コント「OB、かえる」
舞台…OBの思い出の地
配役…A=後輩 B=OB
舞台上手からOBがやって来る。OBは黒いズボンに白のシャツ姿で、気取った話し方をする。
B「懐かしいなぁ。ここもあまり(タバコに火をつけて吸う仕草)ふぅ~…変わらねぇな」
舞台下手からゆったり目のトレーナーを着た後輩がパタパタと走って来る。
A「どこ行ったんだろう?(OBを見て)すいません、ボール見ませんでしたか?」
B「探し物はこれかな?(ポケットからボールを出す仕草)」
A「そうです、ありがとうございま…」
B「(ボールを頭上に持ち上げ)おっと。簡単に手に入っちまったら、つまらねぇだろ?」
A「え?あっあなたは一体…」
B「キミ、ここの生徒?」
A「え?生徒っていうか、まぁ…」
B「オレも去年までここに通ってたんだ。だから君にとってオレは(タバコを吸う仕草)ふぅ~…OBだ」
A「え?ここに通ってたんですか?この、ぽかぽか幼稚園に」
B「そう。そして今年から東小学校に入学した、マサルって者だ。よろしく!」
A「えっ?幼稚園にOBが来た!?」
B「どうした?OBがそんなに不思議か?」
A「高校に大学生が来るとかは聞いたことあるけど、幼稚園にも来るんだ…」
B「つまらねぇ常識に(タバコを吸う仕草)ふぅ~…とらわれてんじゃねぇよ」
A「何でタバコ吸うフリするんですか?何も持ってないのに。あの、ボール返してくださ…」
B「近くに来たから、ついフラっと寄っちまったよ」
A「全然返してくれない…」
B「はぁ~懐かしいなぁ。結局、年長の頃が人生で一番楽しかったなぁ」
A「人生のピーク早くないですか?」
B「何?君、文句あるの?OBにその態度はありえねぇよ。オレが若い頃は…」
A「パパがよく言うセリフだ」
B「年長が廊下を歩いて来たら、年少は避けてお辞儀したもんだぜ?」
A「それもパパが言ってた!“タテシャカイ”だ」
B「なめられるのは性に合わないんでね…(ボールを構える)」
A「ちょっと!何するんですか!?」
B「こうだ!(ボールを上に放り投げ、ノールックでキャッチする仕草)…なっ?」
A「うわぁ!すごくかっこよく、ボール落とした」
B「(ボールを拾う仕草)このぐらいにしといてやる」
A「どのぐらいですか?」
B「今はだいぶ丸くなったが、オレもこう見えて、幼稚園時代は結構ワルかったんだぜ」
A「なんか武勇伝語り出した」
B「オモチャを独り占めしたり、ウソ泣きして先生を呼んで“タカシくんにやられた”ってウソついて嫌いなヤツを貶めたり」
A「めっちゃ悪い!ウソ泣きした後ウソつく度胸はんぱねぇ!」
B「毎日ケンカして回ったよ。強そうなヤツ見つけては近寄って“てめぇどこの組の者だよ?”」
A「ヤクザみてぇ!」
B「あとで幼稚園裏に集まって“ひまわり組のてっぺん決めようぜ!”ってタイマンはったなぁ…それから」
A「それから!?特にオチはないんだ」
B「オレさ、夜の幼稚園に忍び込んだことがあるんだよ。夜の幼稚園で窓ガラスを…」
A「どうしたんですか?」
B「ポテチ食った手でベッタベタにしてやったよ!」
A「悪い!お昼寝の時間に騒ぐくらい悪い!」
B「だからあまりオレを侮らない方がいいぜ。今でもオレは現役なんだ。オレの今の通り名知ってるか?」
A「なんですか?」
B「“フェザー・オブ・エンジェル”…天使のはね、だ」
A「ランドセル!?…あの、すいません。お歌の時間なんでボール返してくれますか?」
B「何を歌うんだ?」
A「『むすんで ひらいて』です」
B「ふっ…オレにもそんな歌を歌っていた時期があったな。だが小学校で、本物の音楽に出会っちまった。何だと思う?」
A「返してくれないんだ…何ですか?」
B「そのメロディーを聞いた瞬間、衝撃が走った!♬~われらの 学び舎 東小学校~♬」
A「校歌!?」
B「この歌は愛にあふれている!母校への愛に…」
A「校歌ってそういうもんなんじゃ…」
B「この歌を聞いて、オレは音楽に目覚めた!」
A「校歌きっかけで目覚める人いるんだ」
B「オレはこう思った。いつかビッグになりてぇ!あの歌みてぇに人を感動させる何かを作りてぇ!」
A「すごいてぇてぇ言う」
B「オレの夢を応援してくれる人だっているんだぜ。オレの話を毎日聞いてくれる、保健室の先生とかな」
A「保健室入り浸ってる!?あんまり学校生活上手くいってないんじゃ…」
B「確かに周りの愚民どもからは理解されていないが」
A「小学生でその感じはキツいですって」
B「だがオレはいずれ天下を…おっと、電話だ(子どもの口調で電話に出る)もしもしママ?いやいや、これから塾行くから!この前みたいにサボんないから怒んないでよぉ~(電話を切り、気取った口調で)じゃっ!縁があったらまた会おう!(ボールをAに返す)」
A「もう来ないでいいです!」