狩人の棘8
至高の舌3、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾4、暴威の腕4、頑健の腸6
閃光の足5、多頭の眼3
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇
情報屋に依頼を出させてから一週間後、九人の暗殺者に襲われた。前回、前々回と比べて練度が高く、ダンジョン地下一階の薄暗がりを上手に利用して襲い掛かってくる。でもダメだ。そんなんじゃ鍛錬相手としても不足だ。まだ魔獣の群れを相手にしている方がマシだ。だからと言って逃がす気は微塵も無いけど。
終われているのが僕だった筈なのに、一人また一人と殺していくと、次第に追われているのは自分たちだと気づいたのだろう。彼らは逃げ出した。
しかしながら、ここはダンジョン地下一階で地図情報は完全に頭の中に入っている僕としては、自分の庭と言っても良い。そこかしこに仕掛けたトラップが彼らを襲い、逃げに徹しても逃げ出すことは叶わない。
一人残らず惨殺し、その全ての首無し死体がダンジョンに飲み込まれていくのを確認すると、僕は悠々と組合に顔を出して換金所へと顔を出した。
◇◇
今回も一人だけ報奨金の対象者が居たので得た金でもう一度、最初の情報屋を使って依頼を出させた。数日後、彼は死体となって発見された。どうやら僕と関りがあって依頼を利用した釣り出しだと暗殺組織が核心を得られたらしい。そうなると今後同じ手は使えないだろう。生き残っている情報屋は二人。片方が片方の情報屋を殺すために依頼を出させた。僕は暗殺対象の周囲を観察し、釣り野伏をすれば良いと考え、一週間ほど待った。
◇◇
暗殺対象が貧弱だからだろうか。今回は一人だけで裏町に現れた。それを襲い、一撃で始末すると同時に別の暗殺者に僕が襲撃された。釣り野伏に釣り野伏を被せて来たらしい。僕を二重尾行をしていた訳ではなく、暗殺者を二重尾行していたのだろう。自分の未熟さを恥じた。
幸いなことに一撃を貰う事は無かったが、こいつ、なかなかどうして。強いじゃないか。
「その腕で倒せるとでも?」
「………」
言葉、呼吸、指先、いずれも反応なし。優秀な暗殺者だな。既に情報屋は逃げ出し、情報屋を襲った暗殺者は死んでいる。彼の死体を間に挟む形で、凄腕の暗殺者と向かい合った。やるか。
正面から気配を叩きつけ、側面、背後と回り込み山刀を斬りつける。だが綺麗に身を躱されて外れた。同じように気配だけ別の方向に僕へ叩きつけ、同じように側面から黒いナイフで僕を攻撃してくるのを躱した。これは良い相手だ。滾るじゃないか。
何度目か分からない攻防を繰り返すと、夜闇に覆われた裏町の微かな明かりを一つ一つ投げナイフで破壊していく。もっと暗く。もっと闇色に染める。暗く、黒く、深く、そして月明かりも雲に隠れて何も見えなくなった頃、僕は両目を瞑った。同時に【剣豪の風】に意識を深く落とす。そのまま十数度切り愛を行い、僕と暗殺者で殺しの愛を確かめ合う。これ以上なく濃厚で深い愛だ。肝心なのは愛情ではなく愛だという事だろうか。
殺しの技能に生涯をささげたのであろう、彼の腕前は最早、愛と言っても過言ではない。その腕が落ちることを厭い、その道が閉ざされる事を厭うだろう。だからこそ真剣で真摯で真に深い愛を注いでいる筈だ。僕のように。
でもそれも終わりだ、今この時、彼の愛する道を断つ。懐から閃光手榴弾を出して足元に叩きつけると、目を閉じている僕でも一瞬で明るさを感じた。彼は両目を開いていたのだから暗黒から明白に切り替わった痛みに、その眼は耐えられないだろう。一瞬の驚きとそれに伴う動悸。【剣豪の風】が明確にそれを察知し、僕のナイフは彼の心臓を刺し貫いていた。
◇◇
その後、彼の老いた首を組合に提出すると、高名な老人だったらしく色々と取り調べを受けることになった。どうやら表舞台では人間国宝的な人物だったらしく、暗殺者としての経歴は全く知られていなかったらしい。齢六十を超え、その腕は極まっていたという事だろう。今回の戦闘では【剣豪の風】を持つ僕といい勝負が出来ていた事から察するに、【暗殺の帳】の位階は10だったと考えられる。完全な暗闇の中、勘と経験で僕の正確な位置を感じ取っていた事も、地形精査の恩恵の極地によるものだろう。僕は関心と同時に恐ろしさを感じたよ。
だがいい経験になった。アレほどの相手に戦えるのならば、僕はこの先、まだまだ強くなれるだろう。ステータスを見ながら僕は気色悪い顔をしていた。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:14歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(顕微の指:練度3/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風9、渇望の本6
妙薬の器7、暗殺の帳9、狩人の棘8
至高の舌3、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾4、暴威の腕4、頑健の腸6
閃光の足6、多頭の眼4
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇
十五歳となった僕はダンジョンの最下層に辿り着いていた。地下十階の神殿階層。内装は天恵神殿と良く似ていた。いや、恐らくだが天恵神殿の関係者はダンジョン最下層の事を知っていたんじゃないだろうか。僕は目の前にある壁のレリーフを見てそう思った。
人が産まれ、天から指す光が子供に与えられ、ダンジョンで研鑽を積み、また天から指す光が一人の大人に与えられる。そんな四枚の絵が描かれていた。
「要するに追加の天恵を得られる場所って事か」
中心のクリスタルを囲うようにレリーフが位置し、そして僕の手がクリスタルに触れた。高い天井まで染め上げるようにしてクリスタルから光が放たれる。やがてそれが治まると、僕の天恵が一つ追加されていた。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:14歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(顕微の指:練度3/10)
光輝の光(練度1/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風9、渇望の本6
妙薬の器7、暗殺の帳9、狩人の棘8
至高の舌3、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾4、暴威の腕4、頑健の腸6
閃光の足6、多頭の眼4
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
天恵【光輝の光】がどういうものなのか、何となく頭に流れ込んできた情報で理解できる。これは何というか、癒しの力を持つのだろう。試しに魔獣に噛まれた傷跡が残る上腕に手を当ててみると、上腕が光で包まれた。その光がゆっくりと弱まっていくと傷跡が無くなって綺麗な産毛の生える上腕の皮膚が露わになった。
「これは使えるな」
思わず顔がニヤけてしまう。そりゃそうだろう、回復技能なんて、これまで薬品でしか得られなかった物なんだから。それも自己治癒能力の向上という意味では無く、外部からの力で傷を癒せるだなんて、薬品では得られなかった結果だ。これは対象を自分以外にしても同じ結果を得られるのだろうか。天恵の能力を使う事で僕自身の消耗はあるのかどうか。様々な疑問を頭の中に沸かせながら登り階段を踏み出していった。
◇◇
地上に戻って組合に最下層以外の地図情報を売った。これまで以上の精度と、ミノタウロスやらの化け物が闊歩する地下九階までの地図なのだから良い値段になった。
情報屋の方は二人生き残っていた筈だが、前回囮に使った情報屋は姿を消し、もう一人も亡くなっていた。どうやら消されたらしい。最後の挨拶とばかりに暗殺者の拠点に伺い、建物の地下にある暗殺者の拠点を暴いて生き残りを始末した。死体は地下に隠されたままなので、早々見つかる事も無いだろう。あの入り口は巧妙に隠されていたし。
これでもう、この街に残る意義も無くなった。フリンの仇は討てたかどうかわからない。多分まだ生きているような気がするが、そもそも今の僕の目標は暗殺組織の壊滅だ。まだ何にも達成していない。次の街に向かうべく、装備の修繕と、また一回り大きくなった僕の体に合わせて装備の新調を行った。
次の街は四つの村を挟んで辿り着ける。同じようにダンジョンが近くにあるらしい。というか、この世界で街がる場所は高確率でダンジョンが近くにあるようだ。国の機関として重要な施設がある訳でもない限り、ダンジョンがあるから街が大きくなるのであって、人通りが多いから街が大きくなる訳じゃないらしい。
これまで購入したり作ったりした物品を馬の背に乗せて手綱を握った。僕は乗らないよ。隣を走るだけだ。ただ走るだけで【閃光の足】の鍛錬にもなるのだから、馬は荷運びに集中して頑張ってもらいたい。
「次の街までよろしくな。相棒」
「ヒヒン」
首を撫でてやると鼻息荒く返事をしてくれた。良い馬だ。
◇◇
隣の村と言っても行商人が歩いて一日で辿り着けるわけでもない。ただ僕の足でならば一日と言わず半日で辿り着けるので、野宿はせずに済んだ。馬も早足で駆ける程度なので疲れても居ないらしい。労うように宿に着いたらブラッシングをしてやると、そのまま厩舎で休ませた。
最初の村は大通りに宿が数件あるだけで、後は幾つかの酒場があるだけだ。裏通りに生活雑貨などを買う村民の為の細い通りがあるが、そっちは旅人の数が少なかった。
次の村も、また次の村も同じような所だ。特に何がある訳じゃない宿場町として、街と街の間を繋いでいるに過ぎないのだろう。
そうして四日間の旅を終えると新たな街が見えてくる。ここもダンジョンの街らしくて強さを誇る組合員が大勢闊歩していた。前の街のように港は無く、単に荷運びをする自動車のターミナルが物珍しいくらいだろう。
あの自動車も動力は良く解っていない。というのも秘匿技術の塊のようなモノで、修理製造には国が専門で許可した場所でないと行えないらしい。それだけに高価で有用な物なのだが。
毎度おなじみの組合で再登録を行い、この街を拠点として活動する事を報告する。まずはそこからだ。宿を紹介してもらい、ダンジョンに関してのルールなどを聞くが特に、この街特有の制限などは無かった。馬も馬屋に売り払ったし、あとは潜るだけだ。さぁ、明日から頑張ろう。
っと、その前に情報屋を探すのが先だな。僕のライフワークの為にも、ね。
◇◇
ダンジョンというのは基本的にどこも同じなのだろうか。地下一階に洞窟が、地下二階から五階は草原が、地下六階から八階が岩石砂漠が、地下九階と最下層が神殿の地形になっている。
この街に来てから地上時間で三か月が経ち、僕の時間で一年が経った。再びダンジョンを踏破した際に、やはり最下層で新たな天恵を得た。という事も無く、新たに得たのはペンダントトップのような装飾品だった。
このアイテムを手にしたとき、一つの能力を得たと感じた。視界にステータスが現れるように物品の詳細な情報が文字列で表示されたのだ。どうやら体に触れた時点で鑑定のような能力を得られるらしい。地上に戻った時に人間に対しても試したが、特に効果は表れなかった。期間途中に魔獣を組み敷いて触れてみても何も起こらなかったので生物全般に対しての鑑定が出来ないのだろう。となると、こういったアイテムに対して限定の鑑定効果があると思っていた方が良さそうだ。
これはアレか。次のダンジョンも同じようにアイテムが現れるから鑑定して調べて使いなさいという事だろうか。何かに導かれている気がしながら僕は次の街を目指した。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:15歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(多頭の眼:練度6/10)
光輝の光(練度5/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風9、渇望の本6
妙薬の器8、暗殺の帳9、狩人の棘9
至高の舌5、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾7、暴威の腕6、頑健の腸8
閃光の足8、顕微の指8
特殊:鑑定ペンダント
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇
身長百七十センチは超えたかなと思う。この四か月、実質一年で十五歳を迎え、成人としても随分と高い身長になった。装備も度々新調しているが、戦い続けているせいもあって随分と損耗度合いが激しい。装備を売っている雑貨屋の店主には毎度のように呆れられたものだ。
次の街に出発する前に、武器を自前で研ぎ、防具を新調し、馬を買った。此処の街にあった暗殺組織の拠点も潰したし、次の街へ行こう。位階が8に到達した【閃光の足】で地面を蹴り出すと、馬も楽しそうに付いて来てくれる。そのまま一日で二つ目の街に到達し、三日後には五つの村を超えて新たな街に辿り着いた。
残念な事にこの街は政府の重要施設があるだけで、周囲の森は新人組合員向けだ。僕のライフワークを熟すと早々に街を出た。次の街は村三つを超えた先にある。また二日ほど走って辿り着いた場所はダンジョン付きの街だった。ライフワークも捗りそうだし、この街に滞在するとしよう。
◇◇
三つ目の街は探索者の為だけにあるような街だった。街の周囲に森林のような狩場も無く、だだっ広い農地が広がるだけだ。その只中にポツンとダンジョンが存在する。そのダンジョンから得られた獲物が骨肉となってトラック型の自動車で街へ運ばれていく。この街はダンジョンと農地だけで町人の胃袋を満たしているのだなと、車列をみてボンヤリと考えていた。
ところ変わってダンジョン地下八階。地上での一日換算、つまりダンジョン内で三日という短い時間だけで最下層まで辿り着き往復できるかどうかを試した。結果は失敗。三日目の復路で地下八階止まりでは到底日帰りは不可能だろう。暫くは地上時間で一泊する心積もりでいよう。
いや、そういえば飛行能力を得られる天恵があったな。そろそろ解禁しても良いかもしれない。便利な道具も手に入った事だし。そう考えて腰ベルトに取り付けたポシェットにそっと触れた。
これは最下層で発見したアイテムで、腰に取り付ける四角いポシェットなのに、背負っていたリュックが丸々収納できてしまった、空間収納アイテムだった。鑑定に続き、収納のアイテムが手に入るとなると、いよいよもって何者かの意思を感じざるを得ない。次は何だろうな。転移能力を持った道具でもくれるのだろうか。
身軽になった僕は新たなアイテム、新たな天恵【天翼の空】を引っ提げて地上へと戻っていった。
◇◇
天恵【天翼の空】は空中歩行が可能である。ただ、未だ位階が1でしかないので、空中を歩くというよりも空中に立って二、三歩だけ歩けると言うのが正直なところだ。これが熟達すると飛行も可能になるらしい。早々に位階を上げておきたいところだ。
新たな楽しみを得てワクワクする気持ちを抑えつつ組合で深層の素材を換金した。次に情報屋を紹介してもらい、彼に暗殺組織に関しての情報提供を依頼する。まぁ、すんなり手に入る訳がなく、王狼討ちが探していると情報を流してもらう形に依頼を変更した。あとは待つだけだ。
今後はダンジョンに入って出てきたら一日休んで、また翌日にダンジョンに入るというサイクルにしよう。休みの日にライフワークが熟せれば良いのだが、そう上手い事も無いだろうと期待せずに待つことにした。
宿に部屋を取って寝て、起きたらまたダンジョンだ。行きも帰りも身軽なままで潜る僕は珍しいのだろう。それなりに注目を浴びつつ一人で潜って、遅くとも翌日には帰ってくる。そんな生活を繰り返していた。
◇◇
ポシェット収納を活用し始めると、僕は山刀とナイフ以外には丸薬などを胸ポケットに入れる以外に殆ど手ぶらになってしまった。その分だけ動きやすく、最近では山刀すら使う事が少ない。ミノタウロス相手に殴り勝てるようになったのだから、最早、山刀すら不要なのではなかろうか。そう思いつつ何度もダンジョンに潜っていると、次第に日帰りで最下層往復ツアーを敢行できるようになってしまった。そんなステータスはこちら。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:15歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(天翼の空:練度4/10)
光輝の光(練度6/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風9、渇望の本6
妙薬の器8、暗殺の帳9、狩人の棘9
至高の舌5、悪戯の口5、大海の波6
甲羅の盾7、暴威の腕7、頑健の腸8
閃光の足9、顕微の指9、多頭の眼7
特殊:鑑定、収納
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
これだけ熟達した天恵が並ぶと壮観だ。【天翼の空】で空中を蹴り、【閃光の足】で駆け巡ると風を突き破りながらダンジョン内を走り回れる。空を走っていると気づかれないように、地上スレスレを飛ぶのがコツだよね。
走りながら希少な薬草を回収し、最下層で【妙薬の器】を使って調薬しつつ休憩し、帰りに地下九階でミノタウロスの素材を回収してダンジョンから出る。このサイクルで一日百万以上の儲けが出る。探索者って儲かるんだなぁ。組合に行く度にそう思うよ。
そんな組合の帰り道、十人を超す暗殺者に薄暗い裏道で強襲された。素早くナイフを抜いて気配を消すと、それだけで困惑した未熟な者が数名出て来る。手早くそれらを狩ると、残ったのは八人程の達人暗殺者だ。これは凄いね。あの老人クラスの相手がこんなに。とりあえず【悪戯の口】で揺さぶってみよう。
「雁首集めれば斃せるとでも思ったか」
「ッ!」
一人引っかかった。すかさず気配をズラして襲い掛かり、悪臭爆弾を用意。ナイフで切りつけようとしたところを別の黒尽くめに阻止されたので、反応した一人に向かって素焼きの悪臭爆弾をヒットさせた。
周囲に殺人的な激臭が拡がると、それだけで動揺が走る。攻め処の穴を一つ一つ狩り、仕留めて回った。まだまだ未熟だよ。痛みや、臭みなんてモノは慣れておかないと、いざという時にボロが出てしまう。当然、彼らも鍛えている筈だが、どうやら悪臭爆弾の激臭は未体験ゾーンだったらしい。混乱と同様であっという間に黒尽くめは二人になった。
「恐るべき小僧だな」
「見た目と実力が違い過ぎる」
「そうかい」
左手に山刀、右手にナイフと、それらの腕には【暴威の腕】が乗り、更には【剣豪の風】によって斬撃の威力が上がっている。受け太刀さえも危険な威力からは逃げるしかないだろう。だから僕は逃げ道に気配を送り込んで、袋小路にして一人一人仕留めれば良い。更に言えば【甲羅の盾】によって皮膚と骨の強度はミノタウロスとの殴り合いをノーガードで出来る程に頑強で、隙あらば足技で狩る事も出来る。最後に付け加えるならば、今の僕は全ての空間が足場だ。体制を崩そうが空中を踏み込んで攻撃できる変態機動が可能だ。
要するに、この二人が何人居ようとも、実力差があり過ぎて大した問題ではなくなる。依って二人の死は確実だった。
八人の首を持って組合に行くと、その内七人は名を知られた賞金首だった。合計三千万ゼンを超える報奨金を受け取り、僕はそのまま拷問で聞き出した暗殺組織がある、この街の拠点へと足を運んだ。
今日も良い日だ。
◇◇
十六歳の誕生日に僕はこの街を旅立った。ダンジョンも日帰りで攻略できるようになったし、後は先日滅ぼした暗殺拠点から得た、他の街の拠点潰しに奔走すると決めた。まぁ、ライフワークだけど、ダンジョン攻略も忘れてはいけない。そんな僕のステータスがこちら。
■■■ステータス■■■■■■■■■■■■
名前:ゾクオーン=テンプラー
年齢:16歳 性別:男 種族:人間
天恵:転族の神殿(多頭の眼:練度8/10)
光輝の光(練度7/10)
状態:健康
加護:豊穣の手3、剣豪の風9、渇望の本6
妙薬の器8、暗殺の帳9、狩人の棘9
至高の舌6、悪戯の口6、大海の波6
甲羅の盾8、暴威の腕7、頑健の腸9
閃光の足9、顕微の指9、天翼の空9
特殊:鑑定、収納
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
これだけ鍛えれば、ダイアウルフも瞬殺できただろうし、フリンも救えただろうか。ステータスを見るたびに、そんな事を考えてしまう。まだ引き摺っているんだから仕方ない。
さぁ、次の街だ。
◇◇
次の街はこの国の首都に最も近いと言われている場所だ。国中から物資が集まり、整頓された物資を首都へと運び込む。所謂ターミナル拠点として街が存在している訳だね。ただ、元々はダンジョンがあったから街が出来たのであって、そのついでに集積所として色々と都合が良かったから街を作ったという歴史もあったのかもしれない。
組合に再登録をして宿に泊まり、既に判明している暗殺拠点を潰した。さて、ダンジョンへと潜ろうじゃないか。
日帰りで変える気が満々の青年が一人で潜るのは珍しいようで、十六歳となった僕は淡々と無表情でダンジョンへ降りて行った。やっぱりここも代わり映えしない場所だ。洞窟、草原、岩砂漠、神殿。それで終わりだ。最下層にはやはりアイテムがあった。今度は片眼鏡で見た相手の天恵を知ることが出来るというアイテムだった。ちょっとだけ転移が良かったと思わなくもない。
その後、いつものように獲物を狩り、いつものように換金し、いつものように宿で寝た。街中は暗殺拠点の卸売り商店から人が居なくなったと聞いて、少しだけ騒ぎになっていた。明日には次の街である首都に行こう。そうしよう。
◇◇
首都。この国は確か王政だったかな。小さい頃に読んだ本に書いてあったのを覚えている。隣の国は共和制で、また隣の国は帝国だった気がする。国境では頻繁に戦争が繰り返されていると書いてあったけど、今はどうなんだろうね。
問題無く首都に入り、組合で再登録をして宿を取った。王城のお膝元である街なだけあって絢爛豪華なお宿でしたよ。一番いい宿を指定したので当たり前なんだけどね。格調高い内装と、どうなってるんだかわからない技術でクーラーやら水道やらが完備されている。内線もあるとは思わなかった。
そんな感じで部屋に感心した翌日、僕は情報屋と裏町で会合していた。この情報屋は以前に囮に使った奴の仲間だったらしい。確り依頼料を払ったうえでの事だったので、特に恨まれてはいないようだが…やはり警戒されているのか、情報屋の後ろには屈強な護衛が侍っていた。
「私も困るのよね。暗殺組織と事を構えたいわけじゃないし」
「なら情報を売ってもらわなくていい。情報を流してくれればそれで良いよ。直接じゃなくても良い、間接的に情報を流してアンタに辿れなくすればどうだ」
「まぁ、それでイイなら伝言ゲームでもしてやるわよ」
「じゃあ、決まりだ。奢るよ。一杯どうかな」
「じゃあ一番高いやつね」
「ははは、じゃんじゃんやってくれ」
その数日後、情報屋の女は遺体で発見された。どうも僕が街に入った時点で警戒されているらしい。護衛の男たちも一刀両断されていたらしく、そのまま手掛かりを失った。かに思えた。
また数日後、以前に囮に使った情報屋が手紙で復讐に協力しろと繋がりを求めて来た。二つ返事で指示通りに手紙を返すと、また数日後には暗殺組織を俺が探しているという噂が流れた。
漸く本懐に辿り着けそうだと考えた日の午前に、とある情報屋が接触してきた。どうやら俺に情報を売りたいらしい。罠でも何でも良いだろう。情報を買ってみた。内容は暗殺組織の首都にある拠点だ。どうも、暗殺組織と盗賊頭は敵対しているらしく、裏町の頭目と三竦みの関係らしい。僕を利用して暗殺組織を潰したいのだろう。であれば、こっちも利用してやろうと思って行動に移した。
◇◇
首都には王様を守る騎士団が存在する。殆どが天恵【剣豪の風】の達人で、その鉄壁の防御は王の懐を堅固に守っているらしい。それら騎士団の見習いでもある衛兵隊は街の安全と秩序を守っている。僕はその衛兵隊に情報を流してやったのだ。今から王狼討ちが暗殺組織を潰すから便乗したいなら乗って来い、と。
そうして始まった僕のライフワークと、衛兵隊の鳳大捕り物と、盗賊団の漁夫の利狙いと、様子見の裏町の頭目が睨みを利かせて、街中はピリピリとした空気が漂い始めた。
首都の暗殺組織拠点は所謂、その国の中央指令所のような所らしい。それだけに実力者が存在するし、人数も多い。というか多かった。地下養成所のような場所が存在するし、首都の地下迷路を活用して罠だらけだし、襲い掛かってくる連中も手練れが多いし、偶に盗賊団とも殺し合いになるし、腰の引けた衛兵隊が逃げ回っていたりする。もう滅茶苦茶だ。
だが、それが良い。凄く良いんだ。一人一人的確に首を切り落とし、抉り、破壊する。そうして確実に黒尽くめたちの数を減らす事で首都の暗殺組織拠点を潰せるだろう。育成中の暗殺者候補も纏めて始末できた。残るは幹部だ。期待しているぞ、暗殺者共。僕の糧に相応しいか見極めてやる。
◇◇
広い場所には暗殺者候補の男女が幾人も転がっている。首が無かったり、手足が無かったり、胴体に大穴が空いて居たりと様々だ。全て僕の仕業でもある。そんな僕を取り囲むように五人の黒尽くめが立っていた。
「やってくれたな。王狼討ち」
「お陰でこの国からは撤退せざるを得なくなってしまった」
「だがその前に、お前を始末せねばなるまい」
「以下に力があろうとも、我らには敵わない」
「同時に五つの攻撃をどれだけ防げるかな」
言い終わるや否や、五角形の星形の頂点から同時に迫り攻撃を繰り出してきた。僕はその場で飛び上がり、天地を逆転させて腰から八本のクロスボウボルトを両手で取り出し、直上から投げた。あとはその繰り返しだ。
同時に五つの攻撃だと? ならこっちは同時に八つの攻撃だ。思い出してほしい。僕は天恵【狩人の棘】の第九位階で所持している。達人の中の達人の矢は、素手で投擲しようとも、獲物に命中するまで自動追尾する。加えて僕は地上に降りることが無い。更に空を飛び収納から取り出した無数のボルトが飛び交う。どんどんと追加されていく自動追尾弾に追い回されて、彼らは何時しか被弾し、動きを鈍くしてしまう。
そうなればもう終わりだ。次々と着弾していくボルトが彼らの命を撃ち貫くのは時間の問題だった。全身に数十本のボルトを指して彼らは沈黙した。もちろん顔は綺麗なままで。だって報奨金が貰えなくなってしまうでしょう。
戦いが済むと僕は彼らの首を切り落として、全ての死体を収納した。既に拠点内の書類や証拠品などは綺麗に奪い取ってある。この情報を基にこの国内部を掃除し、ゆくゆくは他国にも馳せ参じようじゃないか。
僕のライフワークは終わらない。これが、僕の人生だ。
◇◇
情報を処理するために町一番の宿に三日ほど泊まっていた。判った事は幾つかある。
・この国は建国当時から暗殺組織が巣食っていた
・全部で十九カ所の街に拠点がある。その内四カ所を僕は既に潰した。
・国内構成員だけで五千人を超える。
・構成員は普段は卸売業を営んでいる。
・街と街の間を行商人のふりをして行き交う。
・天恵位階が八に達すると拠点長、九で国家幹部になる。
・既にこの国からは最低限の人員を残して撤退を開始している。
・本部は各国の首都に存在する。
・場合に依っては国家が擁する騎士団などにも入り込んでいる。
判明したのはこんなところだ。後は衛兵隊に情報を渡して終わりにしよう。そう思って部屋で寛いでいると、宿の外から客が来たと内線通話で呼び出された。直ぐに脱出できるように荷物を纏めて収納した。
来客はお城からだった。騎士が二人と、執事が一人。国王からの招待状を持って現れたので、恭しく受け取り指定の日に会う事を承諾した。相手は宰相らしい。どうやら暗殺組織壊滅について話が聞きたいとのこと。騎士が同行している辺り、騎士団と衛兵隊にも関係がありそうだ。この情報を渡すに当たって誰が適当か、考えないといけなくなったな。
合うのは二日後の昼過ぎ。それまでに情報屋に当たって、誰が信用できるのか確認してみよう。
◇◇
結論から言うと情報屋も知らなかった。というか貴族のゴシップ程度ならともかく、信用度愛までは風聞からしか判断できないとの事だ。お前ッ、それでも情報屋かッ。と言いたいところだが、御尤もな意見なので礼を言って引き下がって来た次第であります。
お宿で明日の面会を考えること数時間。正直な所、すっぽかして別の国にライフワークの続きをしに行っても良いのだが、どうにもそれをするのは憚られる気がしてならない。要するに勘だね。僕の勘が会った方が良いと言っている。前世の経験か何かだろうか。どうにも見当がつかないのだが、勘だけが会えと言っているのだ。
「まぁ、ヤバかったら逃げるだけだね」
深い溜息を吐きながら、ブクブクとバスタブに沈んでいった。
◇◇
首都は中心部が全て王城の敷地になっている。というか、建国時に元々は巨大な要塞だったようで、第一外壁はその名残らしい。内側が当時の要塞施設でごった返していたというのだから、とんでもないものと戦おうとしていたのだろう。当時の人に感心するばかりである。
王城からの迎えの馬車に乗りながら、巨大な門を潜りつつそんな事を考えていた。目の前には執事さんが座っている。見る限りこの人も戦闘系の天恵を所持している。便利だね片眼鏡の洞察アイテム。手に入れてからずっと身に着けているのだが、戦闘中にずれないようにフレームを改造するのに苦労した。眼鏡部分のフレームが金色なので、真鍮のフレームでゴールドっぽく作り直してある。耳の上から頭の後ろを廻って、反対の耳までぐるっと回す事で、完全に固定出来るようにした。これでもダメなら仮面にしようかと思っていたから助かった。くだらない事を考えていたら執事さんに話しかけられたよ。
「王城は初めてですかな」
「首都に来たのも初めてですよ。田舎の出なので」
「ほう。出身はどちらで」
知ってるくせに。
「○○村付近の集落です。一族が麦畑と稲田を少し。まぁ、魔獣に襲われて最近は収穫が減ったようですが」
「王狼討ちの件ですな。アレを討ち果たせるとは大したものですよ」
「もう何年も前の話なので。評価に値しませんよ」
「ご謙遜を。今はさぞ力を付けられたのでしょうな」
「まぁまぁ、ってところです」
「そうですか」
他愛もない話をしながら自動車は王城に吸い込まれていった。
◇◇
王城に入り、三十分ほど待たされてから宰相閣下とお会いした。何というか線の細い御仁で白髪をオールバックにしたイケ叔父だな。
「座り給え」
「どうも」
部屋に呼ばれると部下の一人と話していたイケ叔父が僕にそう進めて来る。すかさず茶の用意をする執事と、誰だコイツという目で見て来る部下が僕の横を通って部屋を出て行った。ああ、山刀を佩いているから気になったのかもね。邪魔にならないように丸くて背もたれの無い椅子を引っ張ってその上に座った。お誕生日席に座る宰相閣下と対面になる。
「君がテンプラー君だったね」
「ゾクオーン=テンプラーです。家名で呼ばれるとゾワゾワするので、名前でお呼びください。あの家とは殆ど関係が切れていますので」
「ふむ、ではゾクオーン君。君、王家に仕える気はないかね」
「ありません。やらなきゃいけない事がありますので」
「暗殺者たちに恨みでもあるようだな」
「お察しの通りで、恋人を殺されましたので」
「なるほどな。それは十分な理由だ。では協力する事は可能かな」
「今回のようにですか」
「いかにも。現場を掻き混ぜて目的を達成しやすくしたのだろう。その為に衛兵隊を利用した。違うかね」
「違いません。お陰様で盗賊連中も半数が捕縛されたようで。一市民として嬉しい事です」
「あれも君が呼び込んだのかね」
「あっちは偶然です。ただ、裏町と盗賊と暗殺者で三すくみ状態なのは把握していましたから、いずれかは静観し、いずれかは混乱に乗じて動くだろうとは考えていましたよ。そこまで無謀でもないだろうとも思っていましたが、まさか本当に動くとは…という感じですね」
「そうか…」
そこで執事さんが出してきた紅茶を宰相閣下が飲むと、僕の前にもコーヒーのような香りの飲み物が置かれた。実はさっきから香りが気になっていた。一応、手に取って鑑定してみるが、やはりコーヒーだ。
「コーヒーがあるんですね。良い焙煎の香りだ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
…うまい。鼻から抜ける香りも、口の中に拡がる香ばしさと僅かな酸味。ああ、何て懐かしさを感じる味だろうか。これだけうまい飲み物は初めて飲んだというのに、とても強い郷愁の念が呼び起こされる。これはきっと、前世の懐かしさなのだろうね。今の僕じゃない、前世の僕の感情だろう。一口を含んでゴクリと飲むと、深い溜息が出た。感嘆の溜息だ。
「何にも言えなくなりますね」
「ふふっ、ここのコーヒーは最高だろう。私自らが選び抜いたからね。長年の経験の賜物だ。いい仕事をしているだろう」
「本当に」
笑顔で頷くともう一口頂いた。これだけでも、ここに来た価値は十分にある。最高だ。
「まぁ、良いだろう。済まないがもう少し待ってくれないか。君に会いたいという人が居てね。本来は呼ぶ予定が無かったのだが、気が変わった」
「はい?」
スッと宰相閣下が立ち上がり、隣の部屋らしきところから誰かを連れてきた。コーヒー片手に待っていると、宰相閣下とは違って紫色のスーツ姿の男性が現れた。因みに宰相閣下は灰色のスーツだ。紫…たしか、特殊な色で王家しか使っちゃダメな色じゃ…王家? 王家! 王家だと!?
「そ、そういえばここは王城でしたね。その服を着てらっしゃるという事は?」
「うむ。ヘンリー=ベル=アイル=マックスウェル陛下である」
「ははーっ」
とりあえずコーヒーを置いてから跪いた。いや慣例だし。やっとかないとダメでしょう。一応豪族の家の子なんだしさ。
「ゾクオーン=テンプラーであるな」
「はっ」
「暗殺結社壊滅に追い込んだ張本人と聞くが、事実のようだな」
「はっ、生涯の目的と定めておりますので」
「ならばそれを正式に王家から依頼させてもらおう。組合員であるのならば王家の依頼儲けられような?」
「はっ、依頼としてならば、恙なくお受けいたします」
「良いだろう。では頼むぞ」
「ははーっ」
なんだこれ茶番かよ、と少しだけ思ったのは内緒だ。
「メイガル。ワシにもコーヒーをくれ。折角抜け出してきたのだから少しくらいはな」
「後で王妃様にご報告ですな」
「無体な事をするでないわ。息抜きも大事だ」
「仰る通りで御座います」
王様と宰相様の心温まる会話を聞きつつ、コーヒー談議で僕と執事さんも参加する事になった。なんだこの空間は。精神的に疲れるというか、思考停止しないとやってられないぞ。天恵【多頭の眼】がそうはさせてくれないんだけどね。
その後、今後の予定をあれよあれよと決められて、どうやら僕は今週中に国内の別の暗殺者拠点に行かなければならなくなったらしい。言って潰してこいという事になった。大層な報酬額を約束されたが、こんなに貰って良いのだろうか。一拠点二千万ゼンとか破格ですよ。残りの拠点が十以上もあるので合計で三億ゼンに達しそうだよ。何に使えと…。
出発前に騎士団と手合わせをとか言われたので、これから騎士団長と一戦交えることになった。王様と宰相様の観戦付きで。
案内された場所は王城の敷地内にあるだだっ広い演習場だ。普段はここで騎士団が訓練を積んでいるらしい。騎士団に入るには天恵【剣豪の風】か【狩人の棘】を取得していなければならず、天恵によって入団先が異なるらしい。国境沿いではそれら複数の天恵を持つ者が入り乱れて戦うのだとか。それはそれで面白そうだ。
さてさて、目の前には屈強な体を持つ騎士様。騎士団長であり、騎士団最強の男でもあるらしい。どうしようかな。素の膂力だけは彼の方が上だろうが、僕には【暴威の腕】でブーストされてしまっている。天恵についての言い訳が立つように、【暴威の腕】の格闘技だけで戦ってみようかな。
「始めっ!」
騎士団長の咆哮と共に彼は地面を蹴って迫って来た。振り下ろされた剣を、逆手に持った山刀で受け流し、空いた手で脇腹を穿った。自動車が派手に事故った時のような音が鳴り、騎士団長の胴体を守る金属製の鎧が凹んでいるのが見える。あれって、肋骨折れてないかね。
「まだ、やりますか」
「そこまで!」
王様が止めてしまったようだが、騎士団長は悔し気に僕に襲い掛かろうとしていた。
「止めんか、ブルースト!!」
彼は王様の声に反応して上段に上げた剣をゆっくりと降ろした。それでもまだ、僕を睨む目は力が込められたままだ。これまで負けなしで来たんだろうけれど、黒尽くめたちに比べたら彼は弱い。黒尽くめたちは連携術が上手いからね。あと達人級は本当に死を隣に感じる。騎士団長にはそれがなかった。ただそれだけの違いだが、大きな違いでもある。
今回の模擬戦で、彼は僕を殺す気だったのだろう。後々、騎士団長が言い訳して事故だったと謝罪すれば、平民程度の命などどうにでもなる。罪もなかったことに出来るだろうからね。彼の眼は雄弁にその心の内を物語っていた。
「憎いかい。ブルーストさん。僕が憎いかい」
「貴様っ」
去り行く騎士団長の背中に言葉を投げかけると振り返って睨んでくる。よりいっそうの力を込めて。
「強くなればいい」
「ッ!」
「弱いから悪いんだ。剣を振るう立場なら、それを誰より知ってる筈だ。あとからどうこう言うのはお門違いだよ。ブルーストさん」
「無礼討ちにされたいのか平民が!!」
真っすぐその目を見て確信した。ああ、この人は努力してきた人なんだ。でも僕の考える努力とは大分、方向性が違う。
「僕は権力の為に力を付けて来た訳じゃない。あなたは戦う為だけに力を付けて来た訳じゃない。だから、あなたは模擬戦で負けても良いと何処かで思っている。体裁の為に勝つつもりだったから。負けても言い訳すればどうとでもなるから」
「…」
「だから意識にズレがあるんだよ。死んだら終わりだよ、騎士団長さん。死ねば平民もくそも無い。ただの死体だ」
「うっ」
思いっきり殺意を込めて睨んであげると、騎士団長は大きく一歩後退した。団長にあるまじき姿だ。許されざる姿だ。周囲はこう思ったはずだ。
『なんと情けない姿だ』
その周囲の眼を敏感に感じ取ったのだろう。狂騒する騎士団長は模擬剣ではなく、部下に預けておいた真剣を振るいあげて襲い掛かって来た。僕はそれを見て思わずニヤリと笑ってしまった。醜く、密やかに。
隙だらけの騎士団長の懐に【閃光の足】で飛び込むと、【天翼の空】で地面スレスレの空中を力強く踏み込む。【暴威の腕】で正中線の腹部を殴るとメコッと音を発して直後に爆発音が聞こえた。突いた拳を離すことなく【光輝の光】で癒すと、同じように全身を何度も殴りつけた。
ボコンッ、ボコンッ、ボコンッと殴りつける度に鎧が拉げ、段々と元の形を失っていく。やがて留め具が壊れて周囲にバラ撒かれても僕は殴るのを止めなかった。殴って治して、殴って治して、その繰り返しだ。そのまま騎士団長が意識を失うまでそれを続けた。気が付くと二つの金属の塊と、壊されて治され続けた元騎士団長だったモノが足元に蹲っていた。
「もう一度言います。死ねば終わりなんですよ。ブルーストさん」
「うっ、うっ、うあっ」
嗚咽を溢しながら騎士団長は蹲ってしまったが、周囲は止めようともしなかった。どうも嫌われてるっぽいな。可哀そうに。余りに可哀そうだったので肩に手を当てて励ましてあげた。
「生きててよかったですね。また模擬戦やりましょうね」
「ひぃぃぃぃぁああああ!」
あれ。今度は頭を抱えて逃げ去ってしまった。関節が変な風にくっ付いたせいで体のバランスが悪くなっているらしい。大丈夫だろうか。
その後、王様たちにご挨拶をして城を後にした。
◇◇
組合から正式に出された指名依頼を受諾し、僕は次の街へと旅立った。ライフワークが仕事になるとは思わなかったけど、取り敢えず近場の首都周辺の街から回ってみようと思う。拠点を潰したら都度都度、連絡が欲しいと言われているので、その際は組合長の書状を見せて組合を通して通達してくれるらしい。何か電話か無線機的な物でもあるのだろう。暗殺組織の拠点では見た事が無いな。
地面から数センチ浮いた所を全力で走っていくと、半日もしない内に次の街に辿り着いた。どうやら、ここが次のハウスらしい。いや、次の暗殺組織の拠点があるらしい。資料は宰相閣下にも共有しておいたけど、この資料通りの場所に今もあるのかどうか疑問だと言われた。言われてみればそうだな。見つからなかったら今まで通りに情報屋を使って探してみよう。
待ち時間はダンジョンだね。ちょっとだけ次のアイテムが楽しみだ。
◇◇
予想通りに拠点はもぬけの殻で、今は衛兵隊が地下の部屋を調べている所だ。その間に僕は情報屋を見つけて調査を依頼しておいた。待っている間は暇なので現在、ダンジョン最下層でアイテムの物色中です。
「これは…イヤホンかな?」
チョーカー式で骨伝導タイプの受発信機らしい。しかもこれ、相手に念話が届くタイプなので、不特定多数だろうが、一個人だろうが、用途を切り替えられるらしい。電話機じゃなくて念話機だった。うん、ちょっと試すのもマズいアイテムだな。どこで手に入れたんだって話になる。暫くはただの装飾品だという事にしておくか。
帰り道に魔獣相手に試したら成功したので、人間限定という訳でもないらしい。おどかしたり、困惑させるのにも使えるかもしれない。使い方次第で武器にもなるな。言葉ってのは強力だからね。
ダンジョンから戻ると、地上で素材換金後に情報屋と遭遇した。まだ詳細は不明らしいがこの街で依頼は出来なくなっているというのは確実らしい。今まで居た行商人が全員居なくなっていたと言っていた。行き先は首都から離れて帝国の方向に皆去ってしまったと、普通の行商人たちから聞いたそうだ。
帝国か。頻繁に国境線で小競り合いをしているし、そもそも暗殺組織自体が帝国の下部組織である可能性が出てきたな。その場合はどうしよう。帝国を潰すことになるのだろうか。そうなると僕は一国を相手に戦う事になる。その場合は王様と宰相閣下に相談だな。
手に入った情報を基に、この街から既に出て行ったと確信して次の街に向かう事にした。帝都の方面ならば、道中に四つの街がある筈だ。それら一つ一つを潰していくとしよう。逃げる際中であるならば、まだ連中の拠点は残っているかもしれない。
◇◇
寝る間もなく夜間飛行を楽しんでいるとあっという間に次の街に着いた。ダンジョンは後回しにしてライフワークを優先した。夜間なので空から街に侵入し、情報通りの場所に忍び込むと、地下には黒尽くめ共の残留部隊が残っていた。綺麗にお掃除して素早く遺体を収納した。次へ行こう。
再び、夜を駆けると一時間ほどで次の街へ着く。やっぱ空から行くと早いよね。同じように残留部隊を発見したのでこれもお掃除だ。此処のダンジョンがあるのだが、今はライフワーク優先なのだ。次へ行こう。
三度、夜を駆けると一時間ほどで次の街へ着く。同じように黒尽くめの残りを掃除していくと夜が明けてしまった。この街にはダンジョンが無いので、宿だけ取って少し眠ろう。
四度目は地を駆けて次の街へ向かった。やっぱり飛んだ方が速いな。でも昼間は目立つからなぁ。時々上空数百メートルを飛行機が飛んでいるし、あれらに見つかったら何を言われるか分かったもんじゃない。やっぱり黒尽くめの残留部隊がいたので、正々堂々と正面から押し入って掃除した。全ては地下で行われている事なので、周囲には騒ぎがバレていない。
最後のポイントは帝国との国境線だ。その最も近くにある要塞には城下町のような村がある。情報には無いが、最後の拠点は其処だろう。既に集まっているのか、もしくは僕が早く聞過ぎて誰も居ないのか、それとも逃げられてもぬけの殻なのか判らないが、情報屋を一つ前の街で探して、情報を入手してからその村に向かうとしよう。
◇◇
情報屋から要塞村の拠点らしき場所の情報を仕入れていると、この街の拠点に行商人が一人、入っていった。黒尽くめの仲間だろう。誰も居ない事を騒がないし、出てきても衛兵隊に連絡すら入れない。店は閉めてあるので、お仲間じゃないと異変には気付けない筈だ。
戦闘の痕跡すら残していないので、プロが見ても怪しさを感じるだけで騒ぎはしないだろうね。
予想通りに次の拠点に向かう姿を覗き見て、街の外から帝国へ抜ける道に入ったところで尾行を開始した。結論から言うとこれは成功して、要塞村の拠点の場所が判明した。あとはライフワークの続きをするだけだ。お掃除、お掃除。
◇◇
要塞村にある拠点は僕以外に誰も居なくなっていた。店は閉めたし、地下への入り口は施錠していない。建物の二階に隠れ潜んでいるので、ここで後続の残留部隊を捕えて尋問するとしよう。
そう考えていると、また一人が裏口から建物に入って来た。そのまま地下への入り口のカギを開けようとして異変に気付く。そこを襲い、攫って、地下へと御招待だ。外に音が漏れないように尋問と拷問をかけると、やはり彼らは帝国に戻る最中だったようだ。
「君らは帝国の下部組織だね」
「…」
視線に若干の動揺が見られる。発汗量も増えた。間違いなさそうだ。であれば、暗殺組織の行動は侵略の一環と捉えて良さそうだ。また宰相閣下案件だなぁ。最終的には全力でこの国を取りに来るんだろうね。それが明日なのか来年なのか十年後なのか知らないけど。暗殺組織が戻っても戻らなくても、帝国のお偉いさんからしたらどうでも良いだろうし、今この時に攻めてくる可能性はあるだろうか…?
「君は国に見捨てられたよ。明日にでも要塞を落とすために大軍が来る。いつまでも国に義理を果たそうとしないで、こっちに着いたほうが良いんじゃないかな」
「…」
ダメかぁ。もう時間も無さそうだしこれくらいで良いか。目の前の暗殺者を始末して収納すると、次々と獲物が来た。こいつらを片付けたら宰相閣下に手紙を出さないとな。暗殺組織は帝国の尖兵で、戦争の準備をしている可能性があるから気を付けろとでも書くかな。