9・お泊り
それから特に変わった事はなく、ただ日常が続いた。
朝起きて朝食を終えると、怜奈と共に登校し、休み時間には屋上で怜奈が海斗の匂いを嗅ぐ癖がついた(怜奈曰く海斗限定の匂いフェチらしい)。
そして学校が終わると、怜奈の家に行き、道場にてゴム弓で弓道の練習をした。それが終わると海斗は家に帰るか、速水家で夕食をご馳走になるかの日常だった。
そんな日常を繰り返してたある日の道場で、怜奈が言った。
「ねえ海斗君。今日海斗君の家に泊まりに行っても良いかな?」
「えっ?」
ゴム弓を引こうとした海斗の手が止まる。
「…僕は構わないけど、師範やおばさんは許可は出してるの?」
此処は道場なので、怜奈の父親の事は師範と呼んでいる。
「うん。海斗君が良いって言ってくれたら、良いってさ」
「…じゃあ今日の練習が終わったら、家においでよ」
「うん!」
怜奈のその日の練習は、何時もより力が入ったものになった。
やがて今日の練習が終わり、海斗は怜奈がお泊りの準備が終わるのを、玄関で待った。其処に怜奈の母親がやって来た。
「ごめんね海斗君。ご迷惑かけちゃって」
「いえ、僕も家では一人なんで、誰かが来てくれると嬉しいです」
そう海斗は笑顔で言った。其処に準備を終えた怜奈がやって来る。手にはカバンが握られている。
「お待たせ海斗君」
「怜奈。海斗君のご迷惑にならないでね」
「分かってるよ」
「それじゃあ、怜奈さんをお預かりします」
そう言って、海斗と怜奈は速水家を出た。
「おじゃまします」
斜向かいの深海家に入ると、怜奈はそう言った。
「僕以外は誰も居ないから、楽にしてて良いよ」
「じゃあ少しだけお言葉に甘えて…」
そんな会話をしながら、リビングルームに着いた。
「僕、部屋に弓道衣置いてくるから、寛いでて良いよ」
そう言うと海斗は、自分の部屋へと向かった。怜奈はソファーに座りながら、部屋の中を見回した。
「!」
すると、棚の上にある一枚の写真が入った、写真立てを見つけて近づいた。其処には海斗に似た男性と若い女性、そして幼い海斗が写っていた。
怜奈はこの男女が海斗の両親だと直ぐに分かった。怜奈は無言で手を合わせた。
「お待たせ怜奈」
其処に海斗が戻ってきた。
「海斗君。この人達って、海斗君の両親だよね」
「…うん。そうだよ」
「お父さんの方は、海斗君に似ているね」
「そうかな…?」
そう言いながら海斗は、何やらビザやら出前のチラシを持ってきた。
「何それ海斗君?」
「何か出前でも頼もうと思って、僕は何時も冷凍食品とかで済ましちゃってるけど、今日は怜奈が居るから…」
「そんな勿体無いよ…そうだ! ボクが作ろうか?」
「えっ、怜奈が…料理出来るの?」
「ふふん! これでもお母さんの手伝いとかで、料理した事はあるんだ!」
「でも材料が無いよ…」
「近くのスーパーにでも買いに行こうよ!」
「怜奈がそれで良いなら、僕は構わないよ」
「じゃあ行こうよ!」
「分かった」
海斗は財布を手に取ると、怜奈と共に玄関へと向かった。
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