7話 オークの話
俺たちは、食料品店「ポンタキッチン」の厨房のさらに奥、ポンタの部屋まで案内された。部屋はポンタサイズなのだろう、とても大きかった。
「へへ、あんたらオークを見るのは初めてかい?」
「人では、無さそうじゃな」
俺がそう話すとポンタはハハッと笑い
「あぁ、俺はオークって種族でね。こんな図体をしちゃいるがあんたらに危害を与えるつもりはない。安心してくれ」
と言ってくれた。
「そうか…。それで武雪のことを知っているのか?」
「ぜひ教えてくれ!」
「あぁ、勿論だとも」
ポンタの話。
今から10年ほど前のこと、世界は今ほど平和ではなく、神光国レンポルトも例外では無かった。
暴力、略奪、差別はあちらこちらで起こり、それを止められるものは誰もいなかった。
それだけ世界が荒れ、皆の心がすさんでいた。
そこに現れたのが武雪だった。
彼は暴力を身体をはって抑え、仕方なく盗みを働こうとするものを立ち止まらせた。
差別をするものには「何故そんな事を言うのか」と説得をした。
彼の行為は無意味なことに思えた。
しかし、毎日毎日。
こりもせず走り回る武雪の姿を見て、皆は諦めと言うか、変に吹っ切れたと言うか…。
段々とお互いを尊重していくことになったのだ。
それからはお互いが支え合い、武雪がいなくとも諫め、止め、話し合える。そんな国へと変わっていた。皆が変わったことを知ってか否か。
彼はこの国を後にしたのだという。
「へへっ、俺は武雪に会ったこの国、第一号なんだよ」
「ほーう、10年前に活躍した「英雄」武雪って方はすごいもんじゃのう!」
「あぁ、うちの息子にも見習ってもらいたいわぃ」
「あんたらが、武雪の両親なのか…?」
「先日、息子が失踪してな。それを追ってここに来たんじゃ」
「ふむ…」
ポンタは顎に手を当てて考える仕草をした。
「あんたらに、見せたいものがある」
そう言ってポンタは奥の巨大な棚から一通の手紙を取り出した。
「これは?」
「英雄、武雪が去った時に受け取ったものだ」
「どれどれ…」
俺は手紙を手に取り読んでみることにした。
「拝啓 お袋、親父殿
もしかしたらこっちの世界に来てしまった時の為に、これを書きます。最初にこの世界に現れた場所に元の世界に戻るスイッチがある。今すぐ帰ったほうがいい。
武雪より」
「これは…」
「元の世界とか、スイッチとか…俺には何のことだかサッパリで…」
「爺ちゃん…!」
「あぁ、これは武雪の字じゃ」
と言うことは…武雪が10年前にこの世界に現れて、英雄になったと言うことだろうか。
俺と鈴が考えていると
「きゃー!!」
悲鳴のような声がマーケットから響いた。
「今の声って!?」
「考えるのはあとじゃ!行ってみるぞ!」
どうやら一波乱起きそうな予感がしていた。
〜神光国レンポルト裏通り〜
「兄貴、本当にやるんですかい?」
「あぁ、ルナの野郎。今に見てろ…!」
ワニーノが薄暗い笑みを浮かべていた。