5・速水家の食卓
今の内言っておきますが、この物語はそんなに長くするつもりはありませんわ。
夕暮れが来て、怜奈に『今日は終わろう』と言われて、海斗は私服に着替えて、怜奈の自宅の方に、怜奈と共に向かった。
「あらおかえりなさい。遅かったって事は、海斗君の稽古をしてあげてたの?」
出迎えた怜奈の母親が尋ねた。
「うんそうだよ。まだボクと同じゴム弓しか出来ないけど、素質はあると思うんだ」
「そうなの…海斗君。良かったら夕ご飯食べていかない?」
「えっ? いやその…悪いですよ…今日知り合ったばかりなのに…」
怜奈の母親の提案に、海斗は戸惑う。
「良いじゃないか。お母さんもそう言ってるし、食べていきなよ」
怜奈の言葉に海斗は怯む。
「…じゃあ…ご厚意に甘えて…いただきます」
海斗がそう言うと、怜奈の母親はニッコリと笑って、ダイニングルームに案内した。
案内されたダイニングルームのテーブルには、四人分の食事が用意されていた。
「海斗君はボクの隣に座ろう!」
そう言って怜奈は、一つの椅子を引いた。海斗は遠慮しがちに其処に座った。そしてその横に怜奈が座り、その正面の椅子に怜奈の母親が座った。其処に…
「おっ、いい匂いがするな~」
其処に怜奈の父親…即ち師範がやって来た。
「あっ、師範」
海斗は慌てて立ち上がり、礼をする。すると…
「ハッハッハッ! 此処では『師範』と呼ばなくて良いんだよ!」
と、陽気な口調で怜奈の父親は言った。
『あれ? 何か性格や口調が、道場と違くない?』
海斗は心の中で呟いた。
「あっ、海斗君戸惑ってる? 実はお父さん家に居る時と道場に居る時と、キャラが変わるんだ」
怜奈にそう説明されて、海斗は何となく納得する。
「そういえば海斗君。夕ご飯を食べていくようだけど、ご両親に連絡しなくて良いのかい?」
怜奈の父親が尋ねると、海斗は俯いてしまう。
「お父さん。実は…」
怜奈が海斗の両親の事を話した。
「そうか…それはすまなかった…」
「いえ大丈夫です。怜奈さんのおかげで悲しみを吹っ切れる事が出来ましたし…」
「そうか、それなら良いんだが…海斗君、こんな事を言っていてなんだが、門下生として迎え入れたが、月謝などは払えるのかい?」
「ちょっとお父さん。海斗君は両親が居ないんだよ! それなのに月謝を払えだなんて…」
怜奈が抗議をする。
「大丈夫です。両親の遺産がありますし、生活補助のお金も受け取っているので、月謝については問題ないです」
「そうか…聞いて悪かったな…それじゃあ夕食が冷めない内に食べようか」
「そうだね…海斗君、食べよう」
「うん」
「「「「いただきます」」」」
四人の声がダイニングルームに響いた。
※ ※
「そういえば、海斗君は食べ物の好き嫌いはあるの?」
隣で食事を取っている怜奈が尋ねた。
「納豆が苦手かな…生まれつき食べられないんだ…」
「そうなんだ…ところで海斗君! ニンジン食べる?」
「コラ怜奈! 海斗君にあげないで、自分で食べなさい!」
海斗にニンジンを上げようとした怜奈を、怜奈の父親が諫める。
「は~い…」
拗ねた口調で返事をする怜奈。
「ふふふ…」
その様子を見て、海斗は静かに笑った。
「どうしたの? 海斗君」
「いやその…こういう風景を見るのも久しぶりだなって思って…」
「海斗君が良かったら、何時でも夕食に来ても良いんだよ」
「それじゃあ、怜奈のお母さんが大変じゃないか」
海斗が言うと、皆は大笑いをした。
やがて夕食が終わり、海斗は家に帰る事になった。
「じゃあお休みなさい」
玄関にて見送ってくれる速水家の人々に、海斗は言った。
「うん、海斗君お休み! 明日一緒に登校しようね」
「うん」
「じゃあお休み」
そう言うと怜奈は、玄関の扉を閉めた。
その後海斗は家に帰り、お風呂に入って出た後、歯を磨いたりした。そしてダイニングルームでテレビを見て時間を過ごした。
やがて夜遅くになったので、海斗はテレビを消して自室へと向かおうとする。その前に両親の写真の前で止まった。
「お父さん、お母さん。怜奈は優しくてとっても良い子なんだ…僕ね弓道を始める事になったんだ…応援しててね」
そう言うと海斗は、今度こそ自室へと向かった。自室に入ると海斗はベッドに潜り込んだ。
「お休み…怜奈」
今頃眠っているだろう怜奈の名を呟き、海斗は眠りに入った。
今更ですが、弓道のシーンに間違いとかってありましたか?
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