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ミッション5:リレーで1位獲得作戦!!

体育祭当日。いよいよここ約2週間の練習の成果を発揮する瞬間が訪れたーーーー。



【1年生は、入場門に並んでください】



「うわ〜っ!リレーめっちゃ緊張するーっ!!」


 アナウンス後、誰かの声を皮切りに、2年生全員がそれぞれの色のテントから一堂に会し、入場門へと移動し始めた。


 全学年A組とB組は赤組。C組とD組は青組。E組とF組は黄組。ちなみに私たち1年B組は赤組で、2年C組の君藤先輩は青組だ。


 私は先程、君藤先輩とその軍団を見かけた。やはり君藤先輩は安定の美しさだった。頭に巻いた青のハチマキがよく似合っていた。髪をサラリと靡かせ、薄い色素の髪が太陽の光の加減で更に薄くなり、全体的に透明感を纏っていた。友達と談笑しながら歩く姿や、競技に熱心に挑む姿に魅了されたのは、決して私だけではないだろう。美形すぎてため息が出てしまう。


 ”君藤先輩断ち”も今日で終了。たったの2週間じゃーん。なんて、余裕綽々とはいかなかった。会いたすぎて気が狂いそうでおかしくなりかけたのも事実。今まで私が君藤先輩の前に現れることができたのは、ひとえにミッションだったからこそ勇気を出せていた。


 でも、今ならミッションだからという使命感など関係なく、迷わず君藤先輩の前に現れることができそうだ。


 この前は意味不明だったが、君藤先輩から私に近づいて来てくれた。いつもより不機嫌だったけれど...。


(でもあの時の先輩、すごく意地悪だったけど、素敵だったんだよなぁ〜♪)


「由紗?今にもヨダレを垂らしそうな顔して何想像してたわけ?そりゃあね、さっきの騎馬戦での君藤先輩はピカイチにかっこよすぎてたけどさー」


 莉茉が私の肩に顎を乗せ、あゆみくんの如く耳元でそう囁いた。


「そうでしょ!かっこよかったよねぇ〜!!あとさ、障害物リレーでしょ。100m走でしょ。あと組体操。あとはーーー」

「あー、やっぱいい。聞くだけ野暮ってやつよね。あんたにとって君藤先輩は、どんな時も王子様だもんね」


 うんうん♪と上機嫌の私は、入場門へと到着し、脳裏に焼きついている君藤先輩の美しき姿を、今一度思い浮かべていた。


「あっ、ユーミン発見。...ニヤけ顔が不気味だけど、緊張はしてない?」


 私の後方から聞こえてきた声の主。その人の姿が見えなくても、声を聞けばすぐに誰だか特定できるほど仲良くなっていた。


「緊張してないと言えば嘘になるけど、緊張こそ私たちの敵。そう言い聞かせて練習してきた成果を発揮しなきゃ!」

「きっと大丈夫だから、自信持って堂々と走れよ。な?」

「はい、コーチ!この2週間、ご指導賜りありがとうございました!!」

「どういたしまして。...だけどさ、俺らもユーミンに負けずに頑張らないとな。正直陸上の大会よりも力入るわー」


 そう言いながらストレッチを始めるスーミンコーチ。そして、私たちの会話を静かに聞いていた莉茉が嬉しいことを教えてくれた。


「さっきバスケ部の芹沢くんが言ってたよ。何回かあんたたちが練習してるのを見てたらしくてさ、『相川すげー速く走れるようになってる。帰宅部の底力を見た』って」

「えー!?放課後練習しようって言った時、一番文句たれてたのに?」

「私は由紗の努力を認めてくれて嬉しかったよ。あんたたち下校時間ぎりぎりまで練習してたんでしょ?」

「うん。そうだよ」

「だったら、他の部活帰りの人たちにも見られてたはずだよ。芹沢くんみたいに変化に気付いた人、他にもいたんじゃないかなぁ」


 莉茉のその言葉を真に受けて、認めてもらえたんだと勝手に都合よく喜びを噛み締めていると。


「あ、そうだ。昨日練習してた時のことなんだけどさ。ユーミンの集中力が切れるのを懸念して知らせなかったことがある」

「え?もしかして...ジャージからよれよれのシャツの裾が出ててみっともない状態だったとか?」

「そうだったらおもしろいね...。ユーミンを見てたよ」

「ん?...誰が?」

「君高コンビが」

「君......えぇーっ!君藤先輩が!?志希先輩まで?どこで見てくれてたの?」

「二人で朝礼台に座って見てた。本当集中して練習してたんだな。ちらほら周りから黄色い声が上がってたんだけど」


 ワタシノバカタレ!!!


 ”君藤先輩断ち”しているとはいえ、そこは気付いとけよ!!!と、今さら過去の自分にダメ出しをする。


 てことは、君藤先輩がストーカーまがいな行為をする直前ということになる。あらためてあれには驚いたけれど、予期せぬ幸せなハプニングだった。


 何より、君高コンビが私のリレー練習を見届けてくれていた事実に感動した。


 いよいよリレー本番直前。一旦ムフフな感情は頭を振って追い出そう。



 〜〜


 プログラム12。1年生によるクラス対抗リレーの順番が回ってきたーーーー。


 いよいよ、ミッションクリアできるかどうか。つまり、私と君藤先輩が結ばれるかどうかの瀬戸際に立たされている。


(やるしかないっ!大丈夫、必ずや1位を取ってみせる!!)


 いざ、出陣っ!!!ーーーー



 順調すぎるほどに我がクラス、1年B組は、他クラスを引き離し、終始1位をキープ。中でも、中学時代国体でいい成績を残したという莉茉の走りは、今も健在ということをまざまざと見せつけた。実に美しすぎるフォームに見とれてるうちに、あれよあれよという間に次の走者、スーミンへとバトンを繋いだ。彼は素人でもわかるほど理想的でかっこいい走りをする。キャーッと女の子の声援が大きくなった気がした。


 いよいよ、最後から2番目走者の私の番となった。スーミンが私にバトンを渡す寸前、大きな声で叫んだ。


「ユーミン!陸上の神様が味方についてくれてるから、楽しんで走ってきて!!」


「うん!行ってきます!!」


 緊張は敵だ!と言って強がっていても、結局緊張していた私だったが、スーミンからのその言葉が魔法の言葉となり、気持ちがとても楽になった。


 力強くバトンを渡され、バトンキャッチも難なくクリア。より一層闘志を燃やす。


 踏み出した力強い一歩をバネに軽快に走り出す。ここが見せどころとばかりに突っ走る私。心配していたバトンキャッチが成功したけれど、喜びも束の間…途中膝に激痛が!なんてこともなく。石ころにつまずいて転んだ!なんてよくありがちなハプニングもなく、あっさりアンカー、陸上部次期キャプテンの津田くんへとバトンタッチの時を迎える。順調すぎる私のリレー走者の時間は、あっさり無事終了となった。


 何かしらの劇的なドラマ展開があり、有終の美を飾るべく2位のクラスと接戦の末、1位を勝ち取る!なんてハラハラドキドキのレース展開となることもなく、アンカー津田くんが余裕でゴールテープを切るという安定すぎる1位獲得となった。


 それが、ミッションクリアの瞬間だった......ーーーー。


(私、足を引っ張るどころか、わりと1位に貢献してませんでした?)


 ミッションのおかげで、努力と頑張りの末、私は自信を手に入れた。


(君藤先輩、見てくれてたかな。私の頑張り、褒めてくれるかな。)


 感極まり、一人号泣する私。それを見てクラスメイト一同、失笑。やはりこのクラスは最強すぎた。この体育祭のクラス対抗リレーで1位を取るために編成されたクラスなんじゃないかと思うほどの逸材ばかりで惚れ惚れした。


 午前の部の私の出番はリレーで終わり、昼食を挟み、午後の部がスタートした。


 女子騎馬戦ではあっさり負けてしまい、その後も午前より少ない競技をこなした。


 本年度体育祭最後の私の出番は、1年女子によるダンスだった。


 そして、ダンスといえば、あの方が黙っていられなかったみたいです。ダンスが終了し、退場する最中、私の耳元で彼はご立腹そうな声で。


「力抜いてたでしょ、由紗さん」


 そんなことを耳元で呟くのは、言わずと知れた人物で。よって私は、心の対話を余儀なくされるのです。


(だってあゆみくん。ダンスなんて私には難しいんだも〜ん...。)

「甘えてもかわいくない...」

(かわいくなくて結構よ!それでも精一杯頑張ったんだからね。...あ。ご報告が遅くなっちゃったけど、リレーで1位を取ったよ!よって、ミッションクリア〜♪)

「...そうだね。見てたよ」

(もっと喜んでくれる!?)

「...おめでとう」

(声的に喜んでなさそうだけどね...。)

「...別に俺は...」

(なんなの?)

「なんでもない。嬉しいのは由紗さんだけでいいじゃん。俺は...君藤先輩なんかほしくないもん...」

(なんかその言い方、拗ねてるように聞こえるよー。)

「そんなことないよ。...あのさー、話戻るんだけど」

(ん、何?)

「めちゃくちゃ下手だったけど、ダンス楽しそうだったね...」


 今の声色は...。なんとなく、本当の感情を隠し、無理して明るく振る舞う時の感じだ。


 そうだよねーーー。


 あゆみくんは以前、ヒップホップダンスに情熱を燃やしていたと言っていた。きっとまたダンスをしたくてうずうずしてるに違いない。叶えてあげたいけれど、姿なきあゆみくんなだけに、どうしてあげたらいいものか、途方に暮れる。


 今回の体育祭は、”君高コンビ祭”と言っても過言ではない内容だった。2年のクラス対抗リレーで抜群の走りを見せた二人。女子のみならず男子までも羨望の眼差しで見ていたのだ。学年や色(組)などの垣根を越えて応援されていたのは、君高コンビだけだった。


 偉大な先輩であり、我が校の2大アイドルとお知り合いになれた奇跡に、改めて感謝する体育祭となった。


 そして、なんとなく癪だけど、そのきっかけを与えてくれた私の恋のキューピットくんにも感謝しておく。

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