1話 別の世界
ボタンを押した瞬間、部屋が真っ白な光に包まれた。
その光に俺たちは飲み込まれて、俺は思わず目を閉じた。数秒後、肩を揺らされる。
「おい爺ちゃん!」
再び目を開けた時。俺は婆さんと2人、どこまでも広がる草原に立っていた。
1話 別の世界
巨大な草原の真ん中、2人がポツンと立ち尽くす。
草原の奥に2mはあるだろうか、巨大な鳥の姿。
足元の川には、見たこともない桃色の小魚が泳いでいた。
「爺ちゃん!これからどうする?」
「どうするもこうするも、武雪を探すわい」
「おぉ、そうじゃな。で、どっちに向かう」
草原は全体が見えないほど広く、前に山、右に山、左も後ろも山が広がっていた。
「こっち行くか」
「おぉ」
俺たちは3つの山が重なって、王冠の様になっている山を目指して歩き出す。この山が一番近そうだったからだ。
「武雪はいるんじゃろうか」
「いるわえ〜、直ぐ見つかるわ」
「そうじゃったらいいのぉ」
こうして
爺さんと婆さんの、長い長い旅が幕を開けた。
歩き始めてから数時間、山の麓まで辿り着くことができた。日も落ちてきたので、山の周りで見つけた洞窟で休憩する事にした。
数時間とはいえかなりの距離だ。リュックサックから湿布を取り出して婆さんに貼ってもらう。
ペットボトルに入れた水を鍋に入れ、ライターで火を起こす。沸騰したら、カップラーメンにお湯を注いだ。今日の晩御飯だ。
「それにしても、ここはどこなんじゃろうなぁ」
ラーメンがふやけるまで時間があるので俺はそう話した。
「知らん、日本のどっかじゃろ」
婆さんは、ラーメンの中身を見ながらそう言った。
「そうかのぉ」
最初に見た大きな鳥や、小さな小魚。
歩いている途中に出てきたプルプルの生き物。
見たこともない植物も生えていて、ここは日本どころか、地球ではないどこかなんじゃないか。
そんな気がしてならなかった。
「ほら、もう食べるぞ」
考えている間に3分ほど経ったらしい。
婆さんと一緒にカップラーメンを頬張った。
「もう寝るぞぉ」
「おぉ、明日も歩きじゃ。今のうちに眠ったとけ」
「おぉ、よっこらしょ」
俺が横になると、目を見張るものが現れた。
「おい婆さん!婆さん!」
「なんじゃ!うるさいのぉ!」
「横になれ!」
「まだ寝らんのじゃ!」
「いいから転がれ!」
そう言うと、婆さんは渋々横になった。
そして、俺と同じ様に空を見上げた。
「おぉ、これはすごい…」
「へへっ、そうじゃのぉ」
横になって現れたのは、上空に広がる満天の星だった。一つ一つの星が輝いていて、こんなに綺麗な夜空を見るのは、生まれて初めての事だった。
「綺麗じゃあ」
俺はそう言って横を見ると、婆さんは星を数えていた。
「ははっ、何しとるんじゃ?」
「いやぁ星座がな」
「星座がどうしたんじゃ」
俺がそう聞くと、婆さんは真剣な顔で
「どこを見ても、違うんじゃよ」
と話した。「そんな訳あるか」と思って星座を見ると
一昨日も見つけたオリオン座が、いつもの場所に見つからなかった。
「どういうことじゃ…?」
まさか本当に別の世界に来たのか。
そんな訳が無いと信じたかったが、次に起こることが俺の疑念を確信へと変えた。
「グルルル…」
いつの間にか、狼の様な動物に周りを囲まれていた。
「アオーン!!」
狼が一斉に鳴いたかと思えば、狼の群れの間に電気が走り、こちらに向かって電気が飛んできた。
「!!」
俺は婆さんをすんでの所で庇い、電気を受けた。
「爺ちゃん!」
「大丈夫じゃ、それより婆さん。ここはどうやら日本じゃねぇ」
俺は腰にかけていたナタ鎌を取り出した。
「日本とは違う『別の世界』だ!」
雷を放つ狼との戦いが始まった。
【宇蔵は、「サンダーウルフ」と戦闘を始めた!】