遭遇2
<前回までのあらすじ>
わたしと蓮は担任の先生の後ろに少女の姿を見付ける。
しかし、わたし達の他に誰も彼女に気付いた様子はなかった。
元々霊感などを持ち合わせて居ないわたし達は、あえて関わらずに知らぬ存ぜぬを貫き通そうと思っていた。
しかしその矢先、校門のところで見えない少女と遭遇してしまう。
その少女は、こちらの話が理解できているようで、なんとなく実害は無そうな様子だった。
彼女とのコミュニケーションを図るものの、彼女の声はこちらに届くことはなく、彼女が何者なのか、何をしたいのか分からない事は増えるばかり。
教室に入り、朝のホームルーム。
少女はわたしたちのすぐそばで先生の話に耳を傾けているのか、それとも昨日憑りついていた相手を観察しているのか、じいっと山田先生を見つめていた。
そして、やはりこの状況に誰も何も言ってこないことをみると、この少女が見えているのはわたしたちだけのようだった。
そう、誰も何も言わないのだ。
普通に考えれば、コミュ障で誰とも特に接点のないやつでも、小学生のような子どもを連れて教室に入ってきたら大騒ぎされるに決まっている。
しかし、先生を含めて誰からも何のツッコミも無い。奇異の視線を向けられることすらない。これこそが、この子が他の誰からも見えていないという事の証明ではないだろうか。
まぁ、昨日のわたしたちのように、この状況に触らぬ神に祟りなしを決め込んでいるって事も考えられるが、少なくともクラスメイトからは、この状況に気付いているような反応は見られなかった、と思う。
わたし達は今日一日を過ごした。
常に隣に見えない少女を従えた状態で。
いつも通りではない一日を。
しかし、見えない人にとって、この一日はいつもと同じ一日だったのだろう。
何もない退屈ないつも通りの一日。
そう、認識の外で起きていることは起きていないのと一緒なのだ。
認識出来ていないから、あるものを無いと思い込んでいるそんな実態。
もしかしたら、世界にはこんなことが山ほどあるのかもしれない。
オカルト話や都市伝説なんていうのは、たまたまそれを覗いてしまった人の実体験から生まれているのかもしれない。
そんな事を考えながらわたしは少女に話しかけた。
放課後の教室にはわたし達3人しかいないため、声をひそめることも無く、いつものトーンでいつも通りに話しかけた。
「ねぇねぇ、やっぱりあんた見えないんだね。」
コクコク
少女は頷きこちらに視線を向ける。
「なんでわたし達には見えるんだろうね…?」
なんとなくの疑問に彼女は首をかしげながら、ゆっくり口をうごかしている。
んーーと…あ、これはたぶん今朝と一緒だ。
「わからない?」
コクコク
「そっか‥。」
前に何かで聞いたことがあるが、霊が見えるというのは、ラジオと似たようなモノらしい。
霊にもそれぞれ決まった周波数みたいなのがあって、見える人は、その霊と周波数が合うために見ることが出来るのだとか。
俗に言う霊能力者に霊が見えたり、霊の声が聞こえたりするのは、その霊の周波数を受信する幅が広いか、もしくは強制的に合わせることが出来るかららしい。
ちなみに、一般人に見えないのはその逆。
受診できる範囲が狭い上に、合わせることも出来ということではないだろうか。
たまたまなのか何なのか、この子とわたし達との波長が合ったのだろう。たぶん。
そもそも、霊なのかなんなのかも微妙なところってのもあるけれど、いちいち霊みたいな何かってのも面倒なので、彼女に関しては、今のところは霊って事にしておくことにする。
あーーー、いいこと思い付いた!
「ねぇねぇねぇねぇ、蓮!
こっくりさんの紙つくろうよ!」
「…は?」
わたしの唐突な提案に、訝しむ蓮。
「だから、こっくりさん!」
そう言って、わたしは隣の少女を指さした。
「あぁ~、なるほど。」
蓮は頷くと、さっそく白い紙に五十音を書きだした。
こっくりさん。
言わずと知れた簡単な降霊術の一種。
わざわざ説明するほどの事でもないが、鳥居とYES・NO・50音・数字等を書いた表に10円玉を乗せて、呪文を唱えると、霊が降りてきて質問に答えてくれるというものだ。
つまりは、この子との会話は、こっくりさんをやる要領でやればいいじゃん、って事なのだった。10円を動かせるかどうかはさておき、姿が見えてるんだから指さしてもらえば分かるしね。
いやぁ、天才かもしれない。わたし。
「ほら、できたぞ…ってなにドヤ顔してんだよ、お前。」
「う、うっさい!」
「作ってやったのに、その言い草…」
わたしは、ため息まじりの蓮から五十音表を受け取ると、満面の笑みで少女の方を見る。
わたしの笑顔に不穏なものを感じたのか、一瞬、少女がたじろいだように見えたような気がしたが、気のせいということにした。
こっくりさんの紙を見せると、彼女は何をさせようとしているのか察したのか、早速文字を指さしはじめた。
『あ・り・が・と・う』と。
わたしと蓮は、それを見て大きく頷くのだった。
誰からも認識されない女の子。
他の人と関わりたくても関われなかった女の子。
声を掛けても、それが相手に届くことはなかった。
無視され続ける日々。
想像するだけでちょっと鬱になりそうな彼女の状態は、無視され続けるいじめられっ子のような感じだろうか…。
彼女の境遇を想像していたわたしは、同時に幼い頃の自分と彼女を重ねていた。
自らの子供の頃を思い出していた。
蓮と出会う前、モノクロのような色褪せた世界の中にただ一人いるわたし。
あの時、あの瞬間、大勢の中にいたはずなのに、他の園児たちに囲まれて喧騒の中にいたはずなのに、わたしは孤独だったように思う。
しかし、蓮がそこから連れ出してくれた。
わたしを今の鮮やかな世界に連れ出してくれた。
あの瞬間の温かさは、今のわたしにとっても忘れられない大事な記憶だった。
だから今、わたしは彼女をこの世界に連れ出してあげたいと心から思うのだった。
読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
そして相変わらずの遅筆申し訳ない・・・。
あっと言う間に暖かくなって桜も咲き始め、過ごしやすい日々になりましたね!
寒いのが苦手なわたしにとって寒くなくなったことが幸せです。
いや、ほんとに。
春最高!
もう少し頑張って書いていこうと思うので、どうぞお付き合いくださいませ~!