2話 初めての戦い「爺さんの秘策」
雷を放つ狼「サンダーウルフ」との戦いは、
狼の素早い動きから繰り出される電撃を、俺が避けきれずに受け続ける状況が続いていた。
ナタ鎌を振るが、一向に当たる気配がない。
「爺ちゃん!大丈夫か!!」
婆さんが慌てて声を出す。
「大丈夫じゃよ、それより婆さん。バッグにロープ入れたじゃろ。それを取ってくれ」
「!!…わかった!」
婆さんは、自分のバッグからロープを取り出して俺に渡してくれた。
「サンキュー、ベリベリマッチ!…さぁて」
俺はロープをビシッと握った。
「犬どもにロープの使い方を教えてやるか…」
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サンダーウルフは単体でもEクラスの手強い魔物だ。
電気耐性を持っていない者は、素早い動きから繰り出される電撃に簡単にやられてしまうだろう。
しかし、電気耐性を持っている人など限られている。
故に、サンダーウルフの群れは混乱していた。
「この人間は何者だ!いくら電撃を放てど倒れない」と。
何故宇蔵は倒れないのか。
その答えは簡単だ。電気耐性を持っていたのだ。
宇蔵はこちらの世界に来るまで、仕事の疲れを癒すために電気マッサージを愛用していた。
電気マッサージを使い続けることで、多少の電撃には耐えれる体になっていた。
その体がこの世界に来たことで、スキル「電撃耐性」を獲得したのである。
そして今、サンダーウルフの電撃を浴びる事により
宇蔵のスキルは変化しようとしていた。
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先ほどから狼の頭数を数えているが、今になってようやく分かってきた。狼の群れはおそらく5匹だ。
5匹ならばなんとかなると思う。
だが、先ほどから浴びている電撃が少しずつ効いてきて体が思うように動かなかった。
「爺ちゃん!」
後ろには婆さんが、懸命に叫んでいる。
俺を応援してくれているようだった。
俺は電気で揺れている膝をなんとか踏ん張って、婆さんを守り立っていた。
だが…それももう限界だ。
ガサッ!
俺は膝から崩れ落ちた。
「ハァ…!ハァ…!」
こんな所で終わる訳にはいかない。
武雪を探して…俺は家族で一緒に帰る…!
着いてきてくれた…鈴だって!俺が…!
「俺が…守るんだぁあ!!」
もう一度立って、迫る狼を迎え撃つ。
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サンダーウルフ達は、安堵していた。
永遠に効かないのかと思われた電撃は、確実に目の前の人間の体力を奪いとっていた。膝をついた人間を5匹で襲えば、ひとたまりも無いだろう。
サンダーウルフは男の体力が無いと見るや、電撃を数回放ったあと、接近戦で仕留めにかかる。
その時、サンダーウルフに「想定外」の事態が起こった。守られていた女が飛び出して、男を庇ったのだ。
女は電撃を受けて倒れた。サンダーウルフはしめしめと思いそのまま走る。が、次の瞬間。
男の眼の色が変わった。
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俺は、立ち上がった直後に電撃を受ける筈だった。
しかし、そうはならなかった。
鈴が俺を庇い、前に飛び出していたからだ。
俺の中にあった痛みと痺れが、取れた様な気がした。
「うぉおおお!!!!」
俺は迫る狼の足にロープを回し、もう一度挟み、また引っ張る。柿を吊るす時の結び方「かめ結び」だった。狼は一瞬で5頭まとめて縛られて、勝負は決着を迎えたのだった。
「鈴!」
俺は、婆さんの元にかけよる。
婆さんは草に倒れていて、体が痺れている様だった。
そして
「さすが爺ちゃん」
と、手を出した。
俺はホッと安心して
「こんくらい簡単じゃ」
婆さんの手を握り、体を起こした。
こうして2人は初めての戦闘に勝利したのだった。
【宇蔵は「電撃無効」のスキルを手に入れた!】