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 ヨハンが旅立って二年が経った頃だった。


 火晶石の灯る長い廊下を、右手を父に握られ、引きずられるように歩いていた。


(あの頃、家の商売が急に悪くなっていた)

(父と母は日々憔悴していった)

(店には今まで見た事が無い顔付きの客が、頻繁に訪れるようになった)

(そして私はある日、父と一緒に、黒い魔導車に乗せられた)


 私の前を歩く父の顔には陰が差し、その表情は見えなかった。


 贅を凝らした装飾が所々にあり、その中に在った紋章は、ある上級貴族の物だった。


 それを知っていた私は、もしかしたらと思った。

 学校での()は優しい人だった。

 だから、もしかしたら、酷い事はしないんじゃないかと。


 扉へと着いた。


 父がノックをし、扉を開けて中へと入る。


「ティム、先生……」


 初等学校で、私の担任だった人。


「やあエリゼ君。待っていたよ」


 頭を下げて父が下がった。

 思わず父に手を伸ばした私の肩が、強い力で掴まれた。


「痛っ」

「待っていた、本当に待っていたよ。ああ、やっとだ。やっと、やっと君を!!」


 満面の笑みを浮かべ、焦点を無くす程に狂った目が私を見た。

 私の腕を万力のような力で掴み、寝台へと押し倒された。

 獣のように声を上げる彼に、私は必死の力で抵抗した。


「おいエリゼ君! 薄汚い下民が俺の愛を受けられるんだぞ!? 喜びたまえよ!!」


 そして彼は私に拳を振るった。


「悪い子だ! エリゼ君は悪い子だ!」


 何度も何度も、狂った叫びと共に拳を打ち下ろしてきた。


「や、やめて、やめてください!!」

「恐れる事は無いよ! 俺が教育してあげる! 綺麗で可愛い、無垢なエリゼ君を、この高貴な血を持つ俺が! 女に教育してやる!!」


 私の服が破り捨てられた。


 そして。


「痛いッ!!」


 お腹も顔も、私自身が、壊れそうな程に痛かった。

 ずっとずっと泣いていた。

 痛みの嵐が、私を翻弄した。


(何度も何度も助けを呼んだ)

(何度も何度も許してと乞うた)


―― そして数え切れない程に、ヨハンの名を叫んだ。


 永い、ただ一度だけの夜が明けた時。

 多くの感情ものが私から剥がれ落ちていた。


 私だったものは、グシャグシャになった寝台の上で、とてもボロボロになっていた。

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