騎士の絆
本編終了後、討伐部隊に入隊したデラのその後のお話です。
「間違っていたら失礼。もしかしたら、デラ隊長ではありませんか?」
「え?」
懐かしい敬称で呼ばれて、デラはその青年をまじまじと見つめ返した。
食堂も営んでいる城下町の旅籠で遅い昼食を取っていたデラは、突然目の前に現れた人物の人懐っこそうな瞳に面食らう。
討伐部隊に入隊してから、それはもう多くの出会いがあった。ワイルダー公国の半数以上の武人に出会ったと言っても過言ではない。
「俺もすっかりいい歳だからなぁ。隊長も見違えちまいますよね」
がらりと変わった口調に心当たりを感じて、デラは記憶の糸を必死に手繰り寄せた。
自分がその呼称を当たり前のように受け入れていたのは、それよりもっと前。それも、第三王子の小姓から私設騎士団の親衛隊長として抜擢されていた、ごく短い期間だけだ。
「…ランス?」
「ご名答」
にっ、と笑うその表情は、デラの記憶を連れ戻す。
「どうぞ掛けてください」
瞬時に記憶が戻り、デラはランスに微笑んだ。
ランスはデラに勧められるまま、「ではお言葉に甘えて」とデラの向かい側の椅子に座る。
「旅籠に泊まっているんですか?」
「ええ。王都に来る時はよく利用してます」
「元気そうですね。今は普通の暮らしに戻っているんですよね?」
彼は隊員の中でも一番人当たりが良く、副隊長として潤滑油役を率先して務め、隊とデラをよく支えてくれていた。剣の腕もかなり確かなものだったのだが、高齢の両親の為に騎士を辞めて故郷に戻ったと、クレイからの便りにあった。
「親が商いをしていましたから、その跡を継ぎました。嫁さんを貰って、子供もいます。隊長こそ、お元気そうで何よりです。立派な騎士になられましたね」
「そう言ってくれるのはランスくらいですよ。私はまだまだ下っ端ですから」
「だからと言って今頃昼飯だなんて、クレイ皇子も相変わらず隊長をこき使うなぁ」
やや非難する口調になったランスに、デラはやんわりと訂正する。
「クレイ皇子ではなく騎士団長です。私はまだ討伐途中で、今は物資補給の為に王都に来ているんです」
デラ本人はそう思い込んでいたが、デラの登城は実はクレイが騎士団長に命じたものだった。討伐部隊が予想以上の苦戦を強いられたとの報告を受け、デラの無事を直接自分の目で確認したいという親心から命じたのだが、しかしその思いは一度は騎士団長にやんわりと退けられた。討伐が完了するまでは決してクレイに会わないとデラが自身に固く誓っていることを騎士団長から知らされたクレイは、デラの決心を身勝手な自己満足の為だけに覆えさせるのは忍びないと考え、遠くからデラの様子を確認するだけに留めることにした。そして騎士団長はそんなクレイの為に、デラへ「王都行きの雑務は最年少騎士の務め」と騙り王都行きを了承させ、登城しても騎士団内での出仕に専念し、むやみに城内を彷徨かないよう厳しく言い含めた。
「では、隊長もここに泊まっていたんですか」
「はい。昨夜はかなり遅い時間に到着したので、今朝は寝坊して朝食を食べそびれました。それなのに、物資の調達に手こずって昼食もこんなに遅くなってしまった」
ランスがデラに気付いた理由もそれだった。仕事がひと段落して宿に戻ると、昼食とは程遠い時間に食事をしている騎士がいた。昔懐かしい騎士団の装備につい見入り、そしてその装備に身を包んでいる若者の姿に昔のデラの面影を見つけて、思わず声を掛けたのだ。
「ここの飯は美味いから、朝飯分損をしてしまいましたね。隊長さえ宜しければ、手伝いましょうか? 商売柄、城下町では顔が利きますから、色々役に立てると思いますよ」
「嬉しい申し出ですが、時間などは良いのですか?」
遠慮するデラに、ランスは魅力的な提案を上乗せする。
「ちょうど晩飯まで何をして過ごそうかと考えていたところです。それが終わったら一杯どうですか?」
昔のままの気安さとその屈託の無さに、デラは安心して頷いた。
「いいですね。実は明日登城するまでに揃えておかなければならない品をまだ買い付け終えていないんです。取り扱っている店を案内して貰えたら助かるのですが」
「任せて下さい。自信を持って皇子に報告出来る品揃えにしてあげますよ」
「…登城と言っても騎士団に顔を出すだけで、皇子に謁見はしません」
おや、という表情になったランスに気付いて、デラは慌てて説明を加えた。
「皇子もお忙しい身ですし、今は私よりもサラ妃殿下に気を配るべき時ですから」
デラの狙い通り、サラの名前を口に出した途端、ランスの瞳がぱあっと輝いた。ランスの興味が完全にサラへと移ったことにデラはほっとする。
上手く説明できないが、デラは自ら敢えてクレイと距離を取っていることを騎士団長以外には知られたくなかった。
つまらない意地を張っている、やはり子供のすることだ、と騎士仲間から一笑に付されることを何処かで恐れているのかも知れない。ランスはそういうことを一番しなさそうな人間ではあるのだが、それでもデラは慎重になっていた。
「サラ妃殿下! …さぞかしお美しくなられているんだろうなぁ」
花嫁姿でも想像しているのか、その表情はうっとりとしている。
「恐らくそうでしょうね。私は今の隊に入隊して以来、皇子にもサラ妃殿下にもお会いしていませんから想像で答えるしかありませんが」
クレイとサラの結婚は、デラの予想よりも年数を要した。挙式の目安を同盟手続の完了後にしていたことが主な原因だったと聞き、お預けを喰らうことになった皇子はさぞかし苛々したことだろうとデラは推測する。
「えっ」
デラの言葉に、ランスは驚きのあまり目を丸くして身を乗り出した。
「結婚式に出なかったんですか!」
「もとより私は後ろ楯のない平民です。いくら皇子の小姓でも、王家の結婚式に列席するなど、とんでもない事です」
「でもサラさんとの結婚式なら、長の家族も招待されていたでしょう。デラ隊長だけが気後れされる必要など…」
「それでも私の出席は有り得ませんよ。騎士としても未熟なので、まだまだ王族の行事には関われません」
あーあ、と言った様子でランスは溜息を吐いた。
「昔のままですねぇ、そういうとこ」
「そういうとこ?」
「難攻不落のデラ」
その言葉に、デラはぴくりと反応した。
「どんな誘惑にも負けない所は昔のままのようですね。あなたはもっと、自分が手にした立場を利用してもいいのに。昔から俺達の悪フザケや賭け事はおろか、クレイ皇子の甘言にすら乗らなかった。…もっとも、今後はその二つ名が専ら女性達の間で使われそうですが」
「何の話ですか?」
デラの質問にはあえて答えず、ランスはにやつきながら周囲に視線を巡らせて、遠巻きにデラを眺めている女性達の数を確認する。
北方の民族の血を引くデラは立派な体躯に恵まれ、今や大男と呼んでも遜色無い部類に入っていた。過酷な訓練と遠征ですっかり日焼けし、首を護る為に長く伸ばしている髪はかなり傷んで赤茶けてしまっていたが、それらを補って余りあるほどの甘い顔立ちを城下の若い娘達が見逃すはずがなかった。
午前中に城下町を行き来するだけでも相当目立ったのだろう。デラの容姿に心を摑まれた町娘達が、旅籠周辺にちょっとした人集りを作っている。
かく言うランスも既婚者でありながら、行商で王都に立ち寄る際はそれなりに女性達の注目を集めている。元騎士で礼儀正しく、用心棒の如く荒事をいつの間にか収めてしまう手腕の持ち主は、荒くれ者が集まりがちな城下町ではいつも歓迎されていた。
「デラ隊長の口から浮いた話のひとつやふたつ、聞きたかったんだけどなぁ。あ、俺の娘だけはダメですよ」
「お子さんは女の子なんですね」
「ええ。これがもう可愛くて。あの頃のマイリみたいで。俺、長みたいに幼い娘を手放す覚悟はまだ無いですよ」
すっかり相好を崩したランスの口から出た名前を、デラはつい繰り返す。
「マイリ…」
「勿論、憶えているでしょう? 今はもう、婚約者とかいるんでしょうね」
「ええ…そうでしょうね」
ワイルダー公国の隣国で友好国でもあるリブシャ王国のほとんどの女性は、成人するとすぐに結婚してしまう。その風習を支えているのが幼い頃からの婚約制度だ。マイリもあと二年で成人のはずだった。当然、既に婚約者がいてもおかしくない。
「あの小さかったマイリが結婚かぁ…。俺は娘が成人しても嫁に出す気はないけど」
「娘さんは今、何歳ですか」
「四歳です」
でれでれとして答えるランスにデラは呆れたような溜息をつき、ランスの娘自慢とも惚気話ともつかない話を聞きながら昼食を続けることにした。
その晩と翌日の朝も、デラとランスは食事を共にしていた。
「あの地まで討伐が進めば、あと一息で片付きそうですね」
「出来れば今年中に何とかしたいと思っています」
「期待していますよ。クレイ皇子はもっと期待しているだろうなぁ。皇子に会う機会があったら、どうぞよろしくお伝え下さい。あ、勿論サラ妃殿下にも」
「分かりました」
デラは思わずくすりと笑ってしまう。
昨夜杯を重ねるうちに、酔ったランスが当時のサラへの恋心を滔々と語り始めて止まらなくなったことを思い出したからだ。
そのことを憶えているのかいないのか、ランスは飄々としている。これが既婚者の余裕というものだろうか、そうだとしたらクレイ皇子も随分変わってしまわれたのだろうかと、デラは数年前に別れたきりのクレイに思いを馳せた。
「ところで隊長はいつまでここに?」
「これから騎士団へ出向いて、特に命を受けなければそのまま出発することになると思います」
「そうですか。では今日でお別れですね。俺も昼前に出発します」
「昨日は世話になりました。道中気をつけて」
「隊長こそ。お会い出来て嬉しかったです。また偶然会える日を楽しみに、隊長のご武運を祈ってますよ」
「ありがとう」
そう言って旅籠を後にし、デラはふと気付く。
とうとう最後まで、ランスは自分のことを「隊長」と呼び続けていたな。
「デラおじさまーぁ」
「レイラ様」
仔犬のように全力で駆けてくる小さな姫が視界に入ると、デラは生きた心地がしない。
転んでしまわれるのではないか。怪我をされるのではないか。あんなに幼気な存在が、怪我などして良い訳が無い。
自分が娘ではなく息子の父であることに、デラはどこかでほっとしていた。
クレイ皇子の愛娘への溺愛ぶりはランスどころではなく、実母のサラ妃殿下ですら呆れるほどだ。
もし自分が娘を持ってしまったら、あのように人が変わってしまうのかと想像するだけで、ぞっとする。
「デラ」
マイリが産んでくれたのが息子で良かった、と喜びを噛み締めていたところに、その当の父親が音もなくデラの背後を取った。
「…なぜレイラは父ではなく叔父を呼ぶのだ」
「存じません。レイラ皇女に直接伺っては如何でしょうか」
不機嫌に絡んできたクレイにデラは笑顔で応える。
「お前の方が僕よりも高く掲げてくれるからだと言っている。もう少し低くしろ」
…既に訊ねていたのか。
「御意」
デラは心の中で溜息をつく。
赤ん坊の頃より皇女はデラの「高い高い」がお気に入りで、デラが少し抱き上げるだけで上機嫌になっていた。正直、デラにも自分の方が懐かれているのではないか、と勘違いしてしまいそうになった時期もあったが、皇女は正真正銘、疑いようのない「お父さんっ子」だ。
成長するにつれサラ妃殿下にどんどん似てくるから、恋する人の幼い頃を見守っているようで皇子としてもたまらないのだろう。そして意識的なのか無意識なのか、皇子を振り回せそうなことを片っ端から試みる姿に、こんなに幼い時期から、と末恐ろしくも感じるが、それに嬉々として反応している皇子の変貌ぶりの方がもっと恐ろしい。
王家の血縁達がほぼ全員あの体たらくなので、せめて自分一人くらいは節度と威厳を保たなくては、と思ってはいる。しかし、最近活発になり益々可愛らしくなっていく姫を見ていると、その決心も揺らいでくる。
デラは飛びついてきた姫を無事に受け止めると、クレイの指示通りに肩の高さより上へ持ち上げるのを止め、その代わりに浮遊感を存分に堪能出来るようにくるりと一回転してみせる「お楽しみ」を加えてから、ふわりと地に降ろした。
小さな姫は一周分の遠心力から解放された後、着地までの間にドレスの裾が日傘が開くように丸く膨らんでいく様を楽しんで、満面の笑みをデラとクレイに向けた。
可愛い。
クレイの心の声が聞こえてきそうだが、デラもその気持ちには同意する。
実際に血が繋がっていなくても、家族同然に暮らしているレイラがデラにとっても可愛くないはずがないのだ。
「おとうさまに、はしっているところをみられてしまいましたね」
「別に悪いことではありませんよ」
「その通り。問題ないよ、レイラ」
「おかあさまからしゅくじょ、らしくないとしかられてしまいます。ないしょにしてください」
「約束しよう」
蕩けきった笑顔でそう答えたクレイは、デラに代わって娘を抱き上げ屋敷に向かう。姫ははしゃぎ過ぎて疲れたのか、息が整うとクレイに凭れたままうとうととし始めた。その穏やかな光景に微笑みつつも、デラは予てより促してきた案について切り出す。
「…以前から申しておりますが、レイラ皇女のお目付け役には他に適任がいるのでは」
今までずっと軍事に特化してきたこの王室の風習は、王室初の皇女にとって相応しいものではないとデラは感じていた。かと言って王族出身ではないサラ妃殿下に一任してしまうのは、あまりにも荷が重すぎる。隣国のリブシャ王国か、同盟国のハーヴィス王国から侍女を招き入れるなどして作法を学ばせれば、サラ妃殿下にとっても王室の慣習について学ぶ良い機会となるだろうという提案に、しかしクレイは一向に首を縦に振ろうとしなかった。
「僕はお前が最適だと思っている。レイラが心から信用していて、且つレイラを諌めることが出来る男はお前以外にいない。それに、レイラには一人くらい意のままにならない人間が必要だ」
即答な上にその役割を父親として果たそうとする気は毛頭無いのだなと呆れながらも、クレイの口から初めて聞かされる自分への評価に、デラは驚きを隠せない。
「そこまで信頼していただけているとは、存じませんでした」
「全く自覚が無いようだが、お前は昔から周囲の信頼が厚い。息子達はお前を師匠と仰いでいるし、親衛隊にいた者達は未だにお前のことを隊長、と呼んでいる」
クレイが王都から公爵領へ居を移す際に王城に残ることになった騎士達は、今では騎士団の要職に就いている。ランスのように騎士を辞めて故郷へ帰った者ならともかく、現役かつデラよりも位が高くなった騎士達も未だに自分をそう呼んでいることを知り、デラの胸は熱くなった。
「有難いことです。しかし私もいずれは姫に絆されてしまいそうで…」
「難攻不落と呼ばれるお前なら大丈夫だろう。王都では、町娘や令嬢達の秋波に目もくれなかったそうじゃないか」
デラの城外での様子を間諜からの報告で把握していたクレイは、その内容を思い出して楽しそうに笑う。
「一体いつの話をしているのですか。それに、皇子がつけたその二つ名のおかげで困ったことも一度や二度ではないのですよ」
「僕はお前の美点を讃えただけだ。その後の尾鰭の評判は、お前自身の行動によるものだろう?」
既に寝息をたて始めた愛娘の巻毛を撫でつけながら、クレイは続けた。
「…僕が特別目をかけていたせいで、お前を嫉妬む者達が少なからずいた。だからお前があの討伐部隊に入ることには、正直なところ反対だった。遠征中は、お前を消すにはちょうど良い条件が揃ってしまう。まだほんの子供だったお前を僕は何としても守りたかったが、お前の覚悟を知り、僕の不安を解消することよりお前の願いを叶えてやることの方がずっと大切だと気付いたから、望み通りにさせることにした。結果、お前は無事に戦い抜き、騎士として立派に成長してくれた。これほど実力のある、信頼できる側近は他にいない」
当時はまだ子供だったということもあり、騎士団ではいつも揶揄われてばかりで、自分の立場など皇子の気紛れでいつでも取り上げられてしまうものだと心の何処かで思っていた。
だから人一倍努力した。一日も早く一人前の騎士になって、後ろ楯など無くても自身の力で立てるように。
「お前はもっと自分を誇っていい。僕の権力に頼らず、自鍛自恃を常とするお前自身の努力のお陰で、僕は堂々とお前を取り立ててこの公爵領へ引っ張ることが出来たんだ。しかも、都合の良い事に僕の身内にもなってくれたしね」
サラとマイリは血の繋がった姉妹ではないのだが、サラが村長の娘という出自を前面に押し出している為、マイリと結婚したデラはクレイの義弟となった。公爵邸の居住区内の一角を与えられて住まうことが許され、警備も万全であることから、サラとマイリは気楽に行き来することができる。もちろん子供達同士の行き来も自由だ。
「これでお前がサラやレイラを守る事に異を唱える者はいないし、護衛の管理に悩まされることもない」
クレイはひどく満足そうに独り言つ。
サラ妃殿下の秘密を知る人間だけを身近に固めて置けるのは、クレイ皇子にとってこの上なく好都合だろう。外部からの使用人を新たに招き入れようとしないのも仕方がないと思えるのだが。
気付かれないようにそっと溜息を逃したデラに、クレイは愉快そうに「それに」と付け加えた。
「姫もそうだが、皇子達の懐き方も異常なほどなんだよ。お前の命令なら素直に従うしね。サラもものすごく不思議がっている。どうやってあの腕白達を手懐けた?」
「手懐けたなどと」
身に覚えの無いことを言われ、デラは思案する。
騎士仲間の子供達に接するように、特別扱いはせずただ普通に接していただけなのだが。
しかし皇女はともかく、皇子達は自分の出自について騎士仲間達に色々吹き込まれている可能性はあるな…それも、かなり碌でも無い方の話を。加えて、クレイ皇子が付けた二つ名の、面白可笑しく脚色されている由来の方を聞かされていたとしたら…。
デラは軽い眩暈を覚えた。
遠征先で、数多の令嬢からの申し出を袖にし続けたという逸話が、まことしやかに騎士団に根付いている。マイリへの愛を貫く為、国の安寧を目指して賊を片っ端から斬って行ったとか何とか…。
大筋は間違っていないし、マイリの反応が満更ではなさそうだったから…どころかむしろどこか嬉しそうだったから、放置しておけばいずれ誰も話題にしなくなるだろうと高を括っていたのが裏目に出た。事実の羅列だけだった噂話は、いつしか美麗に脚色され、全く別の物語になってしまっている。
尾鰭の評判は、確かに自分自身の行動に因るものだ。
「護衛と子守りの両方を完璧にこなす騎士など、同盟国内の何処を探しても見つけられないだろう。本当に頼もしい奴だよ、お前は…。僕は本当に、得難い騎士を得た」
「…光栄です」
揶揄い気味の視線を遣るクレイを小さく逆恨みしながら、デラは今度は盛大に溜息をついた。
デラとマイリの年齢差のこともあり、デラの討伐にはかなり時間がかかっていることになっています。部隊に参加している間に成人し、飲酒もできるようになり、それなりに女性にモテモテ(死語)な青年期だったであろうことは容易に想像できます。そしてデラは登場人物の中では一番独身期間が長いので、騎士仲間がマイリに変な話を吹き込むことを一番恐れています。