第08話 「言質、取ったからね」
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「今日のテスト結果と、今までのテスト結果。クラス希望票を見て、俺は今後、佑奈の成績が伸びるに違いないと確信したからだ!」
「何言って……さっきまでの見てたでしょ」
自嘲気味に佑奈はつぶやく。
「繰り返しになるが、俺は佑奈たちの家庭教師だ。雛鞠にもだが、当然、佑奈にも勉強させる。佑奈が嫌々って言うなら、させる気はなかったけどな」
少々、強気で佑奈に話す。そして、確認しておかないといけないことがある。ほぼ、間違いなんだろうが本人の口から聞く必要があるからだ。
「佑奈さ、二年生になったらどのクラスに行きたいんだ?」
「そんなの……留年しなかったらなんでも……」
「嘘だな」
「なっ! どうして隆弘にそんなことが──」
俺の言葉に、佑奈はムッとした表情をしている。そんな彼女に、証拠を突き付ける。
「ならなんで、一度、特進選抜クラスって書いたんだ?」
一度書いた文字の上から、二重線を引っ張って訂正していたクラス希望票だ。
「どうして、隆弘がそれを──」
「成績表の間に挟まってたんだよ。それで、どうなんだ?」
佑奈は少しの間、悩んでいた。それでも、歯がゆそうに、悔しそうに、服の裾を握りながら佑奈は話してくれた。
「うん……本当は、特進選抜クラスに行きたい……」
やっぱり、そうだよな……希望しないクラスを書くわけないもんな。
「じゃあ、そこに目標を設定して頑張らないとな」
「隆弘は勝手だね……」
俺の言葉にクスッと佑奈は笑っている。まるで、俺の言っていることが冗談だと言わんばかりに。
「でも、無理だよ。このテストの結果に今までの成績」
「確かにそうだな……ぶっちゃけ、問題を解いていくたびに、点数が下がるんだからびっくりしたよ。留年させないので手一杯だと思った。でも、佑奈の言葉とテスト結果を聞いて、何とかなるんじゃないかと思った」
ゆっくりと、静かに話す。今、俺の話していることがしっりと佑奈の心に響くように。なにより、これしきのことで簡単にあきらめて欲しくなかったから。
「え……?」
「今日のテスト問題を見てくれ」
「? 分かった……」
「見てみろ。全部、空欄を埋めている」
「それが……」
「佑奈が、いまだに特進選クラスを、自身の成績向上を諦めていない証拠だろ? 諦めているやつは、最初からそもそも空欄を全部埋めない。お前が、無意識にでもあがき続けてる証拠だ」
「──ッ!」
俺の言葉に思い当たる節があるのか、佑奈は目を大きく見開いている。
「け、けど……じゃあ! 隆弘は私みたいに問題を解いていけば、点数が下がっていくことあった?」
「いや、それはなかった」
「むぅ……そんな否定しなくても」
頬を膨らませている佑奈。
「いや、誤魔化しても仕方ないだろ。でもな、どうして点数が下がっていくのか、どうしたら佑奈の点数が下がらないのか、一緒に悩むことはできる」
「………………」
俺の言葉に佑奈は返事をしない。何を思って、何を考えているのだろうか。
でも、俺の気持ちが伝わればと思う。
「それに、言ったよな、俺にはがっかりされたり見捨てられたくないって。調子のんな」
「イタッ……!」
佑奈に向かってデコピンを飛ばした。すると、何か言いたげな表情でこちらを見ている。
「俺がお前のこと、何があっても見捨てるわけないだろ。母さんを失って、一人ぼっちになったときにお前が優しく抱きしめて傍にいてくれた。俺はそのことがたまらなく嬉しかったし、幸せだなと思ったよ」
一人ぼっちになって、暗闇包まれるかと思った。だけど、佑奈が傍にいてくれた。そのおかげで、温かい陽だまりにまで連れてきてもらった。
「幸せって……」
その時のことを思い返したのか、恥ずかしそうに佑奈は顔を赤らめている。
「そんな幸せをくれた佑奈を俺は絶対に見捨てない」
佑奈の目をまっすぐ見て話す。
「佑奈が特進選抜クラスに入ることで、幸せになれるのなら俺はそれを手伝い。今までは一人で頑張ってたけど、今日からは二人だ。一人じゃできないことも、二人ならできるに決まってる……だから、佑奈が幸せになれる手伝いを俺にさせてくれ」
母さんが昔、言っていた。恩を受けることは恥じゃないと。もらったままにしておくことことこそが恥だと。これで返せれるなんて思っちゃいない。それでも、俺がもらったうちの一つでも返せればと思う。
「……ふふ」
俺の言葉に佑奈は小さく笑う。
「なーに、隆弘。もしかして私のこと口説いてる?」
そこには、柔和な笑顔を浮かべた佑奈がいた。少しは前向きになってくれたのだろうか。
「えっ!? いや、そんなつもりは……」
た、確かに、幸せにしてあげたいって、そうとれないことも……。
「なーんだ、残念」
「おい、人が真面目に話してんのにからかうなよ」
「ごめんごめん」
そう言いながらも佑奈は嬉しそうだ。
「ちょっとね、考えちゃった。他の誰とでもない、隆弘となら上手くいくんじゃないかって。そう言ったからには、責任とってよね」
「おう、任せ──」
その先は口にできなかった。なぜなら、佑奈の人差し指が俺の唇に当てられたから。
若干、瞳を潤ませた佑奈が
「言質、取ったからね」
今まで過ごしてきた中で、一番きれいな笑顔を浮かべていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
明日の投稿は20~21時の間になりますので、お待ちください。
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