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第五話

 MISSON 『掃除を完遂せよ!』を受注した為、目下、目的地へ移動中であり、依頼人かつ案内人のレイアの後を追う形となっている。


「しかし、掃除なんかで本当にいいの?」


 大通りを外れ、裏道を歩いてる中、前を歩く背中に声をかけ、


「なんかもっとRPGゲームみたいにアレをとってきて欲しいとかあのモンスターを倒して欲しいとか魔王を倒すのじゃとかでもいいんだよ、現状の俺では成功率は限りなくゼロだけどね」


 今のアラヤの戦力では戦闘面においての活躍は期待できない、この世界の力バランスがどれほどかは分からないが、先程受けた女性のビンタからして普通の一般人でも人を吹っ飛ばせる力はあると推測できる。

 となると、視力以外に能力があがっていないアラヤに戦闘はかなり荷が重い。


「それはつまり、役に立たないと言っているのと同じなのではないですか?」


「精一杯掃除頑張ります!」


「結局、掃除で落ち着くんですね」


 レイアは微笑しながらもその歩みは止めない。

 黄金色の髪をなびかせ、凛と歩く姿は可憐で美しい。

 俺の歩く速度を気にしてるのか、たまにチラッと後ろを確認し、目が合う瞬間は微笑みを返す。

 美少女に免疫がなさすぎるアラヤの頬は次第に真っ赤に変色していくが、それを悟られない様に質問を繰り出す。


「そ、そういえば、この国ってどんなとこなの?平和?」


「ルイス国は五大国の中では最も平和な国ですよ。土地が広いのに加え自然が豊かなので農業や畜産を中心とした職を持つ方が多いですね。特産だと先程食べましたミカムやバナマといった果実、お肉ですとルイスブタが人気があります」


 淡々と歩きながら話すレイアの後を追いながら、「豚はブタのままなんだ」と変化のない豚に同情。


「治安維持にも力を入れていましてーーちょうどいましたね、あの方々を見て下さい」


 レイアの指先の方に目を向けると、二人組の鎧を着た男性が通りを歩き、周りに目を配らせている。

 全身に銀色の鎧を光らせ、片方は手に槍をもう片方は腰に鞘を付けているのが見える。

 こちらに気付くことのない彼等を横目に見ながら、反対方向の細道を抜けていく。


「さっきのは騎士ってやつ?」


「はい、但し城下町の視察を担当するのは基本的には騎士見習い達ですね」


「見習いなのか、全身にかっこいい鎧とか着てたけど?」

 

「着装してるからこそ見習いなんですよ。本物の騎士になれば動き難い鎧は逆に邪魔になりますから」


 確かに重量感のある鎧をあんな全身に着て戦闘するのはしんどそうではあるが。


「よく知ってるね?」


「…聞いた話ですよ」


 こちらに顔を向け、それ以上は聞かないでと言わんばかりの微笑。

 

「まぁ、あんな人達が歩いてたら悪さはできないな。まてよ、じゃあもし俺がレイアさんに止められてなかったら、あいつらに斬り殺されてたかもしれないのか、マジ感謝!マジ女神!」


「ふふっ、だから大袈裟ですよ」


 褒めたり謙遜したりとたわいのない会話が続く中、更なる疑問を覚える。


「なら騎士がいるって事は他国と戦争とかしてるのか?」


「いえ、ルイス国が他の国と抗争をしたというのは最近はありません、そもそもどの国も今はそれどころじゃありませんから」


「なんで?」


「デモンですよ」


「デモン?」


 聞いた事のない単語に首を捻る。


「…まさか知らないんですか?」


 彼女は急に立ち止まり、こちらを見るや目を丸くしている。


「勿論!」


 下手にごまかすのは止めて、もはや己の無知さに胸を張る始末。

 無職、無一文、無為無能の四無から無知が加わり五無にレベルアップするとはもはやこの異世界恐るるに足らん。

 彼女はそんな残念な男を一瞥し、ゆっくりとした口調で話し始め、


「闇より現れし魔物、人を喰らう悪食、不死の怪物など呼び方は様々ですが、奴らを総称して『デモン』と私達は呼んでいます」


「聞くからにヤバそうなんですけれども...」


「実際に危険ですからね」


「もし出逢った場合の対処法とかある?」


「そうですね、これはある騎士が語っていましたけど」


 彼女は目を瞑り、淡々と言葉を紡ぐ。


「怖がってはいけない、恐れてはいけない、逃げてはいけない、憐れんではいけない、信じてはいけない、後悔したくないのなら、失いたくないのなら」


 彼女は目を開け、そして告げる。


「ーー殺すしかない」

 

 空色の瞳がこちらを覗き見る、アラヤにはその瞳にどんな感情が篭っていたのかは解らない。


 ただ、澄み切った色の瞳の奥にほんの少し、ほんの少しだけ畏怖を感じたのだった。



                 △〇〇△〇〇△



「えーと、着きました」


 噴水広場から体感数十分といったところ、広場から覗き見れた城はより小さくなっているので、城下街の少し外れの方に来たという事がわかる。

 周囲を見渡すと、大通りにいた時のような賑わいは無く、それどころか人の影すらもほとんどない。

 そんな静けさの中、アラヤは目の前に現れた建物を一瞥。

 レイアに関しては身なりや雰囲気でそれなりのお嬢様だと思っていたのだが、目の前に建つ家を見てしまった現状、その設定は崩壊した。

 壁や屋根は木材で造られている模様だが、所々が割れているというか「風通しは良さそうだねぇ」と冗談が言えるような穴が開いていたりする。

 

「な、なんというか...想像と違った」


「ボロボロでごめんなさい」


「いや...まぁ...その...うん」


赤面してうつむくレイアになんて言葉をかけたらいいのか分からず、


「俺は外見よりも中身派だから、人を見るときも外面じゃなく内面重視のタイプだから」


 と頼りないフォロー。

 彼女はそのフォローを聞くと更に顔を沈ませ、家のドアを開けながら小さな声で呟く。


「あの...では、中へお入りください」


 その態度に嫌な予感を感じながらも「おじゃまします」と声をかけながら足を踏み入れる。

 アラヤにとって女性の家に上がり込むなんて人生で初めての体験であり、本来ならば「可愛いお部屋ですね」や「めちゃくちゃオシャレな部屋ですね」なんて褒めることで好感度上昇を狙うとこなんだが、その光景を見たアラヤは、


「ひ、人の価値って家や部屋で決まらないから!」


 と両手を顔の前に隠し赤面している彼女に向けて親指をサムズアップしたのだった。


 

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