スコッパー狙いの消極的なろう攻略について
最近の出来事。Twitter界隈で、書籍化を目指すべく『小説家になろう』のランキング上位入りできるような作品を書きたい、でもきっとそういう作品は自分の書きたくないテンプレ要素盛り盛りが必須になるはずだから辛い(やや意訳しています)という言動をする人が居て、それに対して割と「そんなことはない!」という反論が多く寄せられていた。
私はただの読み手でしかないけど、数年ほど主にファンタジージャンルの作品をランキング問わず多く読んできた。
その経験に照らすと、ランキングには確かにテンプレまみれな作品も散見される一方で、テンプレ成分は薄く作者独自の世界観や展開で勝負している作品も同じく散見されたように思う。
ゆえに、なぜ前者ばかりに目を向けてしまうのだろうか?と正直残念な気持ちになった。
具体例を挙げよう。例えば2021年連載開始のハイファンタジーで、もっともブクマを多く獲得したのは『魔術師クノンは見えている』である(総合ポイントだと2位)。
しかしこの作品には、なろうテンプレと聞いて万人が思い浮かべるような『転生転移』『追放ざまぁ』『チーレム』『俺tueee』といった要素は一切ない。ただひたすらに『クノン』という主人公の成長と彼の言動によって巻き起こされるドタバタした日常に焦点を当てた作品と言える。
ただ、この作品の作者さんは、『俺のメガネはたぶん世界征服できると思う。』というなろうの作品で商業デビューをされており、それなりの逆お気に入りユーザーを抱えている点で、他の作者には真似できないアドバンテージを有していたと言えるだろう。
その他、同様の例として『亡びの国の征服者』の作者さんの新作『竜亡き星のルシェ・ネル』も、なろう的な印象は薄い作品であるが(異世界転移要素はある)、最近のランキングで上位をキープしていたし、同じく書籍化経験があり、コンスタントにランキング入りをしている氷純さんという方の、なろう要素ほぼ無しの作品『見切りから始める我流剣術』は、2021年のファンタジー作品の上位に名を連ねている。
ただ、逆お気に入りユーザーは600人を超えていたら上位1%、3000人超えていたら上位0.1%と言われる世界なので、逆お気に入りユーザーだけでポイントを得たとしても総合ランキング上位のキープはまず無理である。
つまりこれらの作品が上位をキープできている事実は、ランキング読みのユーザー層に、なろうテンプレをさほど求めていないユーザーが一定数存在することを示している。それも上位をそこそこ長い間キープできるほどのボリュームで。
実際、逆お気に入りユーザーを抱えておらずテンプレ成分も薄味なデビュー作が、ランキングの端にかかった後にも伸びていき、総合ランキング1位までたどり着いた例も存在している。2021年なら『蒼炎の魔術師』『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師』 、2022年なら『天才魔術師の弟を持つと人生はこうなる』がそれである。ただし、いずれも書籍化の報告は無い(もしかしたら水面化で交渉はあるかもしれないが)。
そもそも商業では、公募経由のラノベ作品との差別化も必要になってくるはずで、あえてなろうらしくない作品をなろうから出版する理由を思いつかない。その点でデビュー作でなろうらしくない作品は不利なのかもしれないなぁと個人的には仮説を立てている。
余談だが、売れっ子なろう作家である某氏は、市場のトレンドはまだ『異世界転生』なのに対し、なろう本家は先鋭化して『追放ざまぁ』が主流となり、市場と乖離を起こしているとツイートしている。なので、なろうテンプレを使う場合には、書籍化を狙うかどうかで選択するテンプレも変わってくるように思う。
また、デビュー作品とは言わないまでも、何作か発表した中の1本がヒットしてランキングを駆け上がり、書籍化まで至った作品ということであれば、『転生してハイエルフになりましたが、スローライフは120年で飽きました』『白の平民魔法使い』『アルマーク』『濁る瞳で何を願う』『退屈嫌いの封印術師』『サイレント・ウィッチ』などの名前が挙がる(『転生してハイエルフ〜』『濁る〜』は異世界転生要素ありだが作風自体は大きくなろうのそれとは異なる)。
もちろん狭き門であることに違いは無いわけだが、好きでもないなろうテンプレ盛り盛りの作品を書いてランキングに打ち上がって書籍化まで狙う欲張りアンハッピーセットに比べれば、まだ現実的ではないだろうか?
なぜなら、テンプレ嫌いと公言している人が、それらのテンプレの醍醐味を1つ1つ理解して、バランスよく作品に落とし込めるイメージが湧かないからだ。それならテンプレを1つに絞るか、最初から諦めて自分の得意な土俵で勝負しませんか?と言いたくなる。
ちなみに、独自路線の作品を書いてる人がなろうのテンプレに寄せた結果、2作ほど総合ランキング上位に打ち上がったケースを観測したことがあるが、その時の活動報告では複雑な心境を吐露されていた。ノリノリで書いた作品より、なろうウケを狙って書いた作品が評価されるという事実は、素直に受け止めにくいようであった。
この点から考えても、なろうテンプレ嫌いの人が、コテコテのなろうテンプレでランキング打ち上げを目指すことは、本人にとって果たしてプラスなのかと疑わしく思う。
以上が、私のランキングと書籍化に対する見立てである。整理すると、
・なろうからの書籍化やランキング上位を狙うにあたっては、なろうテンプレ盛り盛りが必ずしも正解とは言えない
・テンプレ嫌いが無理にテンプレ作品を書いたところで、読者が納得する仕上がりになるかは疑わしい
この2つの主張に集約される。
それでも、強い意志をもってテンプレ盛り盛り作品を書くというなら止めはしない。しかし、今までの主張に一理あると感じていただけたなら、この後に続く方法論にも目を通し、再考いただければと思う。
さて。
なろうテンプレ成分が薄い作品もランキングにおいてそれなりに需要があることはお分かりいただけたと思う。問題は、ランキング外で作品を探している人たちにどうやって認知してもらい、評価してもらうかである。
そのためには、まずランキング以外で作品がそれなりの人数に読まれる導線を知る必要がある。ズバリ以下の6つがそれである。
・新着一覧
・完結一覧
・レビュー一覧
・5ちゃんねる
・スコ速
・読者エッセイ&ブログ
このうち、レビュー一覧、5ちゃんねる、スコ速、読者エッセイ&ブログは、コテコテのなろうテンプレに飽きた人たちが、情報収集のために積極的に意見交換や情報発信の場として活用しており、いわゆるスコッパー気質の強い人たちが活用しているチャンネルと言える。
他方、新着一覧、完結一覧は正直読者の顔が見えず何とも言えない。ただし、同日に何回も更新して作品の露出を増やすことでランキングに入ったケースや、完結のタイミングでランキングに入ったケースがあることから、無視できない程度の効果があるチャンネルと言えよう。
特に作品の更新と完結は、書き手側の意思によってコントロール可能な点で他のチャンネルには無い魅力がある。
なので、これらのチャンネルを意識して『作品を高い頻度で更新する』『超大作よりも、確実に完結できるボリュームの作品をいくつも発表する』ことは、有力な戦術と考えられる。
前者の成功例としては『蒼炎の魔術師』で、連載開始の1週間ぐらいは1日20回前後の投稿回数でそれが功を奏してランキングインしている。
後者の成功例としては『サイレント・ウィッチ』や『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師』で、連載中はジワジワ読者を増やしつつ、完結のタイミングでポイントが爆発してランキングインしている。
次にレビュー一覧、5ちゃんねる、スコ速、読者エッセイ&ブログについてだが、これらは運任せ、作者にはコントロール不可なチャンネルと言えそうである。実際その通りなのだが、やれることもそれなりにある。
まず、スコッパーとはどういう人種かと言えば、「ランキングの傾向に飽きていて、少し趣の異なる作品を読みたいと思っている人達」と説明できる。なぜなら、ランキングにあるような作品で満足できるなら、ランキング外からわざわざ作品を探すような非合理なことをする必要がないからである。
つまり、テンプレ嫌いの作者とは本来相性が良いのである。
ただ、テンプレを完全に排除した作品で「面白い」と思わせるのは至難の業であろう。
テンプレがテンプレたる所以は、それを使えば読者に「面白い」と思ってもらえるストーリーを構築しやすいからこそであり、そうでなければ『テンプレ化』する意味が無い。
それを敢えて避けるということは、「未知の面白展開」を読者に提示して、かつ最初の数話ぐらいで面白さの期待値を一定水準まで高める自信がなければ厳しいのではないか?
だから、テンプレ嫌いであっても、せめて『転生転移』や『俺tueee』あたりの無難な要素を1つ2つ作品のエッセンスに加えておくことを推奨しておきたい。逆に『チーレム』や供給過剰な『追放ざまぁ』あたりは、忌避するスコッパーが多い印象である。
更にターゲットがスコッパーだからと言って、なんでもランキングと真逆であれば良いというものではなく、ストーリーのテンポについてはランキング作品と同じようなスピード感が求められている。
特にスコッパーは、1作あたりの判断を早く下すことでどんどん作品を選別する必要があり、この傾向は一般的読者より強い可能性さえある。極端な話、最初の5話程度(1-2万文字)で読むかどうかを判断するという声も聞く。
もし、どうしても1話あたりの進みを早くできないのであれば、更新頻度でカバーする、見どころが何話あたりになるか予め明記する、といった対策を検討すると良いのではないか。
ただし、自分の好きな要素を含んでいたり、独自の世界観を築いていて壮大なストーリーを予感させてくれるケースでは、腰を据えて読むこともある。
同様に、判断材料をなるべく早い段階で提供するために、タイトルとあらすじもよく考えたほうが良い。
しかし、ランキングと同じ長文タイトルは忌避されがちなので、簡潔さを意識して目を引くタイトルを考えなければならない。その分テンプレ盛り盛り作品より難易度は高いと思われる。最近は『なろうRaWi』というサービスを使って、タイトルとあらすじを予め評価する戦術も人気だが、スコッパーに通用するかは正直未知数である。
また、掲示板などを見る限り、スコッパーは保守的な人がそこそこいる印象で、字下げにうるさかったり、あらすじや1話目の誤字が多いのは許せないと言ったり、1話あたりの文字数が少ないと読む気がしないと言ったり、私から見ても面倒臭いなと思うこともしばしばである。なので、タイトルとあらすじに加えて最初の数話は、体裁をしっかり整えておくほうが良いと感じる。
まとめると、スコッパー受けを狙うならなろう的なアプローチは好まれないとは言いつつ、テンプレ要素は控えめで良いから入れることが望ましい。その上でストーリーのテンポを意識し序盤でうまく読者の心を掴むこと。また、変なところで減点されないようタイトル、あらすじ、誤字脱字には気をつけましょうといったところか。
そこまでして、ようやく作品を読むかどうかの評価の土俵に上れるといったところか。
あとはデビュー作で大きな成果を狙うことなく、完結を繰り返してコツコツ逆お気に入りユーザーを増やしていくよう立ち回れば、そのうち新作を発表するたびに一定のブクマと評価が入るようになり、ランキングへの道が開ける。
とは言え、毎回全然違うテーマや作風の作品を書いてしまうと、逆お気に入りユーザーの中でも傾向が分散してしまい、結果的にランキング入りに必要な推進力が得られなくなるので、そこは注意したほうが良いだろう。
振り返ってみると、「特に面白味の無いオーソドックスな方法論に着地してしまったなぁ」と思うが、長年スコップをしてきた感覚では、案外この程度の話さえ意識せずに書いている人がランキング外には多いように感じている(まぁそもそもランキングに興味がないだけかもしれないが)。
なので、まずは今回挙げたような考え方をベースに自作の立ち回りがどうだったかを振り返ってみてほしい。その上でもし「やれることは全てやった」と言える状況ならば、一旦「小説家になろう」は諦めて、公募に活路を見出すなり他の投稿サイトへの投稿を検討する方が良いかもしれない。