第09話 「もーう、照れなくていいのに……」
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「あー、朝か……けど、間に合ったぜ、フヘヘ……」
佑奈と目標設定した翌日。
小鳥のさえずり声が聞こえてきたあたりで、自分が徹夜していたことに気づいた。徹夜した理由は、佑奈のために課題克服ノートを作っていたからだ。
今までのテスト回答の傾向を分析して、苦手ポイント等をまとめておいたのだ。きっと、役立ててくれるはず……。
「そろそろ、起きるか……」
「隆弘―、起きてるー?」
そのタイミングで、ドアの方向から佑奈の声が聞こえてきた。
「ああ、起きてる。すぐに準備する」
「はいはーい! あ、着替え手伝ってあげよっか?」
「結構だよ!」
そんなやり取りをしつつ、俺も着替えて部屋を出て、朝食を食べに向かった。すでに全員、席についていたようで俺が最後だった。
「いや、隆弘君。ありがとう!」
座った直後、佑奈のお父さん──昌弘さんから褒められた。
加えて、佑奈のお母さん──美佐子さんも嬉しそうにしている、対照的に、雛鞠だけは眉間にしわを寄せて俺のことを睨んでいるけど……。
すごく嬉しそうな顔してるけど、何かお礼を言われることあったっけ?
「えーと……」
「あ、それはね」
俺の疑問に対して、佑奈が応えてくれた。
「お父さんとお母さんに話したんだ。私が本当は、特進選抜クラスに行きたいってこと。今までさ、私は勉強に対して後ろ向きだったから、前向きになってくれたことが嬉しかったみたいで……」
頬を掻きながら、照れくさそうに佑奈は教えてくれた。
なるほど、そういうことか……。
「佑奈が勉強に前向きになってくれただけでも嬉しいって言うのに、特進選抜をねらう向上心までも……うぅ……」
「ちょっと、お父さんっ! そんなことで泣かないでよ!」
ハンカチを手に当てる昌弘さんに、佑奈はたじろいでいた。
「仕方ないだろ佑奈。今までどんな家庭教師を雇っても上手くいかなかったのに……隆弘君、本当にありがとう!」
「ほら、そろそろ朝食にしますよ! あなたも泣き止んでください」
美佐子さんがそう声をかけ、みんなで朝食を食べた。
こんな大勢でたべることはあまりなかったので、少し落ち着かなかった。早く、慣れたものだ。ただ、みんなで笑いながら食べるというのは、母さん以来だったので少し胸がくすぐったかった。
それから朝食後。
「えっ……車で学校行くの?」
「うん。歩いていくと寒いし」
すげーよ、お金持ち。朝から車で登校って、何かスケール違うわ。
それから車に乗せてもらったんだけど、
「あ、私はこいつと同じ車なんて、絶対に嫌だからね!」
雛鞠だけは車にのらず、歩いて登校していった。
「あー、気にしないでいいよ、隆弘」
若干、気まずそうに佑奈フォローしてくる。
「いや、けどさ……」
どう考えても俺が裸を見たことが原因だよね……これから、家庭教師をしていくと考えると少し胃が痛い……
「そうじゃなくてね、雛鞠の態度がああなのは、もっと別のところにあるから」
「? どういうこと……?」
「ごめんね、これ以上は言えないかな。隆弘がもっと、雛鞠に信頼してもらえたら自然と話してくれると思うよ、ガンバ!」
以前、言っていたリハビリと関係しているのかもしれない。これについては、後々だな。
今は、目の前にことに集中しよう。
「じゃあ、佑奈。放課後になったら、図書館で勉強だからな。あと、雛鞠にも連絡しておいてくれよな?」
「はーい、よろしくね。センセ?」
「やめろ、先生なんて恥ずかしい……」
イタズラめいた口調で、からかってくる佑奈。
「もーう、照れなくていいのに……」
そしいて、いつものように嬉しそうな顔で佑奈は俺の鼻を撫でてくるのだった。
「だから、それも恥ずかしいんだって……」
そして、学校に着いたんだけど……
「なぁ、あの黒薔薇姫と一緒に登校してるのって誰だ?」
「確か、幼なじみの真白じゃなかったっけ?」
「なるほど、幼なじみか……スコップは?」
「ロープも用意してある。あとは場所だけだ」
「おし、お前ら、放課後で疲れてると思うが、いっちょ、頑張るか!」
「「「おーっ!」」」
こんな具合で、男子、主に佑奈のファンクラブからの嫉妬が凄かった。
なぜなら、佑奈はこの学校でモテるからだ。それはもう、凄まじくモテる。具体的には、クラスメイトたちの間で秘密裏に行われた『末吉高校彼女にしたい女子ランキング』ではぶっちぎりの一位をとるほどに。
お調子者だからこそ、愛嬌のある性格は男女問わず魅了し、佑奈の美貌に憧れて髪型を真似した女子だっているぐらいだ。
つもりは、モテる要素しかないということだ。なお、黒薔薇姫というのは佑奈のあだ名である。
「なぁ、佑奈。何とかしてくれよ」
「一緒に、暮らしてることも話す?」
「なんで、火に油を注ぐようなことを言うんだよ! 鬼か!」
「クスス、冗談って、もーう。隆弘は可愛いなぁ……」
再び、佑奈は俺の鼻を撫でてくる。
いや、佑奈さん。本当に、俺の鼻を撫でるのが好きっすね……だけど、そんなことしたら……
「他クラスも参加したいって言ってたから、スコップ追加でいるわ」
「俺は釘バットを用意しておくよ」
「じゃあ、みんな頑張るぞ!」
「「「おっしゃーっ!」」」
こんな感じで、ヒートアップするに決まってるよね。
「ウププ……隆弘が困っている……」
「てめぇ……わざとだな」
こいつ、俺が困ってるの見て楽しんでやがった。面白そうな顔をする佑奈に、俺は頬を引っ張ってやった。
「イデデデ……ゴベンナサイ」
タップしてきたので、俺は手を離した。
「まったく……私だからいいものの他の女の子にしたらセクハラなんだからね」
両頬をさすりながら、佑奈は俺に文句を言ってくる。
「さすがに、佑奈以外にこんなことはできないって」
「ふーん……それって私が特別ってこと?」
イタズラめいた口調で俺の目を覗き込んでくる。
「幼なじみだからだよ」
そう言ったときに俺は気づいた。周囲からの血走った視線にだ。
「さ、さぁー! 今日も勉強頑張るぞー。やっぱり、勉強って最高だな、もはや、勉強以外、眼に行かないって!」
周囲に、佑奈とはなんともないアピールだけしておく。そして、俺は逃げるように、いや、文字通り逃げるために教室にまで走った。
※
放課後。図書館で佑奈と雛鞠を待っていたのだが来ない。
佑奈は何やら少し用事があるから遅れるとは聞いていたが、それでも遅い。
「仕方ない。探しに行くか」
適当に学校を歩き回った。そして、人があまり集まらない空き教室に到着した時だった。
「えーっ! 今日もダメなのっ!?」
廊下に響き渡る勢いで、声が聞こえてきた。
言葉とは裏腹に、そこまで気にしてなさそうな感じだった。
ただ、どこか不満げなのが、ちらほらと伝わってくる。
「そ、その……気持ちは嬉しんだけど、今は誰とも付き合う気がなくて……」
この声、まさか……
おそるおそる、廊下の隅から様子を伺うと予想通りだった。
そこには、申し訳なさそうな顔で謝罪する佑奈が立っていたからだ。
『今日も』というあたりから、トラブルが起きそうな予感を俺は覚えてしまった……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
明日の投稿も20~21時の間になりますので、お待ちください。
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