男の娘への第一歩
本日2話目です
周囲の光景がグルグルと動き回り、やがて空や地面、山や木などを象っていく。
『ようこそお越しくださいました。ナビゲートを務めさせていただきます。妖精族のフェアリー、ルフィーナです』
「ユキです、よろしく。ナビゲートということは、チュートリアルなんかを教えてくれる、って認識であってる?」
僕の手のひらに収まるほどのこの小さな妖精が、ゲーム開始時にプレイヤーの元にナビゲーターとして現れるのは情報として分かっていたが、会話を円滑に進めるため確認させてもらうことにする。
『えぇ、そう解釈して頂いて構いません。ナビゲーターは序盤のゲーム知識についての解説役、説明役。戦闘には介入できませんので、予めご了承ください』
「うん、分かった。……早速だけど、最初にやっておいた方がいいことを教えてくれる?」
ナビゲーターに戦闘を頼むプレイヤーが過去にいたのだろうか。いないとも限らないが、小さな妖精に戦闘を任せるのは、さすがに気が引ける。
『まずはチュートリアル用のクエストをクリアすること。それからサモナーは召喚契約が最優先の課題となります。まずはこれらをこなして行きましょう』
「なるほど。よし、えーと目的地は……、と」
メニューからマップを呼び出して、目的地の設定でクエストを選択。あとはオートモードをオンにして、目的地への到着をひたすら待つだけだ。
まず今いるここはリフラインという街の噴水広場。プレイヤーのリスポーン地点は各街の噴水広場になっているらしい。新しい街に来たらまず噴水広場にいき、リスポーン地点の登録・変更をしなければならないようだ。
そして向かう先は冒険者ギルド。ここでクエストを受けろということだろう。
向かう途中、NPCに話しかけられたので、それに応えながら目的地まで進む。この話しかけられるというのもクエストの発生に繋がる可能性があるらしい。今はまだ、ウチの商品買ってよーとかそういうものでしかないが。
あと少し気になるのは、街の人みんなが僕を呼び止める時に、「嬢ちゃん」「可愛い子」など、いわゆる女の子を指す言葉で呼び止めるのも気になる。
気になったのでそう呼ぶ理由を聞いてみたら、女の子にしか見えなかったと謝られた。なるほど……? もしや、これはキャラクリ失敗したか……?
謝られてしまったので、教えてもらったお礼を述べ、また目的地に向かう。しばらくすると今度はオシャレな女性に話しかけられた。30代後半くらいだろうか。明るくて、会話がしやすい印象を受ける。
とは言っても、先程から話しかけてくる人は皆、話術に長けているので会話しやすかったが。
「いま急いでるかしら?」と聞かれたので、冒険者ギルドに向かうところです、と答えたら、「まぁ! 貴女も冒険へ? 最近の若い子は元気ねぇ。あ、悪い意味で言ってるわけじゃないのよ? 私はエマ。貴女は?」と、話を繋げられてしまった。名前は?と聞かれているので、ユキです、と名乗ってしまい、なんとなくその場を離れるタイミングを逃す。
「貴女みたいな可愛い子がそんなボロ服じゃダメよぉ? ここ最近その服を着た子達をよく見かけるけど、もしかして何かの流行りなのかしらねぇ……。
とはいえこれは見逃せないわ。私、そこの店舗で女性向けのブティックを経営しているの。最近は女性の冒険者向けにオシャレな装備を展開しようと考えているんだけど、その装備の性能確認の為に、ぜひ貴方に着てみて欲しいの。もちろんお代は頂かないわ。性能は保証するし、修繕なんかも、もちろん無料で受け付ける。……どうかしら?」
こういうのをキャッチセールス、というのだったのだろうか。
一応、男だからと断ったものの、「性別なんて関係ないわよん。似合う服、着たいと思う服が一番なの。無理にとは言わないわ、一度着てみてくれないかしら」というお姉さんの圧に負けてしまい、何着か着ることになった。
『ユキさんは押しに弱いんですね。ふふ』
ルフィーナが笑いかけてくる。いやいや、笑い事じゃないよ。実際、こんなに頼まれたら断れないじゃん……。
確かに装備は欲しいし、それがタダで手に入るなら……。って打算がないわけじゃない。それに、この人は悪い人じゃないだろうし……。
強いて言うなら、キャラクリが女の子にしか見えないと言われてしまうほど、僕の美的感覚がおかしかったことが悪いんだ。そうに違いない。
そんなことを考えつつ、心を無にして装備を着ていく。
「まずは水系統装備ね。貴方は見たところ魔法使いのようだし、属性魔法の威力が上がる装備がいいんじゃないかと思ったの」
頭 白氷のロシアン帽 品質B++
胸 水妖精の絆ドレス 品質B+
脚 純白天使のバックレース 品質S+
靴 大雪兎のふわもこブーツ 品質A
守護値+45
聡慧値+10
敏速値-5
炎以外の魔法威力×2倍
水、氷、光の魔法威力×3倍
水、氷、光の適性追加
氷、雪、風の耐性追加
耐寒装備
「まって、装備の質がおかしい」
これ初心者が手に入れていいやつじゃないんだけど。とくにバックレース……。
これ要は女性用のパンツで、後ろ側 (バック) にレースが付いてるっていうものらしいんだけど、これだけS++って……。ほぼ最高級じゃん……。というか女性用パンツの名前なんて別に知りたくなかったよ……。
「どうかしら? 装備の見た目効果で胸を盛ることもできるわよ〜。うふふ」
「さすがにしませんよ……。股の間がスースーしますね……。慣れないなぁ」
「あら、最初はそんなものよ? 装備の性能として寒さ対策はバッチリだから安心してね」
そういうことを言っているんじゃなくて、ここまで露出することがないから慣れないのだが……。変な気持ちだ……。
「安心はできませんけど、性能は悔しいくらい高いですね……。相当、腕が良いんですね」
「そうねぇ。私も昔は装備職人の師匠がいたから、冒険装備の性能は保証できるわ。素材と、職人の腕。これが揃って初めていい装備ができるのよ。褒めてくれてありがとうね」
「いえ……。いいお師匠さんを持ったんですね」
「頑固者で融通が効かなくて、素材にこだわるあまり何度も命落としかけてるような人だけど、その情熱は本物よね……。元気してるかしら」
さぁ、と手を鳴らし、次の装備の用意を進めるエマさん。
「うふふ、あと3セットくらいあるわよん」
まだまだ地獄は続きそうだ。