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第二話

 『ネイル・バーガスト』 種族:人 性別:男性 年齢:三十三歳 ルイス国ホウトク地方出生 「リオネス商会」所属 『マイア・ハレストフ』種族:人 性別:女性 年齢:十七歳 ルイス国バージニア地方出生 『ボイラス・ヴィラ・アサナン』 種族:人 性別:男性 年齢:四十六歳 サハトラ国テラスバラン地方出生 「ルイス国第二騎士団」所属 『ミーナ・ラスク』種族:人 性別:女性 年齢:十六歳 『リル・タイス』 種族:人 性別:男性 年齢:六七歳 ……


 名前、種族、性別などなど目に見える人の全てに吹き出しのように文字が書かれている。


「おいおい、個人情報漏洩とかのレベルじゃないな」


 あまりの衝撃的な出来事に頭が追いつかず、脳が必死に情報整理をしているのを感じる。


「ミーナ・ラスク十六歳で身長百六十五の体重四十八、バストウエストヒップもしっかりと記載されてると」


 まばらに観察すると名前などが目立つが、個人個人をじっくりと見るとその人の出生や職種、体躯の数字などが付け足されていく。


「これは...」


 文字の多さに酔ってしまいそうで長くは付けられず、外しては付けて外しては付けてと繰り返す。

 吹き出しの様に記されている文字は視界に入る人達の真横にあり、移動する人にもピタリとひっついている。

 数人分の情報を眺めたところで、脳の処理も落ち着き、その処理結果を口に出す。


「チート能力……では無いよなぁ」


 相手の情報を丸裸にできるこの力は便利だけど、それだけじゃチート級と呼べる能力には思えない。


「見えるだけだしな」


 眼鏡を通して見る文字は日本語で書かれているので、読む事は可能、しかし一つ一つの単語について詳しい記載はない。

 ルイス国なりリオナス商会など書かれていても、それが何なのかはアラヤには不可解である。


「便利なのは便利だが、戦闘面においての使い道は限りなくゼロに近いんじゃないか?というか俺自身に能力が付与された訳じゃなく、眼鏡が能力を持ってるってそもそもどうよ」


 それなら、視力が回復したついでに俺の眼自体にこの能力を付与してくれよ、なんで一旦眼鏡をかけないといけないのかと不満が募る。


「なんでデスブックの一つも持ってないんだ、名前が分かったとしても何もできなきゃ豚に真珠なんですが」


 無い物ねだりを口に出し、ため息をつく。

 眼鏡を外し、文字化けしない周囲を確認し、そのまま右手に持つ眼鏡を見つめる。


「まぁ、異世界来たのに何も無いよりかはマシか」


「はぁ」と再度ため息を吐いてはもう一度眼鏡をかけ直す。


「名前や年齢なんか分かったところで俺の腹は膨れねぇぞ」


 この世界に来てから何時間も経ったというほどではないが、朝飯を食べてないアラヤの腹は「ぐぎゅるるる」と唸りを上げている。


「せめて、お金を稼げる能力だったら...いやまてよ」


 俯いていた顔をあげ、手の甲に顎を乗せる。


「この力はつまり超能力って事だよな、身知らずの人に話しかけ名前や年齢を言い当てる、そうすると相手は驚き、慄き、仰天し、俺はパフォーマンスとして対価を頂けるのでは」


 ストリートパフォーマンスは日本や海外でも行われている路上で演奏や歌、踊りや軽業などを披露し生計を立てること。

 つまるところ、この能力で金稼ぎができるんではないかとアラヤは考える。


「天才だ、神はなんて力を俺に与えてしまったのか」


 両手を掲げ、神に感謝を捧げる。


「よし、そうと決まれば時は金なり!お金が無い俺からしたら時間は命の次に重いぜ」


 アラヤはベンチより勢いよく立ち上がり、賑わいがある大通り目指し、足を踏み出した。

 狙うは一攫千金、どんな世界でもお金さえあれば生活はできるはず。


「さぁ新谷創志、人生を変える異世界物語、ここからスタートだ!」





                  △〇〇△〇〇△



「……」


 涙が零れ出す。 


「……くれ」


 鼻水が垂れる。


「…む、…てくれ」


 涙も嗚咽も止まらない、止められない。


「頼む!日本に帰してくれえええええ!」


 もはやダムが崩壊したかのように嘆声が溢れ出す。


 勢いよく、明るい異世界物語を目指して歩きだした彼はもういない、そこにいるのは先程のベンチに俯けで寝そべり、己の考えの浅さに打ちひしがれ、はやくもホームシックになっている残念な彼だった。

 

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