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第07話 「どうして、体を密着させているのでしょうか?」

すいません、遅くなりました。

いつも読んでくださってありがとうございます。

 雛鞠は嫌々家庭教師の件を受け入れた後、モデルの仕事のために出発していった。雛鞠に勉強を教えるのは、明日、学校の授業が終わってからになりそうだ。


 そして現在、俺と佑奈は勉強部屋で隣り合って座っていたのだが……


「佑奈さんや。佑奈さんや。どうして、そんなに体を密着させているのでしょうか?」

「だって、雛鞠の体に見惚れてたから……」


 頬を膨らませた佑奈が、体を密着させて何もしようとしないのだ。


 というか、おぱーいの感触とかしてるからダメなんだって! 部屋に二人きりで、腕に当たるムニョンとした感触、とどめはフローラルの甘くてクラクラさせるような匂い。


 そが俺の理性を削るのには、十分すぎるわけで……


「いやいやいや、見惚れてないって!」


「嘘つき。鼻の下を伸ばしてたことくらい、分かるんだから。だからこうやって、隆弘を貧乳派に洗脳しようとしてるの。邪魔しないで」

「…………」


 どないやねーん。まぁ、確かに雛鞠の方が、胸は大きかったような気がしないことも……


「ほーら、また思い出してる」

「そ、ソンナコトナイカラネ」


 何でわかるんだろうか。ただ、まぁ……しょげてる佑奈を見てると、どうもフォローしないと、という気分に駆り立てられるわけで……。


「あー、ほら。あれだ。男は貧乳をコンプレックスに感じている女の子を可愛いと思うんだよ」

「じゃあ、私可愛い?」

「ああ、可愛い可愛い。いつも俺はドキドキしてるって!」


 これは紛れもない本心だ。恥ずかしかったので、少々、ぶっきらぼうな言い方になってしまったが。


「そっかー。隆弘から見て、私って可愛いんだー。じゃあ、仕方ないなー、もぉー」


 すると、佑奈は分かりやすいくらいに機嫌を良くしていた。

 そこまで、機嫌が良くなると思っていなかっただけに少しびっくりした。何でだ……?


「じゃあ、そろそろ成績表を……」


 そう声を掛けると、佑奈は途端に髪をいじりだした。

 この仕草は……


「何をそんなにビビってるんだ?」


 図星とばかりビクッと、佑奈は体を震わす。

 成績が悪いのは知ってるからこそ、今更隠すことじゃないような気がする。

 怒られるとでも思っているのだろうか?


「あはは……私がビビってるってなんのことだか……」

「不安なときとかに、髪をいじるクセ。それでまるわかりだ」


 小さい頃からの仕草。俺が忘れてるわけないだろ。


「なんでそういうところはちゃんと見てるのかな……」


 照れているのか、頬を赤くする佑奈。

 どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「ほら……さっきも言いたけど、幻滅とかしないでよ……」


 渋々と言った様子で、佑奈はこれまでのテストを渡してきた。

 ざっと目を通すと、


「ふむ……これはなかなか……」


 一言で言うなら全部赤かった。


 空欄をすべて埋めているのに、部分点すらもらえてない。それどころか、赤い点数のテストしかない具合だ。


 そして、その中にはクラス希望票も挟まっていた。間違えて持ってきたんだろう。


「ん? これは……」


 クラス希望票には、一度書いた文字の上から、二重線を引っ張って訂正した形跡があった。間違えて書いてしまったのだろうか。


 なぜなら、佑奈は一番上の特進選抜クラスを希望していたのだから。


 ちなみに、クラス希望票というのは


・特進選抜クラス

・特進クラス

・普通クラス


 この三つから希望のクラスを選択する。


 なお、希望したからといって入れるわけではない。再来月、2月下旬に実施される学年末テストの結果で決まるのだ。


「だから見せたくなかったの……」


 佑奈は分かりやすいくらいに、いじけている。


「そんな態度するなよ……間違えが多いってことは、これから伸び代しかないってことだろ?とりあえず、このテストを解いてみてくれ」


 朝、家に戻ってきた時に俺が取ってきた模擬テストだ。これで、前の成績から佑奈がどれだけ成績を伸ばしたのかが図れる。


 そして、テストを解かせてみたのだが……。


「…………三点か」


 一応言っとくと、五十点満点中だ。


「うぅ……こんなミジンコ以下の私を見ないで……」

「へりくだりすぎっ!」


 あわわ、と言いながら佑奈は分かりやすいくらいに、しょげていた。


「ほら、間違ったところ解説してやるから席につけ」


 そして佑奈に解説をして、全く同じ問題をもう一度解かせた。

 クククッ、これで完璧だ。同じ問題を解かせているんだ、ミスも減るに決まっている。


 確実に点も増えるに違いない。

 そう思っていたのだが……


「…………一点か」

「うぐぐぐ……こんなあんぽんたんな私を見ないでぇえええ!」


 そう叫びながら、両手で顔を覆っていた。


 何で減ってるんだよ!? さっき、復習したばかりだよなっ!? 意味わかんねーよ!

 そう叫びたいのをグッと堪えて、


「ま、まぁそういうこともあるよな……」


 佑奈のことをフォローした。流石に、こんなこと言えねーよ。

 だって、本人はいたって真面目なんだもの。


「ふーん……隆弘は優しいね。けどね、知らないから言えるんだよ……」


 一瞬、何かを達観したかのような、あきらめている不思議な表情だった。

 幼なじみの勘というか、なぜだか見逃してはいけないサインのようにも感じてしまった。

 ただの直感しでかないから、俺の気のせいかもしれないけど。


 そして、ダメもとで同じことをさせてみたのだが……


「…………0点か」


 うん、なんとなくそうなるって分かってたよ。


「どうしたもんか……」


 流石に頭を抱えてしまう。クラス希望票を書き直した跡もみると、多分佑奈は……


 どうすれば佑奈の点数を向上させれるのか、考えてみる。

 もっと前の範囲からやり直して──


「どうして、何も言わないの?」


 そこには、今にも泣きだしてしまいそうな表情をした佑奈が、俺のことを見ていた。


「……何をだ?」

「だって、私こんななんだよ? どうせ、今更勉強を教えてもらっても同じことの繰り返しになるよ……」


 静かに、ポツポツと佑奈は話しだす。

 これは俺が先ほど感じた『サイン』ってやつなんだろう、おそらく。


「実はね、家庭教師ってしなくてもいいんだよ。そんなことしなくても、隆弘のことはうちで引き取るつもりだったし。お父さんは隆弘のこと可愛がる気満々だったしね」


「──ッ!」

「ただお母さんが、役割を上げないと遠慮したり委縮するかもだから、面倒を見ていくうえでの建前が必要だって言ったの」


 マジでか……確かに引き取られるだけだった俺も、肩身の狭い思いをしていたと思う。だからこその家庭教師だったのか。


「だけど、俺は今、家庭教師だ。お金だってもらうんだ。お前のことを見捨てたりするわけないだろ」

「そんなことないよ。私、分かるんだから……」


 悲しそうな表情で膝を抱える佑奈。


「何をだよ?」

「隆弘の前にもね、他の家庭教師がいたの」


 あんなに成績が悪いんだ。そりゃあ、佑奈の両親だって手を打つに決まってるか。


「最初はね、隆弘と同じこと言うんだよ。でもね、しばらく経ったら諦めて見捨てていくんだ。

他の人ならまだしも、隆弘だけには、がっかりされたり見捨てられたくない。それならいっそ最初からあきらめた方が……」


 ついには、涙声になる佑奈。


「そういうことか……」


 佑奈には気づかれないように小さくボソッと呟く。


 そしてようやく俺は気づいた。

 佑奈が勉強したがらなかった理由も、成績をあれだけみせたがらなかった理由もだ。


 俺は佑奈のことを知っているようで全然知らなかったみたいだ。


 単純に、勉強ができないから嫌いだと思っていたが違うようだ。佑奈はきっと自分に自信がないんだ。


 同じことの繰り返しさえ、まともにできない自分。挙句のはてには、佑奈のことを見捨てる家庭教師。


 それらが繰り返された結果、佑奈の自信を奪い、コンプレックスまで昇華していったんだろう。


 そりゃ、誰だって、自分の嫌な部分と向き合いたくないよな。


 だけど……


「もう、勉強はやめてさ──」

「いや、それはできない!」


 少々、強引に佑奈の言葉を遮る。

 なぜなら──


「このテスト結果と、今までのテスト結果。クラス希望票を見て、俺は今後、佑奈の成績が伸びるに違いないと確信したからだ!」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

明日の投稿は20~21時の間になりますので、お待ちください。


ここまでで面白い、続きが気になると思って頂けたら、ブクマ・評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)していただけると大変、励みになります。

どうか、よろしくお願いします。

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