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追憶 ~十七歳:剣を放した日~

 喪失を埋めたのは愛だった。


 * * *

 

 ただ独り道を歩いて、ただ独りで故郷へと帰った。

 風が吹いていて、それに雨が混じり、通りを歩いていた人々は散る様にして姿を隠していった。

 

 無心に歩いて、記憶の片隅に残る、煉瓦の家々が連なる場所に辿り着いた。

 

 雨は前さえ見えぬほどに降り、雨水が石畳の道を小さな川のように流れて行く。

 空き家の軒先へと歩き、穴だらけの屋根から零れ落ちる雨水を受けながら、灰色の空を見上げる。

 

 柄を握り、剣を抜き、剣身の折れた()()で空を払った。

 風は途切れず、雨は止まず、空は灰色の雲が閉ざしたままで、ザアザアと雨音が耳を打つ。

 

 ただそのままに、ただ時間が過ぎて行く。

 忘我の中にあり、だから差し出された傘を、しばらく認識できなかった。

 

 鼻を打った雨の大粒に目を覚まされて、傘を持つ腕を辿る。そこには、記憶の中よりも大人びた姿になった彼女がいた。

 

 彼女は傘を差し出したままに、ただ、俺を待ってくれていた。

 

 彼女の手が、俺の手を握る。

 俺の手を、彼女の手の暖かさが包み込む。

 

 目に熱を感じたとき、右手が握っていた剣は離れ、甲高い音を立てて石畳の上に落ちて転がった。

 

「お帰りなさい、ヨハン」


 剣を離した右手も、左手を包む彼女の右手に触れて、ただ俺は泣き叫んでいた。

 

「ただいまエリゼ」


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