コツミール湿原③
本日3話目です
ゲームアナウンスが入ることにより、ようやくカエルを倒せたのだという実感が湧く。
「本当に倒せたんだ……」
「かなり焦ったな……」
「すみません、なんだか横入りみたいになってしまって」
リンベルくんはそう言って謝ってくるが、彼の助けが無ければ確実に僕は死んでいたので、感謝しているくらいだ。
カエルによる報酬や解体によって得た素材やアイテムなどは、5分の1がリンベルくん、5分の2ずつ僕とシンラさんという形で決まった。僕としてはぴったり3分の1ずつでも良かったのだが、リンベルくんが遠慮してしまったのだ。
経験値については、パーティーを組んだ時点で三人に均等に配られることが決まっていた。
「やっぱりヒーラーって重要だね。あ、リンベルくんの職業は回復術士だと思ってたけど、合ってるかな?」
「はい! 回復術士で、神官を目指しています」
なるほど、それで神官の見た目をしているのか。その事を詳しく聞くと、チュートリアルクエストの報酬だったそうだ。
「神官か。神主やら巫女やら修道女やら、色々とあるみたいだな。使えるスキルも微妙に変わるんだと」
「そうですよ〜。神官だと神様の加護がかなり手厚いですね。バフデバフによる支援よりも、広範囲高威力な回復や状態異常の解除が得意です。
神主や巫女は陰陽師に近い部分があるとかで、降霊術とか妖術とかそういうのが使えるって聞きました。おそらくアタッカー寄りのデバッファーな回復術士になりますね。修道女は神官とは逆に支援が得意だと聞きましたが、僕は男なので神官を目指しています」
「なるほど。確か陰陽師ってサモナーの派生職だったかな? 陰陽師以外にも色々あった気がするけど、そっか。職業の派生も色々と考えなきゃ、なんだね」
「ユキさん、でしたか? お見受けしたところ魔法使いのようですが……」
「あぁっ、ごめんね。自己紹介がまだだったね」
カエルによってドタバタしていて、それらのことをすっかり忘れていた。
「名前はユキ、職業はサモナーです。今は契約モンスターがちょっと用事でいないけどね。あと、こんな見た目してるけど男、です……」
「ええっ!? 男性なんですか!」
この装備を着ることになった経緯を手短に話す。毎回こうなるのやっぱり恥ずかしいし、ボロ服着ておいた方がいいのだろうか……。
「あぁ、掲示板に書かれていたあの女性ってやっぱりユキさんのことだったんですね……。装備がボロ服じゃないから別の人かなと思っていたんですが」
「「掲示板?」」
シンラさんも知らないらしい。掲示板、結構見てると思ってたけどそんなこと書いてあったかな……。
「結構流れちゃってるのでもう見つけづらいかもしれないんですが、メインストリートでやたらNPCに声をかけられている白髪赤目の可愛い女の子と、話題になっていたんですよ」
「へ、へぇ……。そっかぁ……」
このNPCに声掛けられまくってる時って確かボロ服だったはず……。最後にエマさんに声掛けられて、この装備着たんだもんね……。それでも女の子だと思われてるってことはボロ服着てもダメってことか……。
「シンラさんどうしよぉ」
「俺に言われても困るんだが。ついさっきまでゲームだからって割り切ってただろ」
「それもそうなんだけどね……」
めちゃくちゃ恥ずかしい。話題を変えるためにシンラさんに自己紹介を促す。
「シンラだ。ジョブは鍛冶師。今はユキとパーティー組ませてもらっている」
「えっ……と。どちらも純粋な戦闘職じゃないのに、あのカエルにあそこまでダメージ与えてたんです、か……? えっ……? だって鍛冶師と、契約モンスターを連れていないサモナーで……? 一体どうなっているんですか……?」
「それはリンベルにも言えることじゃないか? まぁ俺たちの――というかユキの異常さは認めるが、見たところソロな回復術士がここにいるのも十分不思議だぞ。まさか1人であのタウロスを倒したのか? まぁ、チュートリアルをクリアしているってことは何らかの方法で倒したんだろうが、な……」
「自分のこと棚に上げて異常って言ってるんだけど。シンラさんこそ戦闘職じゃないのにあんなに強いじゃん」
「それはユキの大量殺戮でレベルが上がってだな」
それはルフィーナがやったからこその結果であって、今の自分が同じことをしても同じ結果にはならない気がする。いや、カエルに同じことしたらかなりダメージ削れて凍結の状態異常まで付いてビビったのは確かにそうなんだけど、そうじゃなくて。
「そんなこと言うなら僕のこれも、エマさんのこの装備とルフィーナの魔法の威力がおかしかっただけだと、思うなぁ?」
「そこからまずおかしい」
うん、確かにおかしい。なんでこんなことになってしまったのか。
「御二方が強い理由はだいたい分かりました。では、僕がここにいる理由をお話しますね」
リンベルくんの話によると、現在、チュートリアルクエストはわりと簡単にクリアできるようになったらしい。というのも、タウロスが強すぎたことが逆にプレイヤー達が一致団結するキッカケになったというのだ。
「事の発端は、サモナー達が始めた複数パーティーでの魔法乱射によってタウロスを蹂躙するという行為からですね。魔法職の半分ほどの威力しかないサモナーではタウロスを倒すことが本職の魔法使い以上に難しかったのです。そこでサモナー達は結託し、その行為に至ったというわけです」
「またサモナーか」
……そう言いながらこっちを見るのはやめていただきたい。
「僕はそこに回復役として参加していました。回復術士もまたソロでタウロス討伐するには火力が足りず厳しかったので、僕も困っていたんですよね」
「なるほど。その人たちとはそこでお別れ?」
「はい。サモナーの皆さんはそのままパーティーを組んで冒険を進めるようでしたが、サモナー同士の会話には着いて行けないことも多く……。
あぁ、話が通じないとかではなくて、ですね。その職業に関することなど、例えば精霊とかですか。そういった話題で盛り上がったりするんです。サモナーの集まりという空気が強かったので、疎外感を感じてしまって……」
「難しいねぇ」
「それで仕方なくソロでここまで来た、ってことか?」
「はい。サモナーの人達には引き止められましたが、断ってしまいました……。天邪鬼な自分がたまに嫌いになります……」
難しいと言葉にしたが、本当にそうだと感じる。リンベルくんの場合は相手との話題の相違と相性の問題、それから人数の違いなんかも影響しているように思える。
本人はソロプレイが難しいと感じているが、誘われたパーティーは全員サモナーだったので疎外感を感じてしまい、パーティーとして活動することは断念した、という事らしい。
「そういう事なら、しばらく一緒にプレイしない? もし合わないなって感じたらその時点で抜けていいし、僕達は無理に引き止めることも、追い出すこともしないからさ。シンラさんもそれで良かったかな?」
「……まぁ、今回の件で回復役の重要さは痛いほど身に染みたからな。リンベルさえ良ければになるが、歓迎する」
「本当ですか!? あ、その、なんだか気を遣わせてしまったみたいで、すみません……。すっごく嬉しいです、ぜひお願いします!」
その後フレンド登録などを済ませ、冒険者ギルドへと帰還した。
「ユキ、俺の分のアイテムも預けるから、先にハウスに戻っててくれないか。俺は武器作成に使うアイテムを購入したくてな。リンベルは着いてきて欲しい、回復術士の装備に必要なものを教えてくれ」
「あ、分かった。じゃあまたハウスでね」
「わざわざすみません」
シンラさん、これから装備が作れるからか、顔がワクワクしている気がする。
何にせよ、これからはリンベルくんも含めて三人で仲良くやっていこう。




