はじめてのクエスト③
本日3話目です
結論から言うと、スキルポイントを1だけ残していようが残していまいがそんなに違いはなかった。
おぞましい程のモンスターを討伐したことにより、レベルがいくつか上がっていたからだ。
その後も、問答無用で襲いかかってくるアクティブモンスターのみを相手にしながら、なんとか解体しきった。
解体ナイフ(ショップで購入、粗悪品のため1本50G)を一刺しすれば済むのでそこまで手間のかかるものではないが、死体の量が量なので10分ほど時間がかかってしまった。しかもその間もリポップしたウシが襲いかかってくるものだから、余計に手間取ってしまう。
最後の方にはお互い戦闘に慣れてきて、連携も上手く取れるようになった。今日ゲーム内で知り合ったとは思えないくらい仲が良くなれたので、結果的に良かったと言える。
「3つ目のクエストの鉄鉱石の採取なんだが、俺は先に採取してあってな。もしユキがまだなら俺の手持ちから分けてもいいが……」
そろそろウシの素材がインベントリを圧迫し始めたかな、といった辺りで、シンラさんはそう切り出した。
「あ、僕のクエストは魔石を集めることなんですよね。たぶんサモナーの召喚に使うからなんですけど。肝心の魔石はウシで十分すぎるくらいに集まってるので大丈夫ですよ。
シンラさんの鉄鉱石は武器の強化に使うのかな? ってことは、職業ごとにクエストが違うみたいですね」
「あぁ、そうみたいだな。んじゃ、そろそろ冒険者ギルドに戻るか。
あと気になってたんだが、ユキの方が歳下とはいえ無理に敬語は使わなくてもいいぞ? 最初にそう言えたら良かったんだがな。そこまで気が回らなくてすまん」
「あ、ホントですか? じゃあ、遠慮なく」
街に着いたら一旦パーティーは解除し、それぞれギルドへとクエスト完了の報告に向かう。
「クエストの達成が確認できました。報酬をお受け取り下さい」
タウロスの討伐の報酬は経験値とお金が、薬草のクエストも経験値とお金、それから回復ポーションが1つ着いてきた。
そして魔石のクエスト。これは指定された数を納品すると、その場で依頼者がやって来て、その人が「君もサモナーかい! よければ召喚を手伝ってくれないか?」と言いながら、システムによって強制的に連れていかれた。
詳しい説明がされたのは、研究所っぽい施設に到着してからだ。
「まだ名前を名乗っていなかったね。僕はイトラ。ここの研究員だよ」
「ユキです。ここは一体どんな施設なんですか?」
ゲーム的に説明するならサモナーのチュートリアルや召喚を行うための施設なんだろうけど、このNPC達の間での設定も気になるので、そう質問してみる。
「ここは主に召喚術なんかを研究する施設だね。大掛かりな召喚陣があったり、色々な種類の魔石があったり、使役したモンスターの強化アイテムを開発したりと、色々と行っているんだ。
君に来てもらったのは、召喚者の人手が足りないからなんだ。もちろん報酬は出すし、召喚した子達の中から気に入った子と契約してくれても構わないよ。どうだい?」
「まぁ、ここまで連れてこられたなら受けない理由もありません。ただ、それはギルドできちんと説明して欲しかったです。忙しいのは分かりますが、そういうことはきちんとお願いしますね」
「あぁ、配慮に欠けていたね。本当に申し訳ない。そしてありがとう、今は本当に手が足りなくてね。助かるよ」
そういうシナリオなのだから文句を言うのも違うかもしれないが、拉致だ!とか、誘拐よ!とか、そうプレイヤーに言われたらややこしい事になりそうだし、彼のためにもアドバイスしておく。
「ちなみになんでこんなに忙しいのかって、聞いてもいいですか?」
「うん? あぁ、そうだね。詳しくは言えないけど、沢山の顧客から同時期に発注が入ってね。あとは研究にも拍車がかかっていて、そのせいでもあるかな」
「そうなんですか」
確かに研究所内はとても騒がしい。それに、チラホラとサモナーらしきプレイヤーの姿も見える。彼らもまた同様に、困惑しつつも流れに身を任せてチュートリアルを受けているようだ。
「さぁ、着いたよ。君にはこの部屋を利用してもらおう。部屋番号をよく覚えておいてね。これが部屋の鍵だよ、無くさないようにね」
「分かりました。それで、この部屋で何をすれば良いんですか?」
「部屋の中に召喚陣があるのは分かるかな? そこに魔石を投入して、モンスターを呼び出すことが出来るよ。そして召喚したら、そのまま横の四角い装置についたボタンを押せば、納品が完了する。契約したい場合は自分で契約をもちかけてみてね。
魔石は部屋の中に用意してある分が全て。21個あるから、君と契約するモンスターを除いて……20体納品してくれたら、それで依頼は終了だよ。その後はこの部屋も自由に使ってくれて構わないからね」
「なるほど。分かりました」
つまり、部屋の中にある魔石を使っている時に契約したいモンスターが2体以上の場合は、契約した分だけ手持ちの魔石で補って納品すればいい、という訳だ。……そうなるよね?
「じゃあ僕は仕事に戻るね。本当に助かったよ、ありがとう!」
「いえいえ、こちらこそです。お仕事がんばってくださいね」
ニコニコとしながら、仕事場へと戻っていくイトラさん。つくづく、出会った人達みんな良い人ばかりだなと感じる。
「さて、お待ちかねの召喚タイム!」
この部屋もわりと広い。召喚陣と謎の装置とモニターがある以外は、至って普通の部屋だ。
まずは魔石の確認。21個ちょうどあることを確認してから、試しに1つ、召喚陣に投入してみる。
〈召喚しますか?〉
「はい」
さぁ、何が出るかなっ。
〈スライムの召喚に成功しました〉
あ、かわいい。事前に調べておいた公式サイトの情報と、それを元に考察されたゲーム攻略サイトでは、スライムは弱いだとか色々と書かれていたが、分裂するという利点と、進化が豊富で可能性に満ち溢れているので、いい意味でギャンブル性が高いとも書いてあったっけな。
これは契約だなぁ。ウシのお陰で大量に魔石を持ってるので、まだまだ大丈夫。よし、次。
〈ウルフの召喚に成功しました〉
これは当たり。後衛職のサモナーにとって、前衛のモンスターはめちゃくちゃ相性が良い。これも迷わず契約。
その後も続けていくと、当たり外れはやはり大きかったのだということが分かった。
個人的にハズレなのはヌメヌメした大きなナメクジのようなモンスターとか、毒キノコのような見た目をしたぶっといぶにぶにしたモンスターとか、そういう、いわゆる気持ち悪い系の見た目をしたモンスターだ。デバッファーやアタッカーとして活躍するので戦闘面では役に立ちそうだが、自分自身があまり直視したくなかったのを納品した。ごめんなさい。
あとはスライムが被ったりだとか、虫型モンスターとか、そういうのも納品行きにした。
アタリとしては、ウルフの2体目や、フェアリー、小さめのクマ(正式名称はリトルベアー)、ウシ(タウロスのこと)、氷の精霊だ。
契約に至ったのは7体。それぞれ後で名前を付けようと思う。
「よし、これで依頼は完了」
―クエスト『サモナーズギルドの依頼』を完了しました―
―ハウジング機能が解放されました―
ハウジング機能が解放されたので、これで同じエリア内にいる時ならどこからでもハウスにアクセスできるようになった。
ハウジング機能にハウスを登録するには、そのアバターがハウスの所有権を持っていなければならない。その為この部屋は問題なく登録できた。
ここら辺の仕組みはとてもゲーム的だなと感じざるを得ないが、これからもそういった、ゲームだからとしか説明できないようなこともいっぱい出てくるだろうし、いちいち気にしていてはいけないのだろう。
ともかく、拠点となる家が入手できたのは良かった。これで、大事なものはここに保管しておけたり、インベントリ容量の圧迫を解消することが出来る。