第11話 「本気で言ってんのかお前」
突然ではございますが、最終話でございます。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
「頼む! 次の学年末試験が終わるまで、告白を待ってもらえないか!?」
俺は、今の佑奈の環境を守るために愚直に頭を下げてることにした。そうお願いして俺が頭を下げると、あきらかにイラつき始めていた。
「はぁ? なんでだよ。お前にそんなこと言われる筋合いないだろ」
「いや、ある! 俺はあいつの家庭教師だ。あいつは今回、次の学年末テストに向けて死ぬ気で頑張ろうとしているんだ。俺はあいつが勉強に専念できる環境を作ってあげたい! 無茶を言ってるのは分かってる──」
「チッ! しつこいんだよ」
そのまま逃げようとする向井君の腕を俺は掴む。あいつと約束したんだ。絶対に守るって。
ただでさえ、特進選抜クラスに行けるか、かなり危ういんだ。確率は一パーセントでも上げておきたい。
勉強に関して、自信を持たなかった佑奈が奮起して頑張ろうとしている。俺は家庭教師として。全力で教え子をサポートしたい。
「本当に佑奈のことが好きなら、2か月くらい待てるだろ! あいつの人生が掛かってるんだ! だから──」
「さっきから本当にしつこいって言ってんだろ!」
怒りに身を任せて、向井君が俺を突き飛ばす。そのまま、俺はバランスを崩して校舎の柱にぶつかってしまう。
「イダッ……」
「何で他人のあんたがそこまで必死になっているんだよ! あんな顔だけの女、ほんとうに好きなわけないだろ、あほかお前」
「は?」
どういうことだ。佑奈が好きだから、しつこいくらいに頑張ってたんじゃ……
「この俺が諦めずに、何回も告ってあげてるんだ。このまま終わったら、俺のメンツってものが──」
「本気で言ってんのかお前」
気づけば、自分でもびっくりするくらいに冷たい声を出していた。
「え?」
俺の突然の切り替わりように、向こうは驚いていた。だけど、今はそんなこと関係ない。
向井君の胸倉を掴み上げながら、あいつのために言葉をぶつける。
「佑奈がどれだけお前の告白に対して悩んでいたのか知ってるのか! 過去のトラウマに悩みながらも、なんとかいつも通りでいようと頑張っていたのに……」
正面から、向井君のことを思いっきり睨みつける。
向井君はそんな俺の剣幕にのまれていたようで、たじろいでいた。
「お前が本当に佑奈のことを好きなら、それでいいと思っていた。けどな! てめぇの都合だけであいつのこと振り回してんじゃねぇぞ!」
「あ、うう……」
「それで、お前は佑奈から手を引くのか。少なくとも、このままなら俺は絶対にお前のことを──」
「わ、分かった! 手を引く、手を引くから! もう勘弁してくれ!」
そう言うと、逃げるように向井君は走り去っていた
自分でも正直驚いていた。こんなに怒りを覚えてたことにだ。多分、佑奈のことを顔だけとか馬鹿にされたからだと思う。
「まぁ、これで何とかなったかな?」
「バカッ!」
「え?」
振り返ると、佑奈と雛鞠が立っていた。
佑奈は、怒りと嬉しさを兼ね備えた表情で。
雛鞠は、もどかしそうな表情をしていた。
「ほら、はやく保健室に行くよ! 腫れてるんだから」
「わ、分かったから。そんな引っ張るなよ」
それから俺は引きずられるようにして保健室に連れていかれた。だけど、保健室のドアはカギがかけられており、中に入ることができなかった。
「先生いないじゃん、ちょっと待ってて……」
そう言い残すと、佑奈は職員室へと走って行った。
廊下で雛鞠と二人きり……気まずいね。
「ったく、あんた無茶しすぎ」
沈黙に耐えられなかったのか、雛鞠が俺に話しかけてきた。
「お、おう……というか、どうしてふたりは俺の場所が」
雛鞠からお礼を言われると思ってなかっただけに、びっくりした。
「ああ、それはねおねぇに勉強会に行くよって引っ張られて、図書館に向かう途中であんたがいたってわけ」
そういうことか。なんともまぁ、タイミングが悪いわけだ。
「そうだ、勘違いしないでよ。ちょっとおねえを前向きにさせて、助けたからからって、調子に乗らないでよ。私はあんたのこと認めてないんだから」
「それって……」
違和感というか、今まで感じていた疑問が氷解していくような感覚だった。雛鞠が俺に初めて見せた本音だからだ。
「お前が俺のことを嫌っていたのって、裸を見られたからだと思ってたけどさ、今のセリフから察するに……」
「うるさい」
「雛鞠ってさ、家族のことが大好きだからこそ、新しく入ってきた異分子の俺が気にくわない。そうじゃないのか?」
「な、何よ! それがいけないって言うの!」
雛鞠の反応をみてようやく分かった。
あいつが俺のことを気に食わなく思っている理由を。
裸を見てしまったからだと思ってたけど、それだけじゃなかったのだ。結果的に、家族の中に割って入ったきた俺のことが気に食わなかったんだ。自分の大切なものが、他の人に奪われていくような感覚だったんだと思う。
だからこそ、俺が佑奈のお父さんたちから褒められるのだって嫌だったのか。
「別に、そうはいってないだろ。ただ、独占欲が強いんだなって」
「ふんっ! 勝手に言ってればいいじゃない。もう帰る……」
雛鞠は俺に背中を向けるが、一瞬振りかえると
「……おねえのためにありがと」
そう言って、どこかへ行ってしまった。
そして入れ替わりで、佑奈がやってきた。
「あれ? 雛鞠は?」
「どっか行っちゃった……」
「ありゃりゃ、そりゃ残念」
「保健の先生は?」
「これから会議で外せないから、鍵だけもらってきた」
自分で手当てをしろってことなんだろう。
そして部屋に入る、椅子に座ったまでは良かったんだが……
「佑奈さんっ!?」
後ろから、頭を抱えるように抱きしめられたのだ。
「ありがと……隆弘が私のために頑張ってくれてすっごい嬉しかった……だからそのご褒美」
慈愛に満ちた佑奈の声が耳に届くが、正直、ドキドキしすぎてそれどころじゃない。
「隆弘の頑張りに報いるために私も頑張るから。これからもよろしくね」
「あ、ああ……分かった……」
体が熱くて、緊張しすぎで頭が真っ白だ。ただ、佑奈の声がひどくまじめだったから何も言えなかった。それでも佑奈のたったその一言だけで、報われたような気分になった。
それから、俺は佑奈にけがの手当てをしてもらって家に帰った。
※
翌日の朝。
家から学校へ出発しようとした時だった。
「ちょ、ちょっと!」
振り返ると、雛鞠が顔を赤くさせながら立っていた。
佑奈の方を見るが肩をすくませていた。心当たりがないってことだろう。一体、何の用だろうか。
「私も一緒の車に乗って学校行くから……それと、今日から一緒に勉強するから……」
「本当に?」
思わず、聞き返してしまった。雛鞠の中で、どういった心境の変化があったのかは分からないが、少しは俺の味方が変わったのかもしれない。
「そっか、じゃあ一緒に行こうか」
「良かったじゃん、隆弘。雛鞠に嫌われてなくて」
そう佑奈が茶々を入れると、
「は、はぁ? 別に私がこいつの見る目変わったとかそういうの全然ないんだから!」
思わずな台詞に、俺も佑奈も顔を見合わせて笑ってしまった。
学年末試験まで、雛鞠の受験まであと二か月。これから本当の意味での始まりだ。
おれたたエンドではございますが、これで完結です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。